俺の描く理想のヒロイン像は少なくともお前じゃない
Ⅵ.彼と感謝
「ねね、雛っち〜」
ボーッと窓を見ていると頬をつんつんと突かれた。
「ん?どしたの華撫?」
「切り絵さ何にするか決めた?」
あー、そっか。今日から切り絵だっけ?
「全然、なーんにも。美術的なセンスがゼロだし、雛」
「バナナ描いたら大根と間違われちゃったもんね」
華撫が笑いながら言った。
「あれはシャーペンで書いたからそう見えただけだし。色つけたら絶対バナナだったし」
「いやいや、バナナにあんな葉っぱは生えてないでしょ」
「んぐっ…」
何も言い返せない。
「そーれで、雛っちはまたアイツのこと見てたの?」
華撫の顔には先程の笑顔とは明らかに違った意味のニヤニヤした表情が浮かんでいた。
「見てないし!ていうか、それ本当に誤解だから!」
「まぁまぁ落ち着いて雛萌ちゃん」
華撫は楽しそうな様子でポンポンと雛の肩を叩く。
華撫が雛のことを本名の“雛萌”と呼ぶときは大抵、変なことを考えている時だ。もう中学の時にうんざりするほど学んだ。
今思い返せばいい思い出だけどね。だから華撫は憎めない奴なんだよ。
「雛っちさ自分が思ってるよりも分かりやすくて、そんでもって乙女なんだよ?」
「乙女って、なんやそれ」
「いろいろ我慢しちゃダメだからね、雛っち」
その声はやけに真剣に聞こえたのは、雛の気のせいかな…?
でも、なんかそう言われたら気になってきちゃったじゃん。
目が自然と彼の方に向く。
「___え?」
思わず声が漏れた。
華撫は隣で切り絵の用紙と向き合いうーんと唸っている。どうやら雛の声には気付いていないようだ。
声が漏れた理由。それは、純粋に驚いたからだ。
彼の隣に座る綺麗な子。
うちのクラスの男子たちもチラチラ彼女の方を見てニヤニヤしてる。
そういえば昨日、B組にすごく綺麗な子が転校してきたって噂になってたな。噂だし少しくらい盛ってるんだろうと思ったけど、なにあれ…。全然盛ってないじゃん…。
女の子は黙々と切り絵を作っている。
別に雛には関係ないけどさ…。勝手に華撫が盛り上がって勘違いしているだけ。
集中しよ。
そうして雛も課題である切り絵に取りかかった。
キーン コーン カーン コーン…
2時間目のチャイムが鳴り美術の時間の終わりを告げる。
「A組の天叢さんとB組の露葉奈くんはこの後、少し残ってもらっていいかしら?すぐに終わる話だから」
授業終了の号令をかける際、先生は唐突にそう言った。
「雛っち、なんかやらかしたの?」
華撫がそう聞いてきたので雛は首を横に振る。
「多分、美術委員の仕事だと思う」
「なるほどね。そんじゃあ楽しんで来いよ」
華撫は悪戯っぽい笑みを浮かべ親指をグッと立てる。
「はぁ、もういじめないでよぉ…」
やれやれといった感じで雛はため息混じりに言った。
「2人ともゴメンなさいね。すぐに終わるから」
先生はそう言って話を切り出した。
「そろそろ夏休みに入る訳だけど、それに際して美術室を大掃除しようと思ってね。えっと、たしか17日が最終登校日だったかな?」
先生は壁にかかったカレンダーを見ながら言った。
「それでね、この教室よりも美術倉庫の方が大変なことになっちゃてるのよ。一気に掃除するのは大変だし、かといって美術委員総出で掃除するには倉庫は狭いじゃない?だからね当番制で少しずつ掃除していこうかなって思って」
そして、ペラっと2枚の紙を取り出し雛たちに手渡した。
そこには見やすく配色された表が載っていた。
「天叢さんと露葉奈くんは木曜日にしちゃったんだけど、良かったかな?」
「俺は大丈夫ですよ」
彼は即答で言った。
どうしよう、木曜日は部活だな…。夏休み中に試合あるし休めない。
「天叢さんは?大丈夫そう?」
先生がこちらを向いて尋ねてきた。
「えっと、その…掃除ってどのくらいで終わりますか?」
「んー、だいたい20分くらいやってくれればいいかな。でも、短時間でもそれだけ綺麗にしてくれれば全然早く終わっていいよ」
なら大丈夫かな。それに、華撫にはからかわれちゃったけど、これはチャンスかも。
「それなら雛も大丈夫です!」
「オッケー。じゃあ2人ともよろしくねっ!」
先生は満足そうに言った。
「「はーい」」
教室に戻ると華撫がニヤつきながら待っていた。
「彼と話せた〜?」
「もう、華撫キライになるよ?」
そう言って雛は華撫の前の自席に座る。
「ごめんごめん。でもさー、B組だったら露葉奈よりバスケ部の唐草君とかリトルプリンスのハッチー君の方が良くない?」
「唐草君ってたしか1年生なのにもうレギュラー入りしてる人だよね?」
「そそ。高身長イケメン!あれで性格も良ければ言うことなしなんだけどね〜」
「それからハッチー君って…あぁ、あの可愛い感じの子か。あの子、音楽選択してるっぽいからあんま会わないんだよね。それに、華撫は顔しか見てないでしょ?」
「バレたか、アハハハハ」
華撫は楽しそうに笑う。陽気な奴だなぁ。
「でも、改めて思い返してみるとB組ってわりと顔面偏差値高いよね〜。露葉奈だって見た目悪くないしさ」
「それはそうかもだけど、結局は性格だよ」
「つまり、アイツの性格が雛っちの心にヒットしたわけだ。まぁ良いやつそうだよね」
あーもう華撫ってば絵に描いたようなニヤニヤ顔しちゃってさ。その釣り上がったほっぺたをムニムニってもみくちゃにしてやりたいよ!
「はいはい、もうそれでいいよー。華撫キラーイ」
あれは本当に誤解なんだけどなぁ。多分、華撫は分かってるんだろうからいいけど。
でも、しっかり彼に伝えないと。感謝の気持ち。
ボーッと窓を見ていると頬をつんつんと突かれた。
「ん?どしたの華撫?」
「切り絵さ何にするか決めた?」
あー、そっか。今日から切り絵だっけ?
「全然、なーんにも。美術的なセンスがゼロだし、雛」
「バナナ描いたら大根と間違われちゃったもんね」
華撫が笑いながら言った。
「あれはシャーペンで書いたからそう見えただけだし。色つけたら絶対バナナだったし」
「いやいや、バナナにあんな葉っぱは生えてないでしょ」
「んぐっ…」
何も言い返せない。
「そーれで、雛っちはまたアイツのこと見てたの?」
華撫の顔には先程の笑顔とは明らかに違った意味のニヤニヤした表情が浮かんでいた。
「見てないし!ていうか、それ本当に誤解だから!」
「まぁまぁ落ち着いて雛萌ちゃん」
華撫は楽しそうな様子でポンポンと雛の肩を叩く。
華撫が雛のことを本名の“雛萌”と呼ぶときは大抵、変なことを考えている時だ。もう中学の時にうんざりするほど学んだ。
今思い返せばいい思い出だけどね。だから華撫は憎めない奴なんだよ。
「雛っちさ自分が思ってるよりも分かりやすくて、そんでもって乙女なんだよ?」
「乙女って、なんやそれ」
「いろいろ我慢しちゃダメだからね、雛っち」
その声はやけに真剣に聞こえたのは、雛の気のせいかな…?
でも、なんかそう言われたら気になってきちゃったじゃん。
目が自然と彼の方に向く。
「___え?」
思わず声が漏れた。
華撫は隣で切り絵の用紙と向き合いうーんと唸っている。どうやら雛の声には気付いていないようだ。
声が漏れた理由。それは、純粋に驚いたからだ。
彼の隣に座る綺麗な子。
うちのクラスの男子たちもチラチラ彼女の方を見てニヤニヤしてる。
そういえば昨日、B組にすごく綺麗な子が転校してきたって噂になってたな。噂だし少しくらい盛ってるんだろうと思ったけど、なにあれ…。全然盛ってないじゃん…。
女の子は黙々と切り絵を作っている。
別に雛には関係ないけどさ…。勝手に華撫が盛り上がって勘違いしているだけ。
集中しよ。
そうして雛も課題である切り絵に取りかかった。
キーン コーン カーン コーン…
2時間目のチャイムが鳴り美術の時間の終わりを告げる。
「A組の天叢さんとB組の露葉奈くんはこの後、少し残ってもらっていいかしら?すぐに終わる話だから」
授業終了の号令をかける際、先生は唐突にそう言った。
「雛っち、なんかやらかしたの?」
華撫がそう聞いてきたので雛は首を横に振る。
「多分、美術委員の仕事だと思う」
「なるほどね。そんじゃあ楽しんで来いよ」
華撫は悪戯っぽい笑みを浮かべ親指をグッと立てる。
「はぁ、もういじめないでよぉ…」
やれやれといった感じで雛はため息混じりに言った。
「2人ともゴメンなさいね。すぐに終わるから」
先生はそう言って話を切り出した。
「そろそろ夏休みに入る訳だけど、それに際して美術室を大掃除しようと思ってね。えっと、たしか17日が最終登校日だったかな?」
先生は壁にかかったカレンダーを見ながら言った。
「それでね、この教室よりも美術倉庫の方が大変なことになっちゃてるのよ。一気に掃除するのは大変だし、かといって美術委員総出で掃除するには倉庫は狭いじゃない?だからね当番制で少しずつ掃除していこうかなって思って」
そして、ペラっと2枚の紙を取り出し雛たちに手渡した。
そこには見やすく配色された表が載っていた。
「天叢さんと露葉奈くんは木曜日にしちゃったんだけど、良かったかな?」
「俺は大丈夫ですよ」
彼は即答で言った。
どうしよう、木曜日は部活だな…。夏休み中に試合あるし休めない。
「天叢さんは?大丈夫そう?」
先生がこちらを向いて尋ねてきた。
「えっと、その…掃除ってどのくらいで終わりますか?」
「んー、だいたい20分くらいやってくれればいいかな。でも、短時間でもそれだけ綺麗にしてくれれば全然早く終わっていいよ」
なら大丈夫かな。それに、華撫にはからかわれちゃったけど、これはチャンスかも。
「それなら雛も大丈夫です!」
「オッケー。じゃあ2人ともよろしくねっ!」
先生は満足そうに言った。
「「はーい」」
教室に戻ると華撫がニヤつきながら待っていた。
「彼と話せた〜?」
「もう、華撫キライになるよ?」
そう言って雛は華撫の前の自席に座る。
「ごめんごめん。でもさー、B組だったら露葉奈よりバスケ部の唐草君とかリトルプリンスのハッチー君の方が良くない?」
「唐草君ってたしか1年生なのにもうレギュラー入りしてる人だよね?」
「そそ。高身長イケメン!あれで性格も良ければ言うことなしなんだけどね〜」
「それからハッチー君って…あぁ、あの可愛い感じの子か。あの子、音楽選択してるっぽいからあんま会わないんだよね。それに、華撫は顔しか見てないでしょ?」
「バレたか、アハハハハ」
華撫は楽しそうに笑う。陽気な奴だなぁ。
「でも、改めて思い返してみるとB組ってわりと顔面偏差値高いよね〜。露葉奈だって見た目悪くないしさ」
「それはそうかもだけど、結局は性格だよ」
「つまり、アイツの性格が雛っちの心にヒットしたわけだ。まぁ良いやつそうだよね」
あーもう華撫ってば絵に描いたようなニヤニヤ顔しちゃってさ。その釣り上がったほっぺたをムニムニってもみくちゃにしてやりたいよ!
「はいはい、もうそれでいいよー。華撫キラーイ」
あれは本当に誤解なんだけどなぁ。多分、華撫は分かってるんだろうからいいけど。
でも、しっかり彼に伝えないと。感謝の気持ち。
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