プロジェクト:ワールド ダイバー〜殺戮と蹂躙の異世界転生譚
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其れは、何処よりも深い、深い場所。
或いは、何処よりも新しい場所。
夜凪のように静かで、快晴のように透き通る。
見渡す限りの無。塵一つ無いような美しい虚空の中に、しかして其れは確かに存在していた。
其れは、海に揺蕩う『何か』のように、小さい、小さい箱庭だったのだ。
さて。物語はここから始まる。この小さな箱庭の、ほんの薄っぺらな表層で、だ。
開演にはまだ、少し早いかもしれない。空は未だに空のままだから。
故に、これはプロローグだ。嵐の前の、静かな凪だ。
さぁ。今しかない。#潜るのならば今しかない。凪の深層は静かに、されど確かに熱を帯びた。
ーーーーーさぁ、沈降を始めよう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
とあるマンションの一室。
殺風景な部屋だ。大きな窓が一つ。一歩踏み出しベランダが一つ。椅子が一つに机も一つ。少しの家具と、大量の機械。明かりは無い。外は夜のようにとても暗く、窓から僅かに光が差し込んでいる。なんとも暗い場所だ。そんな部屋である。
そして、1人の女が其処にいた。女は椅子に前のめりに腰掛け、机に乗せられた機械の一つ、大きなパソコンのように見える其れを弄り続けている。モニターの光が、暗い部屋の中でもとりわけ強い光を放ち、女の顔を照らしていた。
すると、女はその前のめりで、画面に顔を近づける姿勢をやめた。背もたれにその身体を預け、深呼吸とともに大きな伸びをする。そのまま、椅子を引いて立ち上がった。
どうやら、先程から続けていた作業は一段落、或いは終わったようだ。女はそのまま軽やかな足取りで、唯一の窓へ向かう。外の空気を吸いたいらしい。
ベランダに躍り出る。女の纏うロングコートが、はらりと揺れる。そしてベランダの下から、決して月明かりではない、微かな光が彼女を照らした。
まず目を引くのはその髪である。腰まで届かんとする純白の長髪は、僅かに風にたなびいていた。細い髪のいくつかに光が反射して、キラキラと美しい。そして、その端正な整った顔に、僅かな笑みを浮かべていた。
微笑を浮かべたまま、彼女はベランダの淵に立つ。そして、その下の景色を見下ろした。
眼下、群れをなして立つは高層ビル群。複雑に建造が進んだ都市である。ある種『近未来的』とも形容できそうなそれは、夜闇の中で、まるで星屑のように輝いていた。先程から照らす光は、まさにそれである。遠く離れると淡い光だが、一度目に入れて仕舞えば、チカチカと目障りなことこの上ない。
ここで、初めて女が口を開く。静寂の中、その言葉を聞くものは、誰1人としていないように見えるにも関わらず。その笑みを携えた顔を一瞬歪ませて、大きく舌打ちをする。
「…やれやれ。増やしすぎた。」
そう言って、女はさらりと髪を撫でる。顔にはまた笑みが浮かんでいた。そして、#宙にたった一室、投げ出されたかのようなマンション、そのベランダで、女は続ける。
「いやはや、どうしたものか。…私の理想は既に完全に破綻した。あのような欠陥品が増えたところで、全く無益、無意味。…ああ、面倒、本当に面倒だ。」
女の顔には笑みが浮かんだままだ。が、見下ろす目はあまりに冷たい。そして、溜息をついた女の口調は、先程とはうって変わる。独り言を言うような、ささやくような口調から。#誰かに語りかけるような、確かな口調に。
「さて、よく応じてくれた( )。君の協力に、改めて礼を言いたい、ありがとう。」
恭しく、空に向かって一礼。大袈裟さがありながらも、どこか気品を感じる。
「そして、ようこそ我が世界、『深層世界』へ。まずは最初の役者であり、部外者となる君に、この世界、ひいてはその惨状と呼べる現状について説明しよう。
先に言った通り、この世界は私が作ったものだ。つまり私はこの世界の創始者である。
…ん、ああ、それは違う。私は神ではない。彼らに言うつもりはないが、元は君達と同じ人間だった。この世界を作るにあたっては、人の身に余るような『膨大な計算』を行なってきた。『世界演算』、そして『原理設定方程式』。これら2つを駆使して、この『新しい世界』を作り出した。
……おい、まさか、今のを聞いて、試そうなんて変な気を起こしてないだろうな?……うーん、無理だと思うよ。今言った通り、それは『膨大な計算』だ。多分私くらい特化してないと、まず脳が耐えきれないだろうさ。
話が逸れてしまった。さて、次にこの世界、深層世界についてだ。この世界は50×50×20kmの直方体の形を取っている。高さの数値だけが少し小さいね。昼夜を一つの大照明で調整しているから、時間の感覚も君の住んでいた場所と同じはずだよ。ま、構造は割とどうでもいいか。追い追い語るとしよう。
さて、この世界の問題だ。現状に直結するものではないとはいえ、大元の原因は私にある。それは、世界の設定を理想化しすぎたことだ。
この世界の全てを私は設定した。私の望む全ての為に。それ故に、この世界は、人間に優しすぎる。
この世界の人間は、進化の過程をすっ飛ばしているんだ。つまり、最初から『超高度の技術』を持っている。さらに、人間以外の生物は存在しない。それは植物ですらも、だ。人間は、彼らの食料をその高い技術で、分子レベルから作り出している。
理想的設定はこれだけにとどまらない。この世界には、ありとやらゆる『不幸』が起こらない。それは例えば、地震や洪水、噴火と言った自然災害にとどまらず、人間同士の争い、『戦争』すら起こることがない。すなわち、人間が一度に大量に減ることはまずないのだ。
さて、そうやって人間に甘くしすぎた挙句、この世界はある危機を迎えた。それは人口が多すぎるというものだ。高い技術は医療の面でも同じ。人が死ぬよりもはるかに短いスパンで人が生まれる。結果、この狭い世界では人口が飽和してしまった。
これは結構由々しき事態でね。一言で言うと『世界演算の熱暴走』を招く。熱暴走が引き起こすのは『バグ』だ。まぁ、君らが言うところの『超常現象』がそれに当たる。『神隠し』『人体発火現象』『終末を告げる慟哭』なんかがそれに当たる。被害も大概だよ。
……まぁ、由々しき事態とはいえど、実はこれらは改善の余地が一応あるんだ。もしこの世界の抱える問題がこれだけ_であれば、私も対応できた。…いいや、断言しよう。したとも。
だが、敢えて言おう。私は彼らを見限った。そうするまでに至った奴らの………いや、このあさましい惨状についても、今は多くは語るまい。
まぁ、こういうわけで、私は君に話した『プロジェクト』を考えたのだ。あの『最悪の非道』を実行することを決めたのだよ。
そして、君。君にはこのプロジェクトにおいて『観測者』の役割を託したい。
なに、大きい仕事だ。私も忙しいし、それに、君以上にこの役を任せられるものなどいない、と私は考える。どうか、私の『観測』を助けてくれ。
そして、約束通り、『能力』のことも、忘れちゃいないさ。
…概要は把握できただろうか。…うん、いい顔だ。私も安心して任せられるよ。
ふう、ありがとう。それじゃあ一つ、頑張ってみようか。
話は大体こんなところだ。あとおよそ24時間後。彼らが来る。私の呼び出した、『切り札』達が。
そして、その時ついに始まるのだ。
私の考案した、『常識を逸脱する非道』が。
私の思い描く『常識を覆すシナリオ』が。
ーー宣告しよう。其は、
『プロジェクト:ワールドダイバー』。」
或いは、何処よりも新しい場所。
夜凪のように静かで、快晴のように透き通る。
見渡す限りの無。塵一つ無いような美しい虚空の中に、しかして其れは確かに存在していた。
其れは、海に揺蕩う『何か』のように、小さい、小さい箱庭だったのだ。
さて。物語はここから始まる。この小さな箱庭の、ほんの薄っぺらな表層で、だ。
開演にはまだ、少し早いかもしれない。空は未だに空のままだから。
故に、これはプロローグだ。嵐の前の、静かな凪だ。
さぁ。今しかない。#潜るのならば今しかない。凪の深層は静かに、されど確かに熱を帯びた。
ーーーーーさぁ、沈降を始めよう。
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とあるマンションの一室。
殺風景な部屋だ。大きな窓が一つ。一歩踏み出しベランダが一つ。椅子が一つに机も一つ。少しの家具と、大量の機械。明かりは無い。外は夜のようにとても暗く、窓から僅かに光が差し込んでいる。なんとも暗い場所だ。そんな部屋である。
そして、1人の女が其処にいた。女は椅子に前のめりに腰掛け、机に乗せられた機械の一つ、大きなパソコンのように見える其れを弄り続けている。モニターの光が、暗い部屋の中でもとりわけ強い光を放ち、女の顔を照らしていた。
すると、女はその前のめりで、画面に顔を近づける姿勢をやめた。背もたれにその身体を預け、深呼吸とともに大きな伸びをする。そのまま、椅子を引いて立ち上がった。
どうやら、先程から続けていた作業は一段落、或いは終わったようだ。女はそのまま軽やかな足取りで、唯一の窓へ向かう。外の空気を吸いたいらしい。
ベランダに躍り出る。女の纏うロングコートが、はらりと揺れる。そしてベランダの下から、決して月明かりではない、微かな光が彼女を照らした。
まず目を引くのはその髪である。腰まで届かんとする純白の長髪は、僅かに風にたなびいていた。細い髪のいくつかに光が反射して、キラキラと美しい。そして、その端正な整った顔に、僅かな笑みを浮かべていた。
微笑を浮かべたまま、彼女はベランダの淵に立つ。そして、その下の景色を見下ろした。
眼下、群れをなして立つは高層ビル群。複雑に建造が進んだ都市である。ある種『近未来的』とも形容できそうなそれは、夜闇の中で、まるで星屑のように輝いていた。先程から照らす光は、まさにそれである。遠く離れると淡い光だが、一度目に入れて仕舞えば、チカチカと目障りなことこの上ない。
ここで、初めて女が口を開く。静寂の中、その言葉を聞くものは、誰1人としていないように見えるにも関わらず。その笑みを携えた顔を一瞬歪ませて、大きく舌打ちをする。
「…やれやれ。増やしすぎた。」
そう言って、女はさらりと髪を撫でる。顔にはまた笑みが浮かんでいた。そして、#宙にたった一室、投げ出されたかのようなマンション、そのベランダで、女は続ける。
「いやはや、どうしたものか。…私の理想は既に完全に破綻した。あのような欠陥品が増えたところで、全く無益、無意味。…ああ、面倒、本当に面倒だ。」
女の顔には笑みが浮かんだままだ。が、見下ろす目はあまりに冷たい。そして、溜息をついた女の口調は、先程とはうって変わる。独り言を言うような、ささやくような口調から。#誰かに語りかけるような、確かな口調に。
「さて、よく応じてくれた( )。君の協力に、改めて礼を言いたい、ありがとう。」
恭しく、空に向かって一礼。大袈裟さがありながらも、どこか気品を感じる。
「そして、ようこそ我が世界、『深層世界』へ。まずは最初の役者であり、部外者となる君に、この世界、ひいてはその惨状と呼べる現状について説明しよう。
先に言った通り、この世界は私が作ったものだ。つまり私はこの世界の創始者である。
…ん、ああ、それは違う。私は神ではない。彼らに言うつもりはないが、元は君達と同じ人間だった。この世界を作るにあたっては、人の身に余るような『膨大な計算』を行なってきた。『世界演算』、そして『原理設定方程式』。これら2つを駆使して、この『新しい世界』を作り出した。
……おい、まさか、今のを聞いて、試そうなんて変な気を起こしてないだろうな?……うーん、無理だと思うよ。今言った通り、それは『膨大な計算』だ。多分私くらい特化してないと、まず脳が耐えきれないだろうさ。
話が逸れてしまった。さて、次にこの世界、深層世界についてだ。この世界は50×50×20kmの直方体の形を取っている。高さの数値だけが少し小さいね。昼夜を一つの大照明で調整しているから、時間の感覚も君の住んでいた場所と同じはずだよ。ま、構造は割とどうでもいいか。追い追い語るとしよう。
さて、この世界の問題だ。現状に直結するものではないとはいえ、大元の原因は私にある。それは、世界の設定を理想化しすぎたことだ。
この世界の全てを私は設定した。私の望む全ての為に。それ故に、この世界は、人間に優しすぎる。
この世界の人間は、進化の過程をすっ飛ばしているんだ。つまり、最初から『超高度の技術』を持っている。さらに、人間以外の生物は存在しない。それは植物ですらも、だ。人間は、彼らの食料をその高い技術で、分子レベルから作り出している。
理想的設定はこれだけにとどまらない。この世界には、ありとやらゆる『不幸』が起こらない。それは例えば、地震や洪水、噴火と言った自然災害にとどまらず、人間同士の争い、『戦争』すら起こることがない。すなわち、人間が一度に大量に減ることはまずないのだ。
さて、そうやって人間に甘くしすぎた挙句、この世界はある危機を迎えた。それは人口が多すぎるというものだ。高い技術は医療の面でも同じ。人が死ぬよりもはるかに短いスパンで人が生まれる。結果、この狭い世界では人口が飽和してしまった。
これは結構由々しき事態でね。一言で言うと『世界演算の熱暴走』を招く。熱暴走が引き起こすのは『バグ』だ。まぁ、君らが言うところの『超常現象』がそれに当たる。『神隠し』『人体発火現象』『終末を告げる慟哭』なんかがそれに当たる。被害も大概だよ。
……まぁ、由々しき事態とはいえど、実はこれらは改善の余地が一応あるんだ。もしこの世界の抱える問題がこれだけ_であれば、私も対応できた。…いいや、断言しよう。したとも。
だが、敢えて言おう。私は彼らを見限った。そうするまでに至った奴らの………いや、このあさましい惨状についても、今は多くは語るまい。
まぁ、こういうわけで、私は君に話した『プロジェクト』を考えたのだ。あの『最悪の非道』を実行することを決めたのだよ。
そして、君。君にはこのプロジェクトにおいて『観測者』の役割を託したい。
なに、大きい仕事だ。私も忙しいし、それに、君以上にこの役を任せられるものなどいない、と私は考える。どうか、私の『観測』を助けてくれ。
そして、約束通り、『能力』のことも、忘れちゃいないさ。
…概要は把握できただろうか。…うん、いい顔だ。私も安心して任せられるよ。
ふう、ありがとう。それじゃあ一つ、頑張ってみようか。
話は大体こんなところだ。あとおよそ24時間後。彼らが来る。私の呼び出した、『切り札』達が。
そして、その時ついに始まるのだ。
私の考案した、『常識を逸脱する非道』が。
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