クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...
48話 前の自分
風舞
スタバの店員さんにファルゴさん達は闘技場に向かったと聞いた俺とローズは、一度舞と合流するために世界樹の下にあるトウカさんの家へと向かう帰路についていた。
「それにしても、トウカさん家ってなんか不思議な家だよな。なんていうか、家が世界樹にめり込んでるみたいだ」
「ふむ。それはおもしろい例えじゃが、実際には世界樹を削って作ったのではないか?」
「それだと世界樹なら削った端から修復してっちゃうんじゃないか?  世界樹って多分、回復力凄いんだろ?」
「それもそうか。しかしそうなると、これがどうやってできたのか妾には想像もつかんの」
「フレンさんはどう思いますか?」
『そうですね。私の推測ですと、この家は世界樹が出来た時からずっとあったのだと思います』
「え?  どういう事です?」
「フレンは何と言ったんじゃ?」
「世界樹が出来た時からあったんじゃないかって」
『世界樹は普通の樹木とは異なりますし、そうであってもおかしくはないでしょう?』
「でも、世界樹だって樹であるなら初めは小さい芽から大きくなっていったんじゃないですか?」
「いや、妾も樹木という先入観に捕らわれておったが、世界樹は元からこの大きさであったかもしれんぞ」
「元からこの大きさなんて事あんのか?」
「それは妾には分からんが、少なくとも妾が産まれた千年前から世界樹は天を衝く大樹だと言われておった。それならば、世界樹が生えてきた時からこの大きさである事もあり得るのではないか?」
世界樹が生えてきた時からこの大きさか。
確かに世界樹ユグドラシルは普通の植物とは全然違うし、ローズが産まれるよりもかなり前に一晩でこのサイズまで成長してもおかしくはない気がする。
「なんか、ダンジョンみたいだな」
「む?  どういう事じゃ?」
「だって、ダンジョンって急に出てくるもんなんだろ?  それに世界樹は魔物も出てくるらしいし、葉っぱとか朝露とかお宝も手に入る。ほら、凄ぇダンジョンっぽいじゃん」
殆どが既に攻略されているソレイドのダンジョンではお宝を見つけられなかったけど、普通はダンジョンではお宝が出てくるもんらしいし、仮に世界樹がダンジョンならお宝として傷薬に使える葉っぱとか手に入りそうな気もする。
「………」
『………』
「あのー。俺何かマズい事言いました?」
「フーマ。もしかするとお主のその説は的を得ているかもしれんぞ?  世界樹はこうして魔物が湧き出るよりも前から精霊が住むと言われておったが、その精霊も魔物の一種であると考えれば、少なくともフーマの考えに矛盾は生まれぬ」
『驚きましたよフーマ。まさか貴方がその様な興味深い説を上げるとは思いもしませんでした』
「でも、俺は冗談で言っただけだし、仮に世界樹がダンジョンならトウカさんはダンジョンに住んでる事になるぞ?」
「それはそうじゃがダンジョンは様々なものがあるし、お主の考えも強ち間違ってないかもしれんの」
「えぇ、そう言われると急にこの家が怖くなってきたんだけど」
『全く、情けない人間ですね』
「全く、フーマは怖がりじゃな。今戻ったぞ」
世界樹が本当にダンジョンかもしれないと二人に言われてトウカさんの家に入るのを微妙に尻込みしていると、ローズがクスクスと笑いながらドアを開けて中に向かって声をかけた。
それに続いて俺も少しビクつきながら中に入ると、エプロンをかけている舞が奥からやって来た。
「あら、二人だけなのかしら?」
「うむ。他の者は訓練場に行ったそうじゃ」
「そうだったのね」
「なぁ、マイム。何かあったのか?」
「ええ。トウカさんが用意してくれたお茶が残ってるからそれを飲みながら話しましょう。少し喉が渇いているのよ」
舞はそう言うと、玄関から入ってすぐのところにあるソファーへと向かってドサリと腰掛けた。
なんか凄い疲れてるな。
俺はそんな舞を見ながら、テーブルの上に置いてあったコップに同じくテーブルの上にあったポットに入ったお茶を注ぎながら舞に声をかけた。
「それで、何があったんだ?  トウカさんはいないのか?」
「トウカさんは体調不良で寝ているわ」
「そうか。……ごめん」
「何でフーマくんが謝るのかしら?」
「俺はトウカさんが体調が悪いのを知ってた」
「それでどうしてフーマくんが謝る事になるのかしら?」
「普通、病人がいたら外に連れ出さないで休ませるだろ?  それなのに俺はトウカさんが大丈夫だって言うのを聞いて彼女の好意に甘えたんだ」
「そんな事は……。いえ、そう思うのならトウカさんのために病色を作ったらどうかしら?  きっとトウカさんも喜んでくれると思うわよ」
「ああ、そうだな。それじゃあ早速行ってくるわ」
◇◆◇
舞
風舞くんが台所へと向かった後、リビングに残った私とローズちゃんは向かい合ってソファーに座っていた。
「すまんなマイム」
「あら、ミレンちゃんもトウカさんが体調が悪いのを知っていたのかしら?」
「うむ。トウカが無理をしておったのは昨日の晩にフーマから聞いておった」
「そう。何となく察しはつくけれども、トウカさんをそのままにしていた理由を一応聞いても良いかしら?」
「そうじゃな。今となっては言い訳に過ぎんが、トウカがユーリアに会いたいと言っておったのと巫として弱味を見せまいとしておったのを見て、少し思うところがあったんじゃ」
ローズちゃんが自分の持っているコップを見つめながら、そっと息を吐く様にそう言った。
魔王として多くの民を導いていた頃のローズちゃんは、自分の弱味を見せまいとして周りの魔族の人達から距離をとって生きていたらしい。
そんな以前の自分と、エルフの里の為に巫として一人で強く生きようとする弟想いのトウカさんが、フレンダさんの姉でもあるローズちゃんには重なって見えてしまったのかもしれない。
「ねぇローズちゃん。ローズちゃんは今、私達と一緒にいて楽しい?」
「何じゃ急に」
「答えてちょうだい」
「ふむ、そうじゃな。楽しい、楽しいぞ。マイがいて、フウマがいて、シルビアやアン。それにボタンやミレイユやソレイドに住む者達、それにファルゴやシェリーやユーリア。あぁ、後は声すらも聞けぬがフレンダやエリスも傍におったな。妾にとって、お主達と共に歩む今の生活は既にかけがえのないものになっておる」
「それじゃあ、それをトウカさんにも教えてあげれば良いんじゃないかしら?  魔王として常に強くあろうとするローズちゃんの姿もカッコいいと思うけれど、やっぱり私としてはローズちゃんに頼ってもらえる方が嬉しいものよ」
「そうか。いや、そうじゃったな。マイに気づかされるとは妾もまだまだじゃな」
「もう!  折角私が良い話をしてるのに、どうしてそういう事言うのよ!」
「ありがとうマイ。魔の樹海で出会ったのがお主達で本当に良かった」
「も、もう。ローズちゃんはずるいわ」
私はそう言いながらローズちゃんの元へ歩いて行き、彼女をそっと抱きしめた。
ローズちゃんのいつもの落ち着く香りと、彼女の幼い体の高い体温が凄く心地の良いものに感じる。
「なぁマイム。妾はもう大丈夫じゃからフーマの様子を見て来てくれ。さっきからフーマの事が気になっておるんじゃろう?」
「そ、そうね。ちなみに、その間ミレンちゃんはどうするのかしら?」
「妾は訓練場まで行ったユーリアを呼んでくる。どうせここで座っておってもやる事がないしの」
「そう。場所は分かるのかしら?」
「それなら、おいエリス」
「オホホ。どうかなさいましたか魔王様」
「うわっ!  いつからそこに居たのよ」
ローズちゃんが立ち上がりながらエリスと呼ぶと、いつに間にか彼女の座っていたソファーの後ろにエルセーヌが立っていた。
ちっ、相変わらず腹たつドリルヘアーね。
「オホホ。私は遍在する女ですの。どこにでもいて、どこにもいない。それが私なのですわ」
「おいエリス。マイムは妾の大事な仲間じゃ。無礼を働く様ならケツを殴るぞ」
「す、すみませんでした陛下!  初めましてマイム様。私、本日からフーマ様の従魔となりましたエルセーヌと申します。エリスは私の本名ですので、エルセーヌと呼んでいただけると幸いです」
「あらそう。私はフーマくんのこい……ソウルメイトのマイムよ。見知りおきなさい」
「ふむ。自己紹介は済んだ様じゃな。それで話は聞いておったんじゃろ?」
「はい。訓練場までご案内すればよろしいのですのよね?」
「うむ。という訳じゃマイム。妾は少し出かけてくるから、後の事は頼んだぞ」
「ええ。それじゃあ行ってらっしゃいミレンちゃん……とエルセーヌ」
「オホホ。行って参りますわマイム様」
ちっ、今こいつ私の顔を見てニヤってしやがったわ。
折角私が仲良くしようと歩み寄ってあげたのに、生意気な女ね。
「はぁ、お主らはもうちょっと仲良く出来んのか」
「だってぇ、こいついきなり現れてフーマくんと主従契約を結んでるのよ!?  こんな泥棒猫をフーマくんの側に置いとくなんて腹が立つじゃない!」
「はぁ、それで対抗心を燃やして恋人と言おうとしておったのか」
「べ、別に言おうとしてないしぃ?  言おうとしてないしぃ?」
「オホホ。図星だった様ですわね」
「もう、何なのよこいつ!  何でこんなイライラさせるのが得意なのよ!  いくら悪魔だからって話してるだけでここまでイライラする人に会うのは初めてだわ!」
「何じゃ、気づいておったのか?」
「ええ。エルセーヌに襲われた時アセイダルと戦った時と同じ感じがしたし、何となくそうなんじゃないかって思ってたのよ」
「オホホ。正確には私は半分が悪魔で半分が吸血鬼なので、マイム様は半分不正解ですわね」
「ねぇミレンちゃん。こいつ殴って良いかしら?」
「別に妾は構わんが、そやつはフーマの所有物じゃぞ?」
「もう!  そこが1番ムカつく所なのよ!  私ですらフーマくんに命令された事ないのに、何でこんなぽっと出の怪しい女がフーマくんのペットになってるのよ!」
「オホホ。それはフーマ様が私を必要としてくださったからではないですか?」
「おいエリス。嘘をつくのもそこまでにせんか。そろそろ日も暮れ始めるし、さっさと行くぞ」
「オホホ。という訳ですのでマイム様。私は失礼致します」
「ちっ、外でくたばってくると良いわ」
「ではマイム。今度こそ妾は出かけて来るから、後の事は任せたぞ」
「ええ。任せといてミレンちゃん。それと、そのオホホ女は外に捨てて来てちょうだい」
「まぁ、考えておくのじゃ。では行ってくる」
「はい。行ってらっしゃい」
「み、ミレン様!?  私を捨てるというのは冗談ですわよね?」
「さぁの。妾の気分次第じゃ」
「ミレン様!?」
そうしてローズちゃんと、風舞くんにつけ入ろうとする忌々しいオホホ女は騒がしく話しながらエルフの里の方へ歩いて行った。
はぁ、精神的に大分疲れたけれど、そろそろ予定通りに風舞くんの所に行くとしますか。
きっと優しい彼はトウカさんの体調の悪さを見て見ぬ振りをしてしまった事への自責の念で落ち込んでいるでしょうし、こういう時こそ恋…パートナーである私の出番よね!
私はそんな事を考えながら、風舞くんのいる台所の方へと歩いて行った。
スタバの店員さんにファルゴさん達は闘技場に向かったと聞いた俺とローズは、一度舞と合流するために世界樹の下にあるトウカさんの家へと向かう帰路についていた。
「それにしても、トウカさん家ってなんか不思議な家だよな。なんていうか、家が世界樹にめり込んでるみたいだ」
「ふむ。それはおもしろい例えじゃが、実際には世界樹を削って作ったのではないか?」
「それだと世界樹なら削った端から修復してっちゃうんじゃないか?  世界樹って多分、回復力凄いんだろ?」
「それもそうか。しかしそうなると、これがどうやってできたのか妾には想像もつかんの」
「フレンさんはどう思いますか?」
『そうですね。私の推測ですと、この家は世界樹が出来た時からずっとあったのだと思います』
「え?  どういう事です?」
「フレンは何と言ったんじゃ?」
「世界樹が出来た時からあったんじゃないかって」
『世界樹は普通の樹木とは異なりますし、そうであってもおかしくはないでしょう?』
「でも、世界樹だって樹であるなら初めは小さい芽から大きくなっていったんじゃないですか?」
「いや、妾も樹木という先入観に捕らわれておったが、世界樹は元からこの大きさであったかもしれんぞ」
「元からこの大きさなんて事あんのか?」
「それは妾には分からんが、少なくとも妾が産まれた千年前から世界樹は天を衝く大樹だと言われておった。それならば、世界樹が生えてきた時からこの大きさである事もあり得るのではないか?」
世界樹が生えてきた時からこの大きさか。
確かに世界樹ユグドラシルは普通の植物とは全然違うし、ローズが産まれるよりもかなり前に一晩でこのサイズまで成長してもおかしくはない気がする。
「なんか、ダンジョンみたいだな」
「む?  どういう事じゃ?」
「だって、ダンジョンって急に出てくるもんなんだろ?  それに世界樹は魔物も出てくるらしいし、葉っぱとか朝露とかお宝も手に入る。ほら、凄ぇダンジョンっぽいじゃん」
殆どが既に攻略されているソレイドのダンジョンではお宝を見つけられなかったけど、普通はダンジョンではお宝が出てくるもんらしいし、仮に世界樹がダンジョンならお宝として傷薬に使える葉っぱとか手に入りそうな気もする。
「………」
『………』
「あのー。俺何かマズい事言いました?」
「フーマ。もしかするとお主のその説は的を得ているかもしれんぞ?  世界樹はこうして魔物が湧き出るよりも前から精霊が住むと言われておったが、その精霊も魔物の一種であると考えれば、少なくともフーマの考えに矛盾は生まれぬ」
『驚きましたよフーマ。まさか貴方がその様な興味深い説を上げるとは思いもしませんでした』
「でも、俺は冗談で言っただけだし、仮に世界樹がダンジョンならトウカさんはダンジョンに住んでる事になるぞ?」
「それはそうじゃがダンジョンは様々なものがあるし、お主の考えも強ち間違ってないかもしれんの」
「えぇ、そう言われると急にこの家が怖くなってきたんだけど」
『全く、情けない人間ですね』
「全く、フーマは怖がりじゃな。今戻ったぞ」
世界樹が本当にダンジョンかもしれないと二人に言われてトウカさんの家に入るのを微妙に尻込みしていると、ローズがクスクスと笑いながらドアを開けて中に向かって声をかけた。
それに続いて俺も少しビクつきながら中に入ると、エプロンをかけている舞が奥からやって来た。
「あら、二人だけなのかしら?」
「うむ。他の者は訓練場に行ったそうじゃ」
「そうだったのね」
「なぁ、マイム。何かあったのか?」
「ええ。トウカさんが用意してくれたお茶が残ってるからそれを飲みながら話しましょう。少し喉が渇いているのよ」
舞はそう言うと、玄関から入ってすぐのところにあるソファーへと向かってドサリと腰掛けた。
なんか凄い疲れてるな。
俺はそんな舞を見ながら、テーブルの上に置いてあったコップに同じくテーブルの上にあったポットに入ったお茶を注ぎながら舞に声をかけた。
「それで、何があったんだ?  トウカさんはいないのか?」
「トウカさんは体調不良で寝ているわ」
「そうか。……ごめん」
「何でフーマくんが謝るのかしら?」
「俺はトウカさんが体調が悪いのを知ってた」
「それでどうしてフーマくんが謝る事になるのかしら?」
「普通、病人がいたら外に連れ出さないで休ませるだろ?  それなのに俺はトウカさんが大丈夫だって言うのを聞いて彼女の好意に甘えたんだ」
「そんな事は……。いえ、そう思うのならトウカさんのために病色を作ったらどうかしら?  きっとトウカさんも喜んでくれると思うわよ」
「ああ、そうだな。それじゃあ早速行ってくるわ」
◇◆◇
舞
風舞くんが台所へと向かった後、リビングに残った私とローズちゃんは向かい合ってソファーに座っていた。
「すまんなマイム」
「あら、ミレンちゃんもトウカさんが体調が悪いのを知っていたのかしら?」
「うむ。トウカが無理をしておったのは昨日の晩にフーマから聞いておった」
「そう。何となく察しはつくけれども、トウカさんをそのままにしていた理由を一応聞いても良いかしら?」
「そうじゃな。今となっては言い訳に過ぎんが、トウカがユーリアに会いたいと言っておったのと巫として弱味を見せまいとしておったのを見て、少し思うところがあったんじゃ」
ローズちゃんが自分の持っているコップを見つめながら、そっと息を吐く様にそう言った。
魔王として多くの民を導いていた頃のローズちゃんは、自分の弱味を見せまいとして周りの魔族の人達から距離をとって生きていたらしい。
そんな以前の自分と、エルフの里の為に巫として一人で強く生きようとする弟想いのトウカさんが、フレンダさんの姉でもあるローズちゃんには重なって見えてしまったのかもしれない。
「ねぇローズちゃん。ローズちゃんは今、私達と一緒にいて楽しい?」
「何じゃ急に」
「答えてちょうだい」
「ふむ、そうじゃな。楽しい、楽しいぞ。マイがいて、フウマがいて、シルビアやアン。それにボタンやミレイユやソレイドに住む者達、それにファルゴやシェリーやユーリア。あぁ、後は声すらも聞けぬがフレンダやエリスも傍におったな。妾にとって、お主達と共に歩む今の生活は既にかけがえのないものになっておる」
「それじゃあ、それをトウカさんにも教えてあげれば良いんじゃないかしら?  魔王として常に強くあろうとするローズちゃんの姿もカッコいいと思うけれど、やっぱり私としてはローズちゃんに頼ってもらえる方が嬉しいものよ」
「そうか。いや、そうじゃったな。マイに気づかされるとは妾もまだまだじゃな」
「もう!  折角私が良い話をしてるのに、どうしてそういう事言うのよ!」
「ありがとうマイ。魔の樹海で出会ったのがお主達で本当に良かった」
「も、もう。ローズちゃんはずるいわ」
私はそう言いながらローズちゃんの元へ歩いて行き、彼女をそっと抱きしめた。
ローズちゃんのいつもの落ち着く香りと、彼女の幼い体の高い体温が凄く心地の良いものに感じる。
「なぁマイム。妾はもう大丈夫じゃからフーマの様子を見て来てくれ。さっきからフーマの事が気になっておるんじゃろう?」
「そ、そうね。ちなみに、その間ミレンちゃんはどうするのかしら?」
「妾は訓練場まで行ったユーリアを呼んでくる。どうせここで座っておってもやる事がないしの」
「そう。場所は分かるのかしら?」
「それなら、おいエリス」
「オホホ。どうかなさいましたか魔王様」
「うわっ!  いつからそこに居たのよ」
ローズちゃんが立ち上がりながらエリスと呼ぶと、いつに間にか彼女の座っていたソファーの後ろにエルセーヌが立っていた。
ちっ、相変わらず腹たつドリルヘアーね。
「オホホ。私は遍在する女ですの。どこにでもいて、どこにもいない。それが私なのですわ」
「おいエリス。マイムは妾の大事な仲間じゃ。無礼を働く様ならケツを殴るぞ」
「す、すみませんでした陛下!  初めましてマイム様。私、本日からフーマ様の従魔となりましたエルセーヌと申します。エリスは私の本名ですので、エルセーヌと呼んでいただけると幸いです」
「あらそう。私はフーマくんのこい……ソウルメイトのマイムよ。見知りおきなさい」
「ふむ。自己紹介は済んだ様じゃな。それで話は聞いておったんじゃろ?」
「はい。訓練場までご案内すればよろしいのですのよね?」
「うむ。という訳じゃマイム。妾は少し出かけてくるから、後の事は頼んだぞ」
「ええ。それじゃあ行ってらっしゃいミレンちゃん……とエルセーヌ」
「オホホ。行って参りますわマイム様」
ちっ、今こいつ私の顔を見てニヤってしやがったわ。
折角私が仲良くしようと歩み寄ってあげたのに、生意気な女ね。
「はぁ、お主らはもうちょっと仲良く出来んのか」
「だってぇ、こいついきなり現れてフーマくんと主従契約を結んでるのよ!?  こんな泥棒猫をフーマくんの側に置いとくなんて腹が立つじゃない!」
「はぁ、それで対抗心を燃やして恋人と言おうとしておったのか」
「べ、別に言おうとしてないしぃ?  言おうとしてないしぃ?」
「オホホ。図星だった様ですわね」
「もう、何なのよこいつ!  何でこんなイライラさせるのが得意なのよ!  いくら悪魔だからって話してるだけでここまでイライラする人に会うのは初めてだわ!」
「何じゃ、気づいておったのか?」
「ええ。エルセーヌに襲われた時アセイダルと戦った時と同じ感じがしたし、何となくそうなんじゃないかって思ってたのよ」
「オホホ。正確には私は半分が悪魔で半分が吸血鬼なので、マイム様は半分不正解ですわね」
「ねぇミレンちゃん。こいつ殴って良いかしら?」
「別に妾は構わんが、そやつはフーマの所有物じゃぞ?」
「もう!  そこが1番ムカつく所なのよ!  私ですらフーマくんに命令された事ないのに、何でこんなぽっと出の怪しい女がフーマくんのペットになってるのよ!」
「オホホ。それはフーマ様が私を必要としてくださったからではないですか?」
「おいエリス。嘘をつくのもそこまでにせんか。そろそろ日も暮れ始めるし、さっさと行くぞ」
「オホホ。という訳ですのでマイム様。私は失礼致します」
「ちっ、外でくたばってくると良いわ」
「ではマイム。今度こそ妾は出かけて来るから、後の事は任せたぞ」
「ええ。任せといてミレンちゃん。それと、そのオホホ女は外に捨てて来てちょうだい」
「まぁ、考えておくのじゃ。では行ってくる」
「はい。行ってらっしゃい」
「み、ミレン様!?  私を捨てるというのは冗談ですわよね?」
「さぁの。妾の気分次第じゃ」
「ミレン様!?」
そうしてローズちゃんと、風舞くんにつけ入ろうとする忌々しいオホホ女は騒がしく話しながらエルフの里の方へ歩いて行った。
はぁ、精神的に大分疲れたけれど、そろそろ予定通りに風舞くんの所に行くとしますか。
きっと優しい彼はトウカさんの体調の悪さを見て見ぬ振りをしてしまった事への自責の念で落ち込んでいるでしょうし、こういう時こそ恋…パートナーである私の出番よね!
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