鮮血のレクイエム

あじたま

Genocide編 10話 儀式の館

サイドチェンジ フランドール

「……はぁ。」
私は人間の死体が転がる世界を独り歩いていた。…まさかこころがいるなんて思わなかった。てっきり例の異変で死んでしまったと思ってたのに。
「しぶといな…。」
こんな事を口にしてしまう自分が嫌いだ。昔はこころとも仲が良かったはずなのに、あれ以降私はこころの事を憎み続けている。分かってる、こころはあの時私の為を思って止めてくれたことくらい。でも、でももしあの時助けに行けていたら…もしかしたら。
「……うぅ…ぐすっ。」
辛いよ…苦しいよ…。嘘の仮面をつけて、見知らぬ人を只々殺す毎日。殺して、殺して、また殺す。本当はこんなことしたくない。だけど私は演じなければいけない。狂気を身にまとった道化師を演じ続けなければならないのだ。優斗の為に…私の大切な友達を奪っていったアイツに復讐を果たすため…。それが今の私にできる精いっぱいのことだから。
「そう言えば咲夜は無事だったんだ。それにアリスも。」
本当は抱きしめて欲しかった。辛かったんだって、苦しかったんだって。もしかしたら咲夜たちと力を合わせればアイツに復讐を果たすことも出来るかもしれない。だけどアイツは私たちが束になって勝てるような簡単な相手じゃない。あの力がある限り…勝ち目はゼロに等しい。……だけど私は諦めない。必ずアイツの弱点を見つけて見せる。そして私が味わった苦しみを倍にして返すんだ。
「うぅ!…はぁはぁ…。」
さっきの傷が再び痛みだす。あの時は完全に油断していた。いつの間にか後ろをとられ、そのままナイフを突き刺された。正直私が人間だったらもう命は無かっただろう。やっぱり『彼』はアイツと同様に只者じゃないらしい。それにあの目は完全に『人を殺す』目だった。何のためらいも感じさせない、ただ目の前の標的を排除するような…。痛みに耐えることができず、私は近くの壁にもたれ掛かる。吸血鬼と言えどもすぐに傷が再生させられる訳じゃない。次の行動に移る前に休もうとしたその時、道路の向こう側から人の声がした。
「おーーーい!大丈夫ー?」
「えっ嘘!?」
まさか生きている人間がまだ他にもいたなんて!私は急いで死角に身を潜めた。
「ん?おかしいな…さっき人が居たような気がしたんだけど…。」
どうしよう…まださっきの傷は再生しきれてないし。ここは強引にでも…!

サイドチェンジ アレン

「…静かだな。」
「えぇ…そうね……。」
例のお嬢様とやらを探すためにこの館を探索することになったのは良いが、未だに誰一人として遭遇していない。
「こんなデカい館にも関わらず警備がゼロなんて不自然すぎるだろ…。」
「幻想郷の時は妖精メイド達がいたのだけど。」
「だけど今は誰もいないじゃないか。」
「私だって分からないのよ。貴方と同じ不自然だってことぐらいしか…。」

『ほう、誰もいないとは心外だな…。』

そいつは突然俺たちの目の前に現れた。しかも俺たちの目の前からだ!俺とアリスは咄嗟に後ろへバックステップで間合いをとる。
「……まさか俺たちに気づかれずに現れるなんてな。あんた何者だ?」
「貴様らに話す必要など何処にもない。だが、そうだな…一応『黒騎士』とでも名乗ることにしよう。」
そう言って黒騎士と名乗る男は腰の鞘から二本の刀を抜き、こちらに向けて構えた。黒いコートを身にまとい、顔は仮面で覆われており確認できない。
「貴方は私達の敵なの?それとも…。」
「ふっ…さぁ、どうだろうな?」
「刀二本を俺たちに構えて何が『どうだろうな?』だ。殺る気満々じゃねぇか。」
「貴様らこの館の主に会いに来たのだろ?」
「…!お前、なぜそれを!?」
「理由などどうでも良いじゃないか。その様子から察するに、どうやら当たっていたようだな。しかし悪いがそいつに合わせることはできない。」
「そんなこと言われて『はいそうですか』とでも言うと思ったか?」
俺は腰にかけてあったファイティングナイフを取り出して構える。アリスも人形達を周囲に展開した。
「安心しろ、貴様らを殺すつもりは微塵もない。が、今はここで眠っていてもらおうか…。」
そう言うと黒騎士はこちらへ斬りつけてきた!俺は手に持っていた二本のナイフでそれを右へ受け流す。しかしその斬撃は余りにも強く、俺は軽く後ろに吹き飛ばされた。
「ちっ、なんつう力してんだよ!」
「なるほど…少しはやるじゃないか。」
「私も忘れないでよね!行きなさい、上海人形!」
黒騎士が俺に気を取られている隙にアリスが攻撃を仕掛ける!
「魔法か…。だが…甘いな!」
人形が黒騎士に届こうとした刹那、二本の刀から黒い衝撃波が発せられる。
「えっ…そんな!」
「魔法は貴様だけの特権とでも思ったか?人形遣いよ。」
そのまま黒騎士は静かにアリスへと黒く光る刀を構える。
「黒剣『テンペスト』…!」
「くそっ!させるか!」
俺はベレッタに持ち替えて黒騎士目掛けて発砲した!だが、突然現れた黒い渦によって弾丸は明後日の方向へ飛んで行ってしまう。黒い渦はそのまま見たこともない勢いで俺に突撃し、身を切り裂きながら壁に吹き飛ばした!
「ぐぁあ!!…が、はぁはぁ…。」
「そこで大人しく見ているがいい、何の力も持たない者よ。…さて、後は貴様だけとなったがどうする、まだ抗うか?」
「…っ!当たり前じゃない!魔符『アーティクルサクリファイス』!」
アリスは宣言すると周囲の人形を黒騎士の周りに展開する。
「無駄なことだ…。」
「そんなの、やってみなきゃ分からないじゃない!」
「そういう問題ではない。貴様らは『私に抗おうとした時点』で既に敗北しているのだ。」
「一体何を言って…!えっ、きゃあ!?」
突如床から謎の黒い手が無数に現れ、アリスを拘束した!
「な、なんなのこれ!?身動きが!」
「さて、もういいだろう…。ジェネレーション…!」
黒騎士が何かを詠唱した時、俺とアリスの真下に黒い魔法陣が展開される。…それに気が付いた時には…遅かった。
「また会おう諸君、今は闇の中で眠るがいい…。」
「ま、待てっ!はぁはぁ、な、何だ!?急に…力が……。」
「はぁ、はぁ…力が…抜け、て……。」
………。

「……もしもし、あぁ俺だ。…オーパーツ二名の安全は俺が保証しよう。…あと4人?はぁ、それくらい分かってる。お前らは俺が戻ってくるまで待機していろ。」

サイドチェンジ ルイス

「はぁ…はぁ…。」
俺の目の前で繰り広げられる戦いは、まさに異次元と言っても差し支えなかった。まぁ、此処に来るまでにそれは実感しているんだが…。
「奇術『エターナルミーク』!」
相手に対して投げナイフで的確に攻撃できる咲夜も相当なものだが、相手はその上を行く。
「日符『ロイヤルフレア』!」
魔法、そうだ。あれは魔法。科学を否定するその力に只々屈することしかできない俺は相手にどのように映っているのだろうか。
(あいつなら…どうするんだろうな。)
あいつとは当然アレンの事だ。どんな敵が相手でもあいつは屈することを知らない。あいつが殺すと言ったら首を引きずって戻ってくる。まぁ、実際は証拠隠滅のためにそんなことはしないが…。そんな奴だから、俺はいつもあいつを目標に戦ってきたんだ。
「……はは、これじゃあアレンに顔向けできないよな。」
思い出す、あいつはいつもどうしていた?そうだ、集中。ただ一点相手に向けて意識を定める。そして心を無にする…殺るべキことハ、タダひトツ!
「はぁあああああああ!!!」
走る、走る!!ただひたすらに、目標に向かって駆け抜ける!
「あら、まさか何も考えずに突撃してくるなんてね。だけどそれじゃあ…っ!うそでしょ!!」
「えっ、る、ルイス!?」
分からない、俺は今どこを走っているのだろうか。床、壁、それとも天井?何処だっていい、目標を破壊できれば何処だって…!
「っ!火符『アグニシャイン』!!」
「遅い!!」
見える!弾幕の軌道が、答えが、すべて見える!誰も俺を止めることは出来ない!たとえそれがアイツだったとしても!!
「これで…終わりだ!!!」
俺はそのまま目標の喉元に向かって…!

「は、はは…。」
「げほっ!!あ、あぁ…。」
「パ、パチュリー様!!」
そう、これだ。血の匂い。暫く離れていたが体は覚えているらしい。
「……ま、まさか私が高々人間ごときに…。」
「…っ!ルイス!!」
「決めたんだろ、…覚悟は戦う前からできてたはずだ。」
「…ごめんなさい。あなたの言うとおりね。」
「ゲホゲホっ!…なるほどね、貴方達がどれだけ本気か理解したわ。だけど、会って…どうするのかしら。」
「最初に申した通りです。私はただお嬢様と話がしたい、ただそれだけだと。」

『あら、私を呼んだかしら?』

「……っ!レミィ、な…なんでここに。」
「どうしてって、別に私はこの館の主なのだから何処にいても不思議ではないでしょ?…それにしても、随分やられたわね。」
「お…お嬢様!」
「貴方達が例の侵入者ね。改めまして、すでに知っているかも知れないけれど私がこの館の主、『レミリア・スカーレット』よ。」
「まっ…まじかよ……。」
「お嬢様!私です!長年この館に仕えていたメイド長の十六夜咲夜です!!」
「…あら、冗談だとしてもやめてくれないかしら。この館のメイド長は貴方ではなく紅美鈴よ。」
「やっぱり覚えていてくれていなかったのですね……。」
「さて…本来なら関係者以外立ち入ることのできないこの『儀式の館』にどうやって入ったかは知らないけれど。貴方達にはここで死んでもらうわ。」
「儀式の館だと!一体ここで何をしているんだ!!」
「そうね…簡単に言えば私たちはこの館で『悪魔の王』を復活させるための儀式を準備している、と言った所かしら。貴方達ここに来るまでに沢山の人の死体を見てきたはずよね?あれは生贄にする為に殺しているのよ。」
「い…生贄だと!?」
「そう、悪魔の王を復活させるためには多くの人間の血を必要とする。だから大規模に魔結界を張ってまで殺す必要があるのよ。」
「…悪魔の王を復活させたら…どうなるんだ。」
「……そんなの、ふふ…決まってるじゃない。神への復讐が果たされるのよ!!悪魔の王の手によってね。」
「神への…復讐……。」
「この町の人間の虐殺はほぼ完了した。後生き残っているのは貴方達くらいよ。だから死んで頂戴、私たちの目的のために…ね。」
そういうとレミリアは片手を天にかざす。その瞬間、手中の中に一本の槍が姿を現した!
「へっそう簡単に死んでたまるかよ!こちとらまだこの世でやりたいことがあるからな。行くぞ咲夜!」
「……えぇ、そうね。」
「抵抗するつもりかしら?…まぁいいわ。貴方達は私自ら本気で殺してあげるこのグングニルでね!!」

サイドチェンジ こころ

「はぁ、はぁ…これは想定外ですね。まさかこれほどとは。」
「…………。」
「しかし私もここで貴方を通しては名が廃るってもんですよ。ですから次は本気で行かせてもらいます。」
「私は最初から本気。」
「そうでしたか。これは失礼しました。それでは…行きます!」
美鈴が攻撃を仕掛けてくる…。でも大丈夫。私は負けるなんて微塵も思っていない。次で…全て終わらせる。
「仮面喪心舞 暗黒能楽」
約束したから、それが…と交わした約束だから。
「彩符『極彩沛雨』!」
慣れたものだ。最初は少し危ない時もあったけど、美鈴の攻撃は単調。分かってしまえばこちらのもの。相手の攻撃をかいくぐり…そして。
「おしまい」
全てが無に代わるその瞬間、私はただ舞い続けるのだった…。

つづく…。

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