クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

88話 新必殺技

 ユーリア






「はぁ、暇だなぁ」




 僕たち、というかトウカ姉さんとスピアクイーンビーとの戦闘が始まって数分、僕は姉さんの邪魔にならない様に迷宮王の部屋の隅でポツンと立っていた。




「くらいなさい!  アクアランス!!」




 迷宮王の部屋の中を縦横無尽に飛び回るスピアクイーンビーに対し、姉さんは水魔法LV3のハイドロランスを無数に撃ち込み続ける事で少しずつスピアクイーンビーを追い詰めていっている。
 僕はいくつかのスキルや魔法を掛け合わせる複合魔法や、状態異常魔法などの搦め手が得意だが、姉さんは簡単でシンプルな魔法をより速くより多くより精密に使う堅実な戦い方をする。
 姉さんはスピアクイーンビーみたいな本能だけで戦う魔物が相手だと理詰めで普通に勝っちゃうんだよね。




 ズズン!!




 ほら、丁度今もスピアクイーンビーの羽に穴が空いて上から落ちてきたし。




「よし、一撃も攻撃を貰わずに落とすことが出来ました」
「お疲れ姉さん。魔法の腕は落ちてないみたいだね」
「ええ。時々上から降りてくる魔物を相手にしていましたから、この程度雑作もありません」
「この調子ならター姉ともいい勝負が出来そうだね」
「ふふふ。私はフーマ様にお褒めいただくために全力を尽くすだけです」




 姉さんはそう言うと、スピアクイーンビーに背を向けて広間の出口の方へと歩いて行った。
 スピアクイーンビーはギチギチと音を立てながら落下の衝撃で折れた脚をモゾモゾと動かしていて未だ健在だから出口は開いていないんだけど、何か考えでもあるのだろうか。
 そんな事を考えながら、スピアクイーンビーにいつでも魔法を撃てる様に手を向けつつ悠然と歩く姉さんの後ろ姿を見つめていると、姉さんがピタリと足を止めて耳を赤くしながら少しだけ上ずった声で話しかけてきた。




「ゆ、ユーリア。早くスピアクイーンビーにトドメをさしてこちらに来なさい!」




 姉さんは僕に背を向けたままのためどの様な顔をしているのかは分からないが、耳が真っ赤になっているしスピアクイーンビーを倒したつもりで出口に向かっていたらしい。
 これはフーマへの良いお土産話ができそうだね。




「姉さん、トドメをさしていない相手に背を向けるのは良くないよ。追い詰められた相手が一番手強いって知らない訳じゃないでしょ」
「わ、分かっています。ユーリアが暇そうにしていたから姉として花を持たせてやろうとしただけです」
「へぇ。それじゃあ、そんな姉さんの優しい一面をフーマに教えてあげないとだね」
「ただ、ユーリアの言う事にも一理あります。久方ぶりの強敵との戦闘で基本がおろそかになっていた様です。私に非があった事は認めますから、フーマ様に口伝くちづてするのは許してください」
「ふぅん。ほいっと、それじゃあスピアクイーンビーも無事に倒せた事だし、さっさと外に行こうか。エルフの里への貢献度を稼ぐために外で戦うんでしょ?」
「ゆ、ユーリア!?  私が悪かったですから、フーマ様には言わないでくださいよ!?」
「おっけーおっけー。それじゃあ、ちょっぱやで外に行って魔物をぶち転がしまくるっしょ」
「何故そこでターニャの様な話し方をするのですか!  絶対ですよ!  絶対言わないでくださいね!」




 こうして、全くダメージを受ける事がなくスピアクイーンビーを倒すことが出来た僕たちはエルフの里の防備に加わるために世界樹の内部から外に出られそうな場所を探し始めた。
 さて、フーマやファルゴ達は今頃どうしてるだろうね。






 ◇◆◇






 ファルゴ






 サイクロプスキングに睨まれて気を失った俺は、地面に響く足音によって目を覚ました。
 体を起こして周囲を見回してみると、俺の張った煙幕がまだ残っているし、どうやら俺が倒れていたのは数秒ほどであったらしい。


 って今はそれよりも。




「おいシェリー!  起きろ!」


 周囲の確認を手早く済ませた俺は、すぐそばに倒れていたシェリーの頬を叩きながら声をかけた。
 どうやら命に別状は無いみたいたが、完全に気を失ってしまっていて頬を叩くぐらいでは置きそうにもない。




「ちっ、頼むから文句を言わないでくれよ」




 俺はシェリーを抱き抱えながらそう言うと、鞄に入れておいた気付け薬が入った瓶をとりだして、シェリーの鼻の下に数滴その中身を垂らした。




「くっさ!!!」
「ふぅ、どうやら無事みたいだな」
「ああ、ファルゴか。特に怪我もないし、ってくっさ!!」
「悪ぃ。サイクロプスキングが寄ってきてたから一番強力なやつを使った」
「そうか」




 シェリーは鼻の下を服の袖で擦りながらそう言うと、そばに転がっていた大剣を持ち上げてサイクロプスキングから距離をとる様に走り始めた。
 俺も気付け薬の瓶を鞄にしまいながらシェリーの横を走り始める。




「ちっ、全身臭いがとれねぇ」
「後で臭い消しを渡すから今は我慢してくれ。それよりも、サイクロプスキングの魔眼の能力は分かったか?」
「ああ。あれは相手をビビらせて動けなくする能力だ。以前そういう魔法を使う魔物と戦った事があるが、その時と同じ感覚がした」
「ビビらせるってことは強い恐怖を感じさせるって事か?」
「あぁ、そういえばネーシャが恐怖の魔法がどうとか言ってた気がするな」
「それじゃあ、あいつの魔眼はさしづめ恐怖の魔眼って事になるのか」
「別に名前は何でも良いけどよ、何でファルゴは無事だったんだ?」




 確かにサイクロプスキングが相手に恐怖を与える能力を持っているのなら、俺よりもステータスが上のシェリーの方が先に目を覚ましそうな気もする。
 ステータスが原因じゃないとすると残るはスキルなんだけど、俺に何か恐怖に耐性を持つ様なスキルでもあったか?


 そんな事を考えながらステータスカードを取り出して確認してみると、スキルの項目に恐怖耐性LV3の表記があった。
 どうやらこのスキルのお陰で俺は僅か数秒間でサイクロプスキングの魔眼による気絶から復帰した様である。




「おいファルゴ。どうかしたか?」
「あ、ああ。いつの間にか恐怖耐性を身につけてた」
「恐怖耐性か。ユーリアに稽古をつけてもらった時に覚えたのか?」




 あぁ、言われてみればユーリアさんにつけてもらった稽古は強い殺気に耐えられる様になるためのものだったし、確かにそれが原因である気もする。
 エルフの里に来てからはステータスカードの確認は一切してなかったし、おそらくそれで間違い無いだろう。




「ああ。多分そうだと思う」
「そうか。それなら別に逃げ回る必要もねぇな」




 シェリーはそう言うと足を止めて、ポケットからステータスカードを取り出して何やらいじり始めた。




「よし、これであいつの魔眼も恐くねぇな」
「恐怖耐性を覚えたのか?」
「ああ。丁度使ってないステータスポイントがあったからLV3まで覚えといた」




 シェリーはそう言言いながらステータスカードをポケットに閉まって大剣を構え直すと、牙を向きながら獰猛に笑った。
 俺はそんなシェリーのカッコいい顔を横目に眺めながらも、自分のステータスカードを使って恐怖耐性をLV4まで上げておく。
 よし、これであいつの魔眼も効かないだろう。




「おいファルゴ。準備は良いか?」
「ああ。いつでもいけるぞ」




 こうして、俺とシェリーVSサイクロプスキングの第2回戦が始まった。
 サイクロプスキングはすっかり晴れた煙幕から出て来て俺達をジッと睨みつけているし、どうやらあちらさんもかなりやる気らしい。




「っとその前に、臭い消しをくれないか?  物凄く臭い」
「あ、ああ悪い。ほらよ、これを鼻の下に塗れば少しはマシになるはずだ」
「あぁ、助かる。それにしても、一体何を着付けに使ったんだ?」
「ん?  あぁ、……覚悟しろサイクロプスキング!!  お前は俺が倒す!」
「おい!  マジで何を使ったんだよ!  おい!」






 ◇◆◇






 ローズ






「ふむ。やはり一筋縄でいく相手でないか」




 フウマ達と別れた後、妾はグリフォン相手にそこそこの苦戦を強いられておった。
 グリフォンは遠距離攻撃こそして来ぬが、それでも自由自在に天地を駆け回り妾を翻弄しようと動きまわっておる。
 全盛期の妾であればこの程度の相手一撃で仕留められるのじゃが、ステータスが大幅に足りておらぬ今の体ではグリフォンにクロスカウンターを打ち込み続けるので精一杯となってしまっておった。




 ギュェェェ!!




「小癪な!」




 もう幾度と繰り返した様に今回もグリフォンの鋭い爪による攻撃を紙一重でかわして攻撃を仕掛けたのじゃが、避けながらの攻撃では踏み込みが甘くそう大きなダメージには至らない。




「はぁ、いささか面倒になって来たの」




 そうして真紅の大剣を肩に担ぎながらボヤいたその時、妾の独り言に返す声が聞こえて来た。




「ようローズ。調子はどうだ?」
「あら、思ったよりも苦戦しているみたいね」
「なっ!?  お主ら、もう迷宮王を倒して来たのか!?」
「えぇ、まぁ、倒したというよりは寝かしつけたというか…」
「ま、まぁ、エルフの里の障害は取り除いて来たぞ」
「む?  いまいち歯切れが良くないの」
「そ、そんな事ないぞ。それより、苦戦している様なら手伝ってやろうか?」
「そうじゃな。そうしてくれると助かる」
「ふふっ。それじゃあ、私の新技を見せてあげるわ!」




 転移魔法によってフウマと共に降りてきたマイはそう言うと、刀を鞘から抜いて重心をグッと低くしながら刀を腰だめに構えた。




「ふっふっふ。ついに私の新必殺技を披露する時が来たわ」
「新技ってさっき見せてくれたやつとは違うのか?」
「ええ。煌きは刀さえあれば以前から使えたわ。でも、今からやるのは正真正銘初めてやる技よ」
「ふむ。マイの新技とは興味深いの」
「まぁ、見ていれば分かるわ」




 本来なら新技を実践で試すなど言語道断なんじゃが、天賦の才を持っておるマイはそのあたりの問題はものともせんじゃろう。
 それよりも、妾自信マイの剣道という武術には計り知れない何かを感じておるし、マイがここまで自信満々に使う新技がどの様なものなのか興味がある。


 そんな事を考えながらマイの様子を見ておると、マイが目を閉じて瞑想をしている間にグリフォンが妾達に向かって一直線に走って来た。
 それを見たフーマが何でもない様な顔をしながら右手をグリフォンに向けてそのまま腕を横に振る。




「はい。やっぱり突進に対してはかなり有効ですね」
「ほう、転移魔法でグリフォンの位置をずらしたのか」
「ああ。フレンダさんの提案でやってみたけど、これはかなり便利だな。こうして横に転移させるだけで突進は絶対に食らわなそうだ」
「ふむ。流石はフレンダじゃな」




 そんな返事をしながら視界がいきなり変わって驚いているグリフォンからマイに視線を戻すと、舞の刀が柄の方から黒く染まり始めた。
 どうやら昨日暴走しておった時の力を僅か一晩の内に使いこなせる様になった様じゃな。




「修羅の型・弐の奥義、…」




 そう呟いた舞が一層重心を低くしたのを確認したフウマは、再び転移魔法を使ってマイの目の前にグリフォンを転移させた。
 今度も突然の視界の変化に対応できずに固まってしまったグリフォンをめがけ、舞の居合が恐ろしい速度で迫っていく。




「風舞くんのスケコマシィィィィィ!!」




 ギュエェェェェェ!!?




 舞の新必殺技を諸に受けたグリフォンは左の翼を根元から切り裂かれ、胴体にも大きな傷を負った。
 ふむ、魔剣の力を解放させた上で剣術LV1のソニックスラッシュをのせた居合を放ったのか。
 なかなか恐ろしい技を思い付いたものじゃな。


 そんな事を考えながらグリフォンの血と刀身を染める黒い結晶を振り払う舞を眺めていると、フウマがうんざりとした顔をしながら舞に話しかけた。




「なあ舞ちゃん」
「あら、どうしたのかしら風舞くん?」
「もしかして、今のが新必殺技なのか?」
「ええ。今のが私の新必殺技、修羅の型・弐の奥義 風舞くんのスケコマシよ」
「なぁ、その技名ってどうにかならないのか?」
「ええ。だって、今の私じゃあそう叫ばないと昨日の感覚で刀を振れないんですもの」
「あ、そう。その技、スケコマシって叫ばなくてよくなるまでは人前では使わない様にしてくれよ」
「むぅ、少しだけ残念だけど風舞くんが言うのならそうするわ」




 舞は不服そうな顔をしながらそう言うと、満身創痍のグリフォンに刀を向けて神経をとぎすまし始めた。




「ふむ。これは妾も負けてはおれんの」




 新必殺技か。
 妾はここ数百年間新たな技を産み出しておらんかったし、何か新しい技を産み出しても良いかもしれんの。
 妾はそんな事を考えながら、舞の横に並んで大剣を構え直した。

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