アンジュの従者になるには試験が必要、ただし平民は目の敵にされるもよう

「本当ですか姫様、どうしたんです突然。かたくなに平民になると言っていた姫様が」

「この子に説得された」

「おお、平民、そなたは公爵家の恩人だ」
　そう言うと女騎士は浅い礼をする。騎士が平民に礼をすると言うのはあり得ない。
　それだけアンジュの心変わりが、騎士に頭を下げさせるほどの恩義を感じさせるものなのだ。

「それでさ。この子、村で虐げられて行く場所ないんだって。私の従者にしたいんだけど」
　だが、次のアンジュの言葉で女騎士の眉間にシワが寄る。さんざんワガママを言われているのだろう、その苦労が忍ばれる。

「従者ですか？　従者の試験は来年ですが武力や知力が要求されますので平民には無理だと思いますが」

「特別推薦枠で試験免除で良いわよ」

「姫様の命を守る為の試験ですから、さすがにコネで審査は通りません」

「私がこの子が良いと言ってるの、と言うかこの子のお陰で王妃を目指す気になったんだから譲歩しなさいよ」

「ううぅ、公爵様にうかがいませんと、なんとも」

「じゃあ良いわ直接パパに頼むから」

「その方がよろしいかと存じます」
　押し問答が終わるとアンジュはプンスカと言って、また焚き火の前に座って女騎士を睨みつける。
　身体が小刻みに震えて寒さの限界が来ているのが誰の目から見てもわかる。
「サファイヤも早くカマクラ作って暖まりなさいよ」

「かしこまりました」
　女騎士は一礼をし兵達に同じものを作るように命じた。当然、アンジュを守るためにカマクラの入り口からは動く気はない。
　ビィティはバッグから獣の皮を取り出すと女騎士に「入り口に張り付けますので中に入ってください」と言う。
　獣の皮を張ると室温が一気に上がり女騎士の震えが止まる。
　ビィティの思いやりである。

「従者試験というのはどう言うものなんですか？」
　ビィティが女騎士に試験の内容を聞くと、室内に入れてくれたお礼のつもりなのか事細かに説明をする。

　公爵家の従者になれば将来は最低でも騎士、最高なら近衛騎士なれるため倍率が非常に高い。
　爵位の無くなる次男や三男坊がこぞって受けに来るため生半可な実力では受からないのだと言う。
　当然平民では学ぶことができない学問等もあるから、サファイヤは平民では無理だと言ったのだ。

　そして重要なのは家柄、知力、武力だが、最終的には武力がものを言う。
　強くなければアンジュを守れないからだ。

　試験は来年の六月で試験合格後は礼儀作法や姫を守るための護衛術を学び、その後十二月に最終選抜試験が行われるのだという。

「六月で決まりじゃないんですか？」

「一人だけ合格して勉強させたが使い物になら無かったじゃ間に合わないからね。六人選んで最終的に従者は二人選ばれるんだよ」

「なるほど、なかなか大変そうですね」

「そうだ勘違いした平民がたまに試験を受けに来るが、大抵殺されるのだ」

「え、殺されるんですか？」

「それはそうだろう、自分達の将来がかかっているのに遊び半分の平民が来たら殺すのは仕方ないことだ」
　遊び半分なんて誰が分かるんだろうと言う突っ込みをビィティは飲み込む。
　貴族からすれば従者試験事態が貴族のためのものだからだ。
　平民はお呼びじゃないのだ。

「サファイヤ、失礼でしょ」

「私は貴族出自の騎士ですよ姫様、平民に失礼などと言うことはありません」

　サファイヤのその態度に本当に平民には人権がないのだとアンジュは理解する。
　そして平民にならなくて良かったとホッと胸を撫でおろしたのだ。