理を変えれないなんて誰が決めた?

ノベルバユーザー363992

4話

扉が破られる音に、俺は布団から飛び起きて隣の古屋に駆け込んだ。

そこには、うつ伏せに倒れているダンさんと、その頭を咥えて、噛み切ろうとする1匹の狼のような魔獣の姿があった。

俺はそれを見たと同時に魔獣に対する殺意が湧き、攻撃を仕掛けていた。


「おのれぇぇー!!」

俺は木刀を魔獣の胴を目掛けて思っきり振り下ろした。
ダンさんを襲うのに夢中だった魔獣は避けることができず、攻撃をもろに受けた。

やっと俺の存在に気づいた魔獣は物凄い形相で俺を睨んできた。

木刀ではあまりダメージにならないのか、直撃したにも関わらず、動きが鈍ってもいなかった。

それでも俺はダンさんが助かる可能性を信じて立ち向かった。
見る限りでは、噛みついていた首の辺りの歯痕以外には目立った外傷は見当たらないので、諦めるにはまだ早い。

魔獣は刃物のように尖った牙を見せて威嚇してくる。
俺は油断なく木刀を構えて魔獣が動くのを待った。
俺は剣の技術が致命的に足りないため、自ら攻め込むのは自殺行為だ。
狙うは攻撃を避けてからのカウンター、もしくは追い払うこと。
しかし逃げてくれそうな気配はない。

向こうの武器は主に牙と鋭い爪の2つだから、ある程度距離を取れば攻撃は届かない。


俺は2、3メートルほどの間合いを保ちつつ魔獣の動きを待ち続けた。

そして魔獣がついにしびれを切らせて、前足を伸ばして飛びかかって来た。
俺は横に転がるようにして避けた。

しかし、魔獣は着地と同時に再び迫って来た。


「っ!?クッソッ!」

俺は想定以上に攻撃が早く来たことに悪態をつきつつ避けるが、2度目だからか魔獣も反応して前足を伸ばしてきた。
少し爪が俺の肩に傷を付けた。

魔獣は傷をつけれたことによって調子に乗ったのか、また飛び込んで来ようとした。
だがこっちも何度も同じことをしてあげるほどバカじゃない。
俺は少しだけ後ろにさがり爪の届かない位置に移動して、魔獣が着地した瞬間に踏み出しながら木刀を振った。

狙いは目だったのだが、流石にピンポイントで目に当てられるほど技術がないので、木刀はやや逸れて、目と鼻の中間くらいを叩いた。

それでも魔獣は少し怯み警戒する姿勢をとった。
これで相手も油断がなくなり、獲物へ送る視線ではなく敵へ送る視線に変わった。

俺も一層集中する。

俺はさっきと同じように向こうの動きを待った。しかし今度は相手も動かない。お互いに攻める好機を逃すまいと神経を研ぎ澄ましていた。

その時、両者とも予想していなかった事が起こった。


バキッ!

その音は俺の足元から聞こえた。それと同時に俺の体が傾いていく。体勢がいくらか崩れてしまった。
音のした足元を見ると、足元の床が抜けていた。
古い建物なので、戦いの負担に耐えられなかったのだろう。
魔獣も状況の理解に一瞬の時間がかかったが、すぐにチャンスだと気付き飛びかかって来た。
ここでトドメを刺すつもりか、爪ではなく口を開け、牙を剥き出しで襲いかかって来た。




そして決着がついた。

そこに立っていたのは俺だった。





その結果は決着の直前からは想像できないものだろう。
しかし、これは間違いでも何でもない。

はじめから説明すると、俺はまず最初の攻撃で普通に攻撃しても意味がないと知り、俺は狙いを比較的防御のゆるい腹、目、そして喉に狙いを定めた。
だが、魔獣が爪を使って攻撃してきたので、どこも狙い辛い状況だった。
だから、俺は飛んだ着地の瞬間を狙って攻撃をしたが、技術が足りず、目には当てられなかった。
ここで俺は相打ち覚悟で魔獣が口を開けて襲いかかって来た所をあえて突っ込み、喉を攻撃するという作戦に切り替えた。喉を突くだけならほとんど技術は必要ないので、これしかなかった。
すると予想外だったが、床が抜けて俺が不利な体勢に陥ると魔獣が口を開けて飛びかかって来た。
俺は想定外の好機を逃す事なく、木刀を魔獣の喉に突き刺した。


「偶然だがこの戦い、俺の勝ちだ!!」


木刀は内臓まで届いたらしく魔獣は血を吐きながらしばらくもがいて、やがて動かなくなった。

俺はそんな様子を無視してダンさんに駆け寄った。


「大丈夫ですか!!?ダンさん生きて………」

しかし現実は無情にも俺の期待を裏切った。

俺が体を支えようと体を持ち上げると、床に血溜まりが出来ていた。
見ると胸の辺りに深い爪痕があった。
うつ伏せで分からなかったが、今なら分かる確実に致命傷だ。


「なんでだよ……」

それが分かると俺の感情は爆発した。
怒り、恐怖、後悔、憎み、悲しみ、殺意、色んな感情が瞬く間に俺の心を支配し、理性の壁を易々と瓦解させた。

俺は我を失い、目は光を失った。俺はもう死んだ魔獣の口から木刀を引き抜くとおもむろに外に出た。

この時まだ俺に理性があれば、ダンさんにまだ息があり、何かを口にしているのに気づいたかもしれない。だが俺は気づけなかった。

外に出た俺は周りを見渡す。
来た時は脇目も振らず来たから気づかなかったが、至る所に魔獣がうろついていた。
そして俺は目につく魔獣へ次々に襲いかかった。

俺は何も考えていなかった。ただ感情に任せて体が勝手に動いた。
俺はまるで俺ではない誰かのようで、さっき苦戦していたはずの魔獣達を圧倒し、蹂躙していた。



俺は生きているのか分からないような深く暗い感情に溺れながら何時間も暴れ続けた。


その悪夢のような時間が終わったのは明け方の事だった。


「もうやめなさい!!」

それはどこかで聞いたことのある声だった。

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