クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

45話 従魔契約

 舞






 ユーリアさんにかけられた麻痺から数分で復帰した私とローズちゃんは勢いよくスタバから飛び出したのだが、当然のことながら直ぐには風舞くんの姿を確認できなかった。
 それで一先ずは二人で手分けして探す事になったのだけれど、ローズちゃんとの合流の時間になっても風舞くんの影すらも掴めずにいる。




「ダメね。上から見てきたけれど見当たらないわ」
「妾の方も同じじゃ。やはりフーマは気配遮断を使っているようじゃな」
「トウカさんの方はどうかしら?」
「そっちも同じじゃ。あの娘はユーリアと同じくらいの強者じゃろうし、気配遮断くらい覚えてるんじゃろう」
「もう! フーマくんはトウカさんと二人っきりでどこに行ったのよ!」




 昨日の昼すぎに異様なサイクロプスのせいで風舞くんと離れ離れになって、今日の昼にようやく再開できたと思ったら何故か彼はローズちゃんに文字通り尻に敷かれていた。
 ローズちゃんの話だと、深夜に風舞くんに起こされて口にするのもはばかられる様な凄い辱めを受けた為、その罰を与えていたらしい。


 うらやま、じゃなくて破廉恥だわ!
 その上貧乳美人お姉さんであるトウカさんと二人でどこかへ行ってしまったし、何としても風舞くんを捕まえて反省してもらなくてはならないわね。


 そんな事を考えて決意を固める私の横で、ローズちゃんがここら辺で群を抜いて高い建物である時計塔を見上げながら口を開いた。




「む?  今の気配はもしや……」
「どうしたのミレンちゃん?  もしかしてフーマくんの気配を掴んだのかしら?」
「あぁいや、そうではないんじゃが、しかし…」
「どうしたの?  何か気になる事でもあるのなら話してちょうだい」
「う、うむ。それが、妾の古い知り合いの気配が一瞬だけしたんじゃ」
「え?  それってミレンちゃんを追って来たって事かしら?」




 元魔王であるローズちゃんは謀反を起こされて逃亡中の身。
 謀反を起こした人が追手を差し向けてきても不思議ではない。




「いや、おそらくそういう訳ではないはずじゃ。あやつはフレ…妾の妹の従順な下僕じゃったし」
「下僕?  どういう事かしら?」
「話は後じゃ。妾の勘違いかもしれぬし、先ずは時計塔へ行ってみるぞ」
「あ、ちょっと待ってちょうだい」


 そうして、私は歩き始めたローズちゃんの後を追って時計塔に向かう事となった。
 はぁ、風舞くんはどこに行ったのかしら。






 ◇◆◇






 風舞






 引き続き時計塔の展望階にて、俺はエリスさんというオホホが口癖の女性に馬乗りになって、フレンダさんに彼女の簡単なプロフィールを聞いていた。


 ちなみに、俺達の事情を何となく察してくれたトウカさんは俺達から目を逸らしながら階段の近くに立っている。
 おそらく俺達の口元の動きを見ないためにああしてくれているのだろう。
 あの様子ならギフトの力もオフにしてフレンダさんの声も聞かないようにしてくれてるんだろうし、トウカさんはかなり真面目な女性である様だ。




「ほほう。つまりこの人はフレンダさんの部下なのか」
『はい。付け加えて言うのなら、そのがまだ歩くことすら出来ない幼少の頃から私が面倒を見ていましたから、私が母替わりであったと言っても過言ではないでしょう』
「お、オホホ。どうして貴方がその事を知っているのですか?」




 フレンダさんによると、彼女はエリスという名前でフレンダさんの下で俗に言う暗部の仕事をしていた魔族らしい。
 なんでもフレンダさんが直々に結界魔法や諜報技術を叩き込んだらしく、魔族の中でもその存在だけは有名だが本名や性別は一切知られていない優秀な諜報員であるそうだ。




「ん?  それじゃあフレンダさんの命令でエルフの里にいるんですか?」
『いえ、私が自らの結界に自身を封じた時は何も命令を出していなかったので、単独行動か寝返ったのだと思います。聞いてみてくれませんか?』
「フレンダさんを裏切ったんですか?」
「お、オホホ。わたくしがご主人様を裏切るような事はありませんわ」
『どうやら本当の様ですね。嘘をつく時の癖が出ていません』
「よく分かりますね」
『まぁ、私がわかる癖が出る様に育てましたから』




 怖っ!
 人が嘘をついても分かるように、嘘をつく時の癖をつけさせるってどういう事だよ。
 映画で少年兵がそういう訓練というか調教を受けていたけど、フレンダさんも同じ様な事をやったのか?




「それじゃあ、何でエルフの里にいるんですか?」
「オホホ。観光で………」
『嘘ですね』
「嘘なんですね」
「オホホ。何を言っているのですか?」
「もう薄々気づいてると思うんですけど、ちょうど今フレンダさんもこの光景を見てるんで正直に言った方が良いと思いますよ?」




 こうして俺に馬乗りにされていても全く抵抗しないし、初めに俺が尻を叩くぞと言いながら飛びかかった時にはフレンダさんの影をエリスさんも感じていたのだと思う。




「お、オホホ。安住の地を求めて来ました」




 エリスさんが諦めがついた様な顔でそう言った。
 安住の地?
 何だそりゃ?




「安住の地って何ですか?」
『さぁ?  私にも分かりません』
「そ、それはその………」
「何か言いづらい話なんですか?」
「オ、オホホ。別に大した事ではありませんわ」
『早く話しなさい』
「早く話せって言ってます」
「は、はい。その、普通の生活がしたいと思ってフレンダ様が結界に自身を封じられたと聞いた時に帝国から逃げました。それで、従魔契約も解けているのでしばらくは普通の女の子の様に恋をしたりおしゃれなレストランで働きたいと思い、エルフの里まで来ました」




 あらま、もうオホホって言わなくなっちゃったし、細い目から涙がこぼれちゃってるよ。
 それにしても、さっきフレンダさんは自分の事を部下に慕われる素晴らしい女性だって言ってたのに、どう見ても恐れられてんじゃん。
 普通の生活がおくりたいって言ってガチ泣きする人初めて見たぞ。




「えーっと。それでどうしてエルフの里に?」
「その、角を隠して目の色さえ変えれば私はエルフに紛れやすいので」
「角?」
『エリスは悪魔と吸血鬼のハーフヴァンパイアなのです。そのおかしな髪型は悪魔の特徴である黒い角を隠すためのものでもあります』




 あぁ、なるほど。
 それでさっきからこの人と話すと微妙にムカッとするのか。
 アセイダルやキキョウと話していた時も同じような感覚だったし、悪魔と体面した時の現象が今も起こっているのだろう。


 それにしても、魔物の一種である悪魔と魔族である吸血鬼の間で子供が産まれるもんなのか。
 悪魔は人族と魔族両方の敵だし、それが原因で親に捨てられたところをフレンダさんに拾われて良いように使われてきたのかもしれない。
 そう考えるとこのエリスという女性はなんだか不憫だな。


 そんな事を考えながらそのエリスさんのマウントポジションについたままで、彼女に憐れみの目を向けていると、エリスさんがさめざめと涙を流しながら口を開いた。




「あ、あの。この後私にはどの様な罰がくだされるのでしょうか?」
『今すぐ全ての服を脱がしてフーマがエリスの尻を叩く罰です』
「鬼かっ!!」
「ヒィッ!」『吸血鬼ですが?』
「はぁ、今回エリスさんに罰はありません。当分はフレンダさんは結界に封じられたままなので、好きに生きてください」
『おいフーマ!  何を勝手な事を言っているのですか?』
「で、ですが、フレンダ様は今の会話を見ておられるのですよね?  フレンダ様が復活なされた時に私はどのような罰を受けるのか………」
「その時は俺がローズに頼んでフレンダさんを押さえてもらいますから安心してください」
『お姉さまを引き合いに出すとは卑怯ですよ!』
「ま、魔王様とも面識がおありなのですか?」
「ええまぁ。面識があるっていうか、最近は一緒に行動しています」
「一緒にですか?  魔王様は貴方と共にいらっしゃらなかったと思いますが」
「ん?  それはどういう事ですか?」
「いえ、何でもありません」
「そうですか。それじゃあフレンダさん。もうエリスさんを解放しますよ?」
「待ってください」『待ちなさい』
「え?  何ですか?」




 何でフレンダさんとエリスさんの両方からストップがかかるんだ?
 フレンダさんはともかく、エリスさんはもう俺に用は無いんじゃないのか?




『フーマ。始めに言ったとおり、その子と従魔契約を結びなさい』
「従魔契約ですか?  さっきエリスさんも言ってましたけど、それって何です?」
「私と従魔契約を結んでくださるのですか?  ぜひお願いします!」
「ちょ、ちょっと待ってください。その従魔契約って何なんですか?」
「従魔契約とは魔物と人族や魔族が結ぶ主従契約の事です。スキルの調教や契約魔法などいくつかのスキルや魔法を併用することで行うことができます」
「それで、どうして俺とエリスさんが従魔契約を結ぶことになるんですか?」
「フレンダ様が復活なされた時に、フーマ様に私の身をお守りいただくためでございます」
「えぇ、なんじゃそりゃ」
『はぁ、このの言う事はともかく、魔族領域では従魔契約のなされていない魔物は好きに狩っていいという風習というか文化があるのです。エリスは吸血鬼に加えて悪魔の形質も持っていますから、万が一悪魔だと判断されれば他の魔族に狩られるおそれがあります』




 なるほど。
 つまりフレンダさんが今まではエリスさんの身元保証人になっていたけど、フレンダさんが結界に自分を封じたせいでエリスさんとの従魔契約が解けたから、フレンダさんが復活するまでは俺に代理の保証人になってもらいたいという事か。
 なんだかんだ言っても、フレンダさんにも自分の育てたエリスさんを思いやる気持ちがあるんだな。




「へぇ、フレンダさんはエリスさんが心配だったんですね」
『え?  違いますよ?  私がお仕置きする前にどこの馬の骨かも分からないような者に殺されて欲しくないだけです』




 前言撤回。
 やっぱりこの人だめだわ。
 フレンダさんのこんなに酷いセリフは絶対にエリスさんには聞かせられない。




「はぁ、分かりました。俺で良ければ契約を結びます」
「本当ですか?  ありがとうございます!」
「それじゃあ早速契約したいんですけど、俺は何をすれば良いんですか?」
「それでは、私が従魔契約の術を使いますので、フーマ様は私の言う通りに行動してください」
「えーっと」
『大丈夫ですよフーマ。何か不審な点があれば私が伝えますし、この相手なら例え不利な契約を結ばされたとしても、フーマなら私に教われば自分で解けると思います」
「それじゃあそれでよろしくお願いします」
「オホホ。了解しましたわ」




 あ、オホホが復活してる。
 俺と契約できるって分かって安心したのだろうか?
 そんな事を考えていると、俺の下にいるエリスさんが俺を見上げながら口を開いた。




「オホホ。それではフーマ様。その、そろそろ私の上から退いてはくれませんか?」
「ああ、はい。すみませんでした」
「オホホ。それと、私に敬語は不要です。どうぞ普段通りのフーマ様の口調でお話しください」
「わかった。よろしくエリスさん」
「オホホ。あぁそれと、エリスはフレンダ様と魔王様しか知らない私の本名ですので、出来れば私の事はエルセーヌとお呼びください」
「あいよ」
「オホホ。それでは失礼します」




 そうして調子を取り戻したエリスさん改めエルセーヌさんはそう言うと、俺の左手を手に取り口づけをした。
 エルセーヌさんが口付けをした所から、何らかの魔法が流し込まれているのを感じる。
 感覚的に回復魔法をかけられた時のものに似ていたので、俺はとりあえず自分の魔力循環速度を緩めてエルセーヌさんの魔法を受け入れる事にした。


 ……………。
 ん?  これいつまで続くんだ?
 もうかれこれ1分ぐらい経つと思うんだけど、まだ終わらないの?


 その事をエルセーヌさんかフレンダさんに尋ねようとしたその時、俺の直感が魔王と自称剣姫の襲来を知らせた。
 ヤバいヤバいヤバい。
 何だかもの凄い嫌な予感がする。




「すみませんフレンダさん。これって後どのくらいかかるんですか?」
『さぁ、後数十秒ぐらいじゃないですか?  どうかしましたか?』
「マイム達が追ってきました。多分後数秒でここに来ます」
『それは不味いですね。従魔契約は中断した場合不完全な形で契約が結ばれるおそれがあるので、お姉様はともかくマイムに攻撃されると大変な事になります』
「マジっすか。エルセーヌさんは何か結界を張る事は………出来ないのか」




 エルセーヌさんが俺の手の甲にキスをしたまま首をフルフル振っている。
 出来ればエルセーヌさんに結界を張ってもらいたかったんだけど、無理か。




「それじゃあ、遮音結界を解いてくれませんか?  何かしらの話をして時間を稼ぎます」




 俺がエルセーヌさんにそう頼むと、彼女がコクリと頷いて遮音結界が解除された。
 よし、これで遮音結界の外の人とも話が出来るな。




「すみませんトウカさん。ちょっとこっちに来てくれませんか?」
「あ、はい。どうされましたか?」




 階段のそばに立っていたトウカさんが俺の呼び掛けに応じてパタパタとこっちに走って来てくれた。
 スタバにいた時舞もローズも俺がトウカさんの側にいたら魔法を撃ってくる事は無かったからこれで出会い頭の舞に攻撃される事は無い気がする。




「それじゃあその、数秒間だけ俺の話に合わせてください」
「はい。分かりました」




 そうしてトウカさんの協力を取り付けられたところで、舞とローズの声が石の柵のある方から聞こえてきた。
 まさか階段を使わないで登って来てるのか?




「おいマイム!  お、落ちそうなんじゃが!」
「ふふふ、大丈夫よミレンちゃん!  私がしっかりミレンちゃんを抱えてるし、仮に落ちたとしても今のミレンちゃんなら無事に着地出来るでしょう?」
「いや、そういう問題では無くて、登るなら風魔法だけで登ってくれ!  何でわざわざ垂直な壁を走ろうとするんじゃ!」
「あ、頂上が見えたわミレンちゃん!」
「おい!  気を抜くでないぞ!  妾には上が見えんからフォローは出来んぞ!」
「任せといてちょうだい!  どりゃぁぁ、そいっ!  よし、100点!」




 時計塔の外壁を駆け上って来た舞が空中でクルクルと回り、ローズをしっかりと右腕で抱えたまま着地した。
 カッコいい着地を成功させた舞はドヤ顔をしているが、舞に抱えられてこちらに尻を向けているローズは心なしかぐったりしている様に見える。




「おいマイム!  いきなり何をするんじゃ!」
「え?  何って普通に着地しただけよ?」
「三回転捻りは普通の着地とは言わんぞ!」
「あら、折角ならカッコいい着地の方が良いと思ったのだけれど、ミレンちゃんにはお気に召さなかったのね」




 まぁ、ローズは舞に抱えられていただけだから別にカッコよくも無かったし、ただ無駄にシェイクされるだけだったし当然だろうな。
 そんな事を考えながら舞とローズのやり取りを見守っていると、俺達に気がついた舞が驚いた様な表情で声を上げた。




「ってあぁぁぁ!  フーマくんがオホホ女にキスされてる!?」




 ん?  舞とエルセーヌさん知り合いなのか?
 エルセーヌさんは以前からエルフの里にいるみたいだし、昨日の夕方か夜にでも舞と会ったのだろうか。




「いや、これはキスじゃないぞ。エルセーヌさんが俺の手の甲に封じられた力を押さえ込んでくれてるだけだ。ですよねトウカさん?」
「は、はい。フーマ様のおっしゃる通りです。エルセーヌ様はフーマ様の強大な力を封じるためにこうして口付けをしています」
「口付けって要はキスじゃない!」
「おいマイム。先に妾を下ろしてはくれんか?」
「いや、だからこれはあくまで治療行為であって、マイムの考えてるやましい事とは全然違うんだぞ?」
「や、やましい事なんて考えて無いわよ!  むしろそれを言うならミレンちゃんを強姦して、挙げ句の果てに美人なお姉さんに見守られながら出会って数日の女性を跪かせてキスさせてるフーマくんの方がふしだらじゃない!」
「いや、強姦なんてしてないから!  流石にそれは言い過ぎだから!」
「おーい。そろそろ妾を下ろしてくれんか?」
「問答無用!  言い訳は務所むしょで聞くわ!  痺れなさい、サンダー!」




 マジか。
 まさか舞が魔法を撃ってくるとは思わなかった。
 俺は今は動けないし、どうすれば………。


 そうして迫る雷を恐れながら急速に頭を回していると、俺の横に立っていたトウカさんが一歩前に出て舞の雷魔法を水の壁で受け止めてくれた。
 あっぶねぇ、流石に今の威力の雷魔法なら怪我をする事はないだろうけれど、直撃していたら間違いなく動きがとれなくなっていた。




「ありがとうございますトウカさん」
「ふふふ。この程度なんて事ありませんよ」
「ムキーーっ!!  美人なエルフのお姉さんとフーマくんがイチャイチャしてるわ!  ズルい!」
「良いから降ろせと言ってるじゃろうが!」
「あいだっ!?」




 あ、猿みたいな鳴き声をあげていた舞が抱えてたローズに腰のあたりを殴られて横に倒れた。
 結構痛そうだったけど大丈夫かあれ?


 床に蹲って腰をさすっている舞を眺めながらそんな事を考えていると、舞から解放されたローズが服に付いた埃をパンパンとはたきながら、俺達のいる方へ振り返った。




「あぁ、やはりエリスじゃったか」
「えーっと。もうちょっと待ってくれない?」
「はぁ、その様子では仕方ないの。それが終わるまでは待っていてやるから早くせい」
「え?  それって何?  フーマくんは何をしているのかしら?」
「フーマは今、エリスと主従契約を結んでいるんじゃ」
「え?」




 あぁ、舞が真顔で俺の顔をガン見してるし、これどうやって説明すれば良いんだよ。
 はぁ、こんな事ならスタバで大人しく怒られとけばそっちの方が良かったかもしれない。
 俺は手の甲に上機嫌で口づけをするエルセーヌさんの頭頂部を眺めながらそんな事を思った。

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