クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

4話 久方ぶりの冒険者ギルド

 風舞



 風呂から出てアンが入れてくれた牛乳を一気に飲み干した後、俺は自分の部屋に戻ってベッドの上でステータスカードをいじっていた。
 風呂場でフレンダさんが教えてくれた空間魔法LV6の空間断裂を覚えるのに必要なステータスポイントをある程度把握しておきたかったのである。


「さてと、空間魔法空間魔法」


 俺はそんな事を口ずさみながらとりあえずは空間魔法をLV2まで覚えるためにステータスポイントを割り振る。


「ふーん。必要ポイントは13か。それなりに必要なんですね」
『まぁ、いくらフーマに適性があるとは言っても習得難易度はそれなりに高いですからね』
「そこまで褒められると照れちゃいますね」
『では言い直しましょう。フーマにあまり使い道のよく分からない僅かばかりの才能があったとしても、人間ごときには空間魔法は過ぎた代物なのです』
「流石にそこまで言われると悲しいんですけど」
『フーマが可愛く無い事を言うからです』
「………。さてと、効果はどんなもんかねぇ」


 俺は毒舌フレンダさんにこれ以上虐められない様に話題を変えつつ、覚えたばかりの空間魔法LV2の説明文に目を通してみた。


 空間魔法LV2 一度繋いだ空間を視界から出しても維持できる。


「なんとなく微妙な気もしますけど、LV2ならこんなもんですかね」
『これでも使い方によっては便利だと思いますよ。それより、まだステータスポイントを使うのですか?』
「いや。もうすぐローズ達の用意した魔物と戦う必要がありますし、残りはその時のためにとっておきます」
『お姉様の用意した魔物ですか?』
「あぁ、そう言えば話をしてた時フレンダさんはいませんでしたね。討伐祭の間に俺はデモンストレーションで大勢の人の前で魔物と戦うんですよ」
『なるほど。魔物にコテンパンにされるフーマを見て楽しむのですね。人族の余興にしてはなかなか面白そうではありませんか』
「いやいや。冒険者のお祭りなんですから、俺がカッコよく勝って終わるに決まってるじゃないですか」
『しかし、魔物を用意するのはお姉様なのでしょう? そう簡単に勝てる相手を用意なさるとは思えないのですが』
「そうなんすよねぇ」


 今回のエキシビションマッチの俺の相手を用意しに行ったのは俺のスパルタ師匠であるローズと、俺がめちゃんこ強いと信じて疑わないシルビア、それと俺が苦しむ様を見て楽しむエルセーヌさんの3人である。
 流石に俺が手も足も出ない様な魔物を用意するとは思わないが、それでも結構強い魔物を用意するのは間違いないだろう。


『ちなみに、その祭りというのはいつから始まるのですか?』
「ええっと。確かソレイドに戻って来た日に6日後って聞いたから…………明日っすね」
『はぁ。これだからフーマは愚昧だと言われるのです』
「今回ばかりは俺もそう思います」


 そんな話をしていると、俺の後に風呂に入ったらしきローズが部屋に訪ねて来た。
 先程髪を切ってやると話したから、その件で俺の部屋を訪れたのだろう。
 そんな事を考えている間にローズが自分の髪を触りながら部屋に入って来てそのまま手近な椅子に腰掛けた。


「今からでも構わんかの?」
「ああ。髪の長さはどうする?」
「長さはお主の好きにしてくれ。妾は軽くしてもらえればそれで良い」
「分かった。それじゃあ適当にやるか。ええっとまずはシーツをかけてと」


 俺はそんな事を言いながら用意しておいたシーツをローズの肩にかけて、軽く後ろで結んでやる。
 切った髪の毛が床に落ちてしまうが、後でほうきでも使って掃除すれば良いだろう。


「そういえば、髪は濡れたままで来てくれたんだな」
「うむ。一緒に風呂に入ったマイがその方が良いと言っておったからの」
『髪を濡らした方が切りやすいのですか?』
「そうですね。髪は濡れていた方が柔らかくなるので切りやすいですし、その分ハサミも刃こぼれしにくいです。それに、濡らす事で癖とかも抑えられるんで、均等な長さにしやすいんですよね」
「ふむ。適当な侍女を捕まえてやらせておった時は濡れた髪を切ってもらった事がなかったから気になっておったのじゃが、そういう事じゃったのか」


 中世ヨーロッパでの散髪はかかりつけの理容外科医が行なっていたと聞いた事があるが、ローズは並ぶ物がかなり少ない程の強者だし、そこらの侍女に暗殺される心配はなかったから誰でも良かったのか。
 この世界の理容師のレベルがどの程度かは知らないが、少なくともソレイドでそれを専門にしている人は見た事が無いし、髪を切る技術は情報として伝わっていても、俺の元いた世界に比べると実際の技術レベルはそこまで高く無いのだろう。


「でも、ローズもフレンダさんも癖があんまり無いからっていうのもあるけど、かなり綺麗な髪をしてるよな」
「ほう。それは本当かの?」
「ああ。2人とも髪質がかなり良いし、スタイリングも結構良い感じだと思うぞ」
『フーマにしては中々良い事を言うではありませんか。よし、1バニーをあげましょう』


 あれま。
 ついに自分からコスプレするって言い始めちゃったよ。
 もうフレンダさんの中でバニーは私服とそこまで大差無いんだな。


「ふむ。お主がそう言ってくれるのはお世辞でも中々嬉しいものじゃな」
「いやいや。実際ローズの髪はかなり綺麗だぞ。お陰様で切る側としてはかなりやりやすい」


 俺はそんな事を言いながらアイテムボックスから櫛と鋏を取り出して、ローズの髪の毛をいじり始めた。
 さて、それじゃあそろそろ切るとしますかね。
 ローズは軽く微笑みながら目を閉じているし、このまま切り始めて問題ないだろう。


「そういえば、俺が相手をする魔物はどんなやつになったんだ?」
「なんじゃ。マイに聞いてしまったのか。折角当日までお主に黙っておいて驚かせようと思ったんじゃが」
「明日から祭だってだけでもかなり焦ってんのに、いきなり当日に戦えって言われても対処出来ねぇよ」
「まぁ安心せい。用意した魔物は今のお主ならそこまで苦戦する事はない相手じゃよ。捕まえに行ったのはソレイドのダンジョンじゃからな」
「ちなみに、何階層あたりの魔物なんだ?」
「確か94階層じゃったな。数日前にガンビルドに会った時に変異種の討伐を頼まれておったから、フウマに丁度良い相手じゃと思っての」
「マジかよ。流石にそれは無理な気がするんだけど」
「じゃが、お主の従者であるシルビアが互角に渡り合っておった相手じゃぞ?」
「今のシルビアは俺よりも普通に強いぞ。多分転移魔法がなかったら勝負にならない気がする」
「そうは言うが、お主は転移魔法なしでマイに一度勝っておるではないか」
「あれは舞が油断してたのもあるし、俺に縛りが何もなかったからだ。流石に今回はサラマンダーフラワーの粉とか使っちゃダメなんだろ?」
「もちろんじゃ。お主が今回使って良いのは他の冒険者がよく使っておる普通の魔法とスキル、それとそこにある片手剣と炎の魔剣だけじゃな」
「ほら、絶対無理じゃん」
「案ずるでない。お主がブラックオーガの変異種と戦うのは2日目の昼じゃから、それまでにレベルでも上げれば攻撃が通らん事はないじゃろうよ」
「は? 俺が戦うのは明後日なのか? ていうか、ブラックオーガ?」
「すまぬ。折角黙っておこうと思ったんじゃが、フーマに髪を切ってもらうのが心地よすぎてつい口を滑らしてしまったのじゃ」
「辞退しても良いか?」
「妾はそれでも構わんが、シルビアはがっかりするじゃろうな。それに、元はと言えばお主がここ最近冒険者ギルドに足を運んで無いのが悪いじゃろ」
「あぁ。行こう行こうとは思ってたけど、暑くてあっちまで行けてなかった」


 ここから冒険者ギルドまで行くには数分は歩かないといけないし、人目に付きやすい街中で転移魔法は緊急時でも無ければ使う事は出来ない。
 全てここ最近の猛暑が悪いのだ。
 断じて家から一番近い道具屋までしかモチベーション的に行けない俺のせいではないのだ。


『はぁ。お姉様の髪を切り終わったら冒険者ギルドに向かいましょう。まだエルフの里で用意したお土産も渡していませんし、当日の舞台について聞けば何か戦闘の対策を立てられるかもしれません』
「それもそうっすね。そろそろ日が傾いてくるだろうし、これが終わったら冒険者ギルドに行ってくるわ」
「それが良いじゃろうな。ガンビルドとミレイユもお主に会いたがっておったぞ」


 そういえばかれこれ一ヶ月以上あの2人に会っていないし、ちゃんと帰還の報告はしに行った方が良いか。
 冒険者ギルドに行ったら挨拶が遅れたお詫びも兼ねて何か仕事を手伝うとしよう。
 そんな事を考えながら黙々と鋏を動かしていると、ローズが目を閉じたまま声をかけてきた。


「のうフーマ。お主、祭の間は何か予定があるのかの?」
「ブラックオーガと戦う以外は何も無いな。あぁでも、3日後の夜に俺と舞とローズはボタンさんに呼び出されてるぞ」
「ボタンじゃと? 一体何の様じゃ?」
「俺のクラスメイト達について話があるってよ。でも、そんなに身構える程の話でもないらしい」
「ふむ。それでは、その夜以外で一晩だけ妾と2人で遊びに行かぬか? なんとなくお主と酒を飲みたい気分なんじゃ」
「それじゃあ2日後の夜とかどうだ? ブラックオーガと戦った後の俺を褒めちぎってくれよ」
「うむ。それでは約束じゃ」
「行きたい店とかは決まってるのか?」
「いくつかは決まっておるが、その時になってから考えれば良かろうよ。それと、フレンダともゆっくり話したいから、お主も一緒に来てくれ。今もそこにおるんじゃろ?」
『あぁ。なんと嬉しいお言葉でしょうか! このフレンダ。例えフーマがブラックオーガに殺されてもお姉様の元に馳せ参じてみせます!』
「フレンダさんは野暮用があるから無理だとさ」
『おいフーマ!! いくら温厚な私でもそれは怒りますよ!!』
「あぁ、はいはい。フレンダさんも一緒に行こうね」
「ふふっ。お主らは本当に仲が良い様じゃな」
「まぁ、それほどでもあるな」
『ふん。非常に業腹ではありますが、お姉様に免じてそういうことにしておいてあげましょう』


 こうして、ローズとフレンダさんとで酒を飲みに行く約束が出来た俺は、その後も3人でたわい無い話をしながらローズの髪を切り進めた。
 なんとなく明日から祭だという実感が無かったが、これでようやく楽しみも出来たし折角の討伐祭を目一杯楽しむとしよう。
 俺は終始和やかな笑みを浮かべていたローズを見てそんな事を思った。



 ◇◆◇



 風舞



「おお。もう普通に冒険者ギルドやってんだな」


 ローズの散髪を無事に終えた後、俺は散髪中に立てた予定通りエルフの里で用意したお土産を手に持って冒険者ギルドに足を運んでいた。
 俺がソレイドを発つ前に訪れた冒険者ギルドは悪魔の叡智の一件で閑古鳥状態だったが、今は以前の様な活気を取り戻し、多くの冒険者で賑わっている。

 そんな冒険者ギルドにて、ミレイユさんはいるかなぁと思って入り口からカウンターへと歩いていたその時、近くにいた冒険者が俺に話しかけて来た。


「よう。ルーキーじゃねぇか。久しぶりだな」
「おう。誰か分かんないけど久しぶり。元気にしてたか?」
「まぁな。それより、エルフの里で最強のエルフを半殺しにしたってのは本当か?」


 またどうせ舞かローズあたりが噂を広めたんだな。
 あまり騒ぎが大きくなっても困るし、ここは適当に誤魔化しておこう。


「半殺しになんかしたらエルフ達に嫌われるだろ?」
「なるほど。ルーキーが直接手を下すまでもない相手だったって事か」
「いや、そういう訳じゃ…」
「皆まで言うな皆まで言うな。俺はルーキー…いや、もうルーキーって呼ぶのもおかしいか。ようお前ら! これからルーキーの新しい通り名を決めようと思うんだが、何が良いと思う!?」
「おい。俺は別に二つ名なんて…」
『これは駄目そうですね。誰もフーマの話を聞いていません』


 フレンダさんの言う様に最初に俺に声をかけた男の声がデカかった為か、俺の周囲に人だかりが出来ている。
 中には顔すらも見た事がない人達もいるから、俺の事を知らない冒険者も興味本位で近付いて来たのだろう。
 あのー、俺はミレイユさんに用があって来ただけだから通してくれない?


「俺は竜殺しが良いと思うぞ!」
「馬鹿! それじゃあ白銀の竜殺しのシルビアさんと被るだろ! 期待の新星とかはどうだ!?」
「いやいや。もう俺達の期待を超える活躍をしてるんだからそれは無いだろ」
「ていうか、そいつは本当にそんなの強いのか?」
「あん? そう言うなら相手してもらったらどうだ? ルーキーならお前レベルのやつが何人集まっても余裕で相手するだろうよ」
「おもしれぇ。それじゃあ俺が相手をしてやろう!」
「え!? なになに!? ルーキーが戦うところが観れるの!?」
「ちょっとそこどいてよ! 私もルーキーの顔が見たい!」
「へぇ。マイムさん達が凄い褒めるからどんな人かと思ってたけど、意外と普通だね」
「そう? 私は結構アリだと思うよ」
「おいルーキー! ちょっとばかし人気があるからって調子に乗ってるんじゃねぇぞ」


 やべぇ。
 超帰りてぇ。
 なんか俺の関与しないところで決闘の話が出てるし、大分収集が付かなくなって来た。
 ていうか、シルビアは白銀の竜殺しなんて二つ名があるのか。
 よし、帰ったら白銀の竜殺しって呼んでみよう。

 そんな現実逃避をしながら揉みくちゃにされていると、人混みをかき分けて丸メガネをかけたオカッパのちっこい男性とうさ耳ほんわかお姉さんのミレイユさんがやって来た。


『なんだかキノコみたいな男ですね』
「そうっすね」
「おい君達! 冒険者の私闘は禁止されているぞ! 何があったかは知らないが解散しろ!」
「あ、やっぱりフーマさんだったんですね! お久しぶりです! お元気でしたか?」
「はい。久しぶりですミレイユさん。今日も素敵なうさ耳ですね」
「ふふ。お陰様で今日もフサフサですよ」


 あぁ、久し振りにあったけどミレイユさんは可愛いなぁ。
 なんて事を考えながらほっこりしていると、薄いベージュの色のオカッパ頭をした男が俺に話しかけて来た。
 なんかマッシュルームみたいなやつだな。


「何? 君があのフーマか?」
「そうっすけど、貴方は?」
「僕はマシュー。先日冒険者ギルド本部からソレイドに配属されたギルド職員だ」
「そうでしたか。俺はフーマです。よろしくお願いします」
「あ、ああ」


 ん?
 なんかマッシュルームさんの歯切れが悪いな。
 気づかない内に何か地雷でも踏んじゃったか?


「フーマさん? どうなさいました?」
「いや、何でも無いです。あ、そうだミレイユさん。忘れない内にこれどうぞ。エルフの里のお土産です」
「わぁ、ありがとうございます! 中を見ても良いですか?」
「ここで開けても良いですけど、中はお茶っぱなんで落ち着ける場所で開けた方が良いと思いますよ。ちなみに、そのお茶っ葉は世界樹の葉っぱがちょっとだけ入ってるんで、疲労回復効果があるそうです」


 これはカグヤさんが俺に良かったらとくれた物で、その内エルフの里から名物として売り出すつもりらしい。
 成分のほとんどはただのお茶っ葉だがごく僅かに世界樹の葉が入っているため、疲労回復効果や免疫力アップが期待できるそうだ。
 世界樹の葉はかなり有名なアイテムだし、きっと物凄い勢いで売れて行くのだろう。
 カグヤさんも良い商売を思いついたもんだな。


「それじゃあ、フーマさんも一緒にどうですか? 久しぶりにゆっくりお話ししたいですし、ギルマスも会いたがっていましたよ?」
「それじゃあ少しだけお邪魔します」
「ふふっ。それじゃあこちらへどうぞ!」


 満面の笑みを浮かべたミレイユさんがそう言って俺の右手を掴んで手を引いてくれる。
 いやぁ、別に何て事はない出来事なのに、凄く幸せだ。


『なるほど。この女はこうやって歳下の男を惚れさせていくのですね』


 フレンダさんが何か失礼な事を言っている気がする。
 全く、この人は友達が多そうな人を見ると茶々を入れないと気が済まないのか。
 そう思ってフレンダさんを懲らしめる為に自分の手の甲でも軽くつねろうかと思ったその時、マッシュルームさんが俺に羨ましそうな恨めしい様な視線を向ける事に気がついた。

 あれま。
 フレンダさんの言う事も強ち間違ってなさそうだよ。
 マッシュルームさんは見た感じ俺よりも歳下っぽいし、美人で優しい歳上のお姉さんがすぐそばにいたら惚れちゃうよな。

 頑張れマシューさん。
 ミレイユさんと恋仲になるにはモフリスト舞という大きな障害があるけど、俺は上手くいく事を願っているぞ。


 こうして、俺は新しい冒険者ギルド職員の人間関係をなんとなく察しながらガンビルドさんの元へ向かったのだった。



 ◇◆◇



 舞



「と、いうわけで私と風舞くんは魔の森の中でミレンちゃんと出会ってこのソレイドまでやって来たのよ」


 フーマくんがローズちゃんの髪を切ってから冒険者ギルドへ出かけた後、私は先程庭でトウカさんと約束した通り、私達とクラスメイト達の間に何があったのかを説明していた。
 初めはトウカさんだけに話す予定だったのだが、アンちゃんやシルビアちゃんもリビングにいたから一緒に聞かせてしまったけれど、後で風舞くんにその旨を伝えれば問題ないだろう。


「そうでしたか。勇者たるフーマ様と我が主が何故ソレイドを拠点にしているのか疑問だったのですがその様な理由があったとは…」
「気になっていたのならすぐに聞いても良かったのよ?」
「いいえ。私は我が主の従者です故、その様な出すぎた真似は出来ません」
「もう。トウカさんは従者である前に私の友達なんだからそんな事で遠慮しないでちょうだい」
「ありがとうございます我が主。近頃は無理を言ってでもフーマ様の従者にしていただけば良かったと少し後悔していましたが、どうやら私の思い違いだった様です」
「や、やっぱり少しは遠慮してくれると助かるわ」


 最近のトウカさんは私とずっと一緒にいてくれるし沢山お話しをしてくれるのだけれど、流石はユーリアさんのお姉さんだけあって割とSっ気があるのよね。
 今日だって私がドラちゃんに殴られた傷を中々治してくれなかったあまりか、帰宅途中突っついてきたし。
 まぁ、それだけ信用されてると思えば悪い気はしないのだけれど。

 そんな事を考えながら微笑みを浮かべるトウカさんにジト目を送っていると、アンちゃんが私のカップによく冷えた紅茶を注ぎながら話しかけてきた。


「それにしても、勇者様が一度に40人近くも召喚されたなんて初めて聞いたよ」
「今回はかなり多いという事かしら?」
「そうですね。勇者様を召喚するのには1人でも膨大な魔力を消費すると聞いた事がありますし、そこまでの人数が歴史上召喚されたという話は聞いた事がありません」
「ふーん。ラングレシア王国はそんなに勇者を集めて何がしたいのかしらね」
「魔族国家と戦争をするのではないですか?」
「でも、あのお姫様は余計な事までペラペラ喋っていたわよ?」
「それは信用させて洗脳を行いやすくする為の導入と考えればそこまでおかしくありませんよ?」
「確かに………言われてみればそうかもしれないわ」


 私と風舞くんはいち早く第一王女の指輪が光っている事に気がついて、小説などで得た知識から第一王女の話に違和感を感じたけれど、もしもその2つが無かったら第一王女のカリスマと話術に呑み込まれていた可能性は十分にある。
 そう考えると私と風舞くんも結構危なかったかもしれないわね。

 そうして今ここでそこそこ平和に暮らせている事に感謝しつつよく冷えた紅茶を飲んでいると、シルビアちゃんがティーカップを両手で持ったまま何やら考え事をしている事に気がついた。


「シルビアちゃん? どうかしたのかしら?」
「あ、すみません。少し考え事をしていました」
「考え事? 良かったら聞かせてもらっても良いかしら?」
「あぁ、いえ。別にそこまで大した話では無いので…」
「むぅ。そこまで言われると逆に気になるわよ」
「では、1つだけマイ様にお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「1つと言わずにいくらでも良いわよ。風舞くんが日本にいた頃の話ならむしろ私の方から話したいくらいだわ!」
「それは確かに私も興味ありますが…。いえ、先に私の要件を済ませてしまいましょう」


 シルビアちゃんはそう言うと、持っていたティーカップを机の上に置いて居住まいを正してから、私の顔を真っ直ぐに見つめて質問を投げかけてきた。
 な、なんだか緊張するわね。


「マイ様はあーちゃんさんという方をご存知ありませんか?」
「へ?」


 あーちゃんさん?
 それって多分アーチャンが名前って訳じゃなくて、あーちゃんってニックネームか何かって事よね?
 そんな知り合い私にいたかしら?

 てっきり風舞くん絡みの質問が飛んでくると思っていた私は、そんな感じで思わぬ質問に困惑しつつ首を傾げた。

「クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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