クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

23話 散髪からの決闘

 風舞 






「こんにちはジャミーさん。その、この度はご迷惑をおかけしました」
「気にするな。フーマ達が突然姿を消した時は驚いたが、何かしら事情があったんだろ?それよりも、お前達が無事で良かった」
「ありがとうございます」
「うむ。迷惑をかけたの」
「こうして事情を伝えに来てくれて助かったわ。改めてありがとう、ジャミーさん」




 朝鳥の泊まり木にて数日ぶりにジャミーさんと再開した俺達は、三人揃ってジャミーさんに頭を下げていた。
 ネーシャさんに聞いたところによると、ローズの戦闘の事後処理までやってくれていたみたいだし彼には本当に頭が上がらない。
 ローズの転移魔法で逃げる前に彼に投げ渡した財布もしっかりと返してくれたし。




「さて、それじゃあ大まかな話は既にネーシャから聞いたみたいだし、俺達は一度失礼する。俺とネーシャは今日も馬に乗りっぱなしで疲れたし、フーマ達はそこのエルフと話があるんだろ?」




 そう言ってジャミーさんが視線を向けた先には、大きな荷物をネーシャさんから受け取っているユーリアくんがいた。
 ああ、舞に担がれている間、ユーリアくんの荷物をネーシャさんが持ってたのか。
 旅の為にああして大きな荷物を持っているという事はユーリアくんがアイテムボックスが使えないか、使えても魔力の消費量が多いのかもしれない。




「気を使わせてしまってすみません」
「フーマは相変わらずだな。それじゃあ、俺達もここの宿に泊まるつもりだから、何かあったら気軽に声をかけてくれ」
「はい。そうだ、もし良かったら今晩の夕飯一緒に食べませんか?  いくつか聞きたい事もありますし」
「ああ、別に構わないぞ。それまで風呂にでも入ってゆっくり休んでる」




 ジャミーさんはドアを開けながらそう言うと、ネーシャさんを伴って俺達のいる部屋から出て行った。
 見たところ旅の荷物を持っていなかったし、一階の受付に預けるなりしているのだろう。
 また夕飯の時にゆっくり話せるみたいだし、オルトロスの鎧の件とかは後で話せばいいか。


 って今はそれよりも、




「なぁ、マイム。どうしてユーリアくんを担いでたんだ?」




 俺は髪を切り終わったローズに変わって、自分で肩にシーツを巻いている舞に話しかけた。
 まったく、相変わらず舞はマイペースだな。
 それと、別にシーツはそんなにぴっちり巻かなくても良いんだぞ?




「彼が世界樹ユグドラシルに行くというから、私達と一緒に馬車で行こうって誘ったのよ」
「それで断られたと」
「まだ説得中なだけよ!」




 そう言ってシーツに巻かれたまま胸を張る舞。
 一方のユーリアくんは部屋の隅で荷物を持ったまま少しだけ困った顔で頰をかいている。
 さっき俺とローズにまた会おうって言って別れたばかりだし、少なからず気まずいのかもしれない。




「ごめんなユーリアくん。うちのマイムがエルフが好きすぎてその衝動が抑えられなかったみたいだ」
「いや、僕は全然構わないよ。こうしてエルフの事が好きと言ってくれる人間がいるのは喜ばしい事だからね」
「ほら、マイムも謝っとけよ。流石に拉致ってくるのはやりすぎだぞ」
「むぅ。ついはしゃぎ過ぎてしまったわ。ごめんなさい」
「ああ、僕は全然気にしてないから構わないよ」




 ああ、ユーリアくんはどこかの自家製ミイラとは違って本当に良い子だな。
 自分で巻いたシーツの裾をローズに押さえられて身動きが取れなくなっている舞にも見習って欲しいものだ。


 そう思いながらドタバタと騒いでいる舞とローズに目をやっていると、その内の一人であるローズがユーリアくんの方へ振り返って声をかけた。




「それで、ユーリアは妾達と行動を共にするのかの?  お主はステータスもそれなりにあるようじゃし一人で走った方が速いかもしれんが、馬車があると何かと楽だと思うしどうじゃろうか?」
「確かに乗せて行ってもらえるなら助かるけど、ミレン達の迷惑にならないかい?  マイムにも言ったんだけど、僕はエルフだからそれなりに目立つと思うよ?」
「妾も一応はエルフなんじゃし、別に迷惑になる事など無かろうよ。むしろ、長旅で暇を持て余して暴走を始めるこやつらの相手をしてやって欲しいぐらいじゃ」




 えぇ、俺は舞と違って暴走はしてないはずだぞ。
 って舞もそんな事を思っているのか俺の方をニヤニヤとした顔で見ている。
 ミイラみたいになってるくせに、どうしてそんな顔をできるのだろうか。




「うーん。そう言ってくれるなら同行したいけど、僕はお金も大して持ってないし何もお返しできないよ?」
「それなら、エルフの里に着いたら案内してくれれば十分だぞ。ほら、さっき風呂で言ってたろ?」
「そんなんでいいのかい?  それなら是非とも同行させてもらおうかな」
「ああ、よろしくなユーリアくん。あ、そう言えば出発は3日後だけど大丈夫か?」
「うん。そのくらいなら何の問題もないよ。こちらこそよろしくね」




 そう言ったユーリアくんが、かなり可愛らしい笑顔で俺の差し出した右手を掴みながら頷いた。
 エルフの里に行くのならその道案内として彼以上の適役はいないだろうし、世界樹ユグドラシルの朝露を入手するのにも融通がきくかもしれない。
 そんな損得勘定をしながらもユーリアくんの同行を普通に喜んでいると、ローズの拘束から抜け出してシーツをはずした舞が、ユーリアくんに右手を差し出して口を開いた。




「よろしくねユーリアさん」
「うん。よろしくマイム」




 良かった良かった。
 舞がユーリアくんを担いで来たときはどうしたものかと思ったが、この二人も何だかんだ上手くやってけそうだな。
 そんな事を考えつつ仲良さげに微笑み合う舞とユーリアくんを眺めていると、握手のし終わった舞がこちらを向いて話しかけてきた。




「さぁフーマくん。私の髪を切ってちょうだい!」
「え、やだ」
「や、やだ?その、ど、どうしてかしら?」




 あ、舞が泣きそうな顔をしてる。
 どんだけ髪を切って貰いたかったんだよ。
 まぁ、あんなシーツの巻き方するぐらいだからよっぽど切って貰いたかったんだろうけど。




「だって舞の髪そこまで伸びてないじゃん。ミレンは前髪が目にかかるって言うから切ったけど、舞は別に切る必要ないだろ」
「そんな事ないわよ!  私のキューティクルがフーマくんに髪を切って貰いたがってうずうずしてるじゃない!そうだ、いっその事ショートカットにしてくれても良いのよ?」
「いや、それはないな」




 だって俺、舞の長い黒髪が結構好きだし。
 そんな事言ったらニマニマしてあらあらぁとか言いそうだから絶対に言わないけど。




「ねぇミレン。マイムがこうなるぐらいフーマの散髪の技術は高いのかい?」
「まぁ、マイムがああなっておるのは別の理由な気がするが、フーマの腕は確かじゃぞ。ほれ、妾もついさっき前髪を切ってもらったのじゃ」




 そう言ったローズが自分の前髪をさわさわといじりながらユーリアくんに自慢気に見せている。
 俺は別にプロって訳じゃないから、こうして自分の切った髪を他人に見られるのはなんか恥ずかしいな。




「本当だ。すごい綺麗に切られてる。フーマにはこんな特技があったんだね」
「まぁ、言うほどのものじゃないんだけどな」
「謙遜する事ないよ。僕も散髪をお願いしたいぐらいだ。姉さんにはいつもユーリアは髪が長すぎるって言われてたし、里に帰る前には切っておきたかったんだよ」




 そういえば、ユーリアにはお姉さんがいたんだよな。
 弟のユーリアでこうなんだから、そのお姉さんはかなりの美人である可能性が高い。
 ここで恩を売っとくのもありか。




「それじゃあ切ってやるよ。短くすれば良いんだろ?」
「え、良いのかい?」
「ああ。俺の腕前で満足してくれるなら今からでもやってやるぞ」
「それじゃあよろしく頼むよ」
「あいよ。それじゃあ、…このシーツを軽く肩にかけてくれ。服に髪が着くと取るのが面倒だからな」




 俺はそう言ってベッドの上で再びシーツにくるまっていた舞を勢いよく転がしてシーツを剥ぎ取り、椅子に座らせたユーリアくんにそれを渡した。
 あ、舞が枕を抱きしめてうずくまってる。
 もしかして泣いてるのだろうか?
 少し気の毒になってきたな。




「う、うん。ありがとう」
「どういたしまして。それで、どんな感じが良いんだ?」
「それじゃあ、フーマと同じくらいの長さにしてもらおうかな」
「まぁ良いけど、どうせならアシンメトリーにしてみるのはどうだ?  折角ここまで髪が長いんだし、もう少し活用しても良いと思うぞ」
「よくわかんないけど、細かいところはフーマに任せるよ」
「まぁ、何回か確認してもらいながらやるから、気楽にしててくれ」




 よし、これでユーリアくんのサラサラ金髪ロングヘアを短くすれば、少しはユーリアくんの可愛いらしさを軽減できる筈だ。
 俺はこれ以上野郎に対してトキメキたくなどないのである。
 絶対にイケメンにしてやるから覚悟しとけよ!


 そう意気込んだ俺が髪を切る前にユーリアくんの髪を濡らそうとしたその時、ベッドの上でうずくまっていた舞がガバリと立ち上がり、仁王立ちをしながら俺にビシッと人差し指を向けて来た。
 ちなみに少し涙目である。




「決闘よ」
「はい?」 
「今すぐ決闘よフーマくん!  私が勝ったらフーマくんに髪を切ってもらうわ!」
「え、マジで?」
「マジよ!」




 ベッドからスタリと飛び降り、壁に立てかけてあった自分の両手剣を持って来て俺に向けながらそういう舞。
 どう考えてもステータスにおいて圧倒的な差が付いている舞には勝てないだろうし、仮に俺が勝ったところで何も旨味がなさそうだから割とやりたくない。
 そんな事を思いながら涙目で鼻をすすっている舞をなんとなく眺めていると、俺と舞の間に少し悪い顔をしたローズが入って来て口を開いた。




「マイムよ。お主が負けた場合は何をフーマに差し出すんじゃ?」
「む、そうね。考えてなかったわ」
「ふむ。それならお主が負けた場合、決闘の直後からあのメイド服を着て20日間過ごすというのはどうじゃ?どうせその鞄の中に入ってるんじゃろう?」
「ロ、ミレンちゃん?  流石にそれはちょっと」




 お、舞が少し後ずさってる。
 ローズの言うあのメイド服というのはそんなに凄まじいものなのか?
 少し興味が湧いてきた。




「ほう、まさかお主ともあろうものが臆しておるのか?」
「そ、そんな訳ないでしょう!  私は何としてもフーマくんに勝って髪を切ってもらうのよ!」
「だそうだが、フーマはどうするのじゃ?」




 ローズがニヤリと口角を上げながら俺にそう尋ねてきた。
 正直なところ舞に勝てる見込みは一切ないが、ここまでお膳立てされておいて戦から引いては男が廃りそうな気がする。
 俺は(自分の欲望のために)やるときはやる男なのだ。




「ごめんユーリアくん。髪は後で切ってやるから少し待っててくれ」
「フーマ?」
「良いだろう。その勝負受けて立とう」




 俺はさっき手入れをしたばかりの片手剣を腰に差しつつ、舞に向かって堂々と戦う意思を示した。
 舞と剣を交える日が来るとは思ってもいなかったが、これはこれで良い機会なのかもしれない。
 俺の力を舞に見せつける日が遂に来たのだ。




「ふ、ふん。そうして強がってられるのも今の内よ!」
「絶対に20日間メイド服を着させてやる」




 こうして俺と舞の初の決闘が開催される事となった。
 何をしてでも勝ってやる。
 俺は未だ見ぬ舞のメイド姿を妄想して戦意を高めつつそう誓った。

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