クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

112話 宴の始まり

 風舞






 トウカさんが舞の従者になってからおよそ3時間後、俺は宮殿の正面玄関に面しているバルコニーのすぐ側の部屋で舞とトウカさんとファーシェルさん、それにカグヤさんを含めた5人で話をしていた。




「なぁ、マジで俺がやるのか?」
「ああ。フーマはトウカとの街頭演説の一件でその顔が知れ渡っているし、お前の以上の適任はいないだろうからな」
「マジっすか。なぁマイム。変わってくんない?」
「出来る事なら私も変わりたいけれど、これ以降のエルフの里にとって大切な事なのだからフーマくんがやるべきだと思うわ」
「大丈夫ですよフーマ様。私も出来る限りのサポートをいたします」
「はぁ、分かりました。あんまり我儘も言ってられないですし、出来る限りの事はさせてもらいます」




 ファーシェルさんとカグヤさんに戦勝パーティーで簡単なスピーチと乾杯の音頭をとる様に頼まれた俺は皆の説得を受けてようやく折れた。
 俺は大勢の人前で話すのがあまり得意ではないので出来れば断りたかったのだが、世界樹を公開して皆で管理していくこれからのエルフの里にとって、勇者である俺の演説が必要だと言われれば断る事も出来ない。
 まぁ、簡単なスピーチで良いと言われていたし、お疲れ様と今日は無礼講を言えば良いはずだ。
 そんな事を考えながらスピーチの算段を立てていると、トウカさんが俺の正面に立って両手を掴んできた。
 トウカさんが俺の顔を正面から覗き混んでくる。




「ありがとうございますフーマ様。これが終わったら後は宴会だけですから、頑張りましょうね」
「は、はい。よろしくお願いします」
「ふふん!  フーマくんの後は私がみんなの前でお話しするから程々でお願いするわね」
「それは良いけど、マイムは何を話すつもりなんだ?」
「ふっふっふ。それは秘密よ」




 舞が胸を張りながらドヤ顔でそう言った。
 微妙にムカつく顔ではあるのだけれど、どちらかと言うと舞がとんでもない事を沢山のエルフの前で言いそうで恐怖心の方が強い。
 頼むから余計な事は言わないでくれよ。
 そんな事を考えていると、ファーシェルさんが外の様子をチラッと見て口を開いた。




「さて、それでは外の者達もこれ以上は待ち切れない様ですし、そろそろ参りましょうか」
「はい。お待たせしました」
「それでは参りますよ。よろしくお願いします」
「はい。精一杯頑張ります」




 こうして、俺はバルコニーに出て大勢のエルフの前で演説をした。
 俺が顔を出したあたりで大勢のエルフが歓声を上げてくれたところまでは覚えているのだが、それ以降のスピーチは頭が真っ白になって自分でも何を言ったのかあまりよく覚えていない。
 まぁ、最後に乾杯って言ったのは覚えているし、大した問題は無いはずだ。
 多分。








「ふへぇ、超疲れた」
「ふふっ。とても素敵なスピーチでしたよ」




 俺の記憶には無いイカしたスピーチの後、俺とトウカさんは宮殿の廊下を2人で歩いていた。
 カグヤさんは知り合いの知識人との会議、ファーシェルさんは戦後処理の雑務、舞は……スピーチというか一人でコントをやっているためここにはいない。




「でも、緊張しすぎて何を話したかあんまり覚えて無いんですよね」
「そうなのですか?  特に3つの袋の話は大変感銘を受けましたよ?」




 え?
 俺はそんな寒い話をしていたのか?
 ていうか、金玉袋とか余計な事は言って無いよな?
 トウカさんも感銘を受けたって言ってくれてるし、大丈夫だよな?




「ま、まぁ。何の問題も無かったなら良かったです」
「ふふっ。フーマ様は可愛らしいお方ですね」
「ど、どうも」




 トウカさんに横から顔を覗き込んでからかわれた俺は顔を逸らしつつそう言った。
 そんな俺の様子を見てクスクス笑うトウカさんから逃げようと足を早めると、正面からエルセーヌさんと1人のエルフがやって来た。
 ん?
 何となく見覚えはない気がするけどもしかして…。




「ぴっちり女忍者?」
「オホホ。流石はご主人様。体を見ただけで正体を見破るとは流石ですわ」
「いや、そんな変態チックな理由で分かった訳じゃ無いぞ。ただそんな気がしただけだ」
「へぇ、流石は勇者様といったところかな」




 女忍者のエルフさんが眼鏡を外して髪を振り解き、胸元のボタンを外しながらそう言った。
 あぁ、この声には聞き覚えがあるし、やっぱりぴっちり女忍者であってたのか。
 そんな事を考えながら上から順に外されていくボタンを目で追っていると、俺の少し後ろにいたトウカさんが俺の視線からぴっちり女忍者を隠すように立ちながら女忍者に話しかけた。




「すみませんが、貴女は?」
「これは失礼致しましたトウカ様。私はスーシェル。エルフの里で主に諜報活動を生業とする者です」
「貴女がスーシェル様でしたか。初めまして…と言うのは少しおかしいですね。ただ、長年私を支えて下さった事の礼を言わせてください」




 トウカさんがそう言いながら頭を下げる。
 ん?  この2人はどういう関係なんだ?
 そんな事を考えながら首を傾げていると、エルセーヌさんが俺の方へスススっと寄ってきて耳打ちをしてくれた。




「オホホ。スーシェルはファーシェル様の直属の諜報員で、トウカ様の様子を見に幾度となく世界樹まで足を運んでいたそうですわ」




 ああ、そういう事か。
 そういえばトウカさんの回想にチラッと名前だけ登場していた気がする。




「よしてくださいよトウカ様。私は自分の仕事をしていただけですし、今日は無礼講なんでしょう?  私に頭を下げるくらいなら盃に酒を注いでくれた方が嬉しいです」
「そうでしたね。スーシェル様はこの後はご予定は?」
「様はつけなくて結構ですよ。この後は友人と2人で話をしながら酒を飲む予定です」
「友人?」
「オホホ。私とスーシェルは諜報員繋がりで友人になったのですわ」
「へぇ、良かったな。これで普通の女の子に近づけたんじゃないか?」
「オホホ。そういう訳ですので、今はこれで失礼致しますわ。また夜遅くにでもご主人様のお部屋を尋ねさせていただきますの」
「私もフーマ様と話したい事があるから、エルセーヌと一緒に向かわせてもらうよ。あ、トウカ様はそれまでにフーマ様と初夜を済ませておいてくださいね」
「す、済ませません!」




 スーシェルさんはトウカさんが顔を赤くしながらそう言うのを微笑まし気な顔で見ると、手をヒラヒラと振りながらエルセーヌさんと共に去って行った。
 何て言うか、物凄い濃い2人組だな。
 そんな事を考えながらエルセーヌさんとスーシェルさんの後ろ姿を目で追っていると、同じ様に諜報員2人を見送っていたトウカさんが俺の方を向いて上目遣いで尋ねてきた。




「す、済ませませんよね?」
「もちろんです」
「そうですか……」




 どうせ今晩は朝方まで寝れなそうな気がするし、万が一俺にその気があってもトウカさんと2人きりになるタイミングはもうないだろう。
 ほら、前からファルゴさんが手を振りながら走って来てるし。




「おお、ここにいたかフーマ!  なんか美味い酒のつまみでも作ってくれよ!  フーマが飯を作るのがすごい上手いって話してたらみんな食ってみたいって言ってるんだ」
「はぁ、そういう所ですよファルゴ様」
「え?  何の事ですか?  なぁフーマ。何で俺はトウカさんに恨みがましい目を向けられてるんだ?」
「気にしなくて良いと思いますよ。それより、何かリクエストとかありますか?」
「おう!  とにかく酒に合いそうでガッツリ食えりゃ何でも良い。さぁ行こうぜ!  シェリーと仲良くなったエルフ達が腹を空かせて待ってる」
「はい!」




 こうして、俺はファルゴさんと共にトウカさんを残して廊下を走り始めた。
 後ろからトウカさんの少しだけ呆れた様な溜息が聞こえたが、今日ぐらいは見逃してもらっても良いだろう。
 さて、酒のつまみか。何を作ろうかね。






 中庭で沢山のエルフに囲まれてバーベキューをした後、みんなの腹が膨れてこれ以上料理をする必要がなくなった俺はシルビアとアンと共に間借りしていた部屋に戻って自分達で作った料理を頬張っていた。
 俺達が焼いた肉の殆どが魔物のもので中にはカマキリの脚の肉とかもあったのだが、何も食べずに料理をしていた俺達にはどれも美味そうに見える。




「ふぅ、2人ともありがとな。すごい助かった」
「滅相もございません。フーマ様と共に料理を出来て私は幸せでした」
「シルちゃんは相変わらずだねぇ。でも、エルフの皆が私達の料理を美味しいって言ってくれるのは嬉しかったよ」
「そうだな。あれだけ喜んでもらえれば作る側としては最高の結果だろ。さて、それじゃあ俺達も冷める前に早く食べようぜ。頂きます」
「「いただきます!」」




 こうして俺達3人は皿に山盛りにして来た串焼肉に噛り付いた。
 そういえば2人の食前の挨拶が以前聞いた時とは違うけれど、俺に合わせてくれたのかね。
 まぁ、どうでも良いか。




「あ、そう言えばファーシェルさんがターニャさんが後で会いに来るって言ってたぞ」
「そうなの?  後でっていつ頃なのかな」
「さぁ?  ミレンと一緒にいるらしいけど、どうなんだろ」




 先程外でバーベキューをしていた時に団長さんがターニャさんとローズが一緒にいるのを見かけたって言ってたけど、今頃はどこにいるのだろうか。
 スピーチの為に別れてから2人とも見かけないから少し気になる。




「もしよろしければ私が探して参りましょうか?  匂いは覚えていますのである程度なら探れると思いますが」
「いや、来てくれるって言ってたんだから待ってれば良いだろ。それよりも、今はゆっくり飯にしようぜ」
「ありがとうございます。あ、これはフーマ様が焼いたものですね」




 シルビアが嬉しそうな顔をしながらそう言った。
 何この
 しばらくあってなかったからか超可愛く見えるんですけど。
 クールな見た目なのに尻尾ブンブンなのとか最高ですね。




「アンもまだまだ沢山あるからじゃんじゃん食ってくれよ」
「うん!  ありがとうフーマ様!」




 おお、こっちの娘も可愛いなぁ。
 飯食ったらまたモフらせてもらおう。


 そんな事を考えながら美味そうに肉を食べるアンとシルビアを眺めていると、ドアが勢いよく開かれて両手に串焼肉を持った舞とローズとターニャさんが現れた。
 あれ?  3人の後ろにちょっと怒った顔をしたトウカさんもいる。




「よう、おつかれ。演説はもう終わったのか?」
「ええ、無事にオーディエンスを沸かす事が出来たわ。ってそれよりもフーマくん!  私の大事な従者を放ったらかしにしてファルゴさんと遊んだ挙句、シルビアちゃんとアンちゃんとイチャイチャしてるってどういう事よ!!」
「別に放ったらかしにしたつもりも、イチャイチャしてるつもりもないぞ。トウカさんが団長さんと楽しそうに話してたから空気を読んだだけだ」
「はぁ、それだからお主はいつまで経っても駄目なんじゃ」




 え?  俺は駄目なのか?
 確かに一声かけた方が良かったかもだけど、周りのエルフの人混みを掻き分けるのが大変そうだったし、ここまで怒られなくても良くないか?




「まぁまぁ、マイムもミレン先生も落ち着きなよ。夜はまだまだ長いんだからお姉ちゃんも含めて師匠に埋め合わせして貰えばいいでしょ?」
「それもそうね!  さぁフーマくん!!  私を構い倒してちょうだい!」




 舞がそう言いながらひとっ飛びで俺の横に腰掛けて大きく口を開いた。
 自分で肉を持ってるんだからそれを食べれば良いだろと思わなくもないが、黙って舞の口に野菜を放り込んでやる。
 ちゃんとバランスの良い食事を心がけるあたり、俺は中々出来る男だ。


 そんな事を考えながら舞に餌付けしていると、アンがまだドアの近くにいたターニャさんとトウカさんの元へテコテコと歩いて行って深々と頭を下げてお礼を言った。




「始めましてターニャ様。私はフーマ様の従者をしていますアンと言います。この度は私の為に貴重な世界樹の朝露を分けてくださりありがとうございました。トウカ様にも改めてお礼を言わせてください」
「アンちゃんってマイムの友達なんでしょ?」
「は、はい。マイム様とは仲良くさせてもらってますけど…」
「それなら、マイムの友達は私の友達も同然だからお礼なんて別にいらないって。それよりも、尻尾触らせてくんない?  さっきお姉ちゃんがアンちゃんの尻尾はふわふわで最高って言ってたんだよねー」
「た、ターニャ様!?  いきなりはちょっと…」
「そうですよターニャ。アン様の尻尾はとても繊細なので、赤子を撫でる様に触らなくてはなりません」
「と、トウカ様まで!?  フーマ様、どうしよう」
「何かお礼をしたいって言ってたんだから存分に可愛がってもらうと良いぞ」
「えぇ!?」
「それじゃあ、ご主人様の許可も出たわけだし遠慮なく」
「私も少しだけ失礼します」




 そうして、アンが黒髪ギャルのターニャさんと清楚系お姉さんのトウカさんに弄ばれ始めた。
 あれま、もう目がトロンとして足腰立たなくなっちゃってるよ。




「ふふふ。アンちゃんは随分と人気みたいね」
「ああ。そうだな」
「の、のうフーマ。隣に座っても良いかの?」
「いつもは何も言わずに俺の上に座るだろ?」
「そうじゃったな。それでは失礼するのじゃ」




 ローズがそう言いながら俺の左隣にちょこんと座った。
 さっきこの部屋でトウカさんとの結婚騒動が起こった時は俺の上に座ってたのに、今は駄目なのか?
 あぁでも、あの時は間に舞を挟んでたから直接の接触はなかったか。


 そんな事を考えながら今日の風呂での一件を思い出しつつテーブルの上にあった水を飲んでいると、向かいに座っていたシルビアと右隣に座っていた舞にガン見されている事に気がついた。




「ん?  どうかしたか?」
「ねぇフーマくん。ミレンちゃんと何かあった?」
「別に何も無いぞ。なぁ?」
「そうじゃな。特別な事は何も無いの」
「なんだか怪しいです」
「そうね。まるで大人の階段を2人で登ろうとして途中で失敗した気配を感じるわ」
「「ブフッ!」」




 俺と同じ様に視線を逸らしながら水を飲んでいたローズと共に盛大に吹き出してしまった。
 何で舞はそこまで事細かに予想を的中させる事が出来るんだよ。




「やっぱり何かあったみたいですね」
「ねぇフーマくん?  詳しく教えてもらえるかしら?」
「い、嫌です」
「あら、そういう男らしいところも好きよ?  でも、こればっかりは引き下がる事は出来ないわ」




 舞がそう言いなが俺の肩に腕を回してそっと顎を撫でて来る。
 くっ、いつの間にこんな上級とテクニックを覚えたんだ。
 今までの舞なら俺の腕をギリギリと締め上げてきたのに、いつの間にか尋問のレベルが上がっている。
 正直こうやって痛みを受けない方が今までの何倍も怖い。




「フーマ様。私は何があってもフーマ様の味方です。ですからどうか話してはくださいませんか?」




 くそっ、シルビアは情に訴えかける作戦か。
 中々やるじゃないか。




「嫌だ。いくらマイムとシルビアのお願いでも聞きたくない」
「フーマ…」




 横に座るローズが俺の顔を見上げて感動した顔をしている。
 任せておけローズ。
 俺はお前との約束をしっかり守り通してみせるぞ。




「むぅ、どうやら本気みたいね」
「ああ。今日の俺は一味違うからな」
「そうみたいね。でも、ここで引き下がる訳にはいかないわ!  シルビアちゃん!」
「はい。すみませんフーマ様」




 シルビアがそう言いながら舞のせいで全く身動きできない俺の元へやって来て目の前に尻尾を差し出した。
 い、一体何をするつもりなんだ?




「ふっふっふ。これは今まで私が受けた中で1番苦しい拷問よ」
「俺は例えどんな拷問でも耐えてみせる!」
「ふふっ、そう言ってられるのも今の内よ!  さぁ、やっておしまい!」
「はい!  失礼します!」




 シルビアはそう言うと、俺の前でお尻をフリフリと振りながら俺の目の前で尻尾を振り始めた。
 シルビアの尻尾が俺の顔に当たりそうで当たらない距離を行ったり来たりしている。




「は?  何これ?」
「あれ?  どうして効いていないの!?  私はソレイドでこの拷問をされた時、血の涙が出そうなぐらいキツかったのよ!?」




 あぁ、そういえばソレイドで舞を縄で縛り付けてその前でミレイユさんに耳を振ってもらった事があったっけ。
 確かにあの時の舞はかなり悔しそうな顔をしてたな。
 でも…。




「別に俺はマイムみたいなモフリストじゃないからこんなの効かないぞ」
「な、何ですって!?  私があんなに苦しんだ拷問をこんなの呼ばわり!?」
「こんなの。折角フーマ様に触って頂くために毎日欠かさず手入れをしたのに、こんなの…」




 あれ?
 舞とシルビアが2人揃ってショックを受けてる。
 よく分かんないけど、助かったのか?




「流石はフーマじゃ!  妾はお主の事を信じておったぞ!」
「お、おう。よく分かんないけど良かったな」
「うむ!  おおそうじゃ!  美味そうな酒をもらったからフーマも飲んでみぬか?」
「お、それじゃあちょっとだけ貰って良いか?」
「そう来なくてはの!  どれ、妾が直々に酌をしてやろう!」




 ニコニコ顔のローズがそう言いながら俺の持っていた空のコップに果物の良い香りがする酒を注いでくれた。
 よし、後で絶対フレンダさんに自慢してやろう。
 俺はそんな事を考えながら落ち込む舞とシルビアを尻目にローズと酒を酌み交わした。

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