【冒険者組合 七つの大罪】
1章6話
──早朝の中庭。
いつもはのどかな中庭に──天変地異のような惨劇が起こっていた。
「うるァッ!」
額から二本の角を生やす青年が、ノコギリのような大剣を振るった。
たったそれだけの動作で、干してあった洗濯物が簡単に吹き飛ばされ──洗濯物を取り込んでいた少年が、吹き飛ばされないように力を入れて踏ん張っているのが見える。
「──遅いわね」
大きくジャンプして大剣を避け、『黒森精族』の女性が小さな声で呟いた。
「『氷結技巧』──『二重氷弾』」
何もない虚空に、青白い魔法陣が無数に浮かび上がる。
パチン、と女性が指を鳴らすのと同時──魔法陣から、氷で作られた弾丸が放たれた。
その数、およそ百発以上。
圧倒的な数の暴力を前に、男は──獰猛な笑みを浮かべ、大剣を構え直した。
「はっはァ! 【剛腕】ォッ!」
男の両腕が紫色に輝き──再び大剣を振るった。
瞬間──嵐が起こった。
先ほどの風圧を耐えた少年は簡単に吹き飛ばされ、宙に浮いていた女性も吹き飛ばされる。
だが──ギロッと、女性の紅色の瞳が、男の姿を捉えた。
「『超絶氷結技巧』、『六重氷槍』」
女性の周りに青白い魔法陣が浮かび──数え切れないほどの氷槍が現れる。
全ての先端が男に向けられており──あり得ない数の氷槍が放たれ、男を串刺しにせんと迫った。
「おっらァッ!」
大剣を一閃し──吹き荒れる暴風が氷槍をバラバラに散らせる。
着地する女性と、純白の角を生やす男が正面から向かい合い、戦いの続きを──
「いい加減にしろッ! 庭が滅茶苦茶になってんだろうがッ!」
戦いの余波で吹き飛ばされたテリオンが、いつも通り喧嘩をしている先輩冒険者に怒号を飛ばした。
『鬼族』のディアボロと『黒森精族』のコキュートス──数少ない『第一級冒険者』だ。
「あァ? 邪魔すンじゃねェよテリオン。今いいトコなンだからよォ」
「悪いけど、洗濯物は後にしてもらえる? コイツを殺すのが最優先だわ」
「……マジで何なんだよコイツら……」
理不尽にもほどがある二人の言葉に、テリオンはこれまでにないほど大きくため息を吐いた。
「──コキュートス、ディアボロ! なんで中庭で喧嘩してるの?! テリオンが迷惑してるでしょ?!」
と、玄関の扉が勢い良く開けられ、組合長の怒声が響いた。
──先ほどまでの殺気が嘘のように霧散し、二人がバツの悪そうな表情を見せる。
コキュートスは組合長に絶対忠誠を誓っている。だから組合長の言う事には必ず従うし、組合長に反論したりしない。
だが……ディアボロが組合長の言う事を聞いているのは、どこか違和感がある。
組合長と組合員という立場があるのはわかるが……というか、ディアボロがこの【冒険者組合】に入った理由も知らない。
昨日ガルドルが言ってた性格逆転の事といい、知らない事が多いな──そんな事を思いながら、テリオンは散らばった洗濯物を拾い始める。
「もうっ、何度も何度も言わせないで! 喧嘩をするなら、誰にも迷惑を掛けない所でいつも言ってるでしょ?! 二人は『第一級冒険者』なんだから、自分の実力を理解して!」
「「……了解」」
大人しくなった二人が組合施設へと引き返していく。
ふんっ、と鼻息を荒くする組合長が、洗濯物を運ぶテリオンに声を掛けた。
「テリオン、大丈夫だった? 二人とも、悪気があって戦ってたんじゃないから……それだけはわかっててね?」
「ああ。ディアボロが挑発して、コキュートスがそれに乗った……いつもの事だ。気にしてもしょうがないさ」
山のように積み重なった洗濯物を運びながら、組合長の言葉に苦笑を見せる。
「……はぁ……ゴメンね? 洗濯とか食器洗いとか、雑用みたいな事ばっかりやらせて……」
「いいんだよ。冒険者階級は俺が一番低いんだし、この【冒険者組合】に入っての日も浅い。何より……冒険者になって、まだ一ヶ月しか経ってない。年齢も経験も期間も、俺が一番下なんだから」
真っ直ぐに共同スペースへ向かい、洗濯物をたたむ。
「まあでも……なんで女の下着まで俺が洗わなきゃいけねぇんだ、とは思うけどさ」
「……うん……ゴメンね。ソフィアたちにも言っとくね」
「そうしてくれると助かる」
顔を真っ赤にしながら、組合長が洗濯物の山から黒色の下着を引っ張り出した。
「……組合長って、なかなか挑発的な下着を穿いてるよな」
「だ、だって! こういう下着を穿いてたらっ、彼氏ができやすくなるって……! 昔読んだ雑誌に書いてあったから……!」
「なんの雑誌だよ……」
黒い下着を力強く握り締め、相変わらずよくわからない発言を飛ばす。
「なあ組合長。今日は『指名依頼』とか来てないのか?」
「うん。昨日で全部終わらせちゃったから、今日は自由に過ごしていいよ」
「……そうか……」
素早く洗濯物をたたみ終え──テリオンが立ち上がった。
「クエストに行ってくる」
「ん、気を付けてね?」
「ああ──」
「テリオンッ!」
突如、共同スペースの扉が荒々しく開けられ──そこから、狼の耳と狼の尻尾を生やしたワーウルフ種の『獣人族』が姿を現した。
「な、なんだよガルドル……驚かせるなよ」
「テリオン……落ち着いて、聞いてくれ」
肩で息をするガルドルがゆっくりと口を開き──直後の言葉に、テリオンは耳を疑った。
「──『黒の出会い』が、どこかの【冒険者組合】の襲撃にあったらしい」
「な──はあっ?!」
思わず大声を上げ──慌てて口を手で塞いだ。
不思議そうに二人を見つめる組合長を置いて、テリオンたちは共同スペースを後にした。
「『黒の出会い』が襲撃されたって、どういう事だ? 何が目的なんだ? あのフォクシー種の女の子はどうなった?」
「一つずつ説明するから、少し落ち着いて」
「……ああ。悪い」
胸に手を当て、深呼吸を繰り返す。
「……それで、どういう事なんだ?」
「うん。まず、『黒の出会い』が襲撃された理由なんだけど──」
ガルドルの話だと、こういう事らしい。
朝早く、ガルドルは『黒の出会い』に向かった。
そこで目にしたのは──ボロボロになった『黒の出会い』の店だった。
昨日テリオンが出会った茶髪の男は、全身傷だらけの姿で床に転がっており……店の中に、あのフォクシー種の少女はいなかった。
茶髪の男が言うには、フォクシー種の少女を転売する気だったが、値段が高かったから無理矢理奪い取った──という可能性が高いらしい。
「犯人は全身を黒いローブで隠してて……何とか【冒険者組合】のエンブレムを見たみたいなんだけど……」
「【冒険者組合】の数は多いからな……そこから探すとなると、一日二日じゃ終わらねぇぞ……」
「うん。とりあえず、一緒に『黒の出会い』に行こう。あの店主から、もっと詳しい話を聞かないと」
「……ちなみに、襲撃してきた【冒険者組合】のエンブレムってどんなのだったんだ?」
「……左右一対の黒い狼、その中心に剣のマークが入ったエンブレムみたいだけど」
「サッパリだな……」
ここで悩んでも仕方がない。『黒の出会い』に行って、もっと詳しく──
「──【Dランク冒険者組合 欲深き狼】。物の売買をメイン活動にしてる【冒険者組合】だね」
背後から聞こえた声に、テリオンとガルドルはバッと振り向いた。
そこには──先ほどまで一緒にいた、組合長の姿が。
「組合員は『第三級冒険者』と『第四級冒険者』が多くて、『第二級冒険者』が数名いる」
「く、組合長……?」
「【冒険者組合】の実力としては【Bランク冒険者組合】にも匹敵すると言われてるけど、問題行動が多いからなかなか昇格してもらえていない。『冒険者機関』も手を焼く困った【冒険者組合】……って所かな」
ニコッと笑みを見せ──だが底知れぬ覇気を込めた声で、言った。
「冒険者時代は、私もあいつらに迷惑してたからなー……ねぇ。あいつらを懲らしめるなら、私にも協力させて?」
────────────────────
「──つまり、その女の子を助けたいから、色々コソコソしてたって事?」
組合長の言葉に、テリオンとガルドルは無言で頷いた。
「……はぁ……別にそんな事なら怒りはしないし、むしろ協力するけどさ……嘘を吐くのは良くないよ? 次からは怒るからね?」
「「……はい」」
「よし──リリアナ、いつも通りここから情報を伝えて。ソフィアはテリオンたちに付いて行って」
「ん…………了、解……」
「りょうか~い」
ディアボロとコキュートス、ジャンヌはクエストに行っている。
というのも、あの『第一級冒険者』の二人は、何かをやらせておかないとすぐに喧嘩をするからだ。
クエストの途中で喧嘩をしても良いように、ジャンヌを付き添わせている。
よって、この【七つの大罪】の組合施設にいるのは五人だ。
「いや、これは俺たちの問題だ。だから──」
「俺たち二人だけで片付ける、とか言ったら~……本気で怒るよ~?」
甘ったるい声を出しながら──まったく甘くない事を口にするソフィア。
「……お前な……俺があのフォクシー種に近づこうとしたら、関わるなって目をしてたクセに──」
「でも、関わっちゃったんでしょ~? なら、もう他人事じゃないよ~──あたしたちは同じ屋根の下に暮らす冒険者、つまりは家族みたいなものなの~。わかる~?」
「それは……わかる、けど──」
「可愛い弟分が困ってるなら、姉貴分のあたしが手を貸さなきゃいけないでしょうが~」
ソフィアの言葉を聞いたテリオンは──昨日聞いたリリアナの言葉を思い出していた。
──相談してくれたら、協力できる。
ああ、まったく……あの怠惰な先輩の方が、俺なんかよりよっぽどこの【冒険者組合】の事を理解している。
「さ、行こ~」
「ああ……ありがとな、ソフィア」
「初めてできた後輩に嫌われなくないからね~」
茶化すように言うソフィアが、テリオンの頭を撫でた。
いつもなら振り払う所だが……今日は大人しく撫でられておこう。
「ガルドル、ソフィア、テリオン。君たちに任務を与える。拐われた『獣人族』を連れ戻し、保護する事。いいね?」
「うん、わかったよ」
「は~い」
「了解」
「それじゃあ──行ってらっしゃい!」
組合長の声に押されて、三人は組合施設を出て『黒の出会い』に向かった。
いつもはのどかな中庭に──天変地異のような惨劇が起こっていた。
「うるァッ!」
額から二本の角を生やす青年が、ノコギリのような大剣を振るった。
たったそれだけの動作で、干してあった洗濯物が簡単に吹き飛ばされ──洗濯物を取り込んでいた少年が、吹き飛ばされないように力を入れて踏ん張っているのが見える。
「──遅いわね」
大きくジャンプして大剣を避け、『黒森精族』の女性が小さな声で呟いた。
「『氷結技巧』──『二重氷弾』」
何もない虚空に、青白い魔法陣が無数に浮かび上がる。
パチン、と女性が指を鳴らすのと同時──魔法陣から、氷で作られた弾丸が放たれた。
その数、およそ百発以上。
圧倒的な数の暴力を前に、男は──獰猛な笑みを浮かべ、大剣を構え直した。
「はっはァ! 【剛腕】ォッ!」
男の両腕が紫色に輝き──再び大剣を振るった。
瞬間──嵐が起こった。
先ほどの風圧を耐えた少年は簡単に吹き飛ばされ、宙に浮いていた女性も吹き飛ばされる。
だが──ギロッと、女性の紅色の瞳が、男の姿を捉えた。
「『超絶氷結技巧』、『六重氷槍』」
女性の周りに青白い魔法陣が浮かび──数え切れないほどの氷槍が現れる。
全ての先端が男に向けられており──あり得ない数の氷槍が放たれ、男を串刺しにせんと迫った。
「おっらァッ!」
大剣を一閃し──吹き荒れる暴風が氷槍をバラバラに散らせる。
着地する女性と、純白の角を生やす男が正面から向かい合い、戦いの続きを──
「いい加減にしろッ! 庭が滅茶苦茶になってんだろうがッ!」
戦いの余波で吹き飛ばされたテリオンが、いつも通り喧嘩をしている先輩冒険者に怒号を飛ばした。
『鬼族』のディアボロと『黒森精族』のコキュートス──数少ない『第一級冒険者』だ。
「あァ? 邪魔すンじゃねェよテリオン。今いいトコなンだからよォ」
「悪いけど、洗濯物は後にしてもらえる? コイツを殺すのが最優先だわ」
「……マジで何なんだよコイツら……」
理不尽にもほどがある二人の言葉に、テリオンはこれまでにないほど大きくため息を吐いた。
「──コキュートス、ディアボロ! なんで中庭で喧嘩してるの?! テリオンが迷惑してるでしょ?!」
と、玄関の扉が勢い良く開けられ、組合長の怒声が響いた。
──先ほどまでの殺気が嘘のように霧散し、二人がバツの悪そうな表情を見せる。
コキュートスは組合長に絶対忠誠を誓っている。だから組合長の言う事には必ず従うし、組合長に反論したりしない。
だが……ディアボロが組合長の言う事を聞いているのは、どこか違和感がある。
組合長と組合員という立場があるのはわかるが……というか、ディアボロがこの【冒険者組合】に入った理由も知らない。
昨日ガルドルが言ってた性格逆転の事といい、知らない事が多いな──そんな事を思いながら、テリオンは散らばった洗濯物を拾い始める。
「もうっ、何度も何度も言わせないで! 喧嘩をするなら、誰にも迷惑を掛けない所でいつも言ってるでしょ?! 二人は『第一級冒険者』なんだから、自分の実力を理解して!」
「「……了解」」
大人しくなった二人が組合施設へと引き返していく。
ふんっ、と鼻息を荒くする組合長が、洗濯物を運ぶテリオンに声を掛けた。
「テリオン、大丈夫だった? 二人とも、悪気があって戦ってたんじゃないから……それだけはわかっててね?」
「ああ。ディアボロが挑発して、コキュートスがそれに乗った……いつもの事だ。気にしてもしょうがないさ」
山のように積み重なった洗濯物を運びながら、組合長の言葉に苦笑を見せる。
「……はぁ……ゴメンね? 洗濯とか食器洗いとか、雑用みたいな事ばっかりやらせて……」
「いいんだよ。冒険者階級は俺が一番低いんだし、この【冒険者組合】に入っての日も浅い。何より……冒険者になって、まだ一ヶ月しか経ってない。年齢も経験も期間も、俺が一番下なんだから」
真っ直ぐに共同スペースへ向かい、洗濯物をたたむ。
「まあでも……なんで女の下着まで俺が洗わなきゃいけねぇんだ、とは思うけどさ」
「……うん……ゴメンね。ソフィアたちにも言っとくね」
「そうしてくれると助かる」
顔を真っ赤にしながら、組合長が洗濯物の山から黒色の下着を引っ張り出した。
「……組合長って、なかなか挑発的な下着を穿いてるよな」
「だ、だって! こういう下着を穿いてたらっ、彼氏ができやすくなるって……! 昔読んだ雑誌に書いてあったから……!」
「なんの雑誌だよ……」
黒い下着を力強く握り締め、相変わらずよくわからない発言を飛ばす。
「なあ組合長。今日は『指名依頼』とか来てないのか?」
「うん。昨日で全部終わらせちゃったから、今日は自由に過ごしていいよ」
「……そうか……」
素早く洗濯物をたたみ終え──テリオンが立ち上がった。
「クエストに行ってくる」
「ん、気を付けてね?」
「ああ──」
「テリオンッ!」
突如、共同スペースの扉が荒々しく開けられ──そこから、狼の耳と狼の尻尾を生やしたワーウルフ種の『獣人族』が姿を現した。
「な、なんだよガルドル……驚かせるなよ」
「テリオン……落ち着いて、聞いてくれ」
肩で息をするガルドルがゆっくりと口を開き──直後の言葉に、テリオンは耳を疑った。
「──『黒の出会い』が、どこかの【冒険者組合】の襲撃にあったらしい」
「な──はあっ?!」
思わず大声を上げ──慌てて口を手で塞いだ。
不思議そうに二人を見つめる組合長を置いて、テリオンたちは共同スペースを後にした。
「『黒の出会い』が襲撃されたって、どういう事だ? 何が目的なんだ? あのフォクシー種の女の子はどうなった?」
「一つずつ説明するから、少し落ち着いて」
「……ああ。悪い」
胸に手を当て、深呼吸を繰り返す。
「……それで、どういう事なんだ?」
「うん。まず、『黒の出会い』が襲撃された理由なんだけど──」
ガルドルの話だと、こういう事らしい。
朝早く、ガルドルは『黒の出会い』に向かった。
そこで目にしたのは──ボロボロになった『黒の出会い』の店だった。
昨日テリオンが出会った茶髪の男は、全身傷だらけの姿で床に転がっており……店の中に、あのフォクシー種の少女はいなかった。
茶髪の男が言うには、フォクシー種の少女を転売する気だったが、値段が高かったから無理矢理奪い取った──という可能性が高いらしい。
「犯人は全身を黒いローブで隠してて……何とか【冒険者組合】のエンブレムを見たみたいなんだけど……」
「【冒険者組合】の数は多いからな……そこから探すとなると、一日二日じゃ終わらねぇぞ……」
「うん。とりあえず、一緒に『黒の出会い』に行こう。あの店主から、もっと詳しい話を聞かないと」
「……ちなみに、襲撃してきた【冒険者組合】のエンブレムってどんなのだったんだ?」
「……左右一対の黒い狼、その中心に剣のマークが入ったエンブレムみたいだけど」
「サッパリだな……」
ここで悩んでも仕方がない。『黒の出会い』に行って、もっと詳しく──
「──【Dランク冒険者組合 欲深き狼】。物の売買をメイン活動にしてる【冒険者組合】だね」
背後から聞こえた声に、テリオンとガルドルはバッと振り向いた。
そこには──先ほどまで一緒にいた、組合長の姿が。
「組合員は『第三級冒険者』と『第四級冒険者』が多くて、『第二級冒険者』が数名いる」
「く、組合長……?」
「【冒険者組合】の実力としては【Bランク冒険者組合】にも匹敵すると言われてるけど、問題行動が多いからなかなか昇格してもらえていない。『冒険者機関』も手を焼く困った【冒険者組合】……って所かな」
ニコッと笑みを見せ──だが底知れぬ覇気を込めた声で、言った。
「冒険者時代は、私もあいつらに迷惑してたからなー……ねぇ。あいつらを懲らしめるなら、私にも協力させて?」
────────────────────
「──つまり、その女の子を助けたいから、色々コソコソしてたって事?」
組合長の言葉に、テリオンとガルドルは無言で頷いた。
「……はぁ……別にそんな事なら怒りはしないし、むしろ協力するけどさ……嘘を吐くのは良くないよ? 次からは怒るからね?」
「「……はい」」
「よし──リリアナ、いつも通りここから情報を伝えて。ソフィアはテリオンたちに付いて行って」
「ん…………了、解……」
「りょうか~い」
ディアボロとコキュートス、ジャンヌはクエストに行っている。
というのも、あの『第一級冒険者』の二人は、何かをやらせておかないとすぐに喧嘩をするからだ。
クエストの途中で喧嘩をしても良いように、ジャンヌを付き添わせている。
よって、この【七つの大罪】の組合施設にいるのは五人だ。
「いや、これは俺たちの問題だ。だから──」
「俺たち二人だけで片付ける、とか言ったら~……本気で怒るよ~?」
甘ったるい声を出しながら──まったく甘くない事を口にするソフィア。
「……お前な……俺があのフォクシー種に近づこうとしたら、関わるなって目をしてたクセに──」
「でも、関わっちゃったんでしょ~? なら、もう他人事じゃないよ~──あたしたちは同じ屋根の下に暮らす冒険者、つまりは家族みたいなものなの~。わかる~?」
「それは……わかる、けど──」
「可愛い弟分が困ってるなら、姉貴分のあたしが手を貸さなきゃいけないでしょうが~」
ソフィアの言葉を聞いたテリオンは──昨日聞いたリリアナの言葉を思い出していた。
──相談してくれたら、協力できる。
ああ、まったく……あの怠惰な先輩の方が、俺なんかよりよっぽどこの【冒険者組合】の事を理解している。
「さ、行こ~」
「ああ……ありがとな、ソフィア」
「初めてできた後輩に嫌われなくないからね~」
茶化すように言うソフィアが、テリオンの頭を撫でた。
いつもなら振り払う所だが……今日は大人しく撫でられておこう。
「ガルドル、ソフィア、テリオン。君たちに任務を与える。拐われた『獣人族』を連れ戻し、保護する事。いいね?」
「うん、わかったよ」
「は~い」
「了解」
「それじゃあ──行ってらっしゃい!」
組合長の声に押されて、三人は組合施設を出て『黒の出会い』に向かった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
141
-
-
361
-
-
337
-
-
755
-
-
124
-
-
2265
-
-
439
-
-
381
-
-
4112
コメント