『異世界ニート』~転移したら幼い女神と旅をすることになった件について~

小町 レン

第五話 天辺。そして魔法。



「ウスト……ってなんなんだ? 」

 俺はそう聞き返す。当然だ。日本に住んでいてウストなんて意味のわからない言葉聞いたことがない。

「あぁ……! ごめんなさい! 私が転移させておいてこの世界について何も説明できてませんでした……! 」

 イズは小さく頭を下げる。

「ううん。まぁ大丈夫だよー。 まずここがどこなのかって所から説明してくれる? ……あ、あと、敬語は使わないでほしいな。俺ちょっと苦手でさ……」

「あ、わかり……わかった!えっと……じゃあ敬語は使わないね! 」

 タメ語で話す事をあまりしないのだろうか……イズは少し顔を赤らめてそう返した。

「ここは空中都市【アカデメイア】! 様々な種族と九人の『神』が共存する国! 」

「お、おぉぉぉ! 」

 イズは小さな両手を上に広げて自慢気にそう言う。異世界っぽい…いや、この異世界の現状にとても気持ちが高鳴る。

「ユウム! あの大きな木を見て! 」

 彼女は街の中心部にそびえ立つ一本の巨大樹を指差す。俺もその指につられてそちらを見る。

「あれは樹塔【ユグドラシル】! 全ての国 種族 そして神々があの木の頂点……つまり【天辺ウスト】を目指しているの!」

「頂点……ウスト……」

「そう!ユグドラシルは、根元から上へとダンジョンのような構造になっていて、そのダンジョンの頂上、【天辺ウスト】には“何かがあるって言われてるんだー! 何かわからないから誰よりも早くそれが何かを知りたい! だから冒険者と神はみんな【天辺ウスト】を目指してるんだよ! 」


 俺は街の中央にある樹木に圧巻させられた。転移してきた時、獣人とかエルフとか美女とか美女とかであまり……というか全く目に入ってなかったが、なんてデカさだ……樹木の頂上が全く見えない。


「あれを攻略するのが目的って事? 」

「うん! そう言う事! 」

 可愛らしい笑顔をこちらに向ける。恐らく普通異世界に転移させられる物語だったらこの時点で最強チート能力を得ているはずだ。そして幼い彼女に

「お前の夢…! 俺が叶えてやるよ! ☆」 

 なーんてカッコよく決めちゃう所なのだろう。
だ。俺にあるチート能力は【超最速言語読解】しかない。チート魔法どころか、魔法すら打つことができないのだ。


「俺、魔法とか一個も使えないんだ……実はさっき何度も実験したんだけど上手くいかなかったんだよな……」

 少しのが空く。

 そして、それを聞いた彼女はクスクスと笑いだす。

「な、なんで笑うんだよ! 仕方ないだろ! 」

「クスッ、ご、ごめんなさい……っ少し面白くて……」

 そう言うと、彼女は ふー、と呼吸を整え話を進める。

「この世界で魔術の類いは【魔法トリガー】と呼ばれるの。【魔法トリガー】を使うには、

一、私たち神々の誰か一人と“直接契約”を交わす。

二、妖精族フェアリーを操る“魔導師”となる。

三、神々の記した【魔導書】もしくは【魔導具】による“間接契約”を交わす。

このどれかを行う事によってのみ、発動することができるようになるの」

 イズは人差し指を立てながらそう俺に説明してくる。


「その三つって何か変わってくるのか?」

「全然違う!
まず、【魔導書】や【魔導具】は神が最低限の知識を記した量産型【魔法トリガー】ーーLv.が上がるごとに能力値は上がるけど、せいぜい使えるのは神の二十%パーセント

“魔導師”は妖精族フェアリーの力を借りる事で神とほぼ同等の【魔法トリガー】を行使出来るの! だけど魔力の消耗が激しいから、もって五分って所かなー。

そして、神との“直接契約”は、その契約神の得意とする【魔法トリガー】を百%パーセント使用できるの! 魔力使用量もゼロに等しいから全く残魔力を気にせず戦闘に入れるって訳!」

「それだったら、神と契約するのが一番いいんじゃ……」

「ううん、、直接契約にもやっぱり短所があるの」

 イズが悩ましそうな顔を見せるそしてまた俺の方を向く。

「まず、神との“直接契約”は、一人の子としかできない。だから強大な【魔法トリガー】を無制限に使えるの。そして、もう一つ……」

「もう一つ?」

 そう聞き返すとさっきの表情とは一変。イズは何故かわくわくしたような顔を見せた。

「これはある場所に行ってから説明するね!」

 そう答える。そして右手を前に上げると目の前に二メートルほどの異次元空間が渦を巻くように突如出現した。

「な、なんだこれ……!」

 間抜けな表情を披露する俺を見て笑いながら、イズはぴょんぴょんとその空間の中に向かって行く。

「ユウムも早く来て!」

 そう言うと、イズはその小さい手で呆然とする俺の裾を掴み、その空間の中へと入って行くのだった。




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