クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

91話 樹の中の森

 風舞






「何か新しい魔法を覚えたい」




 世界樹のうろに入って数分、舞とローズの間を歩いていた俺はステータスカードを見ながらそんな事を呟いた。
 折角ステータスカードが使える様になったんだし、俺的にはステータスポイントを消費して何か新しい魔法かスキルを習得したい。




『はぁ、トウカが新しい魔法の習得はまだやめておいた方が良いと言ったのを忘れたのですか?』
「でも、ドライアドと戦った時も思ったんですけど圧倒的に火力が足りてなくないですか?」
『いいえ。フーマに足りていないのは火力だけではなく全てです。転移魔法と運と勘だけで今日まで戦ってはきましたが、フーマのステータスでは大抵の魔物の攻撃を一撃でも貰えば即死か良くても重症ですし、今更小手先の魔法を覚えても大して戦闘力は変わりません』
「えぇ、俺も雷魔法とか使ってみたいんですけど」




 だって舞とローズが最近雷魔法をよく使うし、凄くカッコいいんだもん。
 いや、どちらかというと火魔法に飽きたという方が大きいかもしれない。
 火魔法よりもアイテムボックスに入ってる巨石を降らせる方が強いし、あんまり使う機会が無いんだよな。




「ふむ。フウマは雷魔法でやりたい事でもあるのかの?」
「特にやりたい事がある訳じゃないけど、何となくカッコいいだろ?」
「まぁ、火魔法よりも雷魔法の方が習得難易度が高いというのはあるが、別にそこまで火魔法と変わらんのではないか?」
「いいえ。それは違うわ、ローズちゃん。炎は大抵の熱血系主人公が使うありふれた魔法だけれど、雷はサブ役で出て来るキャラクターが使っている事が多いのよ」
「む?  何を言いたいのかは分からんが、それならば炎の使い手の方が良いのではないか?」
「それがどういう訳か熱血系主人公よりも雷を使うキャラクターの方が人気が出やすいのよね。私の推測だと雷の方が炎よりも扱いづらいからだと思うのよ。きっと人間は未だ自由に扱う事の出来ないものに憧れを抱く生き物なのでしょうね」




 あぁ言われてみれば確かに、日本にいた頃はライターとかを使えば簡単に火は起こせたけど、雷を起こせと言われてもどうすれば良いのかいまいち分からない。
 雷発生装置みたいなのをテレビで見た事があるけれど、あれは一般人が気安く使える物では無さそうだったし。




「未だ自由に扱う事の出来ないものに憧れるか、マイは意外と頭を使って生きているんじゃな」
「ちょ、ちょっとローズちゃん?それだと私が頭の弱い可愛い女の子って事にならないかしら?」


『あれ?  お姉様は可愛いだなんて言ってましたっけ?』
「いや、可愛いだとかは一切言ってないですね」


「可愛いとは言っておらんが、お主が日常で頭を使うことは少ないではないか」
「えぇ!?  そんな事無いわよね!ね!?」
「俺に聞かれても困るけど、頭が弱い女の子でも良いと思うぞ」
「ほら!  風舞くんだって良いって言ってるわよ!」
「う、うむ。お主がそれで良いならとやかく言うまい」




 ローズは若干引いた顔でそう言うと、再び前を向いて警戒しながら歩き始めた。
 一方の舞は俺の後ろをニコニコしながら楽しそうに着いて来ている。




『確かに頭が悪そうな言動をしていますね』
「でも、日本にいた頃の舞は大人顔負けの才女だったんですよ」
「あら、もしかして私を誉めてくれているのかしら?」
「ああ。舞は爪を隠すのが上手いって話をしてたんだ」
「ふっふっふ。私は能ある鷹よりも賢いわよ?」




 うわぁ、そのドや顔が既にバカっぽい。
 クラスのみんなが今の舞を見たら腰を抜かすんじゃないか?
 もしかすると別人ではないかとを疑われるレベルかもしれない。


 そんな事を考えながら後ろからのドヤ顔を近づけてくる舞を宥めつつ歩いていると、俺達は大きな黒い金属の扉の前にたどり着いた。
 トウカさんの家の中にあった世界樹の内部に入るための扉と良く似ている気がする。
 ここまで曲がりくねりながらも脇道の無い道だったから、この先に進むのが正解であるとは思うのだが…。




「絶対裏ボス的なのがこの中にいるぞ」
「ええ。ソレイドのダンジョンのエルダートレントみたいな立ち位置の魔物がいそうね」
「で、こうして怪しい扉を見つけたけどどうするよ。扉は閉まってるからこのまま放っておくか?」
「いいえ。この扉の他にも出入口があったら迷宮王が外に出てくるかもしれないから、出来ればここで討伐しておきたいわ」
「マジかいな。それなら中に毒ガスでも流し込めば……って、どうかしたのか?」




 裏ボスの迷宮王とは戦いたくないという話をしようとしたら、ローズが難しい顔をしながら顎に手を当てて考え事をしている事に気がついた。
 ちっちゃくて幼女体系のローズではあるが、こういう顔をしている時の彼女は普通にカッコよく見える。




「うむ。先ほどからこの中の様子を感知しようとしておるのだが、それが出来ぬ」
「あら、本当だわ。何の魔力の気配も感じないわね」
「確かに何も感じないけど、魔物がこの中には居ないって事じゃないのか?」
「確かにその可能性も無くはないが、感知を遮断されている可能性の方が高いじゃろうな」
「って事はソレイドの迷宮王の部屋みたいに転移魔法で中と外を行き来出来ないタイプだってことか?」
「うむ。おそらく転移出来ないじゃろうな。やってみれば分かるのではないか?」




 ローズにそう言われて扉の内側に入るつもりで転移魔法を使おうとしたのだが、転移魔法は発動しなかった。
 感覚的にソレイドのダンジョンと同じ現象が起こった様な気がする。




「転移出来ないな。多分ローズが言った通りだと思うぞ」
「それじゃあ、この扉が閉まっているのは誰かが中に入っているって事なのかしら?」
「誰かってエルフか?」
「さぁ?  流石にそこまでは分からないけれど、ソレイドのダンジョンと同じシステムならこの中に誰かがいるという事になるでしょう?」
「ふむ。言われてみれば確かにそうじゃな。という事は…ふむ、全く開きそうにないの」




 ローズはグイグイ押しても全くビクともしない扉を軽く小突きながらそう言った。
 唇を尖らせて不満気な顔をしている。




「さてと、エルフの里に引き返してみんなの手伝いに行こうぜ。どうせ先に進めないならこれ以上ここにいてもしょうがないだろ?」
「むぅ、折角強敵と戦えると思ってたのに残念だわ」
「うむ。妾もいささか消化不良じゃ。まさかここまで来てお預けをくらうとはの」
「いやいやいや、強敵と戦わなくて済むならそれに越した事は無いだろ」
『まったく、フーマは相変わらず小者の様ですね』
「俺は慎重なだけですよ。まぁ、何はともあれこれは開かないんだし……って、あれ?」




 どうせここにいても扉が開く事は無いのだから早くエルフの里に帰ろうぜ、と言おうとしながら扉をペチペチと叩いていたら、ゴゴゴゴゴと物々しい音を立てて黒い扉が開き始めた。
 それと同時に、中から強い風が一つ吹き抜けて行く。




「えーっと、見なかった事にして帰ろうぜ」
「良いかしらローズちゃん。風舞くんは少し天邪鬼なところがあるから、これは行きたいって事なのよ」
「おぉ、やはりそうじゃったか!  薄々そんな気はしておったが、フウマも未だ見ぬ強敵に心を躍らせておったんじゃな」
「いやいやいや!  俺は今すぐ帰りたいんですけど!」
「ふふふ。何も遠慮する事は無いわ!  どうやったのかは分からないけれど、風舞くんが扉を開けてくれたのでしょう?」
「いや、これは勝手に開いただけで…」
「それ以上言わずとも良い。よし、それでは早速進むとしよう!」
「ええ!  待ってなさい迷宮王!  今から風舞くんがそっちに行くわよ!!」




 ローズと舞は自信満々の笑顔でそう言うと、俺の両腕を二人で掴んでたった今開いた扉の中へと引きずって行った。
 どうにかして地獄へと引きずり込もうとする鬼と修羅から逃げ出したいのだが、二人ともさりげなく俺の肘に関節技をかけているため全く逃げられそうに無い。




「はぁ……、べ、別に迷宮王となんか戦いたく無いんだからね」
『何ですか、その気持ちの悪いセリフは』
「様式美ってやつですよ」
『ふむ。べ、別にフーマの事をキモいなんて思って無いんだからね。こんな感じでしょうか』




 かくして、棒読みながらもフレンダさんのツンデレ台詞を聞いて少しだけヤル気が出てきた俺は引き続き舞とローズに引っ張られながら薄暗い通路を進んで行った。
 はぁ、マジで戦いたくない。






 ◇◆◇






 風舞






「なんだこりゃ。木の中に木が生えてる」




 黒い扉を抜けて薄暗い通路を進んで行くと、俺たちはそこそこの広さの広間に出た。
 今まで見てきた迷宮王の部屋の中でも最大の大きさである気がする。
 ちなみに、黒い扉は俺たちが中に入ってから数メートルほど離れたらゴゴゴゴゴと音を立てながら閉まってしまったためもう引き返す事は出来ない。




「確かに木の中に木が生えてるわね。正確に言うのなら世界樹の中の部屋に森があるわ」
「迷宮王はこの森の中にいるって事なのか?」
「普通に考えたらそうなんでしょうけど、上の方に抜け道っぽいのが沢山あるから何とも言えないわね」




 そう言った舞の指差す方向を見てみると、確かに迷宮王の部屋の上の方にいくつか人間が通れそうなぐらいの横穴がある。
 どうやらこの迷宮王の部屋は円錐形である様だ。




「うーん、取り敢えず森を焼き払うか?  仮にこの森の中に迷宮王がいるなら相手の得意な地形で戦う事も無いだろ」
「それもそうね。仮に森の中に隠れてるのならそれで出てくるでしょうし、全部燃やしちゃいましょうか」
「いや、少し待つのじゃ。どうやら森の中に生存者がいる様じゃぞ」
「そうなのか?」
「うむ。虫の息ではあるが、確かに二人とも生きておる様じゃ」
「2人?  私は感知できないわよ?」
「広く感知するのではなく、網目を小さくする様に少しずつ感知していけば見つけられるはずじゃ」




 網目を小さくして感知するのか。
 …意外と難しいな。




「あ、見つけたわ。確かに2人いるみたいね」
「え?  どっちの方だ?」
「あっちに40メートルってところかしら。身を寄せ合いながら木にもたれかかってるみたいだわ」
「うーん、これか?  かなり弱い魔力を感じるけど」
「おそらくそれじゃろうな。さて、どうしたもんじゃろうな」
「ああ。十中八九罠だよな」
「うむ。通路を通ってきた妾達に見つけやすい位置に気配があるし、迷宮王の存在は未だ認識出来ておらぬ。妾達がのこのこと近寄って行くのを待っている可能性が高いじゃろう」
「そうね。ソレイドでは生存者がいる間は迷宮王の部屋の扉は開かないって聞いたし、おそらく迷宮王の設置した罠である可能性が高いと思うわ」




 まぁ、普通に考えたら間違いなく罠なんだろうし、仮に生存者だとしても自分達の身を守るのに必死なダンジョンの中で他人を助けに行く義理はない。
 それに、迷宮王の姿が無いのが底知れぬ違和感を感じる。
 ただなぁ…。




「あら、何か気になる事でもあるのかしら?」
「ああ。迷宮王の罠なら2人分の気配を設置するのかと思ってな」
「確かに魔物が2人分の気配を用意するとは考え辛いけれど、もしかすると生き餌の可能性もあるわよ?」
「それでも2人を置いておく必要は無いだろ。片方を殺してもう片方を罠に使えば良いはずだ」
「ふむ。そう言われてみれば確かにそんな気もしてくるが、そうなると何故迷宮王はこの2人を生かして妾達をこの部屋に誘い込んだんじゃ?」
「さぁ?  2人組が迷宮王を追い詰めて迷宮王があの穴から逃げてったとかじゃないか?」
「それならば良いのじゃが、どうにも不安が拭い切れんの」
「それじゃあ、俺が様子を見てくるから2人はここで待っててくれ。仮に罠でも転移魔法を使えば逃げて来れるだろ」
「むぅ、お主にそう言われると断れんではないか」
「悪い。でも、仮にあれがただの生存者だったら後味が悪いだろ?」
「はぁ、フウマのそういうところは妾も好きじゃしお主の言う通り確認しに行くとするかの。じゃが、妾も同行させてもらうぞ。お主は防御力が低いから誰かが守ってやらねば心配でしょうがない」
『おいフーマ。お姉様に感謝するのですよ。本来なら森ごと焼き払っても良いぐらいの状況です』
「そうですね。ありがとな、ローズ」
「ふん!  妾をあまり見くびるで無いわ!」




 ローズの頭を撫でながらお礼を言ったら、ローズがその手を叩きながら口元に笑顔を浮かべてそう言った。
 やっぱりローズはかなり良いやつだよな。


 なんて事を考えながらさっきから大人しい舞の方を向いてみると、舞が刀を抜いて近くにあった木を切り倒した。




「どうやら硬さは普通の木と変わらないみたいね。ただ、成長スピードというか修復スピードがかなり早いわ」
「そうなのか?」
「ええ。ほら、もう断面から芽が出てきたわよ」




 確かに舞の言う様に断面から芽が出てグングンと丈を伸ばして行っている。
 おぉ、斬られた方の木もガンガン地面に吸い込まれていくな。




「ふむ。1分ほどで元どおりになってしまうのか」
「焼いてみたら少しは長くなりそうだけど、普通にまた生えてきそうだな」
「そうね。これじゃあいくら切ってもキリが無さそうだし、諦めて普通に進みましょうか」




 そうか、舞も俺の我儘に付き合ってくれるのか。
 それなら出来るだけ安全に進む方法を考えないとだな。




「いや、ちょっとだけ待ってくれ」
「む?  一体何をするつもりなんじゃ?」
「ああ。木が切れないなら木の上に道を作れば良いんじゃないかと思ってな」




 俺はそんな事をつぶやきながら、アイテムボックスから直方体の石を取り出して木の上に降らせた。
 だいたい3メートル×3メートル×5メートルの石のためかなりの重さではあるのだが、木々は一度メキメキと音を立てて折れはしたものの、その石を持ち上げつつ元どおりの高さまで修復された。




「よし、これなら森の中を歩く必要は無さそうだな」
「流石だわ風舞くん!  貴方のそういうところがカッコよくて好きよ!」
「あ、ああ。ありがとう」
『まったく、何を普通に照れているのですか。だらしのない顔をしないでください』
「別にだらしのない顔はしてないです」
『べ、別にフーマがだらしないなんて思って無いんだからね』




 うわぁ、ちっともデレが含まれて無いんですけど。
 ただ、フレンダさんのこんなセリフを聞けて微妙に嬉しくもあるのが謎だ。




「はぁ、相変わらずフウマの考えることはぶっ飛んでおるの」
「だって何があるのか分からない森の中を歩きたくないだろ?」
「それはそうなんじゃが…まぁよい、それでは先に進むとするかの」




 こうして、俺たちは木の上に石を並べながら2人組みの元へ向かった。
 一体何が待ち受けているのかは分からないが、自分の転移魔法と直感と豪運、それと舞とローズとフレンダさんを信じて先へ進もう。
 俺は片手剣と炎の魔剣をしっかりと構えながらそんな事を考えた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品