クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

20話 尋問

 舞






「あら、これなんて風舞くんに似合うんじゃ無いかしら?」




 風舞くんに頼まれて服や生活雑貨の買い出しに出た私は、大通り沿いにある質屋に入り大きな木製のワゴンにこんもりと盛られた服を一枚一枚確認していた。
 この世界の服は新品でも庶民が買える様な価格帯のものが数多くあるのだが、こういった小さな村では着なくなった服を質屋を経由して何人かの人で着回す事でお金を節約するのが普通らしい。
 先ほど聞いたこの店の店主であるお婆さんの話によると、ソレイドなどの大きな街に行った時に余所行きの新品の服を買ってくる人が結構いるため、古くなりすぎた服を処分しても新しい服が質屋にまた入ってくるそうだ。


 それならワゴンの中を探せば状態の良いものも紛れ込んでいる可能性も十分にある。
 これは私の審美眼の見せ所だわ。
 そう意気込んで様々何服を手にとって確認していると、この質屋の店主さんが話しかけて来た。




「おや、まだいたのかい?」
「ええ。こうして沢山の服から掘り出し物を探すのが結構楽しくて夢中になっていたわ」
「そうかいそうかい。嬢ちゃんみたいな美人に似合う服となると、探すのも大変だろうが頑張っとくれ」
「美人だなんて照れるわね。それよりも、店主さんが持っているのもここに追加されるものなのかしら?」
「お、鋭いお嬢ちゃんだね。これはつい今しがたエルフのお客さんが売っていったもんだ。物としてはかなり古いんだが、状態も良いし十分に着られると思うよ。ほら、こっちが男用でこっちの二つが女用だ」




 そう言って店主のお婆さんが広げて見せてくれた服は私達のサイズに丁度合いそうな、これぞエルフの民族衣装といった感じの3着の民族衣装だった。
 私達3人のサイズに合いそうなだけでもかなり運が良いのに、男性用が1着と女性用が1着と小さめの女性用が1着ある。
 これは最早運命の出会いと言っても過言ではないだろう。
 ってそれよりも、




「エルフ!?」
「ああ。私も久しぶりにエルフを見たよ。ここらでは世界樹からソレイドに行くエルフを時々見かけるんだけど、魔物がグラズス山脈の方からよく出てくる様になってからはあまり見なかったからね」
「そうなのね。ちょっとそのエルフさんに話を聞いてくるわ!」
「待ちな!  この服はどうするんだい?」
「そこに積んであるのと、店主さんが今持って来たのも買うわ!  すぐ戻ってくるから待っててちょうだい!」
「まいどあり!  薄い茶色のローブで頭を隠してる男性で背はお嬢ちゃんよりも低いぐらいだったよ。まだ店を出てないから探せば見つかるかもしれないね」
「ありがとう店主さん!」




 店主のお婆さんに礼を言った私は、この店を訪れたらしいエルフを探すために質屋を飛び出した。
 ばっと周囲を見渡してみてもローブを着ている人は1人もいない。
 大通りは人がそれなりにいるし、このまま闇雲に走り回っても目当ての人物を探し出すのは難しそうだ。




「仕方ない。ちょっと目立つかもしれないけれど、上から探した方が早そうね」




 そう思い立った私はひとっ飛びで近くにあった一番高い建物の屋根に乗り、再び大通りの雑踏の中から例のエルフを探し始めた。
 ジャンプする前に周囲にいた人が私を見上げて騒いでいるが、今はそれに構っている場合ではない。
 店主のお婆さんの話やローズちゃんの予測によると今現在エルフの里で何か事件が起こっているらしいし、その情報を少しでも仕入れて置きたい。
 世界樹ユグドラシルに用がある私達にも少なからず関係がありそうな話だし。


 そう思って必死にお目当てのエルフを探しているのだが、それっぽい人は1人も見つからない。
 もしかしてもう村から出ちゃったのかしら。
 今も村に入って来た人がいるし、入れ替わりで例のエルフも村から出て行ってしまった可能性もあるわね。
 そんな事を考えながら半ば諦めつつ村の門の方を眺めていると、ちょうど馬に乗って村に入って来た丸眼鏡の女性と目が合った。




「これはマズイわね」




 私は登っていた建物から裏路地へと飛び降りつつ先程の光景を思い返してそう呟いた。
 私のいた位置からあの女性までかなり距離があったはずだが、彼女は変装している金髪の私を見てニンマリと笑っていた。
 あの様子だと間違いなく私の正体にも気がついているのだろう。




「まさかこんなにも早くネーシャさんがこの村に来るとは思いもしなかったわ」




 想定外の事態に陥ってしまった私は背後にネーシャさんが追ってくる気配を感じながらも、彼女を返り討ちにするのにちょうどいい場所を求めて村を走った。
 はぁ、出来るだけ目立たないようにしろって二人に言われてるし、どうしたものかしら。






 ◇◆◇






 風舞






「で、出来るだけ穏便に済ませようとした結果、路地にネーシャさんを誘い込んでワンパンで気絶させた後、彼女を拉致ってくる羽目になったと」




 ジャミーさんとネーシャさんが村に入ってくるのを目撃した俺は、素早く木窓を閉じて今後の方針を考えつつ逃げるために荷物をまとめていたのだが、そうこうしている内に気絶したネーシャさんが入っている麻袋を持った舞が宿に帰ってきた。
 焦って逃げる手立てを考えていたのに、少し肩透かしをくらった気分である。


 因みに、俺達の髪の色は舞が戻って来て少ししたぐらいで元の色に戻っていた。
 ローズがゴソゴソと寝返りを打ってたし、もしかすると彼女が自分で解いたのかもしれない。




「ええ。出来るだけ目立たないようにしようと思ったらこうなってしまったわ。その、ごめんなさい」
「ああ、ごめんごめん。別に怒ってないぞ。俺も舞と同じ立場になったらそうするぐらいしか思いつかなかっただろうから謝らないでくれ。むしろネーシャさんに話を聞けばその後セイレール騎士団の人達がどうしてるかも分かるし、結構なお手柄だと思うぞ」
「ふふ。そう言って貰えると少し安心したわ」




 舞はふんわりと微笑んでそう言うと、簀巻きにされているネーシャさんの元へ寄って行って麻袋に付けられている顔付近のロープ解き始めた。
 普段の舞は俺とローズの度肝を抜く様な事を平気でやるやんちゃなだが、こういう緊急時は俺なんかよりも状況判断能力が高い気がする。
 ほら、今もネーシャさんの丸眼鏡を外してかけてみたりしてるし。
 って何やってるんだ?




「ちょっと舞さんや。何をしてるんだ?」
「ネーシャさんの眼鏡を外しておけば、仮に目を覚ましてもすぐには暴れないと思ったのよ。それにしても、かなり度が強いわね。ほら、」




 舞はそう言うとかけていたネーシャさんの眼鏡を外して、窓際の椅子に座っていた俺に眼鏡をかけた。
 いつもの舞の石鹸の様ないい香りがふんわりと漂ってくる。
 ヤバっ。
 なんかこういう時の舞は少し可愛らしくて緊張する。


 そんな感じで急な舞の接近にドギマギしていると、俺に眼鏡をかけた舞が俺の前髪をいじり始めた。




「ふふっ。ガリ勉くん」
「なぁ舞さん?  何してるんだ?」
「丸眼鏡をかけた風舞くんに似合う髪型を探してるのよ」
「はぁ、さいですか」
「さいですよ」




 俺はそう楽しげに言う舞の声を聞きながら丸眼鏡を外して舞に掛け直した後、気絶しているネーシャさんの元へ椅子を運んでいって、彼女を麻袋から取り出してそのまま椅子に縛りつけた。
 なんとなく話を聞き出す時のスタイルはやっぱりこれな気がする。
 俺がソレイドで悪魔の叡智に拉致られた時も椅子に縛られてたし。




「あら、フーマくんはそういうのが好きなのかしら?」
「分かってて言ってるだろ。この方が話を聞きやすそうだからこうしたんだ。ほらマイム。さっさとネーシャさんに水をかけるなり電気を流すなりして起こしてくれ」
「ふふふ。相変わらずフーマくんは鬼畜ね」




 そう言いながらも気絶しているネーシャさんの方へ寄って行って手元でバチバチと雷を起こす舞。
 おいおい。
 流石に威力が強すぎないか?




「や、やめて下さい!  起きてます! 起きてますから!」
「あぁ、やっぱり起きてたんですね」
「流石フーマくんね!  ネーシャさんが狸寝入りをしているなんて全然気がつかなかったわ」




 えぇ、それであんな派手に電気を出してたのか?
 さっきの威力の雷魔法を直接くらったら普通は大変な事になりそうな気がするんですけど。




「ああ。椅子に縛られている途中で起きたみたいだぞ。瞼がピクって動いたからそれで分かった」
「はぁ、バレてしまったのなら仕方ありません。それで、私をどうするつもりですか?」
「ふふふ。言われなくても分かっているのでしょう?」
「な、何の事です?」
「とぼけたって無駄よ。貴女は私に負けて眼鏡まで奪われた。次はどうなってしまうのかもう分かってるんじゃないかしら?」




 丸眼鏡をかけたままの舞が顔の前に片手をかざすカッコいいポーズをしながらそう言った。


 っていやいや。
 どうなってしまうのか分かってるんじゃないかしらって、ネーシャさんに何をするつもりなんだよ。
 話を聞くだけじゃないのか?




「ま、まさか。私の事を辱めるつもりですか?」
「ふっふっふ。そのまさかよ。さぁフーマくんやっておしま、って痛っ!?」
「はいはい。お遊びはそこまでな。ミレンも寝てるんだから手早く済ませるぞ」




 俺はそう言って炎の魔剣をネーシャさんの眉間に突きつけながら、冷や汗を垂らすネーシャさんに声をかけた。
 少々手荒な気もするが、ここにはいないジャミーさんの動向も気になるし、ネーシャさんに怪我をさせるつもりはこれっぽっちもないからこのくらい構わないだろう。




「さてネーシャさん。今からいくつか質問をするんで答えて下さい」
「私が正直に話すとでも?」
「話さない場合は一緒にこの村に来ているジャミーさんに聞きに行きます」
「ちっ。分かりました。素直に話しましょう」




 ふぅ。
 どうやらお前の代わりならいるんだぞ作戦は上手く言った様だな。
 スパイものの映画を何本か見た事があって助かった。
 後は彼女にいくつか質問をしてその話が嘘か本当か判断するだけだ。


 俺がそう思って内心安心していたその時、俺に頭を叩かれてから静かになっていた舞がネーシャさんの元へスタスタと寄って行って彼女に何やら耳打ちを始めた。
 舞の話を聞いているネーシャさんの顔がみるみる真っ青になっていく。


 そんな2人の様子を眺めながら待つ事数分。
 最後に舞が言った事に対してネーシャさんがブンブンと頭を縦に振ると、やり切った顔をした舞が再び俺の横に戻って来た。




「おまたせフーマくん。ネーシャさんはフーマくんの質問に正直に答えてくれるそうよ」
「一体何を言ったんだ?」
「ふふっ。乙女の秘密よ」




 そう言いながらウインクをして人差し指を口の前で立てる舞。
 あの気の強そうなネーシャさんがこんなにガクブルするなんて一体何を吹き込んだのだろうか。
 まぁ、こういう時の舞は聞いても教えてくれないんだろうけど。




「あ、そう。それじゃあネーシャさん。いくつか質問をするんで素早く簡潔に真実のみを話して下さいね」
「ヒィッ!!  話します。話しますからあれだけは、あれだけはやめて下さい!」




 俺の声を聞くなり一層震えを酷くして怯えた顔をするネーシャさん。
 俺がその彼女の様子を見て横に立っている元凶の方へ呆れた顔を向けると、てへぺろをしている舞と目が合った。


 おい!
 マジで何言ったんだよ!
 俺が少しでも動けばビクッとするってもうトラウマレベルになってるじゃねぇか!


 そう叫びたい気分になったが、それをするとネーシャさんが失禁するなり失神するなりしそうなためグッと堪えた俺は、出来るだけ優しい雰囲気を意識してネーシャさんに質問を始めた。

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