螺旋階段

山田 みつき

1 靴

紀一「香澄、朝刊はまだか?」

香澄「うん、取ってくる!」

まだ、おぼつかない足取りで玄関に裸足のまま急いで走る私に井川紀一、私の父親がテーブルに爪をカタカタと鳴らす音に敏感に反応する。

母、井川恭子は私を横目でチラリと見過ごしたまま、朝から紀一へ、一升瓶を酌する。


午前4時半に起床するのは日課となり、私は紀一の元へと新聞を手にし、テーブルへ走った。

恭子が私の、まだフラフラとした足へ引っ掛けた気がした。

香澄「ママ、痛い・・・。」

恭子はすました顔で目線だけを下げたまま、言った。

恭子「香澄!お父さんに謝りなさい。そして、貴方、私の事をママと呼ぶのはやめなさい。誰が貴方のママですか。」

膝小僧からじわりと滲む赤い血液を指先で舐めた。
紀一へ、手を伸ばして新聞を渡した。

紀一「おい!恭子。こんな事教えたつもりはないぞ。何の真似だ?新聞に血が付着しているじゃないか。」

紀一は立ち上がり、恭子の髪の毛を思い切り鷲掴み、壁へと追い込んだ。
恭子は黙って、私へ憎しみの視線を送った。

香澄「・・・パパ、ママ、ごめんなさい。」

紀一の暴走は止まらなかった。
テーブルの一升瓶を片手で持ち上げ、恭子へ頭へ一撃、その後、恭子の澄んだ細い髪の毛に一升瓶の中身を被らせた。

紀一「どうだ?お前、酒が好きだったろう?旨いだろう?俺のを少し分けてやったんだ。」

恭子は無言まま、その場から1ミリも動こうとせずに
「美味しいですよ。あなたの味がします。」

と微笑んだ。

私は二階へ急いだ。
二階から観る外の景色は実に殺風景だったが、それでも美しく、空気が心地好くて、カラスと目が合ったら心が通った気がしていた。

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