クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...
110話 従者と従魔
風舞
シルビア達をモフリ始めて数分後、俺が心の底まで癒されてそろそろ天に召されるんではないかと思い始めていたその時、ローズが帰って来てリビングに現れた。
俺はそんなローズに微妙気まずさを感じつつも、出来るだけ平静を装って話しかけた。
「よ、ようミレン。おかえり」
「う、うむ。ただいまなのじゃ。先程は悪かったの」
「いや、あれは不幸な事故だ。気にしなくて良いぞ」
「そ、そうじゃな。あれは不幸な事故じゃ。あれは妾達だけの心に留めておくとしよう」
ローズが頰をかきながら苦笑いを浮かべてそう言った。
俺はもうフレンダさんに何があったか話しちゃったけど、あの件は他人に言いふらす様な事でも無いしローズが言う通り心に留めておくのが良いだろう。
シルビアとアンも互いの顔と俺たちの様子を見て首を傾げているしそれが良いはずだ。
「あ、ああ。それで、俺の方は魔力も回復したからもう戻れるけどどうする?」
「う、うむ。妾も野暮用は済ませて来たしそうするとしよう」
「そうか。それじゃあ、シルビア達も行けるか?」
「はい。私も既に準備は出来ています」
「あ、もうちょっとオメカシした方が良いかな?」
アンの現在の服装はこのローズ邸を買った時からあった服なのだが、俺からすると仕立てもデザインもそこそこ良いしこのままでも問題無い気がする。
シルビアの着ている服も貴族の街行きの格好みたいで可愛らしいし、これで問題無いはずだ。
「いや、宮殿に行けば服を貸してくれるじゃろうから今の服装で充分じゃろう。少なくともお主らがフーマのために着たその服は妾から見ても可愛いと思うぞ」
「そ、そういう訳ではありませんが、ミレン様がそうおっしゃってくださるのでしたらこのまま行きましょう」
「そうだね。ミレン様はオシャレさんだし、そう言ってもらえるなら大丈夫かな」
「それじゃあ、準備は良いみたいだし行くとするか」
「はい。よろしくお願いします!」
「なんだかドキドキしてきたよ」
「なぁミレン。もうちょっとこっちに来てくれないと一緒に転移できないぞ」
「う、うむ。すまぬ」
ローズがそう言いながらテケテケとよって来て俺の服の裾を掴む。
普段は俺の手を掴むどころか体をぴったりとくっつけて来るのに、今日のローズはかなりしおらしい。
そういう雰囲気を出されると俺まで恥ずかしくなってくるんですけど。
「よ、よし。じゃあ行くぞ。テレポーテーション!」
こうして、脱獄犯でもある俺とローズは新たにシルビアとアンを加えてエルフの里へと戻った。
俺達がここ最近間借りしていた部屋なら誰かに出くわす事もないだろうし、取り敢えずはそこに転移してエルセーヌさんにでも状況を聞けば良いかなと思っていたのだが……
「ふっふっふ。まだあるはずよ!  さぁ出しなさい!!」
「お、オホホホ。もうありませんわ!  ですから、普通の女の子がどうやって休日を過ごすのか教えてくださいまし!」
「駄目よ!  さっきだってそう言ってドリルヘアの中に針を仕込んでたじゃない!  その下着の中ももっとよく見せなさい!!」
なんか舞がエルセーヌさんを押し倒して服を脱がそうとしていた。
「マイムは何をやってるんじゃ?」
「さぁ?  ていうか、あそこまでエルセーヌさんが追い詰められてるの初めて見たぞ」
「ふ、フーマ様!?  私にはマイム様が悪魔を取り押さえている様にしか見えないのですが、加勢しなくてもよろしいのですか?」
「あぁ、そういえばそうだった」
今のエルセーヌさんは舞に髪を解かれたのかドリルヘアの片方がなくなって、ウェーブのかかった髪から黒い角が見えている。
あの黒い角は悪魔の特徴の一つらしいし、シルビアとアンがエルセーヌさんを見て警戒するのも無理はないかもしれない。
俺としてはあのドリルヘアが短時間で緩いウェーブヘアになっている事の方が驚いたが、よくよく考えたら魔物である悪魔がこうして目の前にいる事の方が重大か。
そんな事を考えながらシルビアとアンに守られていると、俺の存在に気がついたエルセーヌさんが話しかけて来た。
「オホホ。ご主人様!  助けてくださいまし!」
「エルセーヌさんなら自分でどうにか出来るだろ」
「ご主人様?  もしかしてあの悪魔はフーマ様の従者なの?」
「従者っていうか従魔だな。ミレンの妹の従魔をいろいろあって当分の間引き取る事になったんだ」
「そうでしたか。てっきり野良の悪魔が現れたのかと思いました」
「ああ。伝えるのが遅くなってごめんな」
正確にはエルセーヌさんは悪魔と吸血鬼のハーフだけど、魔族である吸血鬼の血を持っている事を説明するのは色々と面倒だし、今は悪魔だという事で良いだろう。
いずれローズの正体についてシルビア達に明かす時が来たらその時に一緒に伝えれば良い筈だ。
「いいえ。滅相もございません。しかし、ミレン様には妹君がいらっしゃたのですね」
「うむ。じゃからあやつは妾とも古い知り合いなんじゃ」
「ふーん。それにしても、悪魔を従魔にしちゃうなんてやっぱりフーマ様は凄いね!」
「エルセーヌさんが俺の従魔になったのは成り行きだったから俺は別に何もしてないんだけどな」
「ご主人様!  謙遜は美しいと思いますが、そろそろ助けてくださいまし!  このままでは私の操がご主人様に捧げる前にマイム様に散らされてしまいます!!」
「まぁ、あの通り悪いやつではないから仲良くしやってくれよ」
「はい。フーマ様の従魔でしたら例え悪魔でも素晴らしいお方でしょうし、是非とも良好な関係を築きたいと思います」
「それでしたらそこの獣人のお方!!  どうか私を助けてはくださいませんか!?  貴女はさぞ優秀なご主人様の配下だとお見受けいたします!」
「そ、そう言われては仕方ありません。フーマ様の筆頭従者として貴女の助けに応じるとしましょう」
シルビアがそう言いながらエルセーヌさんと舞の元へつかつか歩いて行く。
おお、あの変態モードの舞にシルビアがどうやって対処するのか楽しみだな。
「ぐへへ。やっぱり女スパイならあそこにも何かしらの武器を隠し持っていると思うのよ」
「マイム様!  流石にそこは駄目ですわ!!  マイム様もご主人様の前で私を押し倒す事は不本意でしょう!?」
「そんな事ないわ!  だってほら、フーマくんは私たちがじゃれ合う様子を見ながら優雅に紅茶を飲んでいるもの。あ、お茶菓子をアンちゃんに食べさせる余裕まで見せてるわよ!」
「そ、そんな!?  こうなったら自力で抵抗するしか……」
「あら、本当にそれで良いのエルセーヌ?  私に普通の女の子の生活を伝授してもらうんじゃなかったのかしら?」
あぁ、なるほど。
なんとなく読めてきたぞ。
多分舞がエルセーヌさんに普通の女の子の生活を教える代わりに、エルセーヌさんの暗器を紹介してもらう約束でもしたのだろう。
ステータス的にエルセーヌさんが舞に負けるはずがないのに、されるがままなのはエルセーヌさんがそれだけ普通の女の子の生活を知りたいという事なのかもしれない。
エルセーヌさん………多分舞に聞いても普通の女の子の生態は分からないと思うぞ。
そんな事を考えながらアンと一緒にソファーに座って観戦していると、そこへついに我らがシルビアが辿りついて舞の肩にそっと手を置いた。
お、もしかして説得でもするつもりなのか?
でも、その状態の舞を宥めるのはかなり厳しいと思うぞ?
「マイム様、少々宜しいですか?」
「あら、久しぶりねシルビアちゃん。でも、今はかなり良いところだから少しだけ待ってちょうだい」
「いいえ。いかにマイム様のお言葉であってもそうは行きません。そのお方はフーマ様の大事な従魔。言ってみれば私の直接の部下でもあります。その様な立場の者が助けを求めているのを筆頭従者であるこの私が見逃せる筈がありません」
「あらそう。それじゃあどうするのかしら?  まさかこの私を力ずくで止めるとでも言うの?」
わお、舞が悪役みたいなセリフを吐き始めたよ。
ていうか、シルビアも舞もかなりノリノリだな。
まぁ、俺の横でアンが「頑張れシルちゃん!」とか言って応援してるし、止めなくて良いか。
「いいえ。流石に私ではマイム様には敵いませんので、少し搦め手を使わせていただきます」
「搦め手?  一体何をするつもりなのかしら?」
「こうするのです!!」
シルビアがそう言いながら一瞬だけ魔力を発すると、次の瞬間舞の服が綺麗さっぱり消えていた。
「へ?」
「どうですかマイム様。服を脱がされるというのはかなり恥ずかしいでしょう?」
「服?」
まだ少しだけ状況を飲み込めていない舞がそう言いながら自分の体に視線を落とす。
そうして完全に産まれてきたままの姿になった事を確認した舞が一瞬で顔を真っ赤にして自分の身体を両手両足で隠した。
「な、なんで!?  どうして私の服がなくなったの!?  ていうか、フーマくん見過ぎよ!!」
「ほう、火魔法で服を燃やし尽くしたのか。マイムに熱を一切感じさせずにやってのけるとは中々やるの」
「はい。フーマ様の火魔法を見た時から憧れて沢山火魔法の練習をしたんです」
「そうだったのか。俺はそこまで上手く火魔法を使えないから普通に凄いと思うぞ」
「ありがとうございます!  フーマ様にそう言っていただけて幸せです!」
「むぅ、なんだかいつの間にかシルビアちゃんが正統派ヒロインみたいになってるわ」
舞がそう言いながら唇を尖らせて不服そうな顔をしている。
そこへ呆れた顔のローズが寄って行って舞に上着をかけながら話しかけた。
「ほれ、お主はいつまでも裸でいないで服を着てこんか。このままでは風邪をひくぞ」
「ありがとうミレンちゃん。そうするわね」
舞がそう言いながらトボトボと隣の部屋へ歩いて行った。
そうして無事に悪者に解放されたエルセーヌさんが手早く服を着て髪を結い始めた。
っておいおい。
そのドリルヘア、髪を結んだだけでそんなにクルクルになるのかよ。
プリ○ュアの変身シーン並にどうなってるのか分かんなかったぞ。
「オホホ。礼を言いますわ。お陰でマイム様に花を散らされずに済みましたの」
「いえ、フーマ様の従者として当然の事をしたまでです。私はシルビア。フーマ様の筆頭従者をさせていただいております」
「オホホホ。フーマ様やミレン様から貴女様のお話はよく伺っておりますわ。私はエルセーヌ。現在はフーマ様の従魔として主に暗部の仕事をさせていただいております」
「暗部?」
「ああ。エルセーヌさんはああ見えて優秀な諜報員なんだぞ。エルフの里でも古い文献とかを色々調べてくれたんだ」
「へぇ、エルセーヌさんって凄いんだね。あ、私はアン。えーっと、パンを焼くのと計算が得意だよ」
「オホホ。宜しくお願い致しますわ」
「うん。こっちこそよろしくね」
そうして俺の従魔と従者2人による和気藹々としたお話が始まった。
うんうん、皆仲良くやってけそうで良かった良かった。
そんな事を考えながらほのぼのとしたガールズトークを見守っていると、部屋のドアが勢いよく開かれてターニャさんと顔を赤くして恥ずかしそうな顔をしたトウカさんが入って来た。
あ、なんか面倒な事になりそうな予感がする。
「あ、師匠!  ここにいたんだね。勝手に脱獄しちゃ困るよ」
「すみませんターニャさん。かなり風呂に入りたかったもので」
「か、かなり風呂に入りたかった」
ローズが顔を赤くしながら小さくそう呟いた。
何を考えているのかは分かんないけど、俺のセリフに他意は無いぞ。
「そっか。まぁ、別にそれは良いや」
「それで、何をしにここへ?  見た感じトウカさんが関わっているみたいですけど」
「あ、そうだった。ねぇ師匠。お姉ちゃんと結婚してくんない?」
「は?」
結婚?
俺とトウカさんが?
何で?
「ふ、フーマ様が結婚。エルフの女性と結婚。あれ?  主人の結婚は大変めでたい事であるはずなのに、何故か涙が……」
「ちょ、ちょっとシルちゃん!?   しっかりして!  例えフーマ様が結婚してもまだチャンスはあるよ!  愛人とか!」
「オホホホホ。おめでとうございますご主人様。エルフの巫と結婚するとは正に玉の輿ですわね」
「ちっ、こんな事ならもっと早く抱いてもらうんじゃった」
あぁ、何か聞こえちゃいけないセリフとか聞きたくないセリフが聞こえる。
「ちょっとフーマくん!?  なんか結婚がどうと聞こえたんだけどどういう事!?」
はぁ、1番厄介な人まで来ちゃたよ。
ていうか、下着だけじゃなくてせめてちゃんと服を着てから来いよ。
「す、すみませんフーマ様。突然の事で驚いたとは思いますが、先ずは話を聞いてくださいませんか?」
トウカさんがモジモジと恥ずかしそうにしながら上目遣いでそう言った。
なんとなく嫌な予感はするけれど、美人なエルフのお姉さんにこう言われては断る事など出来ない。
そう考えた俺はソファーの上で足を組んでキメ顔で口を開いた。
「とりあえず、逃げても良いですか?」
シルビア達をモフリ始めて数分後、俺が心の底まで癒されてそろそろ天に召されるんではないかと思い始めていたその時、ローズが帰って来てリビングに現れた。
俺はそんなローズに微妙気まずさを感じつつも、出来るだけ平静を装って話しかけた。
「よ、ようミレン。おかえり」
「う、うむ。ただいまなのじゃ。先程は悪かったの」
「いや、あれは不幸な事故だ。気にしなくて良いぞ」
「そ、そうじゃな。あれは不幸な事故じゃ。あれは妾達だけの心に留めておくとしよう」
ローズが頰をかきながら苦笑いを浮かべてそう言った。
俺はもうフレンダさんに何があったか話しちゃったけど、あの件は他人に言いふらす様な事でも無いしローズが言う通り心に留めておくのが良いだろう。
シルビアとアンも互いの顔と俺たちの様子を見て首を傾げているしそれが良いはずだ。
「あ、ああ。それで、俺の方は魔力も回復したからもう戻れるけどどうする?」
「う、うむ。妾も野暮用は済ませて来たしそうするとしよう」
「そうか。それじゃあ、シルビア達も行けるか?」
「はい。私も既に準備は出来ています」
「あ、もうちょっとオメカシした方が良いかな?」
アンの現在の服装はこのローズ邸を買った時からあった服なのだが、俺からすると仕立てもデザインもそこそこ良いしこのままでも問題無い気がする。
シルビアの着ている服も貴族の街行きの格好みたいで可愛らしいし、これで問題無いはずだ。
「いや、宮殿に行けば服を貸してくれるじゃろうから今の服装で充分じゃろう。少なくともお主らがフーマのために着たその服は妾から見ても可愛いと思うぞ」
「そ、そういう訳ではありませんが、ミレン様がそうおっしゃってくださるのでしたらこのまま行きましょう」
「そうだね。ミレン様はオシャレさんだし、そう言ってもらえるなら大丈夫かな」
「それじゃあ、準備は良いみたいだし行くとするか」
「はい。よろしくお願いします!」
「なんだかドキドキしてきたよ」
「なぁミレン。もうちょっとこっちに来てくれないと一緒に転移できないぞ」
「う、うむ。すまぬ」
ローズがそう言いながらテケテケとよって来て俺の服の裾を掴む。
普段は俺の手を掴むどころか体をぴったりとくっつけて来るのに、今日のローズはかなりしおらしい。
そういう雰囲気を出されると俺まで恥ずかしくなってくるんですけど。
「よ、よし。じゃあ行くぞ。テレポーテーション!」
こうして、脱獄犯でもある俺とローズは新たにシルビアとアンを加えてエルフの里へと戻った。
俺達がここ最近間借りしていた部屋なら誰かに出くわす事もないだろうし、取り敢えずはそこに転移してエルセーヌさんにでも状況を聞けば良いかなと思っていたのだが……
「ふっふっふ。まだあるはずよ!  さぁ出しなさい!!」
「お、オホホホ。もうありませんわ!  ですから、普通の女の子がどうやって休日を過ごすのか教えてくださいまし!」
「駄目よ!  さっきだってそう言ってドリルヘアの中に針を仕込んでたじゃない!  その下着の中ももっとよく見せなさい!!」
なんか舞がエルセーヌさんを押し倒して服を脱がそうとしていた。
「マイムは何をやってるんじゃ?」
「さぁ?  ていうか、あそこまでエルセーヌさんが追い詰められてるの初めて見たぞ」
「ふ、フーマ様!?  私にはマイム様が悪魔を取り押さえている様にしか見えないのですが、加勢しなくてもよろしいのですか?」
「あぁ、そういえばそうだった」
今のエルセーヌさんは舞に髪を解かれたのかドリルヘアの片方がなくなって、ウェーブのかかった髪から黒い角が見えている。
あの黒い角は悪魔の特徴の一つらしいし、シルビアとアンがエルセーヌさんを見て警戒するのも無理はないかもしれない。
俺としてはあのドリルヘアが短時間で緩いウェーブヘアになっている事の方が驚いたが、よくよく考えたら魔物である悪魔がこうして目の前にいる事の方が重大か。
そんな事を考えながらシルビアとアンに守られていると、俺の存在に気がついたエルセーヌさんが話しかけて来た。
「オホホ。ご主人様!  助けてくださいまし!」
「エルセーヌさんなら自分でどうにか出来るだろ」
「ご主人様?  もしかしてあの悪魔はフーマ様の従者なの?」
「従者っていうか従魔だな。ミレンの妹の従魔をいろいろあって当分の間引き取る事になったんだ」
「そうでしたか。てっきり野良の悪魔が現れたのかと思いました」
「ああ。伝えるのが遅くなってごめんな」
正確にはエルセーヌさんは悪魔と吸血鬼のハーフだけど、魔族である吸血鬼の血を持っている事を説明するのは色々と面倒だし、今は悪魔だという事で良いだろう。
いずれローズの正体についてシルビア達に明かす時が来たらその時に一緒に伝えれば良い筈だ。
「いいえ。滅相もございません。しかし、ミレン様には妹君がいらっしゃたのですね」
「うむ。じゃからあやつは妾とも古い知り合いなんじゃ」
「ふーん。それにしても、悪魔を従魔にしちゃうなんてやっぱりフーマ様は凄いね!」
「エルセーヌさんが俺の従魔になったのは成り行きだったから俺は別に何もしてないんだけどな」
「ご主人様!  謙遜は美しいと思いますが、そろそろ助けてくださいまし!  このままでは私の操がご主人様に捧げる前にマイム様に散らされてしまいます!!」
「まぁ、あの通り悪いやつではないから仲良くしやってくれよ」
「はい。フーマ様の従魔でしたら例え悪魔でも素晴らしいお方でしょうし、是非とも良好な関係を築きたいと思います」
「それでしたらそこの獣人のお方!!  どうか私を助けてはくださいませんか!?  貴女はさぞ優秀なご主人様の配下だとお見受けいたします!」
「そ、そう言われては仕方ありません。フーマ様の筆頭従者として貴女の助けに応じるとしましょう」
シルビアがそう言いながらエルセーヌさんと舞の元へつかつか歩いて行く。
おお、あの変態モードの舞にシルビアがどうやって対処するのか楽しみだな。
「ぐへへ。やっぱり女スパイならあそこにも何かしらの武器を隠し持っていると思うのよ」
「マイム様!  流石にそこは駄目ですわ!!  マイム様もご主人様の前で私を押し倒す事は不本意でしょう!?」
「そんな事ないわ!  だってほら、フーマくんは私たちがじゃれ合う様子を見ながら優雅に紅茶を飲んでいるもの。あ、お茶菓子をアンちゃんに食べさせる余裕まで見せてるわよ!」
「そ、そんな!?  こうなったら自力で抵抗するしか……」
「あら、本当にそれで良いのエルセーヌ?  私に普通の女の子の生活を伝授してもらうんじゃなかったのかしら?」
あぁ、なるほど。
なんとなく読めてきたぞ。
多分舞がエルセーヌさんに普通の女の子の生活を教える代わりに、エルセーヌさんの暗器を紹介してもらう約束でもしたのだろう。
ステータス的にエルセーヌさんが舞に負けるはずがないのに、されるがままなのはエルセーヌさんがそれだけ普通の女の子の生活を知りたいという事なのかもしれない。
エルセーヌさん………多分舞に聞いても普通の女の子の生態は分からないと思うぞ。
そんな事を考えながらアンと一緒にソファーに座って観戦していると、そこへついに我らがシルビアが辿りついて舞の肩にそっと手を置いた。
お、もしかして説得でもするつもりなのか?
でも、その状態の舞を宥めるのはかなり厳しいと思うぞ?
「マイム様、少々宜しいですか?」
「あら、久しぶりねシルビアちゃん。でも、今はかなり良いところだから少しだけ待ってちょうだい」
「いいえ。いかにマイム様のお言葉であってもそうは行きません。そのお方はフーマ様の大事な従魔。言ってみれば私の直接の部下でもあります。その様な立場の者が助けを求めているのを筆頭従者であるこの私が見逃せる筈がありません」
「あらそう。それじゃあどうするのかしら?  まさかこの私を力ずくで止めるとでも言うの?」
わお、舞が悪役みたいなセリフを吐き始めたよ。
ていうか、シルビアも舞もかなりノリノリだな。
まぁ、俺の横でアンが「頑張れシルちゃん!」とか言って応援してるし、止めなくて良いか。
「いいえ。流石に私ではマイム様には敵いませんので、少し搦め手を使わせていただきます」
「搦め手?  一体何をするつもりなのかしら?」
「こうするのです!!」
シルビアがそう言いながら一瞬だけ魔力を発すると、次の瞬間舞の服が綺麗さっぱり消えていた。
「へ?」
「どうですかマイム様。服を脱がされるというのはかなり恥ずかしいでしょう?」
「服?」
まだ少しだけ状況を飲み込めていない舞がそう言いながら自分の体に視線を落とす。
そうして完全に産まれてきたままの姿になった事を確認した舞が一瞬で顔を真っ赤にして自分の身体を両手両足で隠した。
「な、なんで!?  どうして私の服がなくなったの!?  ていうか、フーマくん見過ぎよ!!」
「ほう、火魔法で服を燃やし尽くしたのか。マイムに熱を一切感じさせずにやってのけるとは中々やるの」
「はい。フーマ様の火魔法を見た時から憧れて沢山火魔法の練習をしたんです」
「そうだったのか。俺はそこまで上手く火魔法を使えないから普通に凄いと思うぞ」
「ありがとうございます!  フーマ様にそう言っていただけて幸せです!」
「むぅ、なんだかいつの間にかシルビアちゃんが正統派ヒロインみたいになってるわ」
舞がそう言いながら唇を尖らせて不服そうな顔をしている。
そこへ呆れた顔のローズが寄って行って舞に上着をかけながら話しかけた。
「ほれ、お主はいつまでも裸でいないで服を着てこんか。このままでは風邪をひくぞ」
「ありがとうミレンちゃん。そうするわね」
舞がそう言いながらトボトボと隣の部屋へ歩いて行った。
そうして無事に悪者に解放されたエルセーヌさんが手早く服を着て髪を結い始めた。
っておいおい。
そのドリルヘア、髪を結んだだけでそんなにクルクルになるのかよ。
プリ○ュアの変身シーン並にどうなってるのか分かんなかったぞ。
「オホホ。礼を言いますわ。お陰でマイム様に花を散らされずに済みましたの」
「いえ、フーマ様の従者として当然の事をしたまでです。私はシルビア。フーマ様の筆頭従者をさせていただいております」
「オホホホ。フーマ様やミレン様から貴女様のお話はよく伺っておりますわ。私はエルセーヌ。現在はフーマ様の従魔として主に暗部の仕事をさせていただいております」
「暗部?」
「ああ。エルセーヌさんはああ見えて優秀な諜報員なんだぞ。エルフの里でも古い文献とかを色々調べてくれたんだ」
「へぇ、エルセーヌさんって凄いんだね。あ、私はアン。えーっと、パンを焼くのと計算が得意だよ」
「オホホ。宜しくお願い致しますわ」
「うん。こっちこそよろしくね」
そうして俺の従魔と従者2人による和気藹々としたお話が始まった。
うんうん、皆仲良くやってけそうで良かった良かった。
そんな事を考えながらほのぼのとしたガールズトークを見守っていると、部屋のドアが勢いよく開かれてターニャさんと顔を赤くして恥ずかしそうな顔をしたトウカさんが入って来た。
あ、なんか面倒な事になりそうな予感がする。
「あ、師匠!  ここにいたんだね。勝手に脱獄しちゃ困るよ」
「すみませんターニャさん。かなり風呂に入りたかったもので」
「か、かなり風呂に入りたかった」
ローズが顔を赤くしながら小さくそう呟いた。
何を考えているのかは分かんないけど、俺のセリフに他意は無いぞ。
「そっか。まぁ、別にそれは良いや」
「それで、何をしにここへ?  見た感じトウカさんが関わっているみたいですけど」
「あ、そうだった。ねぇ師匠。お姉ちゃんと結婚してくんない?」
「は?」
結婚?
俺とトウカさんが?
何で?
「ふ、フーマ様が結婚。エルフの女性と結婚。あれ?  主人の結婚は大変めでたい事であるはずなのに、何故か涙が……」
「ちょ、ちょっとシルちゃん!?   しっかりして!  例えフーマ様が結婚してもまだチャンスはあるよ!  愛人とか!」
「オホホホホ。おめでとうございますご主人様。エルフの巫と結婚するとは正に玉の輿ですわね」
「ちっ、こんな事ならもっと早く抱いてもらうんじゃった」
あぁ、何か聞こえちゃいけないセリフとか聞きたくないセリフが聞こえる。
「ちょっとフーマくん!?  なんか結婚がどうと聞こえたんだけどどういう事!?」
はぁ、1番厄介な人まで来ちゃたよ。
ていうか、下着だけじゃなくてせめてちゃんと服を着てから来いよ。
「す、すみませんフーマ様。突然の事で驚いたとは思いますが、先ずは話を聞いてくださいませんか?」
トウカさんがモジモジと恥ずかしそうにしながら上目遣いでそう言った。
なんとなく嫌な予感はするけれど、美人なエルフのお姉さんにこう言われては断る事など出来ない。
そう考えた俺はソファーの上で足を組んでキメ顔で口を開いた。
「とりあえず、逃げても良いですか?」
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