クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

36話 魔力視の魔眼

 風舞






 サイクロプスとの戦闘が始まりわずか数分後、作戦は上手く行っているにも関わらず特にすることが無くなってしまった俺と舞は、サイクロプスから30メートルほど離れたところで棒立ちしながら皆が奮闘する様子を眺めていた。




「暇だな」
「暇ねぇ」
「お、ファルゴさん達が攻撃を仕掛けるみたいだぞ」
「はぁ、本当なら私達もファルゴさん達の手伝いをする予定だったんでしょうけど……」
「でも、特に出来る事ないよなぁ」
「そうねぇ。私の剣もこんな風になっちゃたし」




 舞がそう言いながら俺に根本からポッキリ折れている両手剣を見せてきた。
 まぁ、想定外の事だったみたいだし仕方ないよな。




「おぉ、やっぱりミレンは凄いな。サイクロプスの攻撃を上手くいなしてるぞ」
「ええ。流石ミレンちゃんね。見ていて凄い勉強になるわ」




 俺達の視線の先では、ローズがサイクロプスの攻撃をいなしたり躱したりしながら、逆にサイクロプスに攻撃を仕掛けたりしている。
 サイクロプスの皮膚があまりにも硬いため中々大ダメージは入れられていない様だが、それでもサイクロプスの視線を釘付けにし、少しずつ体力を削っていっていた。


 なんか、物凄いプレイヤースキルが高いゲーマーが縛りプレーをしているみたいに見えてきた。
 まぁ、ローズの場合それと同じような状態になっているんだけど。




「はぁ、せめてもう少し俺に火力が有れば良かったんだけど、今から出て行っても邪魔になるだけだしなぁ」
「私も一応魔法を使えば攻撃が出来なくは無いんでしょうけど、ユーリアさんの状態異常魔法がほとんど効かないようなレベルの魔法防御力となると、私の魔法じゃあまり意味が無いでしょうし何も出来る事が無いのよねぇ」
「暇だなぁ」
「暇ねぇ」




 なぜ、俺と舞が強敵であるはずのサイクロプスとの戦闘中にここまで暇しているのか。
 その原因は僅か数分前の出来事によるものである。






 ◇◆◇






 風舞






 セーフティーゾーンで十分な休憩をとった後、俺達はサイクロプスのいる場所から50メートルほど離れた岩の影で作戦の最終確認をしていた。
 フレンダさんから聞いた話は俺がローズに伝えて、彼女にふと思い出した風を装って皆に伝えてもらったため、サイクロプスの魔眼が魔力視ではない可能性が有ることを皆が知っている。
 まぁ、その旨を皆に話しても作戦の本筋に変更はなかったし、だからどうしたという話ではあるんだけどな。




「よし、それじゃあ頼んだぞミレン」
「うむ。お主らの期待にしかと応えてみせよう」




 そう言ったローズが俺達にニッと笑みを浮かべた後で、吸血鬼の顋を使って真紅の大剣を作り出し、スッと気配を消した。


 おお、流石ローズだな。
 ついさっきまで俺達の目の前にいたのに、ふと目を離した隙にもうどこにいるのか分からなくなってる。
 サイクロプスも通路のすぐ側で特に警戒をした様子もなく片膝を立てて座っているし、この調子でいけばローズが攻撃をするまで見つかる事はないだろう。


 ただ、吹っ飛ばされた右腕の傷が痛むのかかなり機嫌が悪そうなんだよな。
 ヤバイなぁ、すげぇ怖い。


 そうして俺が冷や汗をかきながらサイクロプスの様子をじっと窺っていると、俺の隣にいた舞が声を潜めて話しかけてきた。




「ねぇ、フーマくん。本当にフーマくんもサイクロプスの目の前に立つの?」
「ん?  あ、ああ。あいつの眼が魔力視が出来るやつだったら、俺が前にでないと作戦通りにはいかないし、他の人に囮をしてくれなんて言えないからな」
「でも、魔力視じゃない可能性もあるのよね?」
「まぁ、それはそうなんだけど、多分あいつの魔眼は魔力視だぞ」
「あら、それはいつもの直感かしら?」
「いや、ただの男の勘だ」
「ふふ。何よそれ」




 舞がそう言いながらふんわりと微笑んだ。


 これから俺達が挑む相手は右腕を失っていてもかなり強い相手ではあるのだが、舞のお陰で何となく緊張もほぐれてきたしいけそうな気がする。
 ユーリアくんやファルゴさん達も俺達の様子を見て口角を上げているし、戦闘を前にして皆の準備は万全の様だ。
 これは俺も気張らないとだな。




「よし、そろそろ時間だろうし俺も行くわ」
「ええ。頑張ってねフーマくん」
「任せたぞフーマ」
「はい。それじゃあ行ってきます」




 こうして舞やファルゴさん達に見送られた俺は、ローズが出て30秒ほど後に岩影から出て、スキルの気配遮断を使いながらそっとサイクロプスに近づいて行った。






 ◇◆◇






 風舞






 あぁ、やっぱりこうして見るとすげえデカイな。
 岩陰から出た俺はサイクロプスを見上げてそんな事を考えながら、気配遮断を使ってコソコソと最近の俺のお得意である魔力の手がサイクロプスに届く位置まで移動していた。


 今回俺が皆に提案した作戦は以前話していた通りに、ローズにサイクロプスの脚の腱を斬りつけてもらって、片足を使えなくしてもらうところから始まる。
 もしもサイクロプスが横になったままだったら、体勢を変えるまで待たなくてはならなかったが、幸いにも俺達がここに来たときには体を起こしていたし運が良かった。
 出来ればローズにそっとサイクロプスに近づいて行ってもらって頭をカチ割ってもらいたかったんだけど、流石に剣の届く範囲に近づいたら気付かれるし、頭蓋骨を割るのは厳しいという事で、手近な位置にあるアキレス腱を斬ってもらうことになった。
 まぁ、普通は先手を確実にとれるなんて事無いんだし、これだけでも十分有利に事を進められるんだけどな。


 そんな事を思いながらサイクロプスに向かってこっそりと歩いていたその時、サイクロプスがピクリと何かに気がついた様な素振りを見せた。
 おそらくローズがすぐそばまで近づいていた事に気がついたのだろう。
 そう思い、次の手順の為に俺が気配遮断を解きながら走り始めたところで、サイクロプスが激痛に悶えるような叫び声をあげた。




 グゴォォァァァ!!!




 よし、ローズは予定通りサイクロプスの片足を使い物にならなくしてくれたみたいだな。
 サイクロプスの片足から赤黒い血がどくどくと流れ出ているし、あそこまで深い傷ならしっかりと腱も切断されている気がする。


 そう判断した俺は、引き続きサイクロプスに向かって走りながら、左手から特大の魔力の手を作り出してサイクロプスの目を覆い隠した。
 魔力視は俺や舞が覚えているスキルの魔力感知とは異なり、空気中の魔力や、魔法によって産み出される魔力の流れを視覚的に捉えるものであるため、こうしてその眼を濃密度の魔力で覆い隠してしまえば他の魔力は見えなくなるとユーリアくんが言っていた。
 魔力の手で目を覆っても視界そのものが遮られる訳ではなく、魔力の流れが見えなくなるだけなのだが、これでサイクロプスに気付かれずに魔法を打てる訳だし、十分な効果を得られているだろう。


 仮にこいつが魔力視が出来る魔眼を持っているならこれで十分なアドバンテージをとれるし、魔力視が出来ないなら出来ないでやる事はそこまで変わらないんだけど、果たしてどうかね。
 そう思ってサイクロプスと一定の距離を保ちながら、攻撃が飛んでこない様にサイクロプスの腕のない方に走って回りこんでいると、いつの間にか俺と並走していたローズが話しかけてきた。


 あれ?
 ついさっきまでサイクロプスの側にいたはずなのに、もうここまで下がってこれたのか?
 ここからサイクロプスまで30メートルぐらいあるのに移動速すぎだろ。
 これならローズが反撃をくらう事はなかっただろうし、こうして俺が先に出てくる必要がなかった気がする。




「ふむ、どうやらこやつも魔力視の魔眼を持つサイクロプスの様じゃな」
「ああ。みたいだな」




 ローズが足を止めたので俺も立ち止まってサイクロプスの顔の方を見上げてみると、サイクロプスはまるで魔力の手を引き剥がそうとするかの様に目元を残された左手で擦っていた。
 よし、あいつの魔眼は魔力視が出来るものみたいだし、これで俺の作戦は無駄にはならなそうだな。




「それじゃあ、後は予定通りで良いのかの?」
「ああ。俺達でユーリアくんの詠唱の時間を稼ぎながら、ヒットアンドアウェイを繰り返すぞ」 




 おそらく俺が魔力の手でサイクロプスの眼を覆っているのを確認したユーリアくんが、強力な水魔法の詠唱を初めているだろうし、後は俺達全員で時間稼ぎをすれば作戦通りに上手くいくはずだ。
 ファルゴさんと団長さんには遊撃手としてもう片方のサイクロプスの脚を攻撃してもらう事になっているし、後は詰め将棋の要領で堅実に攻めていけば問題なく勝てるだろう。


 そんな事を思いつつ怒りを深く顔に刻んだサイクロプスを眺めていると、サイクロプスが右足を引き摺りながら左手を壁につき、立ち上がり始めた。
 どうやら、俺とローズが足を斬りつけた張本人だと思っているらしく、肌を刺すような威圧がピリピリと伝わってくる。
 それを受けて俺も剣を抜き、サイクロプスの威圧に対抗しようとしていたその時、俺達の隠れていた岩影から出てきた舞がサイクロプスの顔の目の前まで一瞬で詰めより、勢いよく剣を振った。




「真・斬波!!」




 おお、新技だ。
 どうやら舞は遂に風魔法と縮地の合体技を完成させたらしい。
 俺には目で追うのすらキツいスピードで移動していたし、あれならサイクロプス相手にも十分に通じるんじゃないか?
 と思ったのだが、




 ガキィィン!!




 舞の渾身の一撃は、サイクロプスの顔面に直撃したものの、浅い傷を残すのみで大したダメージにはなっていなかった。
 舞が攻撃したあたりから何か金属の破片の様な物が飛び出し、遠くの方へクルクルと飛んでいく。




「あの阿呆」




 俺の横でローズがやれやれといった顔をして頭を抱えている。
 ん?  確かに攻撃は通らなかったけどそんなに呆れる事か?
 そんな事を考えながら、舞の攻撃の衝撃を受けて尻餅をついたサイクロプスを眺めていると、舞が縮地を使って俺達の元へやって来た。


 なんか舞が申し訳無さそうにしながら、両手剣のつかを持っている。
 って、あれ?
 刀身の部分がまるっと無くなってないか?
 え?  もしかして鉄の剣をへし折っちゃったんですか?




「ご、ごめんなさいミレンちゃん。剣、折れちゃったわ」
「はぁ、じゃからサイクロプスを攻撃する際は気をつけろと言っておいたじゃろうに」
「だって、まさかあそこまで硬いとは思わなかったんですもの。それに、ミレンちゃんはスパッとサイクロプスのアキレス腱を斬ってたし、そこまでじゃ無いと思ったのよ」
「それは妾が吸血鬼の顎門アルカード・スレイヴといくつかのスキルを併用してあの一撃にかなりの力を込めたからじゃ。お主の武器とスキルで同じ事をするには技量が全く足りぬ」
「マジかいな。それじゃあ俺に出来る事は無くね?  炎の魔剣もファルゴさん達に貸しちゃったし、マイムですら攻撃が通らないなら俺には無理だろ?」
「あら、フーマくんは魔力の手を維持する重要な役割があるじゃない。あれのおかげでユーリアさんの詠唱を気付かれずに出来るのでしょう?」
「まぁ、それはそうなんだけど」
「ふむ、お喋りはここまでの様じゃな。ほれ、脚を引きずりながら妾達を攻撃しようとしておる」
「よし、逃げるか」
「そうね。私も槍はセーフティーゾーンに置いてきちゃったし、フーマくんと一緒に逃げ回ってるとするわ。はい、ミレンちゃん。鎧返すわね」




 舞がそう言いながら着ていたレッドドラゴンの鎧をローズに渡す。
 レッドドラゴンの鎧は着る人に合わせて勝手にサイズが変わるから、戦闘中でもこうして着回せるのか。
 凄い便利だな。




「はぁ、仕方ないの。妾がサイクロプスを押さえ込んでおくから、お主らは下がって見ておれ」
「すみません。まさかこんなにも早く戦線離脱するなんて思ってもいなかったわ」
「それはもう良い。確かに鉄の剣では近頃のマイムの武器としては劣っておったし、仕方ないと言えば仕方ないじゃろう。それよりも、フーマは後どのくらい保ちそうなんじゃ?」
「えーっと、多分5分くらいだな。そのくらいなら意識を保っておけるくらいの魔力消費で済むと思うぞ」
「ふむ。それだけあればユーリアの詠唱も終わるじゃろう。それまでは、妾がサイクロプスの気を引きつけておくかの」




 ローズはそう言うと、吸血鬼の顎門アルカード・スレイヴをハンマーの形に変えながらサイクロプスの方へ走って行った。
 どうやら、サイクロプスが立とうとする度に残された左足や左腕を殴りつけて転ばせるつもりらしい。




「さて、それじゃあ俺達は下がって様子見をしてるか」
「そうね。後ろの方で応援してましょう」




 そうして武器を失ってしょんぼりしている舞と、元から攻撃力が全く足りて無い俺は、サイクロプスから距離をとって観戦に回る事となってしまった。


 ていうか、舞ですら攻撃が通らない相手なら団長さんとファルゴさん達に頼んだ作戦も上手くいくか怪しいんだけど、大丈夫なのかね。
 俺はそんなことを考えながら、硬いものを斬るのはかなりの自信があると言っていた団長さんの姿を探した。

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