チートスキル『死者蘇生』が覚醒して、いにしえの魔王軍を復活させてしまいました〜誰も死なせない最強ヒーラー〜

ノベルバユーザー364546

ヴァンパイアの食料

「何この死霊の数! これを本当に一体が使役してるって言うの!?」

「誰も一体だとは言ってないだろうが。これほどの強さの死霊を、これほどの数だけ使役しているということは――恐らく、十体ほどリッチがいるようだな」

「十体だと? ジョゼ、本気で言っているのか? 十体もリッチがいれば、それこそ殺し合いになるだろ」

 ダンジョンの中に入った四人を待ち構えていたのは、数え切れないほどの死霊だった。
 ここまで統率が取れているということは、何者かに使役されていると考えて間違いない。

 ジョゼの考えだと、十体分のリッチに相当する量だ。

「チッ! 何が起こってるのか分からん! お前ら、絶対に離れて行動するなよ!」

 アレンがそう指示を出す。
 しかし、残りの三人からの返事は聞こえてこなかった。
 聞こえてくるのは、反響した自分の声だけである。


「こんにちはー……すみません、何人かに分けるよう命令されたので、この領域に連れてきちゃいました」

「――だ、誰だ!?」

 アレンはバッと振り返る。
 そこには、自分と歳も変わらなそうな女性が立っていた。

 その美しい顔は、人間界の貴族を優に超えているほどであり、この恐ろしいダンジョンにいること自体が不自然だ。
 もし敵だとしたら、背後を取ったというアドバンテージを放棄するほど余裕があるらしい。

「私はロゼと申します」

「貴様がこのダンジョンの主か……ジョゼの野郎、大ハズレだぜ」

「ダンジョンの主……? 何をおっしゃっているのか分かりませんが、貴方のお相手は私です」

「――そんなことは分かっている!」

 アレンは、目にも留まらぬスピードで剣を抜き、ロゼに向かって斬りつける。
 その太刀筋は、Sランク冒険者という名前に負けない見事なものだった。

 人間が相手であれば、反応すらできずに斬られてしまうだろう。
 それは魔物でも同じであり、たとえ反応できたとしても、その後の追撃を躱すことは不可能だ。

 しかし、今回の相手はロゼである。

「――なっ!?」

 何故か、アレンの手から剣が消えていた。
 膨大な戦闘経験があるアレンでも、このような現象は一度も起きたことがない。
 剣がすっぽ抜けるほど素人でもなく、剣を投げて攻撃するほど腕があるわけでもない。

「良い剣ですね……人間には勿体ない――いいえ、やっぱり何でもありません」

 行方不明の剣は、いつの間にかロゼが手にしていた。

 アレンは混乱する。
 奪うチャンスがあったとすれば、攻撃がヒットしそうになったあの一瞬だ。
 どう考えても人間の技ではない。

「貴様……どうやって俺の剣を」

「あまりに遅かったので、ちょっと拝借してみました――あ、これはお返ししておきます」

 そう言って、ロゼはポイッと剣をアレンに返す。
 これ以上興味を持てるような品ではなかったらしい。

 背後を取ったにも関わらず声をかけ、せっかく奪った武器も簡単に返却してしまう。
 この余裕が、アレンは許せなかった。

「おい。この死霊を使役している奴は誰だ? 貴様じゃないのは分かっている。そいつの場所を教えろ」

「場所ですか……? 詳しい場所は分かりませんけど、リヒトさんと一緒にいるんじゃないかなぁ」

「――リヒト?」

 ポロリとロゼが零した言葉。
 それは、アレンが聞き慣れている者の名前だ。

 どうしてロゼがリヒトのことを知っているのか――それよりも気になったのは、まるでリヒトが生きているような言い方である。

「何故貴様の口からリヒトの名前が出てくるんだ? 知り合いか――? いや、それは有り得ない」

「……? それはこちらのセリフです。どうして貴方がリヒトさんのことを知っているのです――あ、なるほど……」

 ロゼは何かを理解したようだが、アレンは何が何だか分からない。
 死んだはずのリヒトがまさか生きているのか。一瞬だけそのような考えが頭の中を過ぎったが、冷静に考えると馬鹿馬鹿しいだけだ。

 処刑という確実な死によって、リヒトは過去の人物となっている。

「まあどうでもいい。リヒトの名前を出したら、俺が躊躇するとでも思ったか?」

「はぁ……これはリヒトさんの気持ちも分かります。あと、もう貴方負けてますよ」

「――なっ!?」

 アレンの手には、二匹のコウモリが噛み付いていた。
 特に痛みは無いが、このままではマズイということだけは直感的に理解できる。

 しかし、そう思った時にはもう遅い。
 血が吸われているためか、自分の意思では動かせなくなった。

「……この体格だと、そこまで血が取れないだろうなぁ。あれ? リヒトさんが蘇生させてくれたら、もしかして永久機関になる? 今度試してみてもらおっと」

「な……貴様……!」

 ここで。
 アレンの意識は完全に途切れる。

 次にアレンが目を覚ますのは、全身に群がるコウモリの中であった。

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