プロジェクト:ワールド ダイバー〜殺戮と蹂躙の異世界転生譚

五花

?.プロクライム、エンディング

助走。踏ん切り。跳躍。

踏みしめた大地。大通りにはクレーター。空を舞う少女に、架空の翼の錯覚を見る。

高層建造物のビル風が、彼女の背中を押す。彼女は尋常ではない跳躍を成していた。その姿、翼無きも鳥類の如く。いや、或いはそれを飛翔と言うべきか。だが、やはり重力を受け、緩やかな放物線を描き、高度を落としていく。自由落下の先に待ち受けるは、人だ。その数、目測にして凡そ3000。未だ宙を舞う彼女の存在に気付かぬ群衆は、ただ同じ方向を向いて進んでいく。

その群衆の中心に、砲弾の如き速度と威力を伴って、少女は着陸する。瞬間の轟音。そして驚愕による沈黙。数秒後、彼女を中心に悲鳴が沸き起こる。当然だ。ただ歩いていただけの彼らの誰が、この事態を予測出来たであろうか。何より、少女の着地は群衆の中、一人の男の位置と被っていた。彼女の凄まじい勢いの着地に、耐えられる訳もなく肉体が四散する。

飛び散る肉片に恐怖とパニックになる群衆。或いは、哀れな男の爆心地から、逃げ惑う人々も多数。が、何せ数が多い。スムーズに逃走が進むわけがないのだが。

さて、着地した少女は、踏み潰した男の返り血をこれでもかと浴びて、なお直立。そして、一瞬の硬直の後、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。その様子を直視してしまったため、恐ろしさのあまり腰を抜かしてしまったものもいる。

少女は笑みを浮かべ、その一人に手を差し出し。



















その清らかな女性の手で、頭部を握り潰す。






再度巻き起こる悲鳴の嵐。狂騒はここに幕を開ける。



そして少女は暴れ出した。その華奢な体から、信じられないような怪力を振るって。次々と、言葉通り、捻じ曲がる群衆。側から見ても即死は確実。


悲鳴のメロディに、骨の折れる音のアクセント。
奏でられるは狂騒曲カプリチオ





「ンフフフフフ!好いわあ!とても素敵なオオケストラ!」

聳え立つ高層ビル群。その果ては最早見えないほどに遠い。機械的で近未来的。ハイテクノロジーを内包した都市。

その中の一つ。最も高い高層ビルの屋上から、惨状を眺める男が一人。派手な格好が目を惹く。不規則、いや、そのように見えて、規則的なリズムを刻む手拍子を叩き続ける。

「結構結構。あらあら?折角の役者が逃げて閉まっているわねぇ?大変。ンフフ、そうねぇ。では、この辺りで『転調』。」

と呟き、大きく手を叩く。その音は決して大きいわけではなく、しかして、眼下、逃げ惑う群衆はその音を確かに耳にする。

そして、音に呼応して、唐突に姿を現した3人の男がいた。

パニックになりながらも、逃走を始めていた群衆の、それぞれの行く先に立ちはだかる。



1人は軍服を着た男。腰に軍刀、両手に拳銃ハンドガン。軍帽と口に巻かれたスカーフの間から、鋭い殺気を孕んだ眼光が放たれる。

鬼気に怯んだ人々は硬直の反応。が、それが誤った判断であることに気付いた頃には、男は手に持った銃を、群衆に向かって乱射していた。

正確無比の射撃は、一射も狂わず逃げ惑う彼らを撃ち抜く。1秒2人。最早その腕、機械仕掛けの殺戮兵器キリングマシーン




1人は、顔立ちの整った、幼い顔をした男だ。その顔に爽やかな微笑を湛え、両手に握られるはサバイバルナイフ。そのまま彼は、自分の方向に向かってくる群衆に、距離5cmまで接近。突然の超接近に、驚く彼らの頸動脈を、寸分違わぬ一撃で断つ。

鮮血は一瞬、艶やかに、短剣の軌道に沿って、空に紅い線を描く。そして決壊。凄まじい勢いで吹き出す。

飛び散る血が、群衆の視界を覆い、故に彼らの足は止まってしまう。その致命的停滞に、何とも軽やかかつスムーズな動きを持って、絶命の一撃を与える。

払った得物から零るる血が、地面と接して音を立てていた。





最後の1人は、先の2人よりも一見『地味』といった印象を受ける。が、その顔に眼帯とガスマスク、背中に身の丈程の大剣_を背負うその容貌に、その感想は覆される。そして、鞘から引き抜かれた刀剣を見、人々はある違和感に気づいた。

この剣、刃が無いのである。

見るからに重そうな大剣を片手に、男は跳躍。そして、落下の勢いを剣に乗せ、群衆の1人の脳天に、強烈な一撃を叩き込む。刃こそないにせよ、大剣は相当の質量を持った鈍器として、その脅威を見せつける。

そのまま男は両手に大剣を握り、群衆に対し、必殺級の一撃を連続して放つ。大剣は、その質量からは考えられない程の速度を持って振り回されている。

驚くべきは男の膂力か。否。その躍動の真実は、最大限に効率化された動きである。男はその体を、『大剣を振るい、叩き込む』以外の行動に使用していないのだ。

そして、その動きは加速する。



「ンフフ、アッレグロ速く!えぇえぇ!素晴らしい狂騒とダンシング!さて、山場よ!」



そう言って、ビルの上の男が合図を出す。

途絶えること無きリズムの中。轟音と共に、ビルの裏から、都市の相関に似合わぬ幻想ファンタジーが現れる。

「それは巨大な蛇であった。うふふ…。」


唐突に現れたのは、まさしく大蛇であった。
胴は半径数メートル。体は最早その単位が違う。

機械な模様の鱗に覆われた、悍ましい化け物は、しかして御伽噺のそれのように、群衆に襲いかかる雰囲気を見せない。只、その複眼はしっかりと彼らを見据えていた。

そして、その巨体の上、あり得ない光景が見える。巨蛇のその頭の上。清楚なワンピースに身を包んだ、1人の少女が佇んでいる。純真無垢なその顔立ちに、危険な程に艶やかな笑みを携えて、少女は叫ぶ。

「では、お聞き頂きましょう、聴衆の皆様方!『終末を告げる咆哮アポカリティックサウンド』。」

少女の号令を受け、蛇はその口を裂けんばかりに開いて、大地を震わす咆哮を放つ。

揺らぐ大地は世界の畏怖か。淡白な都市に、鳴り響く不協和音。慟哭は響き渡り、聴くもの全てに絶対的な恐怖を感じさせる。






「公演終了。では、喝采の時間よぉ!」

男の号令。そして、巨蛇の咆哮に気を取られていた群衆は、あることに気付く。先程まで、自分達に対し、一方的に殺戮を行なっていた、恐るべき4人がいつのまにかその姿をビルの屋上に見せている。最も、気付いたものも殺戮により減らされた、生き残りの10分の1程度の群衆なのだが。

また、別のビルの屋上。2人の女が見える。うち1人は、唐突に懐からタッチペンを取り出す。芯の白いそれで、女は空をなぞる。

「スキャン」

象られた空想の輪郭は、その言葉と共に現実となる。摩訶不思議な現象。そこに現れたのは、いくつもの発射口を備えた、ミサイルの発射台である。

「出来ました。後はお任せするっす。」

彼女の言葉を聞き、もう一人の女が、現れた発射台に近づき、手を翳す。あり得ないことに、その発射台に、数十のミサイル_が瞬時に装填される。

「拍手がわりの爆撃と行こうかしら?」

彼女は不敵な笑みと共に、端正な顔立ちに付けられた眼帯を右手でなぞる。それが起爆剤スイッチであった。

都市上空を、数十のミサイルが舞う。無数の爆撃は都市を半壊させ、その整った相関を一変させた。生き残った群衆も、逃れられぬ爆撃に絶命を避けられない。

そして、その惨状を引き起こした彼女らも、気付かぬうちに、一つのビルの屋上に集結していた。

ビルの屋上に、8人の男女が並ぶ。それぞれが、冷酷な感情をその眼光に宿し、焼ける都市を見下ろしていた。

不意に、その上空に、無数の立体映像ホログラムが出現する。焼けた都市から離れ、その惨状を知らないものは、眉をひそめ、一様にその映像を見上げていた。

映し出されるは先程の8人の男女。その中央。軍服の男が進み出る。手には拡声器メガホンが握られている。


そして、男は映像を通じ、それを見る全てに語りかけた。






















「御機嫌よう。愚かな愚民の衆供。これは宣戦布告だ。世界の真下、貴様らとは異なる世界の『悪役ヴィラン』からの、此れは宣戦布告だ。」

宣告と同時に、都市の惨劇が映し出される。その光景に、思わず息を呑む群衆。男は続ける。

「貴様ら人間は退廃した。最早その在り方は霊長のそれではない。貴様らは謂わば『虫』だ。コンクリートで塗り固めたコロニーを、脳もなく這いずり回る、醜い害虫だ。」

男は淡々と言葉を綴り、その目に絶えず殺気を込める。その目は他の面々を変わらず。彼ら8人に、共通して存在するのは、人類への憎悪と、尽き果てぬ悪意である。

そして、男は腰の軍刀を抜いた。掲げた白刃が、宙で光を反射し、歪に煌めく。

「故に壊す。故に排斥する。故に殺し尽くす。貴様らのようなバグの、存在を我らは許さない。」

同時に、都市のあちこち、広範囲で、大規模な爆発が巻き起こる。惨状は空中に映るものに等しく、それが彼らの仕業であることは明らかだ。

その爆撃と共に、最終宣告は告げられる。




「我らはWorld Diverワールドダイバー。この世界の『悪』にして執行者。宣言しよう。君達人類を、を此れから5日以内に、全て、1人残さず、殺す。







死ね。無残に、そして残酷に。」

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