クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

94話 戦局の転換





「風舞くん達、大分苦戦してるみたいね」


 ローズちゃんに頼まれてエルフの二人を入り口付近の安全な場所に移動させた後に風舞くん達の様子を確認してみると、空中をものすごい速さで飛び回るオーキュペテークイーンに翻弄される風舞くんの姿が目に入った。
 転移魔法でオーキュペテークイーンの攻撃を避け続けてはいるのだが、このままではいずれ追い詰められてしまいそうな気がする。


「私も戦いに参加したいのだけれど、この二人を放っておくわけにはいかないし困ったわね」


 本当なら見ず知らずのエルフよりも風舞くんとローズちゃんの方を優先したいところではあるのだが、どうにもこの二人がトウカさんやユーリアさんに似ている気がして放っておくことが出来ない。
 特に、この女性の方のエルフはトウカさんにそっくりなのだ。


「あぁもう!目を覚ますまで待っていようと思ってたけれど、もう待ってられないわ!」


 世界樹の葉を飲ませたにも関わらず目を覚ましそうにない二人を見た私はそんな事を言いながら、ステータスカードを取り出してポイントを未だ覚えていなかった回復魔法に割り振った。
 回復魔法はLVに応じて治せる怪我の規模が変わってくる様だが、この二人は世界樹の葉で大まかな傷は治っているし、とりあえずLV1まで覚えておけば十分だろう。


「お願い、今すぐ目を覚ましてちょうだい」


 そうして一通りの準備を終えた私はそう呟きながら、回復魔法を2人のエルフにかけた。
 へぇ、回復魔法は攻撃系の魔法とは魔力の流し方が全然違うのね。


 そんな事を考えながら二人に回復法を数秒ほどかけ続けていると、最初に女性のエルフが目を覚ましてそのすぐ後に男性のエルフが目を覚ました。
 ふぅ、頭を直接鷲掴みにして回復魔法を流し込んだのが良かったみたいね。


「具合はどうかしら?」
「んん、貴女は?」
「私はマイムよ」
「そうか、君がマイムか。怪我は君たちが治してくれたのかい?」
「ええ。もう動ける様なら私はもう行ってもいいかしら?」


 既に二人は怪我も回復して動ける様にはなっているし、風舞くんが空中を転移しながら水球をばら撒き始めたから戦局も変わってきている。
 できれば今すぐにでも行動に移りたいのだけれど。


「はい。大変お世話になりました。このご恩は近い内に返させていただきます」
「別にこのぐらい大したことないわ。それじゃあ、私は風舞くんを助けに行くから後は好きにしてちょうだい」


 私がそう言い残して風舞君たちの方に走って行こうとしたその時、エルフの女性に呼び止められた。


「すみませんマイ様」
「まだ何かあるのかしら?」
「はい。あの迷宮王は空中での高速移動に加えて感知能力にも優れています。戦闘の際はどうかお気をつけ下さい」
「そう。忠告感謝するわ。それじゃあ……、今度こそ行くわね」


 私はそう言い残し、入り口付近の通路を出て手近な壁を上り始めた。
 風舞くんがオーキュペテークイーンの攻撃を避けながら大量の水をばら撒いているし、もう少し待てば辺り一面が水に浸かると思う。


「感知能力に優れている…か。確かに厄介な能力だけれど、どうしようも無いという訳では無いわね。」


 これはつい最近気が付いたことなのだが、魔力感知は感覚的にソナーに近い。
 魔力感知を使おうと意識したら、僅かなタイムラグの後に周囲の魔力の状態が頭の中に送られてくるのだ。
 ただ、ソナーとは違って私から何かを発している訳ではないから少し違う気もするわね。


 それはともかく、相手が感知能力に優れていると言うのなら、自分の意識を出来る限り薄くして、自分の周囲を風魔法で覆いつつ、魔力の流れを周囲に漏らさない様にすれば何の問題もないはずだ。
 懸念点をあげるとすれば攻撃の瞬間の殺気をあの迷宮王がどこまで感知出来るか分からない所なのだけれど、そのあたりの感知能力はスキルのそれとは違って本能的なものだから今までスキルがない世界で生きてきた私の方があの迷宮王よりも優れていると思う。


「後はどのタイミングで攻撃を仕掛けるかなのだけれど……、どうやらそれは問題ないみたいね」


 つい先ほど目を覚ました二人のエルフがローズちゃんの元へと向かっていくのが一瞬だが確認できた。
 いくらオーキュペテークイーンが風舞くんに夢中になっているとは言っても新しく現れた敵に対していくらかの気は削ぐだろうし、その瞬間の隙を狙えば問題ないだろう。
 そうして待ち続ける事数分、オーキュペテークイーンが風舞くんを追うのに疲れたのかその動きを止めて空中にとどまり始めた。


「ふぅぅ、よし! それじゃあいっちょカッコいいところを風舞くんに見せるとしますかね」


 そうして意気込んだ私は壁を強く蹴りつけて、オーキュペテークイーンの真上から音も気配も漏らさずに落下して行った。






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 舞が俺の張った水に着水してから数秒後、オーキュペテークイーンが舞の強烈な一撃をくらった混乱から復帰する前に舞を回収しに行くことにした俺が転移魔法を使って舞を探していると、目を閉じたままの舞が刀を握ったまま水中を漂っているのを見つけた。
 どうやら極度の集中状態がまだ抜けきっていない様である。
 俺はそんな彼女の元へ泳いで近づいていき、そっと彼女を抱きかかえて直ぐ側の木の陰で水中から顔を出した。


「よう、おつかれ舞」
「あら、思ったよりも深く潜ってたのね」
「さっきの攻撃、すごいカッコよかったぞ」
「ふふ、風舞くんにそう言ってもらえて嬉しいわ」
「もう動けそうか?」
「ええ。少し名残惜しいけれど問題ないわ」
「よし、それじゃあこのままローズ達のところに転移するぞ」


 こうして、完全に手詰まりに陥っていた状況を打破してくれた舞を無事に回収した俺は、水中からローズ達のいる石の上まで舞をつれて転移した。


「お待ち遠様。チートキャラを連れて来たぞ」
「うむ。二人ともご苦労じゃった。特に、マイの攻撃には妾も驚いたぞ」
「あれくらいなら別に大した事ないわ。それよりも、オーキュペテークイーンは大分頭にきている様ね」


 舞が前髪を軽く掻きあげて水滴を飛ばしながら、俺達の方をもの凄い顔で睨むオーキュペテークイーンに向けて刀を構えた。
 気分的にはここで一休みしたいところなのだが、どうやらあちらさんはそれを許してくれそうにない。


「それじゃあ、軽く自己紹介を済ませてしまいましょう。戦闘中に名前が分からないのは不便でしょう?」
「そうじゃな。この二人は妾達の名前を知っておる様じゃが、妾達はお主らの名を知らぬ」
「これは、自己紹介が遅れてしまい申し訳ございません。私はカグヤ。トウカとユーリアの母でございます」
「は?  母ってお母さんって事ですか?」
「人間、カグヤをお義母さん呼ばわりとは良い度胸だね。僕はサラムだ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「それで、二人は何が得意なんじゃ?」
「私は風魔法、夫は水魔法が得意です。先ほども言った様に錫杖があれば魔物の力を弱める事が出来るのですが、オーキュペテークイーンに盗まれてしまったので今はある程度の魔法しか使えません」
「ふむ。その錫杖が今はどこにあるのか見当はついておるのか?」
「はい。おそらくこの部屋の上部にある巣穴のいずれかにあると思います。近くに行けば錫杖の位置をもう少し絞り込めるはずです」
「ふむ。それではフウマ。カグヤを連れて錫杖を探して来るのじゃ。おそらくそれがなくてはあの迷宮王を討伐するのはかなり困難じゃろう」
「俺は別に構わないけれど、ローズ達は大丈夫なのか?」
「うむ。時間稼ぎぐらいなら妾と舞がいれば十分なはずじゃ。それに、お主も力を貸してくれるのじゃろう?」
「うん。カグヤとこの人間を二人っきりにするのは癪だけど、今はそれが最善だろうし僕も時間稼ぎに参加させてもらうよ」


 なんかこのサラムってエルフ、俺に対してだけ当たりが強くないか?
 さっきから言葉の節々に悪意を感じるし、俺を見る目が微妙に怖いんですけど。


『父親とは厄介な生き物ですね』


 そういうものなのだろうか。


「ふふ、大丈夫ですよサラム。フウマ様はとてもお優しい殿方です」
「あ、はい。どうもありがとうございます」
「風舞くん? 分かってるわよね?」
「お、おう。もちろん舞が言いたいことは分かってるから心配しなくて良いぞ。だから、その背中を向けたまま俺にバチバチ言ってる手を向けるのを止めてくれ」
「ふむ。ともかくこれで一先ずの方針は決まったの。それでは、妾の魔法を合図に一斉に動き始めるぞ。準備は良いな?」
「ええ。いつでも行けるわ!」
「私も問題ありません」
「僕も大丈夫だよ」
「ああ、俺も覚悟はできている」
『私もいつでも行けます』
「よし、それでは第二回戦開始じゃ! サンダーランス!」


 こうして、ローズの魔法と共に攻撃を開始した舞達を残して、カグヤさんを連れた俺は迷宮王の部屋の上部へと一瞬で転移した。
 転移する直前にオーキュペテークイーンがすぐ目の前まで迫っていたが、舞とローズの攻撃のお蔭でオーキュペテークイーンの鋭い爪が俺に当たる事はなかった。


「それじゃあ、俺は指示通りに転移するんで場所が分かり次第教えてください」
「かしこまりました。それでは、よろしくお願いしますね」


 うーん、何となくカグヤさんと一緒にいるとドキドキするんだけど、どうにかならないものかね。







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