クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

4話 旗あげゲーム

 風舞






 ソレイドを出て早3日。
 2回ほど魔物が出てきたり、ただの野うさぎを見つけてて狩をしたりしながらも、特に目立った事もなく俺達を乗せた馬車は今日もガタゴト進んでいた。




「あっづ!?」
「どうしたの風舞くん!?」
「ああ。何でもない。ちょっと炎の魔剣の実験をしてたら火傷しただけだ」




 馬車に乗っている間暇だし、悪魔の叡知のメンバーから奪った魔剣の性能を確認してみようと思い、いろいろ試していたら火傷をしてしまった。
 まぁ、馬車が燃えるなんて事にならなかった分、まだマシな方だろう。
 そんな事を考えていると、舞が俺の方に寄ってきて俺の右手に出来た火傷の様子を診てくれる。




「ってこれ、ちょっとってレベルじゃ無いわよ!  何をしたらこうなるのよ」
「ああ、炎の魔剣の火の色を変えられないかと思って魔力をつぎ込んでみたら熱すぎて持てなくなった」
「何やら面白そうな事をしているけれども、もっと自分を大事にしてちょうだい。あと、私も交ぜてちょうだい!」




 舞が目をキラキラさせながらそう言った。
 魔法とか魔剣とかが大好きな舞には魔剣の実験は琴線に触れる事だったらしい。
 そういえば舞ってそこそこのオタクなんだよな。
 今も鼻息がふんふん言ってるし。


 俺はそんな舞の顔を押し退けつつ、御者をしているローズの方に歩いて行って頭を下げた。




「忙しい所すみません。治してください」
「まったく。お主らはこれで何度目じゃ。昨日の戦闘の時もマイが風魔法で自分をぶっ飛ばして骨折しておったし、出発してまだ3日なのに怪我が多すぎるじゃろ」




 ローズが片手間で俺に回復魔法をかけながら呆れた顔でそう言う。




「舞と同じにしないでくれよ。このくらい大した怪我じゃないだろ」
「そこまで手を赤くさせといてよくそんな事言えるの」
「そうよそうよ!  ちょっぴりグロくて私もびっくりしたんだから!」




 荷台に腰かけて魔剣をいじっていた舞が頬を膨らませながら抗議の声をあげた。
 レイズニウム公国からの帰る途中にボタンさんに山を切り崩してもらったら出てきた溶岩をアイテムボックスに入れる時に負った火傷に比べると大したことない気がする。
 アイテムボックスに入れるには溶岩を直接触らないとならないから、何度も手が焦げる体験をした訳だし。


 それに比べたら今回の火傷はちょっと熱いなぁぐらいのものだろう。
 まあ、あっづ!  って叫んじゃったんだけど。




「昨日の舞だって足を血だらけにしてたじゃん。あれの方がグロいだろ」
「だって、風魔法をブースターにしながら縮地を使ったらものすごいスピードになると思ったんだもの」
「はぁ。お主らが暇なのは分かったからもう少し大人しくしとってくれ。いくら妾が魔封結晶を一つ取り込んで魔力が増えたとは言っても、この頻度で回復魔法を使わされては流石にかなわん」
「ごめんなさい」「すんません」




 ローズに少し怒った口調でそう注意された俺達は大人しく荷台でお話しでもしていることにした。
 異世界でやりたい事をあげていく事数分、俺はふと気になった事を舞に聞いてみる事にした。




「そういえば、舞のレベルはいくつになったんだ?」
「ふふん!  聞いて驚きなさい!  なんと51になったわ!  ポ◯モンなら進化していてもおかしくないレベルね!」


 舞がポケットに入れていたステータスカードを俺の顔の前にグイグイ出しながら自慢げに胸をはる。
 はいはい。分かったからポ◯モンの物真似はやめなさい。
 またローズに怒られるぞ。
 っていうかそれなんの物真似だよ。
 バリ◯ードか?




 そんな舞の微妙なクオリティの物真似を横目に、ステータスカードを受け取った俺は軽く目を通してみた。
 舞のステータスカードをみるのはかなり久し振りな気がする。




「えーっと。どれどれ」






◇◆◇


 マイ ツチミカド


 レベル 51
 体力 681/726


 魔力 531/580


 知能 582


 攻撃力  711


 防御力 621


 魔法攻撃力 590


 魔法防御力 582


 俊敏性 757






 魔法 風魔法LV2 水魔法LV1 土魔法LV1 火魔法LV1 雷魔法LV2


 スキル 身体操作 LV3  ランバルディア共通語   剣術LV2 見切りLV2 槍術LV1 格闘術LV1 縮地LV1


 称号 異世界からの来訪者 勇者




 ステータスポイント 122


◇◆◇






「へぇ、やっぱりアセイダルは経験値的にはかなり美味しい相手だったんだな」
「そうね。風舞くんの方もきっとかなりレベルが上がってるはずよ」
「それじゃあ、アイテムボックスをまた使えるようになった時が楽しみだな」




 俺のアイテムボックスはギフトを無理矢理開花させようとした影響で全ての魔法が使えなくなった時から開かなくなってしまった。
 そのため財布とかステータスカードとかブラックオークの鎧とかダンジョンの探索道具とか今まで入れていた物全てが取り出せなくなってしまったのである。
 まぁ、ステータスカードは教会に行けば再発行してくれるらしいし、その内どうにかなりそうなんだけど。




「お、雷魔法なんていつの間に覚えたんだ?」
「この前のローズちゃんの雷魔法がカッコ良かったから、ついステータスポイントを使って覚えちゃったわ。流石にLV1でポイントを270も使うとは思わなかったのだけれどね」
「雷魔法は四属性の魔法に比べると習得が難しいと言われておるし、それなりにポイントを喰うのも当然じゃろうな」




 手綱を握ったままこちらを向いたローズがそう説明してくれた。
 四属性っていうのはおそらく火水土風の事だろう。
 ソシャゲだと基本そうだし。




「へぇ。それじゃあ雷魔法のレベルを上げるのにポイントを使うのはやめといた方が良いわね」




 舞が爽やかな笑顔でローズにそう言った。
 舞はもう使っちゃたよね。
 雷魔法はLV2だし、ステータスポイントもかなり減ってるみたいだから間違いないだろう。




「そうじゃな。最初のとっかかりを得るのにLV1だけポイントを使って覚えるのは良いじゃろうが、それ以降は蛇足じゃな」




 ローズはそう言うとまた前を向いてファイアー帝王の引く馬車を操り始めた。


 それを見た舞が少ししょんぼりした顔で俺から受け取ったステータスカードをポケットにしまう。
 ローズには舞がポイントを使っちゃったなんてチクんないから安心してくれ。
 俺もステータスポイントを使って魔法のレベル上げたり、直感とか豪運とか謎スキルを覚えた蛇足側の人間だしな。


 俺がそんな感じで舞に謎の親近感を感じていると、気を取り直した舞が面白い提案をしてきた。




「ねえ、そういえば風舞くんは魔力操作を覚えていたわよね?」
「ああ。魔力操作はスキルだし使えるままだぞ」
「それじゃあ魔力で私の手をつついてちょうだい」
「ん? まぁ、そう言うならやってみるけど、何の意味があるんだ?」
「私の魔力関知の訓練になるし、風舞くんも魔力操作のLVが上がるかもしれないわ。まさに一石二鳥ね!」
「ああ。なるほど」




 という訳で、俺と舞の魔力操作と魔力関知の訓練が始まった。
 魔力で舞の手をつつくだけなら静かな訓練だろうし、ローズに怒られることもないだろう。




「えーっと、こんな感じか?」




 俺は自分の手のひらからもう一本の手を出すイメージで魔力を操ってみた。
 感覚的には手のひらからぐにゃんぐにゃんのマジックハンドを出す感じ。




「おお、最初から手の形になってるわ!  流石ね風舞くん!」
「ああ。でも、これものすごい魔力の消費が多いな。維持すんのも結構キツイ」




 俺は一度魔力の手を消して、一息つきながらそう言った。
 アセイダルも自分の魔力を周囲に放出するだけで固定してなかったみたいだし、魔力を一定の形に維持するのは結構消費が激しいのかもしれない。




「そう。それじゃあ、とりあえずは魔力の放出をお願い出来るかしら。私は風舞くんが魔力を出したら手をあげるから、風舞くんは小刻みに魔力を放出してちょうだい」
「わかった。それじゃあやってみるか」




 それから旗あげゲームの要領で魔力操作と魔力感知の訓練をする事数分。
 両手と右足をあげて両目を瞑り口を開いた舞が何かに気がついた様子でローズの方を向いた。
 魔力感知を集中して発動させていたから、知覚範囲が広くなっていたのかもしれない。




「前から何か来るわね」
「うむ。どうやら二人組の人間のようじゃな」
「おお!  ついに盗賊イベント勃発ね!  有り金全部ぶんどってやるわ!」




 舞はそんなどっちが盗賊か分からないセリフを言うと、馬車の後方から剣を持って飛び降り、前方にいるらしい二人組の方へ走って行った。
 俺は御者席に座るローズの方へ行って声をかける。




「で、実際盗賊なのか?」
「いや。片方は怪我をしておるようじゃし、馬車に同乗を求めて来ただけじゃろうな」




 ローズが前方に見える人影を指指しながらそう説明した。
 遠くの方に肩を貸しながらこちらへ歩いてくる人影が見える。




「手綱は俺が握ってるから行ってきてくれ。俺にはああなった舞を止められない」
「はあ。これで舞が元の世界では大人しくて高嶺の花のような娘だったと言うのじゃから、世の中は分からん事ばかりじゃの」




 ローズがそう言いながらも俺に手綱を預けて舞の方へ走っていった。


 あ、舞が二人組を正座させて剣を向けてる。
 どうせ「そうやって私達を騙すつもりなのね!」とか言っているのだろう。


 俺がそんな感じでファイアー帝王の手綱を握ったまま百メートルほど先の舞のどたばた劇をぼんやり眺めていると、何やら騒いでいる舞の元にようやくローズがたどり着いた。




「ん?  なんか話してるのか?」


 てっきり舞がローズにすぐ蹴飛ばされると思っていたが、舞とローズで何やら話をしている。
 へぇ、もしかして本当に盗賊だったのか?  と思ったその時、ローズが大声で叫びなから舞の後頭部に回し蹴りをくらわせた。




「このど阿呆がぁぁぁ!!」




 あ、やっぱりこうなんのね。
 俺がそんな感想を抱いている間にも、そのまま地面と水平にぶっ飛んで行く舞。
 おお、20メートルくらいはノーバウンドで飛んだんじゃないか?


 ローズがああして舞を蹴り飛ばした事だし、本当に盗賊ではなかったのだろう。
 ソレイドからはずっと平原続きで身を隠せそうな場所なんて一切ないし、ここいらで盗賊が襲ってくるわけないか。
 今回も舞の早とちりだったな。


 俺がそんな事を考えながらファイアー帝王とぱっかぱっかと街道を進んでいくと、ローズが二人組に対して謝罪をしている声が聞こえてきた。




「本当にすまんかった。お主の怪我は妾が治すからどうか許してくれ」
「そこまで謝らねえでくれよ。俺達は剣を抜きながら歩いていたから盗賊かなんかと勘違いすんのも仕方ねぇことだ」
「こいつの言う通りだ。それに俺の足の怪我までこうして治してくれたんだから、あれくらいのこと気にしないさ」




 二人組の人の良さそうな青年がローズとそんな話をしている。
 やっぱりこの二人組は盗賊じゃなかったんだな。
 装備もお揃いの鎧を着ているし。どこかの貴族の兵隊かなんかなのだろう。


 よく舞はこの人達を盗賊だと思えたな。
 俺が二人組の様子を横目に馬車をゆっくり止めていると、怪我をしていない方の青年が爽やかに笑いながら口を開いた。




「それにしても、あの黒髪の女の子は面白い子だな。俺達に盗賊じゃないのは分かったから今だけは盗賊になってちょうだい!  とか言ってたぞ」




 ああ、流石の舞でも盗賊とそうじゃない人の区別はつくのね。
 それにしても、盗賊になってちょうだいなんて言うなんて、どこまで退屈だったんだよ。


 俺は起き上がってしょんぼりしながら歩いてくる舞を見ながらそんな事を思った。

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