クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

3話 マジックショー

 風舞 



 炎天下の庭のど真ん中にて、俺はやけにテンションの高い舞と一緒にアンとトウカさんの前に立っていた。
 日本の夏の様なジメッとした暑さでは無いものの、近頃のソレイドはサンサンと太陽の光が降り注いでいるため、汗が滝の様に吹き出してくる。
 出来る事ならば俺は早々に室内に戻って、魔道具によって快適な温度に調節された場所でゆっくりと空間魔法を使ってみたかったのだが、舞を頭から落としてしまった手前彼女の頼みを断る事が出来なかった。


「レーディィィィィィィスエェェェェェンドジェントルメン! 大変長らくお待たせしました! それでは、只今より私とフーマくんによるマジックショーをお見せいたします!」


 汗だくの舞がそう言いながら、日陰で俺達の様子を見ているトウカさん達に笑顔を向ける。
 そんな舞の横で完全にぐったりしている俺と感覚共有しているフレンダさんがクレームを飛ばしてきた。


『おいフーマ。すごく暑いのですが』
「もうちょっと我慢してください」
「ふっふっふ。オーディエンスの歓声が聞こえるわねフーマくん!」
「あぁ、そうだな」


 俺にはどこにオーディエンスがいるのか分からないが、暑さで頭がダメになっている舞に反対するのも面倒だったので反対しないでおいた。
 はぁ、マジで暑い。


「今から皆様にお見せいたしますのは、世にも珍しい人体斬断マジックです! それではとくとご覧ください! ちゃらららら〜らら〜♫」


 舞がマジックの時に流れているお決まりのテーマソングを口ずさみながら、俺の身長と同じくらいの箱を土魔法で作りあげていく。
 はぁ、超暑い。


「さて、ここにありますは何の変哲も無い土魔法性の大きな箱です! ここに今からフーマくんに入ってもらいます!」
「あぁ、はいはい。入りますよー」


 俺は適当に手を振りながらそう言って、大きな箱の中に入った。
 それと同時に舞が開いていた箱の一面を下から土魔法で塞いでいく。
 そうして俺の顔しか出なくなったあたりで舞が小声で話しかけてきた。


「そこに土枠を1つ作っておいたからそれを使ってちょうだい」
「あいよ」


 俺は舞の指示通り土枠を回収し、それを確認した舞が俺の手が出せそうな穴のみを残して箱の開いていた面を完全に塞ぐ。


「さぁ、これでフーマくんは完全に箱の中に閉じ込められてしまいました! これではもうフーマくんは箱の中から脱出する事は出来ません!」


 舞がそう言いながら箱をペシペシと叩く間に、俺はトウカさんとアンの後ろの方にバレない様に転移して箱の中から脱出した。
 お、この距離ならアンとトウカさんの会話が聞こえそうだな。


「脱出出来ないって言ってますけど、フーマ様なら転移魔法で簡単に出れそうですよね〜」
「しかし、我が主は楽しそうにしていますしここはそういうものとして見守ってあげましょう。それが大人の務めというものです」
「そうですね。もう少しだけマイム様達に付き合ってあげましょうか」


 うわぁ。
 めっちゃ気を使われてんじゃん。
 タネも仕掛けもバレている状態でのマジックなんて見ていても面白く無いだろうに、付き合わせちゃってごめんな。


『おいフーマ。そろそろ空間魔法の出番ではないですか?』


 ああ、そうだった。
 この持っている木枠と舞が残した丸い穴を空間魔法で繋いでっと。
 よし、ここから手を出しておけば良いんだよな。


「あぁ、フーマくんが箱から出ようともがいていますが、箱は厳重に閉じられているためそれは叶いません! しかし! フーマくんは身体がとてつもなく柔らかいので、こうして箱を斬られても簡単に避けてしまいます!」


 舞がそう言いながら妖刀星穿ちをスラリと引き抜いて、真一文字に振り向いた。
 おいおい。
 箱の真ん中を真横に斬ったらどんなに俺が柔らかくても上の方の穴から腕が出てるんだから普通に斬られるだろうが。


「あれじゃあフーマ様真っ二つですよね」
「はい。身体が柔らかいから避けられるという設定では無理がありますね」


 ほら、オーディエンスにもダメ出しされてるぞ。


「果たして、フーマくんは無事なのでしょうか!?」
「腕が元気に動いてるから多分無事ですよね」
「そうですね。というより、フーマ様は私達の後ろに立っていますね」
「え?」


 そう言って振り返りかけたアンを、俺は箱の中に転移させてトウカさんの横に歩いて行った。
 ついでに空間魔法を同時に解除しておく事も忘れない。


「おや、胴体を真っ二つにされたはずのフーマ様が何故こちらに?」
「俺はすごく身体が柔らかいんですよ」
「ふふっ。そう言えばそうでしたね」


 そんな話をしている間に、舞が再びちゃららら言いながら箱の一面を開いていく。
 あ、アンが物凄い頰を膨らませてめっちゃ怒ってる。


「あ、あれ? 何でアンちゃんがここに? まぁ別にいいか。じゃじゃーん! なんと、真っ二つにされたはずのフーマくんがアンちゃんになっちゃいましたー!!」
「なるか!」「ならないよ!」
「あ、あれぇ? 私的にはそこそこ上手くいったと思ったんだけど、ダメだったかしら?」
「そんな事ありませんよ我が主。大変興味深い演目でした。今度エルフの里に戻った時に民衆の前で大々的に披露されてはいかがですか?」
「ふふふ。ありがとうトウカさん。それじゃあ、その時は2人ともお願いするわね?」
「もうやりたくねぇよ!」「もういきなり箱の中に転移させられるのは嫌だよ!」


 こうして、舞主催によるマジックショーは大歓声の下、幕を閉じた。
 リビングに戻る途中アンに後ろからポスポスと殴られ続けたが、元はと言えば舞がマジックショーをやりたいって言い出したのが悪いんだから許してくれ。
 それと、俺はもう二度とマジックショーには参加しないから、舞は追加公演の日取りを考えなくて良いと思うぞ。



 ◇◆◇



 風舞



「あぁぁあ。良い湯だなぁ」


 舞の灼熱マジックショーの後、汗だくになってしまった俺は汗を流すために1人風呂に入っていた。
 俺と一緒に日向でマジックショーをやっていた舞も汗だくだったのだが、庭でトウカさんに水をかけてもらってはしゃいでいたから、風呂に入るのは当分先だろう。


『あぁぁ。これは確かに良いお風呂ですね。許可を出してくださってありがとうございます』
「今更フレンダさんに裸を見られたところで何とも思いませんからね。偶になら構いませんよ」


 フレンダさんは感覚共有をしている間は俺の全身の感覚を常に感じとっている訳だし、今更フレンダさんに裸を見られてもそこまで恥ずかしいとは思わない。
 フレンダさんはもうかれこれ二ヶ月近く風呂に入っていなかったから、そろそろ風呂に入れてやらないと可哀想だろう。
 小さい頃に風呂は身体の汚れだけではなく、心の汚れも落とすって聞いた事あるしな。


「さて、そろそろ空間魔法について詳しく教えてもらっても良いですか?」
『そうですね。お風呂に入れてくれたお礼に詳しく教えてあげましょう。まずは何から知りたいですか?』
「それじゃあ、空間魔法で出来る事から教えてくれませんか? 流石にLV10までずっとゲートだけって事は無いですよね?」
『そうですね。私が知る限りでは、ゲートの他にもう一つ空間魔法で出来る事があります』
「フレンダさんの知る限りなんですか?」
『はい。何分、空間魔法は習得の難しい魔法ですから、過去の文献でもLV6までの情報しか入手できませんでした』


 フレンダさんもローズと同じで千年以上生きてるのに、それでも空間魔法の全てを知っている訳じゃないのか。
 どマイナーすぎるだろ、空間魔法。


「えぇっと。それじゃあ、そのもう一つ出来る事っていうのを教えてくれませんか?」
『確かLV6で習得出来たと思うのですが、空間断裂です』
「はい?」
『ですから、空間断裂です』
「それって、空間を斬れるって事ですよね?」
『はい。空間魔法をLV6まで覚えると、空間断裂が使える様になります』
「強すぎません?」


 空間を斬れるって事は、その空間にある物ならなんでも斬れるって事だろ?
 そんなのただのチート能力じゃん。


『そうでもありませんよ。空間断裂とは言っても斬れる範囲は自分の手と武器が届く範囲ぐらいですし、空間を斬るためには同じ様に手か武器で軌道を作ってやらないといけません』
「それじゃあ、ガード不能の攻撃が出来る様になるって事ですか?」
『いいえ。いくら空間を斬るとは言ってもそれはあくまで魔法によるものですし、相手の魔法防御が高かったり、空間断裂に魔法を当てられたりしたら簡単に防がれます。仮に今のフーマが空間断裂を覚えたら、マイの雷を伴った斬撃と互角ぐらいになるでしょうね』
「えぇ。思ったよりも全然強くないですね」
『そうでもありませんよ。空間断裂は魔法によって防げると言いましたが、それは相手の魔法の威力がフーマの空間断裂よりも数段上の場合に限ります。より簡単に言うのなら、空間断裂は全ての魔法に対して属性的有利に立つという事ですね』
「あ、それを聞くと急に強く感じてきました」
『それと、空間断裂は物理攻撃では防げませんから、仮に相手が魔法を使えない相手でしたらフーマは素手でも勝てます』
「超強いですね空間断裂。よし、風呂から上がったら早速覚えよっと」
『お待ちなさいフーマ。空間断裂を覚えるのは格段に難易度が上がると聞きましたし、私はもう少し湯船に浸かっていたいです』
「はぁ、仕方ありませんね。それじゃあ1バニーで許してあげます」
『おい、なんですかその嫌な予感のする単位は…』
「1バニーとは一晩をバニー姿で過ごすという事です」
『まぁ、そのぐらいなら構いませんが』


 最近のフレンダさんはコスプレに慣れすぎな気がする。
 この調子なら肉体を取り戻した後でもお願いをすればコスプレしてくれるんじゃないか?
 リアルフレンダさんのコスプレ……何とも楽しみである。


「それじゃあ、そういう事でお願いします」
『ふん。私は大人ですからフーマの趣味に付き合ってあげるとしましょう』
「はいはい。そりゃどうも」


 そんな話をしながら手足を伸ばして風呂を満喫していると、風呂場のドアがガラリと開いてローズが入って来た。


「よう。おかえりローズ」
「う、うむ。ただいまなのじゃ。すまぬ、お主が入っているとは気付かんかった」


 あれ?
 ローズが自分の体を手で隠しながらモジモジしている。
 今までは俺が風呂に入っていても容赦なく侵入して来て髪を洗わせたりしたのに、一体どういう風の吹き回しだ?


「俺が脱いだ服、そこに無かったか?」
「うむ。おそらくアンが洗濯に持って行ったのじゃろう」
「そうか。後で礼を言わないとだな」
「それが良いじゃろうな。で、では、邪魔をしたな」


 ローズはそう言うと、ゆっくりと扉を閉めて風呂場から出て行こうとした。
 なんとなくそのローズが気になった俺はドアの隙間から臨いているローズの背中に声をかける。


「少し髪が伸びてきたんじゃないか?」
「そ、そうじゃろうか」
「最近暑い日が多いし、良かったから後で髪をすいてやるぞ」
「うむ。よろしく頼むのじゃ」


 ローズはそう言うと、風呂場のドアを完全に閉じて去って行った。
 最後に少しだけ見えたローズの横顔が微妙に笑っていたからこれで間違い無いのだろう。
 って、あれ?
 フレンダさんがやけに静かだな。


「おーい。大丈夫ですか?」
『はっ! お姉様の美しい御身体を拝見して軽く意識が飛んでいました』
「あ、そうっすか」


 俺はそんな事を言いながら浴槽から出て上がり湯を浴び、自分の前髪をいじりつつ風呂場を後にした。
 前髪は自分で切ってるからそこまでじゃないけど、俺も誰かに髪を切ってもらうかね。


『はぁぁ。体を取り戻したらまずお姉様と一緒にお風呂に入りたいです』
「そのぐらいのお願いなら聞いてくれると思いますよ。多分、体を洗ってくれと言ったら洗ってくれるはずです」
『それは、お姉様の体を使ってでしょうか!?』
「いや、それはどうかと思いますけど」


 そんな事を言いながら脱衣所に向かうと、俺の着替えを持って来ていたアンに出くわした。
 着替えは後で自分の部屋で済ませれば良いかと思って、タオルしか持って来ていなかったから、持って来てくれたのか。


「ありがとな、アン」
「あれ? 何でそこで普通にお礼を言うの? まずはうら若き乙女に裸を見せた謝罪じゃないの?」
「そういえば、アンも髪が伸びてきてるから切ってやろうか?」
「お願いできるならそうしたいけど、私の話聞いてた?」
「さぁて。牛乳牛乳。やっぱり風呂上がりは牛乳だよなぁ」
「ちょっとフーマ様? 顔が赤くなってるから恥ずかしがってるのは分かるけど、強がってないでせめて服ぐらい着てよ」

『私も服ぐらい着た方が良いと思いますよ』


 …………。
 俺もそう思う。



「ありがとうアン。言う通りにさせていただきます」
「はぁ。私は別にフーマ様の裸を見ても何とも思わないけど、シルちゃんとかが見たら大変な事になるから気をつけてよね。ここの脱衣所には鍵が付いてないんだから、お風呂場から出る人が気をつけ無いとダメでしょ?」
「はい。以後気をつけます」
「牛乳は用意しておいてあげるから、ちゃんと服を着て髪を乾かしてから来るんだよ」
「ありがとうございます。言う通りにさせていただきます」
「うんうん。それじゃあ私はもう行くね」


 アンはそう言うと、脱衣所から出てスタスタと歩いて行った。
 ふと顔をあげると、鏡の中に股間をタオルで隠して顔を真っ赤にした間抜けな俺が立っているのが見える。


『ぷっ。おそらくフーマは一生アンに頭が上がらないのでしょうね』
「………。俺もそう思います」


 こうして、母親にエロ本を見つかった中学生みたいな気持ちになった俺は、すごすごと体を拭き服を着て、しっかりと髪を乾かしてから脱衣所から出て行った。
 はぁ、ローズとかフレンダさんには裸を見られまくってるのに、何でアンや他の女の子達だと恥ずかしいんだろうか。
 俺の頭の中にはそんな取り留めもない事がぐるぐると回っていた。

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