俺の描く理想のヒロイン像は少なくともお前じゃない

鳩子

Ⅳ.キメラと星

詩乃しのの。煉獄の果実とオークの地肉の採集任務、ただ今完遂したぞ!」

「おお、サンキューな」

 そう言って俺は一姫から真っ赤に熟れたパプリカと豚ひき肉を受け取る。

 駅構内に付設されたスーパーマーケットは一姫が知り合いがいるかもしれないと嫌がったので、少し遠出になってしまったが一駅隣まで俺たちは遠征した。

 そのためか、一姫は外出にも関わらずやけに元気で俺は内心ホッとしていた。

 カートを押して歩いていると、ふと一姫が目を輝かせて走り出した。

「お、おい!」

 その先にあったのはお菓子コーナーだった。

 俺は少し遅れて一姫に追いつくと、商品棚の前で座り込む彼女の両手を覗き込む。

「み、見ろ!詩乃。ホネホネキメラの新シリーズが出ているぞ!!」

 ホネホネキメラ…あぁ、自分でカスタムできる小さなフィギュアか。おまけにラムネとかがついてる。

「相変わらずだな。それで、それはお前が買うんだよな?」

「ホネホネだぞ!ホネホネ!」

 興奮気味に彼女は言う。だが、その手には乗らない。

「おい吸血姫エルターナ。お前、自分が契約したい眷属けんぞくを他人に契約させる気か?それはお前の眷属ものの様ではあるが実質的には他人の眷属ものいうことになるぞ?」

 一姫が好きそうなワードは把握済みだ。10年の付き合いを舐めるんじゃないぞ、吸血姫エルターナ

 しかし、俺は甘かった。

「そんなこと…ないよ。他人だなんて…、そんな寂しいこと言わないでくれよ。聖剣帝パラディンは…詩乃は我の大切なパートナーだ」

 優しく微笑む一姫。

 なんの嫌味もなく、なんの下心もない様な、ただひたすらに優しい笑顔。

 いつもの悪戯っぽい表情からは想像もつかないシオらしいその表情に脳天ぶち抜かれ、気がつくと俺のカートのカゴの中にはホネホネキメラの全種類が入っていた。

 …はぁ、またやっちまった。

 その後、目的の食材を買い、俺たちはスーパーマーケットを出た。

「なぁ詩乃。その、最近学校はどうだ?」

 なにやらためらい気味に一姫は聞いてきた。

「そうだな…まぁ、ボチボチかな。あっ、今日転校生が来たんだ」

「転校生?」

「ああ。これがまた面白い奴でさ。見た目だけで言えばめっちゃ美人なんだけど、一癖も二癖もある感じで____」

「ちょっと待て!その転校生は女子なのか?それも、めっちゃ美少女の?!」

 驚いた様な焦っている様な、そんな形相で一姫は言った。

「あ、ああ。多分、俺から見た感じだけど美少女なんじゃないか?ただ、なんというか不思議な雰囲気というか、近寄りがたい感じのオーラを出しているというか…」

「美少女なら当たり前だ!というか…その、詩乃はそいつの事が…えっと、なんというか…」

 口籠る一姫はその先を言おうか迷っている様だった。

「いや、なんでもない」

「そう言われると気になっちゃうんだが?」

「だ、だめだ!気になっちゃだめだぞ!本当に何でもないんだからなっ!」

 耳を赤らめながらの一姫の言葉に俺はただ圧倒され、おうと頷くより他なかった。








 一姫を店まで送り届け俺は1人、両手にビニール袋をひっさげて帰路につく。

 上を見上げれば俺に見せつけるかの様に大勢で光り輝く星々。

 上を向いて歩こう〜♪とか昔、誰かが歌ってたっけ?涙がこぼれないように?上を向いて歩いたらむしろこぼれちゃうんですけど…。

 店にはおじさんだけでなく、おばさんも居た。夜ご飯に誘われたが食材の準備をしてしまった手前、断ってしまった。

 それにしても、おばさんは老化という言葉を知らないのか?もうそろそろ50になるらしいが、30代と言われても信じられるだろうな。

 住宅街に入り、その一角に立つ他の家に比べればひと回り小さい白い一軒家が見えてきた。

「ただいま〜」

 ドアを開け静寂に満たされた暗闇に向け、俺は言う。

 今日もぼっち飯ですか。

 リビングのダイニングテーブルにひとまず荷物を置きLINNEリンネを開き【父】をタップする。

 新着メッセージが一つあった。

〔すまん、今日も遅くなりそうだ〕

 だと思った。

〔おけ〕

〔それじゃあ、先に食べてる〕

〔夜飯、冷蔵庫に入れておくから〕

 俺は3つのメッセージを送信して夕飯の準備に取りかかった。

 酢豚に炒飯、あと餃子。今日は中華の気分だったからな。

「いただきます」

 1人の食卓にはもう慣れてしまった。

 一姫のことを思い出す。一姫の家族のことを思い出す。優しいお父さんに綺麗なお母さん。

 別にウチの父さんに不満があるわけじゃない。不満なんてこれっぽっちもない。

 男手ひとつで俺を育ててくれているのだから。

 ただ、母という存在の温もりを俺は知らない。今更知りたいというわけではないが、ただ、それでも羨ましいと思ってしまう自分もいるのだ。

「ご馳走様でした」

 今日はもう寝るか。

 1人の夜は嫌いじゃない。

 1人の時間を独りと思ったことはもうここ数年ない。

 静寂が心地よく感じ始めたのはいつ頃だっただろうか。もう遠い日のことだけれど。

 そして俺は今日も静かな闇に包まれ1人ベッドに眠る。うるさく光る星夜のとばりに寄り添う様に。

「俺の描く理想のヒロイン像は少なくともお前じゃない」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く