クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

56話 妖刀星穿ちとの出会い

 舞






 朝食後、予定通りというか話通りに、私とローズちゃんとシェリーさんはターニャちゃんに案内されて宮殿の武器庫へと足を運んでいた。
 武器庫には様々な種類の武器が無造作かつ、丁寧に並べられている。
 おそらく箱や樽に適当に入れられている武器が雑多なよくある普通の品で、棚や机の上に厳かに置かれているものが所謂いわゆる一級品の部類に入るものなのだろう。
 まぁ、その一級品が武器としての性能を持っているのかはまた別の話ではあるのだが。




「ほへぇ、流石はエルフの宮殿の武器庫なだけあって数多くの武器があるのね」
「何じゃ、感嘆した様な台詞のわりにはあまり感情がのっていないの」
「そうね。フーマくんだったらこう言いそうだと思ったから口にしたけれど、ミレンちゃんの言う様にさほど感慨深さは無いわ」
「まぁ、武器庫とは言ってもここは埃っぽくて薄暗い物置に過ぎないからね。マイムがそう思うのも無理は無いっしょ」
「そうか?  私としちゃあ、結構心踊る場所だと思うんだけど」
「まぁ、私の実家にも武器庫はあったし、少なからず武器庫というものに見慣れているからというのもあるのだと思うわ」
「ふむ。確かに妾の知る武器庫も同じ様な雰囲気じゃし、武器庫というのは武器の保存を主に考えれば造りが似るものなのかもしれんの」
「ふーん。まぁ、難しい話を続けても良いんだけど、あんまりここにいたら私の乙女の匂いが誇り臭くなっちゃいそうだし、そろそろマイムの武器を探そうよ」
「ええ。それじゃあ、早速見せてもらうわね」
「うん!  隅々まで探してみて一番気に入ったのを手に取ってみてよ。うちには無駄に古い武器もあるから、何かしらマイムのお眼鏡に叶うものもあると思うよ」
「ふふふ。それはそれは、何とも心踊る話ね」
「結局心踊るんじゃねぇか」




 そんなシェリーさんの小言をかろうじて聞きとりながらも、私は折れてしまった鉄の両手剣に変わる新たなメインウェポンを探し始めた。
 今は一応風舞くんにもらった槍を持ってはいるがやはり剣というか刀が使い慣れているし、メインで使う物は私の戦闘スタイルに合った刃物が良い。
 幸いにも私の勝手なエルフのイメージに反して弓矢以外の武器も豊富に取り揃えているみたいだし、この体育館並みに広い武器庫の中になら私の望む武器もありそうな気がする。


 そう思って、並べられている武器を端から順に眺めながら歩いていると、私の横を歩いていたローズちゃんが置いてあった片手剣を手に取りながら話しかけてきた。




「そういえば、お主は刀が一番使い慣れているのじゃったか?」
「ええ。幼い頃から一番触れていたのが刀だったし、刀が一番好きというか馴染みがあるのよね」
「ふむ。それでは刀を選んでも良いぞ。鉄の剣を買った時のお主はスキルを使うことに慣れておらんかったから折れ辛い剣を持たせたが、お主の剣道という武術とスキルの剣術が噛み合い初めている様じゃし、もう刀でも構わんじゃろう」
「あら、てっきりミレンちゃんには剣を折ったばかりだからお主はもっと頑丈な剣を持て、と言われると思っていたのに少し意外ね」
「お主は戦闘においては二度同じてつを踏む事は無いし、そこのあたりは信頼してるんじゃよ」
「ふふふ。ミレンちゃんに信頼してもらえるというのはかなり嬉しいものね」
「まぁ、妾もお主の剣道というものを見てみたいというのが一番の理由なんじゃがな。それに、身体に馴染んでおる剣道とやらのせいで両刃の剣は使い辛いのじゃろう?」
「あら、バレていたのね」
「戦闘中に剣を持ち直しているのを何度も見れば気付かん訳なかろう」




 ローズちゃんはそう言うと、手に持っていた剣を一度振って棚の上に戻した。
 どうやらあまりお気に召さない武器であったらしい。




「おぉぉ。すげぇカッコいい武器だな」
「えー、それってゴツいだけで別にあんまりいい武器じゃなくない?  それに無駄に大きいし」
「けっ、お前みたいなチャラついた女には分かんねかもしんねぇけど、こういう武器が一番壊れにくいんだよ」
「それはそうかもしんないけど、使いづらくてしょうがないでしょ。それ」
「私が武器に求めんのは戦闘中に私を裏切らないだけだ。それに、武器にケチをつけのは三流のする事なんだぜ」
「はいはい。そういう台詞は私に一度でも攻撃を当てられたらにしようね」
「ちっ、相変わらずムカつく女だ」




 あの二人、初めは相性が悪そうだと思っていたけれど、何だかんだ仲良さそうなのよね。
 シェリーさんは初めはターニャちゃんの視線に寒気がするって言ってたのに、今は挑戦的な目でターニャちゃんの目を睨みつけているし、きっと彼女の中でターニャちゃんの印象が幾らか変わったのだろう。
 ターニャちゃんはターニャちゃんで昨日の晩、一緒にお風呂に入った時はシェリーさんの話しかしていなかったし、互いに少なからず認め合っているみたいだ。


 そんな事を思いながら、言い合いをするターニャちゃんとシェリーさんを見ていると、いつの間にか移動していたローズちゃんが武器庫の奥の方から一振りの刀を持って来た。
 地面に木製の箱が落ちているし、どうやらあの中に入っていたみたいである。




「のうマイム。この刀など良いのではないか?」
「そうね。確かに悪くは無いのだけれど、少し力が足りないみたいだわ」
「力?  力とは切れ味とか魔力の事か?」
「いいえ。いざ説明するとなると難しいのだけれど、その刀はまだ幼いのよ。刀は他の武器とは違って、使い手の癖や思いの影響を受けやすい武器だと私は思うの。その刀は確かに綺麗な刃をしているし結構な業物だとは思うのだけれど、まだまだ成長が足りないわね」




 私が今まで見た中で一番力のある刀は、実家にあった平安時代から受け継がれてきたという脇差だった。
 あの脇差は銘すらも失われて鞘すらもない刃渡り50センチ強の短い刀だったが、私の人生の中で一番重い刀があれだった。
 魑魅魍魎と言っても過言ではない私の血縁者達があの様な古臭い脇差を捨てずに残しておいたのは、その重さを理解している者が我が家には多数いたからなのだと思う。




「ふむ。それも剣道の教えの一つなのかの?」
「いや、これは剣道というよりは私の経験に基づくものね。ミレンちゃんも使い慣れた物や多くの人に使われてきた物を手にすると、重みというか迫力を感じるでしょう?」
「それが刀の力という訳か。何とも興味深い話じゃの」
「まぁ、大層な話をしたけれども、今まで折れずに残ってきた武器の方が実績のある分、信用しやすいというだけの事よ」
「へぇ、それじゃあマイムは古い武器の方が好きって事?」
「まぁ、ざっくり言ってしまえばそういう事ね」
「それじゃあ、うちで一番古い刀を出してあげるよ」




 ターニャちゃんはそう言うと、武器庫の壁に立てかけられている錆びついた刀を持ってきた。
 確かに古い方が良いとは言ったが、流石に武器としてそれはどうなのかと思うぐらいみすぼらしい。
 というより、つかすらもないその刀は刀というよりは錆びた細長い金属板だった。




「ね?  すごい古そうでしょ?」
「確かに古そうではあるけれど、それは本当に刀なのかしら?」
「うん。ママはそうだって言ってたよ。ほら、ここに読めないけど武器の名前っぽいのも書いてあるっしょ?」
「武器の名前?  それは刀以外の武器にも書いてあると思うのだけれど……」




 そう言いながらターニャちゃんの指差す部分を見てみると、そこには私のよく知る文字で彫られた銘が記されていた。
 ていうか、漢字とひらがなで彫られていた。




「妖刀星穿ち。それがこの刀の名前みたいね」
「え?  マイムにはこれが読めんの?」
「ええ。一応読めなくはなかったわ」
「ふーん。それでどう?  これは気に入りそう?」
「ええ、これは最高の刀ね。第一印象は錆びついたボロっちい板っきれだと思ったけれど、名前が気に入ったわ。これをいただけないかしら」
「は?  名前なんかで決めていいのか?  それに、そんな武器じゃ多分何にも切れないと思うぞ?」
「錆は砥げばいいだけだし、自分で妖刀だなんて名乗っちゃう痛い刀だなんて最高でしょう?」
「あぁ、何となくお前がフーマに惚れている理由が分かった気がする」
「ふ、フーマくんは痛くなんかないわよ!  すごくカッコ良いわよ!」
「はいはい。それで、保護者さんとしてはマイムの選んだ武器はどうなんだ?」
「どうもこうもマイムが気に入ったのならそれで良いのではないか?」
「んな適当な」
「見た感じ錆はそこまで深くはないし、武器として使えなくはないじゃろう。それに、こやつがここまで気に入っておるんじゃ。今更他の武器を選べと言っても碌に聞かぬじゃろうよ」
「それじゃあマイムの武器はそれで決まりだね。早速訓練場に行ってママに報告しに行こっか」
「ええ。私も早くこの子を砥いであげたいし、早く行きましょう!」




 こうして、私は『妖刀星穿ち』と出会った。
 材質はやはり錆びているだけあって鉄なのだとは思うのだが、持ってみた感じ鉄にしては重さを感じないし、内側の芯鉄しんがねの部分は別の素材を使っているのかもしれない。
 それに先ほどの重さの話の観点からみると、どういう訳かこの刀には時代を超えてきた重みも、出来立ての刀の様な幼さも何も感じないのだ。
 果たしてそれがどういう理由によるものなのかは分からないが、それはしっかりと砥いで刀として振ってみればある程度察する事が出来ると思う。


 まぁ、何はともあれ私はこの妖刀星穿ちが気に入ったのだ。
 ふふ。確かにフーマくんとよく似た刀だというのも分からなくもないわね。


 私は妖刀星穿ちを抱えてそんな事を考えながら、ローズちゃん達と共に武器庫を後にした。






◇◆◇






風舞






「あ、ちょっと待ってくださいファルゴさん」
「は?  この家に入るんじゃなかったのか?」




 引き続きエルフの里から歩き続けて数分。
 俺たち仲良し3人組はトウカさんの家の前にようやく到着した。
 里からはそこそこ離れているし、少しでも道を外れたら迷って出て来れない森に囲まれているなんて、トウカさんの家は交通アクセスが最悪だと思う。




「まぁ、そうなんですけど。もしかしたらお疲れのトウカさんが寝ているかもしれないので、まずはユーリアくんを呼びましょう」
「だから、とりあえずノックすれば良いんじゃないのか?」
「いえ、ユーリアくんを召喚します」
「は?  召喚ってユーリアさんはその家の中にいるんだろ?」
「まぁ、あまり時間はかけないのでちょっと待ってください」
「はぁ、好きにしろ」




 そうしてファルゴさんに再び芸を披露するお時間をいただけた俺は、エルセーヌさんに目配せをして自分の中でカッコいいと思うポーズをとった。
 そんな俺の目の前に、エルセーヌさんの登場シーンの時とは色違いの魔法陣と光が展開される。
 今回も演出監督エルセーヌさんの作品は素晴らしい出来栄えだ。


 さて、俺は何か小粋な詠唱をしないと………。




「えーっと、遊ぼうぜユーリアくん」




 正直、何も思い浮かばなかった。




「はぁ、それのどこが召喚魔法なんだよ。ユーリアさんも現れてねぇし」
「あっれぇ?  おかしいですね。ユーリアくんなら今ので出て来て…」




 そう俺が言おうとした時、トウカさんの家の玄関からエプロンをして三角巾を身につけたユーリアくんがドアを開けて出てきた。
 箒と塵取りも持っているし、どうやら掃除中だったみたいである。




「やぁ、いらっしゃい。フーマの召喚に応じて出て来たよ」
「ほら、やっぱり俺の召喚魔法は成功してたじゃないですか」
「うるせぇ!」




 そうして、ファルゴさんに尻を蹴られるというちょっぴり悲しい出来事を作りつつも、俺は親友のユーリアくんと数時間ぶりに再開した。





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