螺旋階段

山田 みつき

5

私と桜は父、紀一をまるでハーレム状態かの様にして、紀一を真ん中にし、座った。
私は紀一のお酒を作り、妹、桜に渡す。


香澄「はい。」


察してと言わんばかりに、桜に目で合図する。
桜は、可愛らしく、紀一の隣から、膝の上に座った。


桜「ねぇパパー、私も一緒に飲むの!」


ニッコリ笑った紀一は、まるで父の顔。
恭子や私の時とはまるで違う笑顔で。


紀一「おお、ほんの少しだけだぞ、桜。ほら。」


そう言って、桜にデレデレの只のおじさんにも見えなくもない。
スナックか、何処かのカウンターレディーをお持ち帰りする様な目付きで色付く紀一と、其をなんなくこなす桜に嗚咽さえ走る。

きっとこの瞬間、恭子と解り和えたと思う私がとても気色悪い。

紀一の飲むペースがいつもに増して早いので、恭子が私に『もう一瓶、買って来なさい』と言う様な顔で見て来るのが解る。

しかし、違っていた。


桜「わぁー、お酒美味しくなぁーい!ぺっぺー!」


桜が紀一のお気に入りの服に、酒を、まるで唾を吐く様にした。
なのに紀一は怒鳴らなかった。
また、父親の顔。
そして、どこか、この瞬間が幸せそうなのが解った。


紀一「桜、ほら!また無理してお酒なんか飲もうとするからだろう?桜はホントに可愛いなぁ。」


桜はニコニコして笑っている。
紀一がこちらを向いて、『お前らは可愛いくない』と言わんばかりの鋭い目つき。

以前、母だと恭子に対して認識していた頃、良く泣きながら語る恭子の話を聞いていたのは記憶に鮮明だ。

現在の桜と同じ年の、私が丁度、三つの頃。


『ママ、どうしてパパと結婚したの?』

『それはね、ママを一番必要としてくれたからね…あの人は。そう、あの人だけは。』

『あの人って、パパ?』

『そうよ、紀一だけは私を必要としたの。だから紀一の為なら何でもするわ。香澄は、私が愛した人との子どもなの。だけどね、香澄?あの人は男の子が欲しかったんだって。』

『そうなんだ…でもきっと大丈夫だよママ。御免ね、私が女の子で。でも…私はね、ママが泣いてる事、パパに言わないよ。』

『そうね…有難う、香澄。貴方は私の分身の様なものだから。必ずパパとの仲を壊さぬ様、お願いだから、ママが辛そうに見えたとしても、ママに紀一の事は任せてね。あの人は、欲しいものが欲しい人なの。香澄が女の子でも、"女"にならない事を願うばかりよ。』


母として、女として、未熟だと悟った。
私は絶対に忘れない。
年齢は気付けば重ねてしまうものなんだって事。
ママも知っているでしょう?

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