クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

24話 無謀な作戦

 




 ボタン ソレイド近くの平原にて  






「まったく、悪魔はどうしてこうウジ虫みたいにわらわら湧いてくるんやろか。なぁ、そう思わん?」
「く、くそっ!どうしてお前のような奴がこんな脆弱な人間の街にいる!?」




 うちの足元でウジ虫、もとい一匹の悪魔がそう吠えた。
 アセイダルはもうソレイドから出ていくはずやから、他の悪魔がアセイダルの研究データを回収しに来るんやないかと思い街の外壁の上で待ってたら、案の定数十匹の魔物を連れた一匹の悪魔が現れた。
 まったく、相変わらず悪魔は浅はかやなぁ。




「それで、何しにこの街に来たん?」
「だ、誰がお前なんかに話すか!」




 ゴリッ




「ぎゃ、ぎゃー!!  話します!  話しますからっ!!」




 うちがウジ虫の頭を踏みつけて頭蓋骨を砕こうとしたら、悪魔が頭を押さえながら話を始めた。




「そ、ソレイドには観光で来ました」
「嘘やね」




 うちはそう言って悪魔の頭の横から生えている2本の角を根元から斬り飛ばす。




「わ、私の角がぁぁ!!!」
「やかましい」
「ぎゃふっ!?」
「うちはあんたの記憶を既に読んであるんよ。そんなうちに嘘をつくなんて良い度胸やなぁ」
「そ、それじゃぁ何で私に聞くんだ!  このオバハン獣人!」
「あらあらあら、口の利き方がなってないなぁ」




 このウジ虫はグリムラッゾとかいう便所虫に命令されて、人間に存在がばれるというヘマをしたアセイダルを殺してその研究成果を回収するためにソレイドまで来たらしい。
 どうやら、アセイダルは悪魔の叡智に切り捨てられたみたいやな。




「はぁ、フウマはんは無事やろか」
「おい!  足をどけろ!  聞いているのか!  あだ、あだだだだ。や、やめて!  聖魔法はだめだって!!」




 うちはソレイドに襲撃してきた魔物をさっさと片づけた後、フウマはんの無事を信じてダンジョンへ急いだ。






 ◇◆◇






 風舞






「なぁローズ。作戦プリーズ」
「そうじゃな。あやつが魔力を切らすまで耐え続けるか、一瞬でかけらも残さず消し飛ばすか、魔石を砕くかのどれかじゃな」
「はっはっはっ。冗談をおっしゃる」


「クヒヒヒヒヒ。そうだ!  足掻け足掻け!  もっと俺を楽しませろ!」




 アセイダルがイビルエルダートレントと融合してからの俺達は鞭のように襲い掛かってくる枝をひたすらに避けるくらいしかする事がなくなってしまっていた。
 攻撃をしようにも生半可な攻撃では触手のように蠢く枝に防がれるし、仮にアセイダルにダメージを通したとしても瞬時に回復されてしまう。
 完全な手詰まり状態におちいっていた。




「はぁはぁはぁ。これ、結構きついわね」
「ああ。俺もこの調子じゃ直ぐに魔力がきれそうだ」
「魔封結晶から力を引き出しきれれば戦局を変えられるんじゃが、このままでは先に妾達がやられるじゃろうな」




 俺達はそれぞれで枝を避けつつ、苦い顔でそう話した。
 逃げたくても俺が舞やローズに近づけないように隙間を埋め尽くす様に枝で襲い掛かってくるし、そもそもダンジョンの中で視界に入らない距離へ転移できる程の魔力が既にない。
 二人だけでも逃がしてやりたいがそれすらも叶わないようだ。




「さて、どうにかしないとな」




 俺はそう呟きつつこの状況を打破するべく頭を回す。
 イビルエルダートレントをとり込んだアセイダル、もうイビダルでいいか、は確かに攻撃力や防御力が上がってはいるが、避けられないほどではないし舞やローズの攻撃が通らないほどではない。
 一番厄介な再生能力さえなんとかできれば少しは活路が見えてくるのだが、舞とローズがさっきから触手みたいな枝を飛ばし続けているのにその再生能力が衰える様子は全くない。


 体の中に直接石でもぶち込めれば再生を阻害できるのだろうが、俺の転移魔法はそんなチート能力じゃないしなぁ。




「はぁ、せめてあいつが自分の腹掻っ捌いてくれたら少しはましなんだがなぁ」
「フウマくん!  あいつの腹を裂けば良いのかしら!?」
「まぁ、そうすればワンチャンあるって感じだな。正直上手くいく確率は限りなくゼロに近いぞ」
「聞いたわねローズちゃん。やるわよ!」
「まぁ、今はフウマの策にのるしかないかの」
「え?  マジでやるのか?」




 俺は転移魔法でイビダルの攻撃を避けながら二人にそう尋ねた。




「このままじゃどっちにしろ全滅だし、今はどんなに無謀な策でもやるべきよ!」
「うむ。妾もお主の策に命をかけよう!」




 ローズと舞の方から決意のこもった返事が聞こえてきた。
 これは俺も腹をくくらなくちゃいけないな。




「わかった。それじゃあローズ、一旦それ借りるぞ!」
「お、おいフウマ?」
「よし、それじゃあ二人とも頼んだぞ!」
「任せてちょうだい!」
「お、おい舞!  お主は呪術への耐性がないんじゃから先走るな!」




 そんな感じで話を切り上げた舞とローズがイビダルに向かって一気に斬りこみ始めた。
 ローズが魔法を放ってイビダルの魔力を散らしつつ舞の後ろから迫りくる枝を斬り飛ばし、一方の舞はただひたすらに目の前の枝を払いまくって一直線にイビダルの方へ走って行く。




「舐めるなぁ!!」
「させるか!」




 流石のイビダルも舞とローズのその勢いに焦りを感じたのか枝での攻撃に加えて土魔法まで放って撃墜をしようとしてくるが、俺が巨石を転移させて壁をつくりそれを防ぐ。




「お願いローズちゃん!」
「うむ。サンダーランス!!」




 舞がイビダルまであと10メートルといった所でローズに合図をし、ローズがイビダルの顔面に向かって雷魔法を放った。
 ローズの魔力ロスのほとんどない雷魔法は魔法防御力の高いイビダルでも危ういと感じたのか、イビダルが長い腕をクロスさせて直撃に備える。




「ここ!」




 俺はそれを見てピタリと動きを止めた舞をイビダルの懐へと転移させた。
 俺が触らないでやる転移は動いてるものには使い辛いという事を舞は覚えていたのだろう。
 枝を切り払いながら走って来た舞がいきなり自分のすぐ近くにいることに動揺している為か、イビダルは自分の顔の前で両腕をクロスさせたまま動かない。




「斬破!!!」




 舞の渾身の一文字斬りがイビダルに炸裂する前に、俺自身もイビダルの元へと転移して舞の斬撃の位置を直感で予測しながら片手剣をイビダルに突き出す。




「ガァァァァ!!」




 ローズの雷魔法をくらい舞の斬撃によって腹を裂かれ、その傷口に俺の剣を差し込まれたイビダルは叫び声をあげながら暴れ始めるが、俺は構わずにイビダルにへばりついて片手剣でその傷口を開き続けた。




「クソっ!  大人しくしろ!」
「人間ごときが調子に乗るなぁ!!」
「なっ!?」


 俺がもう少しで目的の分までイビダルの腹を裂けそうになったその時、イビダルの背中から生えている枝が左右から俺を貫こうともの凄い勢いで迫って来た。
 折角舞とローズが作ってくれたチャンスを無駄にはできない。
 ここは何があっても攻める場面だ。
 そう思い俺は攻撃を食らうべく身構えたが、俺にイビダルの枝が当たる事はなかった。




「ぶ、無事かしら?」
「舞?」


 俺の真後ろから聞こえた声に顔だけで振り返ってみると、一方の枝を斬り飛ばし自身の体を盾にしてもう一方の枝から俺を守る舞がそこに立っていた。
 舞の腹は背中側から太い枝に貫かれて大きな穴が開いている。
 俺が舞のその様子を見て頭が真っ白になっていると、舞がいつもの優しい微笑みを俺に向けて崩れる様に倒れた。


 俺は舞に駆け寄って抱きしめたいのをぐっと堪えながら無言でイビダルの方へ向き直り、イビダルの腹の傷に両手をつっこんで押し広げた。
 そしてローズから借りた魔封結晶と溶岩をアイテムボックスから取り出してイビダルの腹の奥に押し込む。




「グァァァァ!!!」




 イビダルは体内から襲い掛かる溶岩の熱量と魔封結晶の大きすぎるエネルギーによってうめき声をあげ、俺を太い腕で殴り飛ばす。
 イビダルの腹の切り傷はすでに自分の再生能力によって塞がれていて、彼自身でも溶岩と魔封結晶を取り出せないようで体を描きむしりながらのたうちまわっていた。




「ざまぁみやがれ」




 俺は苦しむイビダルの様子を見て、天井へ一直線に吹っ飛ばされながらもそう呟いて気を失った。






 ◇◆◇






 ローズ






「このたわけ共が!」




 妾はアセイダルの攻撃によって体中から血を流すフウマと腹に穴を開けられたマイを両腕に抱えながら第30階層を目指して走っておった。


 今はまだアセイダルの姿は見えぬが、妾達を追って来ておるのを感じる。
 自我を失った状態でも大傷を負わせた妾達を殺そうと躍起になっているのかもしれぬ。




「確かにフウマの作戦でアセイダルの自我を消し去り再生能力を暴走させることには成功したが、お主達が倒れては意味が無いじゃろうが!」




 フウマによって体の中に妾の魔封結晶と燃え盛る高温の石を埋め込まれたアセイダルは、全身を描きむしり始めたかと思ったら奇妙な叫び声を上げて身体中からイビルエルダートレントの枝を生やして暴走を始めた。
 暴走を始めたアセイダルには理性や知性など一切感じられず、悪魔であった時の面影を完全に消し去った完全な化け物と化しておった。




「妾を残して先に死ぬなんぞ許さんからな!」




 フウマとマイの傷はかなり深く一刻も早く治療をする必要があるが、妾の現在の回復魔法のLVでは二人の傷を治せんし魔法耐性の高いフウマの傷はおそらくボタンにしか治せまい。
 一刻も早く二人を地上へと送り届けなくてはならぬ。
 妾はフウマとマイの命を救う為に転移魔法陣のある第30階層を目指して可能な限り足を速めた。






 ◇◆◇








 風舞






 アセイダルの攻撃を受けて気を失った俺は暗闇の中を落ち続けていた。
 どこまでも深く深くその闇の中を沈んでいく。


 ちくしょう。
 イビルエルダートレントと融合したアセイダルを俺の作戦で一泡吹かせる事は出来たが、舞に致命傷を負わせてしまった。
 俺にもっと力があればアセイダルを一人でも楽に殺せたかもしれないし、もっとマシな作戦を考えれば舞が傷つく事はなかったかもしれない。


 何が足手まといにならないだ。
 足手まといどころか、俺が舞を傷つけてちゃ世話ないだろ。
 こんなんでよく戦闘に参加できたな。


 そうして俺が無能で無力な自分に嫌気がさして暗闇の中で蹲っていると、何処からか女性の声が聞こえてきた。




「起きなさい人間。何に絶望しているのかは知りませんが、あなた達人間は私やお姉様に比べるととてつもなく矮小な存在です。お前ごときの悩みなど些事に過ぎないと知りなさい」




 その散々な言われ様に少しだけ腹の立った俺が顔を上げると、さっきまで暗闇の中を落ちていたはずなのにいつの間にか何もない真っ白な世界で金髪のローズによく似た女性に真っ赤な槍を向けられていた。




「え?  なにこれ、どういう状況?」
「私の許可なく口を開かないでください。反吐が出ます」




 俺は金髪の女性に殺気のこもった紅い眼で睨まれて、無言で首を縦に降った。
 それを確認した彼女はいつのまにかそこにあった真っ赤な椅子に腰掛けると頬杖をついて脚を組み、俺に声をかけてくる。




「さて、それでは私の質問に答えてください。貴方は誰ですか?」




 えぇ、それ俺のセリフなんですけど。

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