螺旋階段

山田 みつき

8

恭子は"あの頃"とは違っていた。
35歳で未だに妖艶さと幼さを残す美貌は健在だ。

母、恭子は、紀一との馴れ初めもカウンターレディ。
私はきっと、この『恭子』と言う女を見て
いつか自分自身もそうなるんじゃないかと思っては、恭子の写真を見て、想像を膨らませていた。

その恭子が今更になって、水商売に手を染める。
其れも紀一が、若い頃からの酒の飲み過ぎの祟りが訪れたのか、急性アルコール中毒で運ばれてからICUに入り、診断が下ったのは心臓病だった。

恭子は昔、バブル全盛期にイケイケのサテンのボディコンで狂った様に踊っていたらしい。
何もする事がない、ましては誰かに必要とされる事も無い。
そのアルバイトは自分へのご褒美と、ヤケクソと、兄弟姉妹の世話からネオン街へと染まった。

其処で紀一と出逢ったのだ。

また、ぶり返し、ネオン街に35歳の私の母親が染まっていったなんて、とてもじゃないけれど恥じて誰にも告げる事は出来なかった。


そんな中、恭子の出勤中、紀一は無理矢理、退院して来たのだ。
其れは部屋に偶然居た私に向けられた、紀一の少し淋しそうな横顔だった。

安い焼酎を片手に独り酒をする紀一を横目で見た。
桜は友人と何処かへ出掛けて居た様だ。
紀一が淋しそうに私へ話掛けて来た。


紀一「…お帰り、香澄。」


父親としての紀一に名前を呼ばれた記憶が余りない私としては変な感覚だった。
私は、いつもの様に、母である恭子の立場を奪った。

マドラーを混ぜて紀一の隣に座る。


香澄「ただいま。お母さんは?」

紀一「…仕事だ。俺は病院なんて大嫌いだ。だから抜け出した事を母さんに言うな。病院の許可を採ったのは娘であるお前の名前にしておいた。」

香澄「解った。絶対にお母さんには言わないよ。それより桜は…?」


私は別に桜が心配だった訳じゃない。
けれど、紀一に"あの人"がやって居た事を総て、私にのしかかって来る事も特別、苦痛でも無かったのは否定は出来ない。


紀一「未だ学校じゃないのか?お前は、恭子に似たなぁ。」


私は薄笑いを浮かべていた。

桜とは違う。
恭子とゆう淫乱女とも違う。

紀一は酔って、ふざけて私の肩に頭を乗せた。
桜は初潮は未だきていない。
さくら吹雪も笑顔で過ごせる。

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