乙女ゲームの村人に転生した俺だけど悪役令嬢を救いたい

白濁壺&タンペンおでん

村人Aですが俺は精霊使いなんだろうか?

「馬二頭で7人を運ぶんですよ?できるだけ軽くしないと馬が疲れて、つぶれてしまうでしょ」

「姫様、ここは彼の言うとおりにしましょう。今は生き延びるのが最優先事項です」
 赤髪の少女騎士がとりなすが姫の怒りは収まらない。

「王子様からいただいたものを捨てたのですよ、あの者は!」

「ベルトリア王子なら分かってくれます」
 赤髪の女騎士は天然かなと言うくらい言ってはならない一言を言ってしまう。もちろんビィティは殺されたくないので聞こえてない振りをする。

「私が許せないの!」
「ならば私が切り捨てましょう」
 そう言うとイケメン少年は剣を抜いてビィティに切りかかる。
 ただの村人Aでは避けられないほどの剣技だ。これほどの腕があるならさっき戦えよとビィティは思うが今のビィティにはこの程度の剣は効かない。
 正確には精霊が守ってくれるので効かないだ。

 二匹の精霊はビィティを守るために剣を風の刃で切り裂きイケメン少年を水弾で吹き飛ばした。
 イケメンは吹き飛ばされ転がって道路脇の草むらで止まった。
「ヴィックス!」
 姫が吹き飛ばされた少年の名前を叫ぶ。

「ありがとう」
『感謝しろよな』
『へへへなのでちゅ』

「我が従者を吹き飛ばして、なにがありがとうなのですか!」
 ビィティに侮辱されたと思った姫は彼に平手打ちを食らわせる。

「やめろ」
 その言葉で姫が殴るのをやめるわけはなく、力強く振られた平手はビィティの頬に当たり軽い脳震盪を起こす。

 朦朧とする意識の中ビィティは精霊たちの前に手を置いて姫への攻撃を止める。
 ビィティが先程『やめろ』と言ったのは精霊に言った言葉なのは精霊が見えない皆は知らなかった。
 精霊を止めるのは、さすがに先程の少年のように姫を吹き飛ばしてしまっては死罪は免れないからだ。

「殴りたいなら殴って構わないが先に殴ると言ってくれ。急に俺を殴れば、あんた死ぬぞ」
 意識が朦朧としているビィティは言葉足らずの説明をして更に姫の怒りに燃料を投下する。

「なんですって!」
 もう一度平手打ちをしようとする姫の手首をなんとか掴みビィティは叩くのをやめさせた。

「無礼者!」
 ビィティ自身は何度殴られても平気なのだが、精霊達が姫の首筋に風の刃と水の刃を作り出し、殺しにかかっていた。

「やめろ!」
『だってでちゅ!』
『あるじぃ、我慢の限界だぞ!』

 精霊は主人を害されるのを極端に嫌う。普段温厚な二体だが主人が罵倒され殴られては黙ってはいられないのである。

「あなたはまたッ!」
 姫は左腕を振り上げビィティを叩こうとする。二発目を左手で打つとは思わなかったビィティは反応が遅れ避けることができない。
 だがそれを止めたのは以外にも赤髪の少女騎士だった。
 赤髪の少女騎士は自分の身を呈して姫の平手打ちを止めた。

「メルリィ! 従者が邪魔をするなど」

「姫様、彼は精霊使いなのではないでしょうか? そうだろう少年」

「ああ、そうだ。申し訳ない、隠すつもりはなかったんだが精霊を使役している」
 ビィティはそう言うとその場に倒れこんだ。立っているのも辛かったのである。

「だからって!」

「精霊は主人を害されるのを嫌います。害した相手を殺すほどに。たぶん彼は精霊から姫様を守っているのですよ」

「じゃあ、先程からの無礼な言葉は私に言ったものじゃなかったの?」

「そうだ。いや、そうです姫様にではありません。私の精霊に言ったものです」
 いつのまにか口調が粗暴になっていたのを直し、姫の勘違いだと言うことを伝える。
 それを聞いた姫はばつが悪くなったのかそそくさと馬車の中へ逃げるように戻った。

「ですが精霊使いならしゃべらなくても意思の疎通ができるのでは?」

「そうなんですか? 師がいなかったものですから」

「なるほど、それなら王都で師を探すことをお勧めします。精霊使いは軍では重宝されますから」

「ありがとう、考えておきます」
 ビィティがお礼を言うと少女騎士はクスクスと笑う。

「どうしたんですか?」

「姫様の平手打ち強かったでしょ?」

「ええ、脳震盪起こしかけてますよ」

「何人もの男の人を吹き飛ばしてますからねあの平手打ちは、あれに耐えるなんてあなた中々のものです」

「そうですか? ありがとう。あれ、お礼は変かな」
 それがおかしくて二人は顔を見合わせて笑う。

「私の名前はメルリィ、あなたの名前は?」

「ビィ……ただの村人ですアルバとでもお呼びください」

「……分かったわ、ビィ、アルバ君」
 そう言うといたずらっ子のように舌を出す。ビィティの意図を察したようで偽名なのを許したのだ。
 助かったとしても数々の無礼を働いたのだ罪人になりかねないと言うのが彼女にも分かったからだろう。

 メルリィはヴィックスを担ぎ上げると馬車へと放り込む。以外と仲間の扱いはひどい。
 デオゼラのおっさんは我関せずで一人馬車の準備をしている。
 あれが、あの姫様の下でうまくやる処世術なんだろう。


 剣を乗せ終わりるとビィティはメルリィを呼ぶ。

「どうしたんですか?」

「王子様の荷物どれかな? 持っていけるようなら持っていくから」

「この荷物ですね」
 メルリィは一つのバッグを指し中を開けるがどう見ても重量物だ。
「馬の負担になりますよね」
「今から見たことは内緒にしてくださいね」
 ビィティは王子からの贈り物が入った鞄を自分のバッグの中に収納した。

「え?」
「荷物は危機が去ったら渡しますので」
 メルリィは聞いたらまずいものだと感じただ「わかった」と言って馬車に再び戻った。

 馬車の準備が終わり、兵士たちは胸のプレートを残し鎧を脱ぐ。少しでも軽くするためだ。
 ビィティは姫の護衛を任されたので馬車の中で姫の正面に座らされている。
 すごく居心地が悪いとビィティは窓の外を見る。

「姫様、出発いたします」
 デオゼラの声がして馬車は動き出す。死体を残し馬車は街道を進み出した。
 皆が騎士の死体に十字を切り、安らかな眠りを祈る。

 一見キリスト教に見えなくもないが手に持つペンダントはキリスト教とは似ても似つかないものだった。

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