乙女ゲームの村人に転生した俺だけど悪役令嬢を救いたい

白濁壺&タンペンおでん

アンジュの想いとビィティの思い

 高度が下がりビィティ達はそのまま自由落下していく。

「キャッ!」
「どうしたクリン」

『ご主人ちゃま限界でちゅ』


 ショートカットするために山越えを選んだのは失敗だった。鋭利な氷の岩肌がいくつも見える。落ちる瞬間ビィティはアンジュを庇い抱き締める。

「ベルリ、クリン、俺は良いアンジュを守れ!」

 ビィティは背中から落ち竹の篭は大破し背中を固い氷壁で擦る。
 アンジュはベルリとクリンが最後の力を使いしっかり守ったので彼女には傷一つ付かなかった。

「大丈夫かアンジュ」
「うん、大丈夫だけど何があったの?」

「クリンどうしたんだ?」
『力がでないでちゅ』
『オレもだあるじぃ』

 二体の精霊は飛ぶ力も出せないようでビィティの身体の上に落ちると、浮かぶこともできなくなったようだ。
 まるで契約前の時のように。

「どういうことだ?」
『あるじぃの心が閉じてるせいで……、力がオレたちに届いてないんだよ』
『でちゅ』

「……」
 心が閉じている。その言葉にビィティはドキッとする。理由はわかっている。
 それは単純な理由だからだ。

「どうしたの?」

 アンジュはビィティを心配そうに覗きこむ。この優しさが、なぜあのときにはなかったのかとビィティの心を嫌な気持ちが押し潰す。

「精霊の力が使えないみたいだ」

 覗き見るアンジュの顔を見ないように横を見ながらビィティは答える。
 心を閉じている。たぶんアンジュが側にいるせいだ。俺はアンジュに、杏子に殺された。表面上仲良く振る舞っていても、心の底で彼女を拒絶しているのだ。

「取り合えず風をしのげる場所を探そう、このままじゃ凍え死ぬ」

 周囲を見渡すと人が一人入れるへこみがあった。ビィティはアンジュの手を引き、そのへこみに自分の皮のマントを敷きアンジュを押し込め自分は入り口で風が入るのを防いだ。

「ごめん、今回のは俺の責任だ」

「良いんだよ気にしないで、誰にでもミスあるし。また飛べるようになるんでしょ?」
 ビィティはその言葉に首を横に振る。

「わからない俺と精霊のリンクが切れてるみたいなんだ」

「……どういうこと?」
 アンジュは精霊使いではないのでビィティの言うことを理解できなかったので聞き返す。その事がビィティには責められているような気になり下をうつむかせる。

「俺が心を閉ざしたらしい」

「どうして?」

「……すまない」

「なんで閉じちゃったのかわからないの?」

「……すまない」

「すまないじゃ分かんないよ」

「大丈夫、君は死なないから。クリン、ベルリ。お前達は俺が死んだらアンジュと契約しろ」
『は? なに言ってんの。あるじぃ以外と契約なんかするわけ無いだろ』
『でちゅ』

「ダメだこれは命令だ。お前達を死なせたくない」

「私も嫌よ。そんな子達は私の趣味じゃないし、もらわないからね」

「見えるのか?」

「見えてるわよ? なによ今さら」
 アンジュが精霊を見えていたことに驚きだがヒロインならそんなこともあるだろうとビィティは納得する。

「だったら都合が良い、アンジュには精霊使いの才能がある。ベルリとクリンを使えば一人で王都へ戻れるはずだ。だから――」
「いやよ! そんな変な精霊もらうつもりはないです!」

「……」

「そんなことよりも場所を交換しましょ。順番で変わらないとあなたが凍えるわ」

「良いんだ、俺が死なないとアンジュを助けられない」

 ”パシッ”

 アンジュが本気で怒りビィティの頬に平手打ちをする。今まで見たことないような形相にビィティは驚く。

「馬鹿! あなたが死んで私だけ生き残っても嬉しくないわよ。なんでそんな簡単なことも分からないの!?」

「……」

 アンジュは黙るビィティの顔を自分の方へ向けさせる。

「心を閉ざしたのは私が原因でしょ? ビィティは私のこと嫌いだよね」

「……」

「女はね、相手が自分に好意持ってるか嫌っているか顔色を見ただけで分かるんだよ」

「……」

「私はねビィティが好きだよ。ビィティに会うまで、この世界の人は全部ロボットみたいだと思っていて、人間は自分一人で、どうしようもなく孤独で、世界は灰色だったの」

「……」

「でも同じ世界から来たあなたに会って、あなたの言葉を聞いて、世界に色がついたんだよ?」

「……」

「ねぇ! 聞いてよ! 死んじゃダメだよ!」
 正面からは分からないがビィティの背中は尖った氷壁でダメージを負っており血が大量に流れ出ていた。
 そのせいで身体は体温を急激に失っており、ビィティの意識はかなり朦朧としている。
 それでも場所を変わらないビィティの胸板を涙を流しながらアンジュは叩く。

「私を嫌ってても良い、だけど私を拒絶しないで……」
 そう言うとアンジュはビィティの冷たくなった唇に自分の唇を合わせた。
 その瞬間ビィティ達の周りに氷の壁ができエスキモー版のカマクラ、イグルーが出来上がる。それは幾重にも重なり10層以上の氷の壁となってビィティ達を寒さから守った。

 これはビィティの力ではなく、ヒロインであるアンジュの力が心を通じあったことによりビィティに流れ込んだ結果なのである。

「俺、単純だな……」
 そう言うとビィティは意識を失い倒れた。

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