クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

25話 メス

 風舞






「ねむ」




 舞との決闘から早2日。
 団長さんを待っている間、昨日に引き続き今日も特にすることがない俺は昼前になってようやくベッドから脱け出し、朝風呂へと向かっていた。


 因みにローズと舞は俺が起きた時には既に外へ出掛けていたみたいで、その旨が書かれたメモが枕元に残されていた。
 見覚えのある汚い日本語で書かれていたし、恐らくローズが舞に教わりながら書いたものだと思う。


 『ち』と『さ』がごっちゃになってたし。


 そんな事を考えながら寝癖を手で押さえつけつつ宿の廊下を歩いていると、ちょうど階段を昇ってきたジャミーさんと出くわした。
 その手には茶色い紙袋が収まっている。




「おうフーマ。今起きたのか?」
「はい、今から風呂に入ってきて着替えるところです。ジャミーさんはこれから昼飯ですか?」
「ああ。折角だし今日の昼飯は外で買ってきたんだ」




 ジャミーさんがそう言って茶色い紙袋に入った串肉を見せてくれた。
 へえ、結構美味そう。
 俺も後で外の屋台を覗いてみるか。


 そんな事を思いながら紙袋の中をまじまじと眺めていると、少しだけ真面目な顔をしたジャミーさんが声をかけてきた。
 何か問題でもあったのだろうか?




「なぁフーマ」
「ん?  どうかしましたか?」
「ああ。どうかしたというか、どうかしている事何だが」
「はぁ」




 何かジャミーさんの歯切れが悪いな。
 もしかしてそんなに大事な話なのか?
 特に心辺りはないし、もしかするとまたブルーパンサーの様な魔物がグラズス山脈から出て来たのかもしれない。




「その、マイムのあの格好はどうしたんだ?  今朝たまたま会ったミレンに聞いても誤魔化されてしまったし、何か深い事情でもあるのか?」




 ああなんだ、その話か。
 一昨日の夕方から急に舞があの破廉恥メイド服を着る様になったし、ジャミーさんが気になるのも無理はない気がする。
 むしろ、よく今日までつっこみを入れずにいられたな。
 もし俺がジャミーさんの立ち位置だったら、一昨日夕飯を共にした時に即質問してたぞ。




「えーっとですね。深い事情といえば深い事情なんですけど」
「やっぱり話しづらい事なのか?」
「まぁ、話しづらいと言えば話しづらいですね」




 そりゃあ俺がメイド好きだから、決闘の結果ああなったなんて言えるわけがない。
 いくらローズの提案だとはいえ、俺がこの前ローズに舞にメイド服を着てほしいなんて言わなければああはならなかったと思うし。




「そうか。いや、少し興味があっただけで無理にでも話を聞きたいという訳ではないんだ。その、フーマ達にはフーマ達なりの事情があるんだろ?」
「いやぁ。多分ジャミーさんが考えてるほど真面目な理由じゃないですよ?」
「ああ、そうだな。きっと俺の考えすぎだ。それじゃあ、またな。マイムにもよろしく言っといてくれ」




 少し遠い目をしたジャミーさんがそう言って去って行った。
 あれ、絶対勘違いしてるよな。
 まぁ、わざわざ訂正しに行く程の事じゃないからどうでも良いんだけど。


 そんな事を思いながらジャミーさんを見送った俺は、予定通り風呂場へとやって来た。
 昨日気付いたんだけど、ここの入浴剤は毎回種類が違うんだよな。
 なんでも、毎日あのイケメン亭主の美人奥さんが入浴剤を作っているらしい。


 はぁ、最近新婚さんによく遭遇する気がするな。
 奥さんも普通に美人だったし、憎らしっ。


 俺はそんなことを心の中で毒突きながらも、薄緑色の新緑の良い匂いがする露天風呂をのぼせるまで堪能した。
 あぁぁ、骨身に染みる。






 ◇◆◇






 風舞






「あ、あら風舞くん。起きていたのね」
「うわっ!?  あ、ああ。二人とも帰ってたのか」
「うむ。只今戻ったのじゃ」




 朝風呂、というか昼風呂に入って少しだけのぼせた頭でぼんやりとしながら部屋に戻ると、エッチなメイドさんとちっこい魔王様が俺を迎えてくれた。
 わお、今日も素晴らしい露出ですね舞さん。




「ねぇ風舞くん。そんなに驚くほど私の格好は強烈なのかしら?」
「いや、部屋に入っていきなり声をかけられたから驚いただけだ。別に他意は無いぞ」
「そう。それなら良んだけど」




 そう言ってもじもじとし始める舞。
 どうやら彼女は太ももがほぼ全て丸見えの超ミニスカートが気になってしょうがないらしい。
 ビキニは余裕で着てたのに、こういうのはダメなのか。




「さて、風舞が身支度を整えたら昼飯にするとするかの。今日の昼食は宿に頼んでおらんし、外に食べに行くぞ」
「えぇ、また外に出るのかしら?」
「何じゃ?  お主は昼食を食べんのか?」
「ちょっとローズちゃん!?  行く、行くわよ!  行けば良いんでしょ!」




 ローズにスカートをグイグイと引っ張られた舞が顔を赤くしながら騒いでいる。
 ほへぇ、舞も大変そうだな。
 俺はそんな無責任な事を考えつつ髪を乾かしたり靴を履いたりしながら、二人の微笑ましいやり取りをガン見していた。


 一昨日からずっとこの調子だから結構見慣れてきたはずなんだけど、全く飽きがこないな。
 お、今日は白パンツか。




「ほら、風舞くんも準備が終わったみたいだし、早く行きましょう!」
「うむ。仕方ないの」
「ってローズちゃん!?  お願いだからガーターベルトは引っ張らないで!  パンツ、パンツずれちゃうから!」
「おーい。早くしないと置いてくぞー」
「もう!  さっきから椅子に座って舐め回すように見てるくせに、何が置いてくぞよ!」




 そうして珍しくつっこみに回りっぱなしの舞に押し出されるように部屋を出た俺達は、3人揃って昼飯を食べるために町へと繰り出した。


 あ、ガーターベルトがハイニーソから外れて舞のパンツがグイグイ上に引っ張られてる。
 ってちょっと舞さん!?
 目潰しはダメだって!






 ◇◆◇






 風舞






 そうして目潰しをしてくる舞から逃げつつ、昨日からセクハラ常習犯になったローズをおんぶする事で一先ず大人しくさせた俺は、立ち並ぶ屋台をキョロキョロと見物しながら町を南北に貫く街道を歩いていた。
 今日もこの村のメインストリートは道行く人々の話し声に溢れ、端の方では子供達が元気に遊んでいる。




「お、この串焼き結構美味いな」
「うむ。この間に挟まれたレモイモがさっぱりして結構いけるの」
「まったく。2人ともこれからお昼ご飯なんだから食べ過ぎちゃダメよ」




 そんな事を舞に注意されながらも、肉の間にレモンみたいな味のイモが挟まった焼き鳥を食べ歩いていると、ちょうど俺達の目の前で追いかけっこをしていた男の子が転んだ。
 うわぁ、顔面からいったよ。




「あら、大丈夫かしら?」
「さぁ、少し様子を見てくるわ」




 何となく転んだ男の子を放っておけなかった俺は、とりあえずその子の様子を見に行く事にした。
 まぁ、あのぐらいの擦り傷なら大したことないたろうけど、地面に突っ伏したまま動かないし少し気になる。




「おい、大丈夫か?」
「…」
「ほら、とりあえず立てよ」




 そう言った俺が肩の上にいるローズに串を渡して、男の子の脇の下を掴んで持ち上げてからゆっくり地面に下ろすと、顔を泥だらけにして涙をぽろぽろと流している男の子の顔が目に入った。
 まぁ、昨日の晩に雨が降って地面がぬかるんでたし、こうなるのも仕方ないわな。




「まぁ、あれだ。元気出せよ。生きてれば良いことあるって」
「はぁ、ちょっとフーマくん?  先ずはそんな雑な人生の教訓を言うよりも、泥を落としてあげるのが先でしょ。ほら、これで顔を拭きなさい」




 俺の横に並んだ舞が、取り出したハンカチを水魔法で濡らして男の子に差し出す。
 おお、舞が本物のメイドみたいな事してる。




「…」
「もう、しょうがないわね」
「わぷ」




 あ、舞が痺れを切らしてちっとも動かない男の子の顔を拭き始めた。
 なんか舞がこうして小さい子供の世話をするのを見てるとグッとくるな。
 普段の舞は結構お転婆だし、こういうのをギャップ萌えというのかもしれない。


 そんなギャップでも洋服でも萌え萌えの舞を眺めている間に、この男の子と一緒に遊んでいた子供達が俺の上に乗ってるローズに話しかけて来た。
 おい、俺によじ登ろうとするな。
 ローズも自慢げに俺の頭をペシペシ叩くんじゃありません!




「ねぇねぇ。あなたはエルフなの?」
「うむ。妾はハーフエルフじゃ。ちなみにお主らの数百倍は生きておるぞ」
「へぇ〜。それじゃあ、すごいお婆ちゃんだ!」
「お、お婆。おい、妾はそこまで老けておらんぞ。ほれ、妾の背はお主と同じぐらいじゃろ?」




 そう言ったローズが俺の肩から子供達の中心へとスタリと飛び降り、ちびっ子達にと背比べを始めた。
 まぁ、この子達はまだ一桁ぐらいの年齢の人間と獣人だし、流石にローズの方が背が高いだろ。
 ローズの背は170センチの俺より頭一つ分低いくらいだし。


 そんな事を考えながらよじ登って来る子供達に飽きられて解放された俺は、舞に顔を拭かれている男の子の所へ向かった。
 よしよし、顔の泥も綺麗に取れたみたいだな。
 まぁ、おでこは擦りむいて赤くなってるままだけど。




「ほら、もう泣くなよ。この串焼きやるからさ」
「うん。ありがと」
「おー。いい子だ」




 ふぅ。
 まだ若干愚図っているが焼鳥を齧ってるし、これで泣き止んでくれそうだな。




「ふふっ。フーマくんは小さい子供の扱いが上手ね」
「別にそんなことないだろ。俺は餌付けしただけだぞ?」
「でもほら、泣き止んだみたいよ?  焼鳥も完食したみたいだし」
「あ、ほんとだ」




 いつの間にか焼鳥を既に食べ終わっていた男の子が俺の事をじっと見つめている。
 もしかして食い足りないのか?
 そう思って紙袋に入っていた焼鳥をもう一本彼にあげようとしたところで、俺の事をじっと見つめていた男の子が口を開くいた。




「ねぇ」
「ん?  どうした?」
「お兄ちゃんはこのお姉ちゃんの飼い主なの?」
「は?」
「お兄ちゃんはこのお姉ちゃんの飼い主なの?」




 さっきまで転んで泣いてたくせに、この子は何を言い出したんだ?
 俺の横であの舞さんですら口を開けてポカンとしてるぞ。
 おそらく舞の格好を見てそう言ったんだと思うが、それを言うなら「ご主人さまなの?」とかそこら辺だろう。
 飼い主ってなんだよ、飼い主って。




「いやいやいや。別に俺はこのお姉ちゃんの飼い主じゃないぞ?」
「でも、お姉ちゃんはメスの格好をしてるよ?  パパがそういう服はメスの服だって言ってたもん」
「あ、そう」




 おいーーー!!!
 この子の父親はマジで子供に何教えてんだよ!
 仮にそういう事を教えるとしても、そういう時は綺麗なお姉さんの格好とか普通はボカして言うだろ。
 年端もいかない子供にメスの格好とか教えんなよ!


 そうして俺が異世界の性教育事情に戦慄を覚えていると、子供達を引きずりながらローズがこちらにやってきた。
 ローズのステータス的には余裕なんだろうけど、5人以上の子供を引き摺る子供の光景って結構シュールに映る。




「何やら面白そうな話をしておるの。それで、この小僧がこっちの小娘の飼い主かという話じゃったか?」
「うん。このお姉ちゃんはこっちのお兄ちゃんの事が大好きなんでしょ?  だってメスの格好してるし」
「ちょ、ちょっと待ってちょうだい!  いいかしら、ぼく?  私は断じてメスではないし、フーマくんに飼われているわけでも無いわよ?  それに、フーマくんのことがす、好きだなんて事は、その、無きにしも非ざりなむけむあらんや、っていうか、その」
「これマイム。あまり子供を困らせるでないぞ。お主はフーマのメスなんじゃから、もっとしっかりせんか」
「み、ミレンちゃん!?」
「おー。やっぱりこのお姉ちゃんはこっちのお兄ちゃんのメスなんだね」




 あー、もう収集がつかなくなって来たな。
 舞は頭を抱えて何かブツブツ言いながら目をぐるぐる回してるし、ローズは周りの子供達にメスとは何かを説明し始めている。
 マジでどうすんねん、これ。




「へぇー。それじゃあこのお兄ちゃんは女の人を沢山飼ってるんだね!」
「おいミレン!  お前、こんな小さい子達に何を吹き込んでるんだよ!」
「そうは言うが、お主にはシルビアとアンがおるし、ボタンとも何やら付き合いがあるじゃろ?  それにほら、こうしてマイムにもお主の望む格好をさせておる訳じゃし」
「おまっ、間違っちゃ無いが言い方ってもんがあるだろ!」




 これ以上ローズに話をさせてはいけないと思い彼女の口を塞ごうとしたのだが、俺がローズに敵うわけもなく、差し出した両腕は虚しく空を切りローズに尻を蹴飛ばされた。
 ちくしょう、ここぞとばかりに旅の間の俺達への鬱憤を晴らしに来やがった。
 この性悪魔王め!




「良いか子供達よ。こういう女を囲い込む男を鬼畜野郎と言うのじゃ。よく覚えておくのじゃぞ」
「はーい!  お兄ちゃんは鬼畜ヤロー!」
「鬼畜ヤロー!」
「お兄ちゃんはお姉ちゃんの飼い主で鬼畜ヤロー」
「お兄ちゃんはジゴロでヒモのクズヤロー!」


「おい!  今クズヤローって言ったやつ誰だ!」
「うわっ!  鬼畜ヤローが起きたぞ!」
「逃げろー!  クズヤローに捕まるぞー!」
「おいっ!  ちょっと待て!  あだっ!?」




 鬼畜ヤロー、クズヤローと連呼する子供達に訂正させようと膝をついて立ち上がろうとしたその時、ローズにもう一度ケツ蹴られた俺は、顔からぬかるみに飛び込んでしまった。
 はぁ、さっきの男の子もこんな気分だったのだろうか。
 これは起き上がりたくなくなるのも分かる気がする。


 そんなことを考えながら、地面のぬかるみを自分の涙で広げていると、聞き覚えのある声が俺の上から降って来た。
 どうやら俺のことを心配してくれる心優しき人がいるらしい。




「おい、大丈夫かフーマ?」
「ふぁ、ファルゴさん?  良かった。ちょっと聞いてくださいよ!  ミレンが俺のことをいじめるんです!」
「分かった。分かったからいきなり抱きつくな!  泥が服につくだろ!」




 久し振りに会ったファルゴさんが抱きつこうとする俺の頭をグイグイと押し返しながらそう声を上げた。
 あ、ファイアー帝王と俺達の馬車を連れて来てくれたのか。
 予定では明日到着のはずなのに、結構早かったな。




「って、マイムの格好はどうしたんだ?  娼婦でも始めたのか!?」
「ち、違うわよ!」
「そうじゃな。マイムはフーマのメスになったんじゃもんな」
「へぇ、お前も中々やるじゃねぇか」
「はぁ、ファルゴさんが剣をぶん投げまくってた事団長さんにちくりますよ」
「ちょ、おま!  頼むからそれだけは言わないでくれよ。な?」




 そう言って俺の首に腕を回しながら、馬車の御者席でグースカといびきをかきながら寝ている団長さんの様子をチラチラと確認するファルゴさん。
 ああ、まだケイさんにチクられて無かったのね。


 そんな感じでファルゴさんを脅すネタを見つけつつも、俺たちはジャミーさん達と会って2日後の昼に、セイレール騎士団のファルゴさんと団長さんに再会した。





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