クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

72話 剣鬼

風舞






  ソレイドからトウカさんの家まで戻った直後、「かっ」と謎の奇声をあげた舞に思いっきりビンタされて気絶した俺が目を覚ますと、エルセーヌさんによって作戦の説明を受けた皆は既に動き始めていた。




「あぁぁ、首から上が全部痛い」
「オホホホ。随分と派手にぶっ飛ばされていましたものね」
「ああ。首がもげるかと思った」
「すみませんでしたフーマ様」
「あぁ、いえ、トウカさんのせいではないですから気にしなくて良いですよ」




 今回の作戦は大まかに言うと、スタンピードの侵攻をなんとか食い止めている間にエルフの軍隊に援軍要請を出して、魔物対エルフの全面戦争に持ち込むというものである。
 一応エルセーヌさんが裏で動いていたおかげでエルフの少数精鋭による世界樹の調査隊が編成されているらしいのだが、それをもっと大々的にやろうというわけだ。


 里長のハシウスは魔物の発生原因がトウカさんの儀式が不充分なせいだと思っているらしいし、まずは世界樹がダンジョンである事も伝えなくてはならない。
 なんでもハシウスは世界樹と勇者ハヤテによって発展したきたエルフの里を神聖視しているらしく、世界樹がダンジョンであるとエルセーヌさんの口から伝えたら協力関係を解かれそうだったから黙っていたそうだ。
 相変わらずエルセーヌさんはずる賢いというか、諜報活動においてはかなり優秀なようである。


 それはともかくとして、俺とファルゴさん達で世界樹の中に入って下見をした時に確認したように、世界樹の中は魔物がぎっしりと詰まっていて到底俺達だけでは倒しきれる数ではない。
 そこでエルセーヌさんが考えた策はシンプルではあるが、それが故に強力な策だった。
 要は、数には数で対抗しようと考えたのである。


 エルフの軍隊は人数においては一般的な軍隊よりは微妙に劣るが、その軍人の多くがファルシェールさんによって厳しく指導を受けた一騎当千とまではいかなくても一騎当十ぐらいの力を持っているし、しっかりと陣を敷いて準備をすれば魔物の大軍勢相手でも問題なく戦えるだろう。


 問題はその強力な軍隊の支援を受けられるかという点なのだが……




「それにしても…。はぁ、マジでやるのか?」




 俺はもう何度目か分からないため息をつきながら視界に入って来たエルフの里へ入る為の門を見上げてそう言った。
 今回の作戦でエルフの協力を要請しに行くチームは、俺とトウカさんとエルセーヌさんの三名が選出されたのだが、その要請方法がかなりとんでもないものだった。
 いや、別にとんでもないと言う程おかしな内容ではないのだが、里長にお願いしに行く方法としては異様な気がする。




『なんですか、あそこまで啖呵をきっておいて今更怖気づいたのですか?』
「いや、別にそういう訳ではないんですけど、普通に転移魔法で宮殿まで行って里長にお願いしに行くんじゃダメなんですか?」
「オホホ。何度も説明した事ですが仮にそれで里長の協力を取り付けられたとしても、エルフの軍隊は理由も分からずに魔物の軍勢を相手にさせられて士気が上がらない可能性が高いのですわ」
「それはそうなんだけど、それをどうにかする方法がこれ?」




 俺はそう言いながら、トウカさんと組まれている俺の腕を指さした。
 これからエルフの里に入るというタイミングで、エルセーヌさんの用意したエルフの民族衣装を着たトウカさんと、ボタンさんに買ってもらった一張羅を着た俺は腕を組んでいるのである。




「オホホ。そうやって腕を組んでいれば否が応でもご主人様とトウカ様が親密な関係であることを知らしめる事が出来ますし、黒髪の人間と巫が揃って街を歩いていれば、何か特別な事情があるのではないかと里の者達に思わせる事ができます。民衆を動かすには先ずは目立つ事が何よりも重要なのですし、こうしてご主人様とトウカ様が腕を組んでいる事が次の作戦に繋がるのですわ」
「それは分かんなくはないんだけど、何か別の方法があるんじゃないか?」
「オホホ。確かに別の方法があるかもしれませんが、今は一刻を争うわけですしこのまま作戦を続行することをオススメしますわ。それとも、ご主人様はトウカ様と腕を組むのがお嫌なのですか?」
「そうなのですか?」
「あ、いや、全然嫌じゃないです」
「そうでしたか、それならば安心しました」
「オホホホ。ご主人様がトウカ様の、ぐぇぇ」
「はいはい。それじゃあ、さっさと行きましょうか。流石にこの格好は暑いので早く着替えたいです」
「はい。宮殿までよろしくお願いしますね」
「ええ、任せといてください」
「お、オホホ。ご、ご主人様、苦しいですわ」




 こうして、作戦開始の前に最終確認を済ませた俺達は、エルフの里の門番の方へ歩みを進めた。
 俺達の作戦が早く終われば終わるほど舞達の負担が減るわけだし、出来るだけ早く里長の協力をとりに行こう。


 それにしても、舞は俺が気絶している間にダンジョンの中に入ってしまっていたから結局謝罪が出来なかったんだけど、今頃どうしてるのかね。






◇◆◇






 ファルゴ






「死に晒せやぁぁぁ!!」


「な、なぁ、これ、俺達の出番は無くないか?」
「うん。この前来たときは範囲攻撃の手段がないと厳しそうだねなんて話してたけど、マイムがいれば必要無かったんだね」




 フーマ達を家の中に残して、俺とシェリーとユーリアさんとミレンとマイムの5名はスタンピードを少しでも遅らせるために世界樹の中に魔物を倒しに来ていた。
 一度スタンピードが起きてしまったら、数人が外に残っていても膨大な数の前ではどうしようもないという判断でフーマ達以外の全員でダンジョンに潜ったのだが、既にダンジョンに入ってから30分近く経つのに俺の出番が全くない。
 というか、マイム以外の全員が一度も攻撃をしていないのだ。
 ミレンなど持っていた刀をアイテムボックスにしまってしまった程である。




「おお、流石は刀の扱いが得意というだけあって全く攻撃を受けとらんの」
「ああ。以前からマイムは強いと思ってはいたが、刀を持ったマイムは今までとは別格だな」
「うーん。刀を持ったマイムというよりは怒ったマイムが強いと言った方が適切なんじゃないかな」
「ああ。俺もユーリアさんの言うように、ぶちギレたマイムが異常なぐらい強いんだと思うぞ」




 フーマをビンタして気絶させた後から一言も口をきかなかったマイムはダンジョンに入った直後から、魔物の軍勢に向かって一気に切り込んでいって全ての魔物の首を一撃で切り飛ばし続けている。
 マイムの目の前に立った魔物は一瞬で魔石へと姿を変えているし、あいつは死体を一切残さないほど完璧に魔物を倒し続けているみたいだ。




「あぁ、出来るだけそうではないと思いたかったんじゃが、やはりそうじゃったか」
「まぁ、あの様子を見れば怒ってないと言う方が無理があるよね」
「う、うむ。先ほどから魔物を倒しているというよりは八つ当たりしている様にしか見えんし、流石にあれで怒ってないというのは無理があったかもしれぬ」




 確かにミレンの言う様にマイムは魔物に八つ当たりをしている様にしか見えないし、実際に「フーマくんの女ったらし!」とかフーマへの小言をちょくちょく言いながら魔物を倒しているからフーマがトウカさんと腕を組んで帰って来たことにブチ切れてそのストレス発散に魔物を倒しているのは間違いないと思う。
 それに、腕を組んで帰って来るだけならまだしもトウカさんの目が若干赤くなって蕩けてたし、マイムの怒りは猶更なおさら激しいものになっているのだろう。




「それにしても、このペースでダンジョンを突き進んで行ったら世界樹の広さ的に次の階層がそろそろ見つかるんじゃないか?」
「うむ。このダンジョンが外観通りのダンジョンならそろそろ次の階層への階段か入り口が見つかるじゃろうな」
「うわぁ、マイムはまだまだ魔力的にも体力的にも余力を残してそうだし、このまま初めの迷宮王も一人で倒しちゃうかもね」
「流石にそれはないと思うんじゃが……」


「フーマくんのスケコマシィィィ!!」




 マイムのその掛け声とともに放たれた斬撃によって、数多くの魔物が黒い霧となって消えていく。




「いや、それもあるかもしれぬ」
「なぁ、エルセーヌの予想だとこのダンジョンは全部で50階層ぐらいなんだろ?  初めの迷宮王がいるとしたら。第何階層ぐらいになるんだ?」
「こればっかりは実際に行ってみないことには何とも言えんが、おそらく5階層ごとに迷宮王がいるのではないかの」
「うん、僕もそのぐらいだと思うよ。っと、マイムが次の階層への階段を見つけたみたいだね」




 そう言ったユーリアさんの視線の先に目を向けてみると、ちょうど刀を納めながらこちらに歩いて来るマイムの姿が目に入った。
 この階層は横道が無くていくつかの大部屋があるだけの一本道だったから、どうやら本当にこの階層の全ての魔物をマイム一人で倒しきってしまったらしい。


 そんな事を考えながらマッピングしていた地図をこの階層の分だけ完成させていると、マイムがミレンに話しかけながら歩いて来た方向を指さして口を開いた。




「もう少し行ったところに上へ向かう階段を見つけたわ。おそらく次の階層へ向かう階段でしょうね」
「そ、そうか。それよりも、疲れてはおらぬか?」
「ええ。この程度の相手じゃいくら戦っても疲れる事はないわ。それよりも、食べ物と水をもらえないかしら。流石にカロリーと水分は消費したわ」
「一応干し肉とコップは持ってきてるけど、これでも良いかい?」
「ええ。それで十分よ。それじゃあ、私はまた先行して偵察をして来るから、ミレンちゃん達はまた後ろから見ていてちょうだい」
「な、なぁミレン。次は私達も手伝おうか?  流石に一人じゃキツイだろ?」
「いいえ。近くにいたら味方でも切ってしまいそうだし今は一人で大丈夫よ。気持ちだけ受け取っておくわね」




 マイムはそう言ってから水を飲みほしてユーリアさんにコップを返すと、干し肉をくわえて再び刀を抜きながらダンジョンの通路を歩いて行った。
 うわぁ、あのマイムがちっとも笑わずに話してるところなんて始めて見たぞ。
 そういえばフーマがこの前、昔のマイムは殆ど笑わない孤高の存在だったって言ってたけどこんな感じだったのか?


 こんな修羅みたいなやつが近くにいたらどんな奴でも逃げ出すだろ。
 あれじゃあ剣姫っていうより剣鬼だな。
 俺はそんな事を考えながら、マイムの雰囲気のせいで手が震えて描き損じてしまった地図を書き直した。


 おいフーマ。
 マイムをここまで怒らせておいて本当に大丈夫なのか?

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