クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...

がいとう

29話 初めてのゴブリン

 風舞








「さて、遂に 魔法を使った実戦が出来るな」




 俺が火魔法と魔力操作を覚えてから探索を続けて数分。
 俺の目の前にはタスクボア1匹が立ちはだかっていた。




「魔法を過信しすぎるでないぞ」
「風舞くん頑張って!」




 この前の様にローズのアドバイスと舞の声援が聞こえてくる。
 俺はローズのアドバイス通りしっかりと剣を構えてタスクボアに威嚇をする。




「よし、行くぞ!」




 俺は突っ込んでくるタスクボアに向かって走りながら、ぶつかるまで後40センチといったところで火魔法を放った。




 ンゴォッ!?




 タスクボアは火魔法の直撃を受けて炎から逃れようと鳴き声を上げながら首を大きく振るう。
 俺はその隙だらけのタスクボアの横に転移して頭に片手剣を振り下ろした。


 片手剣がタスクボアの頭を捉えた直後、タスクボアは黒い霧になって魔石を落として消えてしまった。




「ありゃ、魔石になっちゃったか」
「うむ。火魔法では致命傷にはならなかったがそれなりダメージが入っていたからの。いつも一撃で倒しておる剣を当てればそうなるじゃろうな」
「お疲れ様風舞くん。火魔法でブラインドをするとは考えたわね」




 舞とローズがそう言いながら魔石を拾い上げた俺の所へやって来る。




「ああ。流石に炎で一瞬炙るだけじゃ倒せる気はしなかったからな」
「しかし、火魔法はタスクボア相手だと魔力の無駄のようじゃな」
「確かに剣と転移魔法だけで倒せるしな。転移魔法の方が火魔法よりも消費魔力が少ないしあんまり使う気はしないな」




 火魔法は体内の魔力の循環速度を抑えずに打つと転移魔法の倍くらいの魔力を消費する。
 その上一撃で倒せないのでは火魔法を使う意味をあんまり感じない。




「残念ね。せっかく魔法剣士っぽくてカッコ良かったのに」
「じゃあもっと火魔法を使うようにするか」
「魔力がもったいないからやめい」




 舞のカッコいいという言葉で俺の中の火魔法の需要がぐっと上がったが、ローズにダメ出しされてしまっては多用できない。
 カッコ良さは男子高校生にとって大事なんだぞ。
 今回はローズが正論だからそんな事言えないけど。








 ◇◆◇






 風舞








 その後も俺が火魔法を使わずにタスクボアとホーンラビットと戦う事数回。
 俺達は第3階層に向かう階段を見つけた。




「お、次の階層への階段だな」
「そうじゃな。では、ここいらで休憩とするかの」
「そうね。お腹空いたわ」




 階層を繋ぐ階段の近くはダンジョンの中でも比較的安全らしい。
 なんでも下から魔物が上がってくる事は基本的にないので一方向のみを警戒していれば良く、階段という退路も確保出来ている為だそうだ。


 ダンジョンの魔物は基本的にどこでも湧くのでこうして飯を食えるような場所は割と貴重だが、流石に周囲の警戒を全くしない訳にはいかない。
 ローズが言うには滅多にない事らしいが、俺が水を飲んでいたら足下から急にホーンラビットが生えてきて驚いた事がある。
 あの時は本当に心臓が止まるかと思った。




「今日はサンドイッチを作って来たわ」




 普通の冒険者は激しい戦闘をこなす為にかさばる弁当箱なんて持ってこないが、アイテムボックスを使える俺達は別だ。
 出来立てホヤホヤのお弁当をいつでも食べる事が出来る。




「おお、美味そうじゃな!」
「ああ。豪華な昼飯だ」
「ふふ、ありがとう。ちゃんと手を拭いてから食べるのよ」




 俺とローズはしっかり者の舞におしぼりを貰って手を拭いてからサンドイッチを食べ始めた。
 おお、このソース結構美味いな。
 甘めのオイスターソースって感じだ。
 そういえば今朝舞が鍋で何かを煮詰めていたがこれだったのか。
 とても手が込んでいる。




「お口に合ったかしら?」
「ああ。このソースが良い味出してるな」
「うむ。舞の料理はいつも美味いの!」
「ふふ、それは良かったわ」




 そうして俺たちの昼食は危険なダンジョンの中には似つかない美味い飯と共に、和気藹々と続いた。
 デザートにパイナップルみたいな味でマンゴーのような食感のネーダリというローズオススメの異世界食材も食べられたし俺も大満足である。








 ◇◆◇






 風舞








 そんなこんなで昼飯も終わり、全員で片づけをしているとローズが何かに気づいて顔を上げた。




「む。誰か来るの」
「魔物か?」
「いや、恐らく冒険者一人じゃな」
「あら、他の冒険者さんにダンジョンの中で会うなんて初めてね」




 全員でさっと片づけを済ませて通路の奥を眺めていると一人の冒険者が現れた。
 その冒険者は全身を茶色いローブですっぽりと包み込み、手に盾を持ち剣を腰に差している。
 階段に用があるようで俺たちに気づいた素振りを見せたが、何も言わずにこちらに向かって歩いてくる。




「獣人さんかしら。フードの上の方が膨らんでいるわね」
「うむ。おそらくそうじゃろうな」
「なんだか怪しい格好だな。顔もよく見えないし」




 俺達がそんな話していたその時、歩いてきた冒険者の少し後ろで魔物が湧いた。
 タスクボア一体だがこちらに歩いてくる冒険者がそれに気づいた素振りはない。




「俺が!」




 俺は剣を瞬時に引き抜きタスクボアのすぐ傍まで転移して素早く倒した。
 多分転移から剣を振るまでの自己ベストを更新した気がする。


 ローブを着た冒険者は後ろでタスクボアが倒れた音を聞いて振り返った。




「え?  あ、ありがとうございます」
「ああ。無事みたいで良かった」




 俺に気が付いた冒険者が倒れているタスクボアを見て俺にお礼を言った。
 フードから少し覗く顔でも判るがどうやら女性のようだ。




「このお礼はいつか必ずします。それでは、私は先を急ぎますのでこれで」
「おう。頑張ってな」
「貴方に言われるまでもありません」




 あれ?  俺、何か怒らせるようなことしたか?
 もしかしてカルシウム不足だろうか?
 なんて事を考えていると舞とローズがこちらにやって来た。




「今のフーマくんの攻撃は中々キレが良かったわね」
「だろ?  俺も動きがかみ合った感じがしてたんだ」




 舞から見ても俺の今の攻撃は上手くいっていたらしい。
 今の感覚を忘れないようにしたいなと思っていると、ローズが既に歩き出していた冒険者さんを呼び止めた。




「おいお主」
「何か?」
「悪魔の祝福という物に心当たりはないかの?」
「いえ、お生憎ですが。では、私はこれで失礼します」
「うむ。引き留めて悪かったの」




 会話が終わると直ぐに冒険者さんはそのまま第3階層へと向かっていってしまった。
 ローズが冒険者さんの姿が見えなくなるのを確認してから口を開く。




「あやつ、恐らく悪魔の祝福を使っておったな。呪術の気配が僅かに漏れ出しておった」
「まじかよ。本当に冒険者に広まってるんだな」
「あんな物に手を出すなんて何か理由があるのかしらね」
「さあの。本人にしかその辺りの事は分からんじゃろうよ」




 ローズが大人な顔でそう言った。
 あの冒険者さん美人な気がするし少し心配だ。






 ◇◆◇






 風舞






 なんだか後味の悪い事件もあったが俺たちは気を取り直して第3階層の探索を始めた。
 舞にお願いして新しい魔物に接敵するまでは俺の戦闘の番を続けさせてもらう事になっている。
 気を引き締めていこう。




「なんて思っていたけど魔物いないな」
「そうねぇ。さっきの冒険者さんが倒していってるからかしら」
「そうじゃろうな。この辺りの階層は魔物が湧く間隔がそれなりにあるからの」




 俺達は第3階層に入ってからかれこれ10分以上歩いているが、未だ魔物には遭遇していない。
 折角張り切って先頭を歩いていたのに少しがっかりである。




「ああ、魔物さん魔物さん。出てきて下さい魔物さん。沢山とは言いません一匹だけで良いんです。どうか俺の前に姿を現してください」
「風舞くんがおかしくなってしまったわ」
「フウマがおかしいのはいつもの事じゃが、喜べフウマ。どうやら願いが届いたようじゃぞ」




 ローズの酷い言い草を聞き流しながら周囲を警戒していたら、曲がり角の先から魔物が2匹現れた。
 待ちに待った新種の魔物である。
 だが…




「いつかは来ると思っていたが、ここでゴブリンか」




 通路の先から現れたのは2匹のゴブリンだった。
 どちらも緑色の肌に俺の腰辺りの身長で、腰にボロボロの布を巻いて石製の棍棒を持っている。
 俺達に気が付いたゴブリンは醜い声で威嚇してきた。




 グギャガガ!!




「風舞くん?  手伝いましょうか?」
「いや、俺にやらせてくれ。女性の敵を舞と戦わせるわけにはいかないからな」
「風舞くん!」




 舞が感動をした視線を俺に向けてくる。
 正直冗談でも言わないと人型の魔物を相手にできるほどまだ戦いにはなれていなかった。




「別に女の敵ということはないがの。普通に誰でも襲い掛かるし」
「うるうせぇやい!  こういうのは気分の問題なんだ」




 ローズの突っ込みのおかげで大分緊張も解けたしそろそろ行くか。




「おら、かかってこいや!」




 俺がゴブリン2匹に向かって歩きながら威嚇をすると2匹は棍棒を片手に俺の方へ走り出した。
 今回は俺の方からは攻め込まない。
 人型だと攻撃がどの角度から来るか俺にはまだ読みきれないし、知能がある相手だと転移魔法を一度見せたら対処される可能性もある。
 乱戦になるのは避けたかった。


 そこで、俺はとりあえずゴブリン2匹の視線を俺のいる位置に釘付けにすることにした。
 俺の思惑通り2匹とも歩きながら近づいてくる俺を殺気のこもった目で睨んでくる。


 よし、そうだ。
 そのまま俺を目掛けて走ってこい。
 俺の願いが通じたわけではないだろうが、ゴブリンは俺に真っすぐ走って来て棍棒を振りかぶった。




「ここ!」




 俺は転移魔法を使ってゴブリン2匹の真後ろに転移した後、そのまま片方のゴブリンの頭を鷲掴みにして火魔法で燃やし、もう一匹のゴブリンの頭を剣で横なぎにした。
 その結果、ゴブリン2匹は死体を残さずに魔石になった。




「ふう。力みすぎたか」




 そこそこにレベルも上がってきた俺が全力で攻撃をするとゴブリン相手にはオーバーキルなのだろう。
 感覚的にタスクボアよりも柔かった気もするし。




「見事な手際だったわ」
「剣の踏み込みが甘い。50点」
「まあ赤点じゃないだけ良しとするよ」




 俺的にはそこそこうまく戦えたと思ったが、辛口のローズ先生からするといまいちだったようだ。
 確かに自分でも剣筋がブレブレでステータスでごり押した感じがしなくもない。




「まあ、ゴブリンははぎ取れる素材もないから直ぐに魔石にしてしまっても構わないんじゃがな。ブルっていた割には上手くやった方じゃの」
「そうかよ。まあ確かに俺もゴブリンを解体するのは嫌だしな」




 その後も俺が数回ゴブリンと戦ってから舞と戦闘を交代した。
 初めの頃は舞もゴブリンが視界に入った途端に魔石に変えていたし、少なからず人型の魔物を相手にする事に抵抗があったようだが、二人とも戦闘を繰り返すうちになんとか平常心で戦えるようになった。




「さて、そろそろ引き返すかの」
「ああ、そうだな。そろそろ腹も減って来た」
「そうね。私は今日の夕飯は雲龍がいいわ」
「おお。妾もそう思っておった所じゃ」
「それじゃあ今晩はそこに行くか。まずはちゃっちゃとダンジョンから出ちまおうぜ」
「そうね」「そうじゃな」




 俺達は何回か魔物に遭遇しながらも問題なくダンジョンを後にした。
 今日で俺のレベルも12になってようやく一般的な適正レベルに追いついてきたしいい感じだ。
 それにしてもあのローブの冒険者さんはあれ以降一回も姿を見なかったが無事だろうか。
 

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