クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

14話 街道へ

 風舞






「さて、それじゃあどこに向かおうかしら」




 ローズに服を着せた舞が立ち上がって、軽くストレッチをしながらそう言った。
 今俺達がいるのはセイレール村からも街道からも離れた草原で、かなり遠くの方に途中で通る予定であるグラズス山脈が見える。




「ここってセイレール村からどっちに向かったところなんだ?」
「えーっと。街道と垂直に移動して来たから、セイレール村から数キロほど西の所かしら」




 俺達の目的地である世界樹ユグドラシルはソレイドから北西の方角にあるのだが、その途中で高い山々の連なるグラズス山脈があるため、ソレイドから真北に行った所にある洞窟を通って山脈を抜ける予定だった。
 グラズス山脈も見えているし、方角も何となくわかる為北に向かって行けば良いと言えば良いのだが、移動手段である馬車や夜営のための道具は置いて来てしまったし、このまま進むには食糧が心もとない。




「それじゃあ、流石に何処かの村か街で物資を補充しないとだし、とりあえずは北東の方に向かって行くしかないんじゃないか?」
「でも、街道に戻ったら人に会う可能性があるわよ?  ローズちゃんが魔族だって広まるまでは少し時間がかかるでしょうけど、出来るだけリスクは避けた方が良いわ」
「ローズが起きたら髪の色なり目の色なりを変えてもらえば誰かに会っても大丈夫だと思うぞ。この世界にはカメラなんてないだろうから個人を特定するのも難しそうだし、どっちかっていうとあまり街道から離れて迷子になる方が怖い」
「それもそうね。街道まで戻るのに数時間はかかるでしょうし、それまでにローズちゃんも目を覚ますだろうから、風舞くんの案でいきましょう」




 舞はそう言って頷くと、ローズを背負って地面に置いてあった槍をローズの膝の下に通した。
 落下中にも思っていたが、舞はこの前のアセイダル戦の時に俺が渡した槍を今回の旅に持って来ていたらしい。
 確かに何か問題が起こって剣が使えなくなる事もあるだろうし、予備の武器も持っておいた方が良いかもしれない。
 俺だって片手剣の他に炎の魔剣を持ってる訳だし。


 そんな事を考えながら二つのリュックサックを前後にかけて、袋に入った食糧を持った俺は舞と並んでセイレール村から離れつつ街道へ向かって歩き始めた。




「ねぇ風舞くん」
「ん?  どうした?」
「何があってもローズちゃんを一人にしない様にしましょうね。きっとローズちゃんの事だから私達に迷惑をかけまいとして、一人でどこかに行ってしまう気がするのよ」




 舞が背中におぶっているローズを慈しむ様な顔をしながらそう言った。




「確かにローズならやりかねない事だな。でも、ローズがいなくなったら俺の中にいるフレンダさんがブチ切れそうだし、俺も舞と同じ様にローズ一人に全てを背負わせるつもりはないぞ」
「ふふっ。風舞くんならそう言うと思ったわ」




 俺と舞にとってローズはこの世界で一番初めに出来た大切な仲間だし、ここでローズを見捨てるなんて考えは毛ほども存在しない。
 ていうか、ローズの気配が俺から遠ざかる様な事があったらマジでフレンダさんがガチ切れしそうで凄い怖い。
 白い世界では俺に管理者権限みたいなものがあるため黙らせようと思えば出来なくはないが、流石にそこまでするのはどうかと思うし。




「でも、俺達が寝ている間とかにこっそり逃げられたらどうしようも無くないか?」
「それは私に任せてちょうだい。私がローズちゃんを抱きしめながら寝るから問題ないわ」
「それだけは頼むからやめてくれんかの。お主に抱かれながら寝ると一切身動きできんから、朝起きた時にすごい身体が凝ってるんじゃ」
「お、起きたのか」
「うむ。二人とも世話になったの」




 目を覚ましたローズが俺達の方を見ながらそう言った。
 転移魔法を使ってから割と時間が経っていたしそろそろ起きる頃合いだとは思っていたが、変なタイミングで起きたな。
 この様子なら俺達が話し始めた時には既に意識が戻っていたのかもしれない。




「ふふんっ!  このぐらい大した事無いわ!」
「まぁ、俺はなんもしてないんだけどな」
「フウマはあの赤毛の団長との戦闘を手伝ってくれたではないか。お陰であやつの芯をズラす事が出来たんじゃぞ?」
「ん?  芯をズラすってなんだ?」
「そうじゃな。簡単に言うとすれば、芯とは人々の身体を動かす根幹の事じゃな。今回は掌底に魔力と気を混ぜ合わせたものを乗せて芯を砕かない様に打ち込む事で、あの娘の動きを封じたんじゃ」




 あの一撃にはそんなに高度な技術が使われてたのか。
 ローズが蹴りを入れないなんて珍しいなとは思っていたが、ローズは今後の事も考えて戦っていたらしい。
 あの戦闘中ローズは魔法を使っていなかったし、団長さんを無力化する事だけを考えていたのだろう。
 相変わらずローズはチートみたいなキャラだな。


 今のローズは髪を乾かさずにスカイダイビングをしたから髪が逆立ってて、スーパー◯イヤ人みたいになってるし本物の戦闘民族なのかもしれない。
 いや、どっちかっていうと馬鹿っぽい見た目だしそれは違うか。




「封じたって、シェリーさんはもう動けないのかしら?」
「いや、あやつは赤い戦士じゃし早ければ2日、遅くとも5日で復帰するじゃろうな」
「へぇ、それじゃあその間に出来るだけ距離を稼いどかなきゃだな」
「そうじゃな。さて、マイよ。そろそろ妾を下ろしてはくれんか?」
「え、いやよ?  どうせ今の話を聞いていたんでしょうし、理由は聞かなくても分かるでしょう?」
「わ、妾は一人で逃げたりなどせんから下ろしてくれ。流石に良い年しておぶられているのを人に見られるのは恥ずかしい」




 舞の頭を両出で掴んでぐいんぐいんしながらそう言うローズ。
 ああ、その気持ちよく分かるぞ。
 俺もダンジョンで舞にお姫様抱っこされている間、周りにはローズしか居なかったのに凄い恥ずかしかったもん。




「あら、周りには私達しかいないから大丈夫よ」
「ふ、フウマ。助けてくれ。マイがどんどん妾の脚を抑える力を強くしているんじゃが」




 ローズが少し涙目になって俺に助けを求めてきた。
 まぁ、フレンダさんがいればローズの位置は聞けば分かるだろうし、別に離してやっても良いだろう。




「はぁ、ローズを下ろしてやってくれ。別におんぶじゃ無くても、手を繋ぐなりしたら良いんじゃないか?」
「むぅ。フウマくんがそう言うならそうするわ。せっかく妹をおんぶするお姉さん気分を味わっていたのに」




 舞が唇を少し尖らせながらもローズを地面に下ろしてそう言った。
 えぇ、舞がローズのおんぶを止めるのを渋ったのってそれが理由なのか?
 てっきりついさっきまで話していたローズを一人になんてしないっていうのが理由だと思ったのに。


 そんなことを思った後、舞がリュックサックの肩紐の長さを調節している間に、ローズがてけてけと寄って来て俺に話しかけてきた。




「助かったのじゃ。あのままでは舞は妾を降ろしてくれそうになかったからの」
「ああ。もし一人で背追い込もうとしたら今度こそ舞が離してくれなくなるだろうから気をつけた方がいいぞ。それに、もしそうなったら俺はシャーロットにお前の捜索を頼む」
「お、おいフウマ。わかったからその悪い顔をやめてくれ。さてはお主、それもそれでありだなとか思っとるじゃろ」
「別にそんなことないぞ。ほら、ローズは食糧を持ってくれ」
「うむ。ありがとうフウマ」
「あいよ」




 そうして荷物を分担して持ってから俺達は再び北東へと歩き始めた。
 ここの草原は草がふくらはぎくらいの高さまでしかないため、そこそこに歩きやすい。
 これなら突然現れた魔物に襲われるとかは無さそうだし、街道まで割と安全に移動できるだろう。


 そうして草原をただひたすら歩く事しばらく、俺達の進む先にようやく街道が見えて来た。
 街道と言っても舗装も何もされていないわだちがあるだけの土がむき出しの道なので、結構近くまで寄らないとその存在すら確認できないのである。
 遠くからだと草に阻まれて1キロ先の地面すら見えないし。




「街道についたら飯にしようぜ。流石に腹が減った」
「そうね。もう日も傾き始めているけど、お昼ご飯もまだだったわね」
「言われてみればそうじゃったな。一度落ち着いて話もしたいし、今日は早めに夕飯をとるかの」




 魔力がそこそこに回復して顔色と、ついでに髪型も元通りになったローズが頷きながらそう言った。
 ローズが持っている鞄には約2日分の食糧しか入っていないらしいが、流石に腹ペコだし今日の夕飯は普通に摂っても良いと思う。
 明日からローズのアイテムボックスに3人が持っている荷物を全部入れて、街道沿いに走って行けば次の村まで3日でつくらしいし多分なんとかなるはずだ。
 もしかすると途中で動物や魔物に出くわして食糧を調達出来るかもしれないしな。


 そんな事を考えながら街道までえっちらおっちらと歩いていると、先頭を歩いていた舞がこちらを振り返って声をかけて来た。




「そういえば、最近風舞くんの料理を食べてなかったし、是非とも風舞くんに夕飯を作ってもらいたいわ」
「おお、それは名案じゃな!  今日は妾も疲れたし、上手い飯を食ってから寝たいからの」
「まぁ、夕飯を作るのは構わないけど、食糧は何があるんだっけか?」
「えーっと、兎肉が一頭分とレタスもどきが二玉。後はシルビアちゃんの作ってくれたパンが沢山ね」




 舞がローズの持っている大きな食糧袋に目をやりながらそう言った。
 身長が低いローズがかなり大きな荷物を持っているのを見ると、少し複雑な気分になってくる。
 まぁ、ローズの方が俺より重たい物を持ってられるんだけど。




「それじゃあ、調味料の方は何があるんだ?」
「あ、調味料の事をすっかり忘れてたわ」




 舞がやっちまったぁみたいな顔をしながら額に手を当ててそう言った。
 せめて塩だけでもあれば野菜炒めでも作れたが、流石に肉と野菜だけじゃどうにもならない気がする。




「ま、まぁ。シルビアのパンもあるし、今日は素材本来の味を感じられるサンドイッチにでもしようぜ」
「ごめんなさい。折角風舞くんが料理をしてくれるのに、これじゃあどうしようもないわね」
「舞はこうして俺達全員の荷物を持って来てくれたんだし、謝らないでくれ」
「ありがとう風舞くん」




 気落ちしていた舞がふんわりと笑みを浮かべながらそう答える。
 夕陽に照らされた彼女の微笑みはどこか儚げで、少しドキッとしてしまった。


 そんな映画のワンシーンの様な舞の横顔に見惚れていると、ローズが俺の裾をクイクイと引っ張って小さな壺を手渡して来た。




「なんだこれ?」
「うむ。以前ソレイドで買ったソースじゃな。そういえば妾のアイテムボックスに入っておった」
「あ、そうすか。……なんていうか、良かったな舞。どうやら味気ない夕飯にはならなそうだぞ」
「え、ええ。そうね。ありがとうローズちゃん。助かったわ」
「うむ。旅は助け合いが大事じゃからな!  この程度気にせんで良いぞ」




 胸を張ってドヤ顔でそう言うローズ。


 一方の何となく夕暮れ時というのもあって少しおセンチになっていた俺と舞はというと、歩いていた脚を止めて胸を張るローズをただぼんやりと見つめていた。
 えーっと、まぁ、良かったんじゃない?
 普通に味のある夕飯を食べれそうだし。


 たまたま目があった俺と舞はそんな事を目だけで話しながら、苦笑いを浮かべ合った。

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