クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

10話 金物屋

 舞






「フーマくん、怒ってたかしら?」
「分からん。ただ、散々フーマにいじられたがそこまで怒っておるでようはなかったし、お主が思っておる程の事ではないんじゃないかの」
「それなら良かったわ。でも、フーマくんには迷惑をかけてしまったし後で謝らないといけないわね」




 ファルゴさんの奥さんでセイレール騎士団の団長さんがお風呂場に乱入してすぐに風舞くんは出ていってしまった。
 今思い返してみると、風舞くんは私の素肌を見て赤くなってくれてはいたが、仕方なく一緒に入るって言ってくれたみたいだったし少し強引だったかもしれない。
 後で風舞くんにしっかりと謝罪をしないと。


 心の中で先程の反省をしていると、クネクネ状態から復帰した団長さんが私達の方へ振り返って話しかけてきた。




「あ、そうだった。そういえば、お前ら名前は何て言うんだ?」
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はマイムと申します。この度はお風呂場をお貸し下さり誠にありがとうございます」




 私は久しく使っていなかった敬語で団長さんに頭を下げながら自己紹介をした。
 何故かは分からないが、そういう風に話したい気分だったのだ。




「なんだ?  さっきまでの威勢はどうしたんだよ?」
「その、先程までは気が動転してしまって粗雑な話し方をしてしまいました。ご無礼をお許し下さい」
「ん?  まぁ、何でもいいけど、お前はさっきの話し方の方がいい感じだったぞ?  何ていうか、今のお前は自分の心を誰にも見せないようにしてるみたいだ」
「そう、ですか」
「そうだ。だから私にもそんなお堅い話し方しないで普通に話してくれ。正直、今のお前とは話してもつまらなそうだ」




 団長さんは自分の長い髪を一纏めにしながら笑顔でそう言った。
 鮮やかな赤髪が炎のように揺れる。


 どうやらこの人はたった数回私と言葉を交わしただけで、私の本質を見抜いてしまったらしい。
 私もまだまだね。




「はぁ、それじゃあ楽にさせてもらうわ。改めてよろしく。私はマイムよ」
「ああ。よろしくな!  私はシェリー。セイレール騎士団の騎士団長で、ファルゴの…お、おお、お嫁さんだ」




 顔を真っ赤にしながら言葉を尻すぼみにさせてそう言うシェリーさん。
 さっきまでの猛々しく凛々しい雰囲気がぴたりと鳴りを潜め、今は年頃の乙女が恋に身を焼いている様にしか見えない。
 間違いなくシェリーさんは歳上だろうが、凄く可愛いく見えてしまう。




「ふむ。お主は中々初心なようじゃな。妾はミレンじゃ」




 ローズちゃんがそんなシェリーさんの元へ寄って行って、右手を差し出しながら自己紹介をした。
 少し冷静さを取り戻したシェリーさんがローズちゃんの手を握って頷きながら口を開く。




「あ、ああ。よろしくな」
「うむ。よろしく頼むぞ」
「それで、さっきから思ってたんだが、なんでこんなところに魔族がいるんだ?」




 シェリーさんが獰猛な笑顔で牙を向きながらそう言った。






 ◇◆◇






 風舞






「ふぅ、これで片付けも終わりですね」
「ああ。何から何まで本当に助かった。改めて礼を言わせてくれ」
「いえいえ。俺はケイさんを紹介してもらえるので、そんな礼を言わなくても大丈夫ですよ」
「フーマは謙虚だな」
「まぁ、良く言われます」
「ああ。本当に謙虚だ」




 ジャミーさんは笑いながら俺からホウキを受け取って掃除道具を倉庫に置きに行った。
 謙虚だと言われて謙虚じゃない返事をした俺はそのまま部屋に残って椅子に座る。




「ふぅ。ここ最近で一番疲れた」




 俺は先ほどのファルゴさんとネーシャさんの戦闘に割り込みを入れた時の事を思い出してため息をついた。
 形を保ったまま魔力を動かすのはかなり消耗するというのはわかっていたが、ごっそり魔力が減る感覚は魔法を使えなくなったから久しぶりだし、気分的な疲労感がかなり大きい。
 先程の戦闘がかなり激しいものだったとはいえ、喧嘩の内容がしょうもなさ過ぎてそこまで切羽詰まった状態でなかったのも、疲労が気になる原因の一つだろう。


 でもまぁ、ジャミーさんの言う様に魔力操作のLVが二つも上がってたなら、魔法が使える様になった時が楽しみでもある。
 魔力操作のLVが高ければ高いほど正確に扱える魔力量が増えてより強力な魔法が打てる訳だしな。
 そう考えると、これからもちょくちょく魔力操作の訓練として魔力を一定の形に保つ訓練をしてみてもいいかもしれない。


 そんな感じでこれからの旅の暇潰しについて考えていると、ジャミーさんと後頭部をおさえているファルゴさんが部屋に入って来た。




「あ、ファルゴさん。もう起きたんですね」
「まぁな。まだ頭が痛いが、そのうち痛みも引くだろ。こうやってジャミーにど突かれるのはいつもの事だからへっちゃらだ」
「お前はもっと俺に殴られない様に振舞ってくれ」
「そうは言うけどよ、あのクソ眼鏡がシェリーに近寄るなとか言ってくるんだから仕方ないだろ」
「はぁ。どっちも同罪だ」
「おい!  お前は俺とクソ眼鏡どっちの味方なんだよ!」




 ジャミーさんの背中をバシバシ叩きながらそう言うファルゴさん。
 それを鬱陶しそうにしつつ、ジャミーさんが俺に笑顔を向けながら話しかけてきた。




「フーマ。良かったら今からケイの所に行かないか?  こいつとネーシャを引き離しておきたいし、女性陣はまだ風呂から上がってないみたいだから良いだろ?」
「そうですね。書き置きでもしとけば良いでしょうし、待っててもする事がないんでお願い出来ますか?」
「ああ。それじゃあ決まりだな。ほらファルゴ。出かけるから準備しろ」
「えぇー。久し振りにシェリーに会えたし、もっと一緒に居たいんだけど」
「昼飯を奢ってやるから我慢しろ。それに団長が長風呂なのはお前も知ってるだろ?」




 ジャミーさんにそう窘められたファルゴさんは渋々といった感じで準備をしに行った。
 あ、またジャミーさんが溜息ついてる。
 この人そのうちストレスで禿げるんじゃないか?
 俺はそんな事を考えながらジャミーさんを横目に、ローズと舞にメモを残した。






 ◇◆◇






 風舞






 傭兵団の詰所を出てファルゴさんとジャミーさんに案内される事数分。
 俺達は村に入る時に見た煙突のある建物に来ていた。
 ファルゴさんがドアの大きく開かれていた入口を通って、声を上げる。




「おーい。ケイはいるかー?」
「あ、ファーちゃんとジャーちゃん。いらっしゃい。今日はどうしたの?  あ、そっちの黒髪の人は2人のお友達?」




 店に入ってすぐに声をかけてきた人は、ローズよりも少し身長が低いが華奢には見えないドワーフの女性だった。


 太っている様には見えないが、ずっしりとした佇まいをしている。
 ドワーフの女性のボディーバランスはとても不思議だ。
 ソレイドの鍛治職人のドワーフは、小っさいおっさんって感じで解りやすかったのに。


 そんな事を考えながらこの金物屋の娘さんだと言うケイさんを見つめていると、ジャミーさんが俺の事を紹介をしてくれた。


「ああ。こいつはフーマ。依頼で怪我した俺の脚を直してくれて、その上馬車でここまで送ってくれた3人組のうちの1人だ」
「あ、そうなんだ〜。うちのジャーちゃんがお世話になりました。これからもジャーちゃんと仲良くしてあげてね」




 そう言って薄い茶色のボブヘアを揺らしながら微笑むケイさん。
 なんかジャミーさんのお母さんみたいだな。




「おい!  俺の母親みたいな事言うのいつもやめろって言ってるだろ!」




 ジャーちゃんが顔を少しだけ赤くしながらそう言った。
 どうやら恥ずかしかったらしい。




「え〜。でもでも、ジャーちゃんがお世話になったならお友達の私もお礼言わないとでしょ?」
「そうだぞジャミー。折角ケイが一緒にお礼を言ってくれてるんだから、そう邪険にする事ないだろ。なぁ、フーマ」




 ファルゴさんが俺の方をニヤニヤと見ながらそう言う。
 頭の中がお花畑のファルゴさんがこういう態度を取るって事は、そういう事なのか?




「そうですね。ジャーちゃんはもっとケイさんの事を大切に扱った方が良いと思います」
「な、フーマまでそういう事を言うのか!?」




 ジャミーさんが唖然とした顔で俺の事を見ながらそう言った。
 クールなジャミーさんの顔が真っ赤になっているし、どうやら間違っていなかった様だ。


 ごめんねジャミーさん。
 俺は自分が面白い方を選びました。

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