乙女ゲームの村人に転生した俺だけど悪役令嬢を救いたい

白濁壺&タンペンおでん

天才博士カルロス

 到着した町はそれなりの規模で、食材が豊富に手に入るだろうとビィティは思ったのだが、肉屋を探し買い物をしようとすると、そこまで大量の肉は売れないと断られた。
 この町の肉屋はこの町の住人の為にあるもので、よそ者のためにあるわけではないからだ。

「カルロスじいさんの牧場に直接いけば売ってもらえるかもしれないぞ」
 店主の言葉にビィティは破顔して喜ぶ。やはり任せられたらちゃんと仕事はやりとげたい日本人魂が出ているのである。

「本当ですか?」

「ああ、ちょっと変わり者だが、あの山の麓にあるけど歩いていくには大変だぞ?」
 店主が指を指す方を見ると、かなり降雪で歩くのも無理そうだがビィティは飛べるので問題ない。

「食料が必要なので頑張ります」

 ビィティは買えないことも考えて町で売ってもらえるだけの物資を買い牧場へと飛んで向かった。
 牧場までの道は上から見ると道が全く整備されていなく、歩いて行くには相当大変なのは見て伺えた。
 
 そのまま直進すると山のふもとに小さな小屋と厩舎きゅうしゃが見えた。
 厩舎には牛や豚、鶏等がゲージ分けされ育てられている。
 ビィティが地上に降りると牧羊犬がけたたましく吠え威嚇する。
 犬には精霊が見えているようでベルリやクリンにも吠えて二体を驚かせていた。
 魚と鳥じゃ犬は怖いのだろう。

「お前どこから湧いた!」
 顔が黒く日焼けしてしわくちゃになった老人が手斧を持って家から現れるとビィティを威圧する。
 許可無く敷地に入ってるのだから当然だが、よくここまでこれたなと言う驚きも含まれているのだ。
 老人が言うにはここまでの道のりには大量の罠が仕掛けてあるので許可がないものが入れば怪我をするのだと言う。
 肉屋の親父さぁ~と心の中で悪態をつき、気を取り直して挨拶をする。

「私はビィティと言います。精霊で空を飛んできました」

「なんじゃ精霊使いか?」
 ビィティの言葉を疑うことなくそう言うと、ゴツイ眼鏡を装着してビィティの周辺をにらむように見る。

「なんじゃフェイクか……レベル? なんじゃそれ」
 首をかしげているが、一目で精霊の種類を当てられると言うことはあのマリアよりも見るだけならば上だ。

「見えるのですか?」

「当たり前じゃわしゃ天才じゃからのう」
 その男の名はカルロスと言い自称博士と名のっている、この牧場の主人だ。

 ちなみに先程の眼鏡は精霊看破器と言う道具で一般人にも精霊が見えるようになる上に、事細かな詳細まで見れるのだと言う。
 ビィティも貸してもらいベルリ達を見ると自分でも知らないような詳細があらわれた。

「どうしたのじゃ、見えたろ?」

「すごいです。ここまで見えるんですか。すばらしい」

「フハハ、そうじゃろう、そうじゃろう。お主なかなか見所があるな」
 カルロスは自分の着けている道具に興味を持つビィティに好感を持ち家の中に率いれる。

「お邪魔します」
 家の中に足を踏み入れるとところ狭しとガラクタが並んでいたが、どれもこれも、この世界ではあり得ない機械ばかりだった。

「なんですかこれ?」

「文献を研究して作ったアーティファクトモドキじゃ」
 カルロス博士は一冊の本をテーブルのうえに置くとビィティに見てみろと促す。
 そこには機械仕掛けの鳥や飛行船、ゴーレムなどの製造方法が書かれていた。
 とはいえかなり古いもので所々かすれて判別できなくなっていた。

「すごいですね」

「わかるのか?」

「ええ、機械仕掛けの鳥やゴーレムまで、これはなんなのですか」
 その言葉にカルロスは満足そうに頷く。

「それはワシが若い頃、偶然山の中腹にある洞窟で見つけたものだ」

「古代の書物ですか」

「ただ、どうやらそれは写本のようでな微妙に間違っておるんだ。文字の消えてしまったところまであるしのう。現物があればそこから設計思想など分かるんじゃが」
 ビィティが一枚一枚丁寧にめくり本を見ていると。見たことのあるものが現れた。

「アーティファクト精霊……」

「ほう、それがなんなのか分かるのか」
 ビィティはバッグから壊れたアーティファクト精霊:氷を取り出した。

「なっ! 小僧これをどこで」

「死ぬ思いをして倒した魔物が持ってました」
 カルロスはアーティファクト精霊を持つビィティの手を取り懇願する。

「これをワシにくれんか? 頼む、実物があれば研究が捗るんじゃ」
 その願いは鬼気迫るものがありビィティはこの人ならこのアーティファクトをまかせられる気がした。

「あげられませんが研究のためにお貸しすると言うのはどうでしょうか? もちろん直してもらうこと前提で」

「おお、本当か? 直す、直して見せる!」
 アーティファクト精霊を受けとると踊るように観察をしだす。すでにカルロスの頭の中では分解されているのだ。

「それと私を先生の助手にしてくれないでしょうか? 住み込みは無理なのですが。たまに来たときに博士の知識を教えて欲しいのです」

「うむ、構わない。むしろワシの知識を誰かに受け継がせたいと思っておった」
 この知識はゲームは無い知識だから是が非にでも欲しいとビィティは思う。少しでもクラリスを助ける材料が欲しいのだ。

「ありがとうございます。それとこれは少ないですが修理代と研究代にお使いください」
 ビィティはバルムント金貨を20枚手渡した。

「こ、こんなに良いのか?」

「博士の研究は素晴らしいものですから」

「おお、お前本当にわかっておるな」
 自分の研究を認めてお金を出してくれるビィティにカルロスは肩をバシバシと叩き喜ぶ。
 しかしビィティは忠告する。
 このアーティファクト精霊は国も研究しているので。もしカルロスが現物を持っていることが分かれば殺される可能性もあると言うことを。

 カルロスはそんな馬鹿なことがとビィティの心配を杞憂だと笑う。

 だがビィティは言う。国はこのアーティファクト精霊を独占したいので、個人でアーティファクト精霊を持つのを許可しないでしょうと。
 現に国は三つのアーティファクト精霊を持っていることを告げるとようやく理解してくれたようで納得する。

「それに、博士のように古代の叡知を欲している可能性もありまし。そうなると博士は邪魔物です」

「うむ、そうだな。今後は研究は極秘でやることにしよう」

「では、私は行かなければならないところがありますのでこれで帰ります」

「うむ、知識がほしくなったらいつでも来るが良い。それとこれを持っていけ」
 そういうと先程の精霊看破器をビィティに投げて寄越す。

「良いんですか?」

「ああ構わんまた作れば良いし、お主の方が必要じゃろ?」

「はい、ありがとうございます。では先生あまり無理をして身体を壊されませんように」

「ふはは、まだこの老いぼれ死にはせんよせっかく本物を手にいれたと言うのにな」
 カルロスはガハガハと笑うと咳き込みビィティを見ると何事もなかったかのように、たたずまいを直す。
 ビィティはもう一度礼を言い扉を開けて豚の鳴き声を聞いて思い出した。

「あ、博士すみません」

「なんじゃ?」

「肉を売ってもらえませんか?」

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