理を変えれないなんて誰が決めた?

ノベルバユーザー363992

2話

リリアと別れた後、俺は街に帰って来た。
頼まれている買い物は街の中央にある商店街で全て揃うため、今はそこに向かっているところだ。


「いらっしゃい!今入ったばっかりの魔牛肉があるよ!買って行きな!」


「本日はこの季節限定の野菜がお安くなっています!お買い求めください!」


商店街に着くと、あちらこちらから客寄せ文句が聞こえてくる。
この街は帝国の中でも2、3番目くらいに人口が多い為、街の賑わいは夜になっても消えることはない。


余談だが、この世界には3つの国がある。
それぞれ住まう種族が違い、人族、獣人族、エルフ族がある。獣人族とエルフ族には王様がいて、獣王国やエルフ王国などと呼ばれていて、人族には皇帝がいて単に帝国と呼ばれることが多い。
国は別れているものの、国交は盛んで人の行き来もほとんど自由である。
それは魔獣という共通の敵がどの国にも溢れている為、国同士が協力して行く必要があり、戦争などが起こっていないことが大きな理由の1つだ。

閑話休題。


「さてと、頼まれてるのは石鹸と薬草か…」

俺は人通りの多い路を人の流れに逆らわないように目的の店まで歩いた。




買い物も済ませて俺はようやく自分の家に戻って来た。
そこは街の端に位置するスラム街の一角。薄暗くドロっとした雰囲気のこの場所が俺の家だ。
とは言っても、買ったわけではない。記憶を失っていた俺は、ただ当てもなく街を彷徨っていたらここにたどり着いて、調べてみるとここらはスラム街と呼ばれ、空き家になっている古屋のような建物は全て自由に使って良いものなのだった。
なんでも、街が用意した行き場のない人への救済なのだとか。しかし、治安が悪く何より整備が行き渡っていない為、汚れや匂いがひどくとても快適に生活できるような場所ではなかった。
しかし、他に選択肢がある訳でもない俺は森に面した匂いや汚れが比較的少ない場所の古屋を1つ使って生活している。



「ただいまー」

俺は自分の家ではなく、1つ隣の古屋に声をかける。


「おぉ、お前さんかい。おかえり」

そこから顔を出したのは、今年で80歳を迎えるおじいちゃんだ。この人が俺に買い出しを頼んだ人物である。


「頼まれた石鹸と腰に効く薬草買って来たぞ。少し値切ったから、釣りも入ってる」

俺はそう言って、買ってきたものを袋ごと渡す。

「いつも悪いのぅ。中々腰が良くならないから、買い出しを頼んでしまって」


「いや、良いって。俺も帰りについでに寄ってるだけだし」

このおじいちゃんは俺がここに初めて来た時に、色々教えてくれたからとても感謝している。
いつか何か恩返ししてあげてぇな。
そんなことを考えているとお腹がグゥ〜となった。

「それじゃあ俺は朝ご飯食ってくるわ。お大事にな」


「おぉ、ありがとうな」

そう言って俺は今度こそ自分の家に戻った。

家の中は大体5メートル四方くらいの大部屋に台所と布団があるだけの質素なものだ。

俺は台所に立って、さっき採ってきた木の実や山菜を水で洗い、火を通してスープを作った。今日は残念だが、いつも採れるキノコが見つからなかったため、出汁があまり効いていないので、少し物足りない。
それと買い置きしてあるパンをスープと一緒に食べて朝食は終了だ。

今日は色々あって朝ご飯が少し遅くなったからもうすぐ昼前なのだが、俺は家の裏の庭のようなところに来た。ここは俺が森の木を伐採して耕して作った畑のような場所だ。自分で作ったので、広さはそれほどないが、家の大きさからしたら十分な庭の広さではある。そこでは、森で採った木の実や薬草を植えて育てている。

俺は害虫や鳥がいないかを確認して、水をやったら再び家に戻った。
普段は午後は、朝の森の散策で採れた自分では使わない薬草や狩った魔獣などを売りに行くのだが、今日は買い出しついでに済ませてきたので、暇になってしまった。


「何するかなぁ……」

色々思考を巡らせていると、気づいたら今朝の出来事を思い返していた。

森で偶然出会った少女リリア。彼女の魔法や剣の腕はその手の知識を持たない俺にもわかるほど常軌を逸していた。

魔法は体内にある魔力を使用して現象を引き起こすものだが、その現象が複雑であればあるほど、大規模であればあるほど使用する魔力は多くなる。
しかし、彼女が見せてくれた魔法は見ても何が起きているのか理解できないほど複雑で、かろうじて火の魔法だと言うことはわかったが、それ以外の事はまったくわからなかった。
俺は魔法を使ったことがないので、詳しい事は言えないが、相当な魔力を使っていただろう。

さらに、剣を持てば舞うように動き回り剣を振るその姿はとても綺麗で魅入ってしまった。太刀筋は寸分のズレもなく振り下ろされ、ただの素振りなのに真っ二つに切り裂かれる魔獣の姿が見えるようだった。


「俺もあんな風に出来ないかなぁ……」

つい心の声が漏れてしまった。


「そうだ!やってみるか!」

良いことを思いついた。どうせ暇だし、森の木を削って木刀くらいなら作れるから試しにやってみよう!

そうと決まれば
と俺は早速森に向かった。






「……うん、こんなもんか」

俺は手元にある木刀を見てそう呟いた。あれから約40分ほど木を削り続けてようやく形になった。

俺は庭の端っこの使っていないひらけた場所に木刀を持って移動した。


「……重いな」

手に持って初めてわかった。剣って重い。それこそ上げ下げするだけで良い筋トレになるくらいには重い。
リリアはこれをどうやって軽々と扱っていたのか不思議でならない。

まぁ詳しい事は考えてもわからない、とりあえず振ってみるか。


「フッフッフッ」

何も考えずに振ってみると中々に楽しい。普段使っているナイフとは同じ刃物なのに扱い方がまるで違い、新鮮な感覚が面白かった。




「フッフッフッフッ」

俺は時間を気にせず疲れるまで木刀を振り続けた。普段から筋トレや狩りで鍛えているので、体力にはある程度自信があったのだが、そう長くない時間で腕に疲れが溜まり動かなくなった。
腕が痛い、握力が働かず、木刀を落としそうになる。それを耐えるそんな感覚は新鮮なはずなのに、何故か懐かしい感じがした。


見上げると空が暗くなっていることに気づいた。つい楽しくて時間を忘れていたらしい。
俺は近くの小川で汗を洗い流して家に帰り、軽めの食事をとって布団に入りこんだ。


「今日はなんか色々あって楽しかったな。木刀を振るのは明日もやろう。良い訓練になりそうだ。」

そんなことを考えながら眠りについた。

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