鮮血のレクイエム

あじたま

Genocide編 7話 蘇る悪夢

「な…なんで咲夜がここに。」
「…貴方達と同じ理由で此処に来たと言ったら分かりますか?」
「お前もこの良く分からん現象の被害者って訳か…。」
それにしてもようやく此処にきて生きている人間に出会えたな。今までは死体としてしか見つけれていなかったし。
「ちょっとアレン、誰よあの女?」
「…ん?あぁそういえばアリスには紹介してなかったな。」
「………。」
「どうした咲夜?急に黙り込んで。」
「いえ…。少し失礼。」
そういうと咲夜はアリスの元に歩み寄り再び口を開いた。
「一つ聞くわ、アリス。私のこと覚えてるかしら?」
「え?いや…知らないですけど。…初対面ですよね?」
「……なるほど。」
「いや、何一人で納得してるんだよ。俺たちにも分かるように説明してくれ。」
「そうですね…ここではいつバケモノに襲われるか分かりませんし取り敢えず安全な場所まで移動し、それから話しましょうか。」

あれから少し歩き、俺たちは見覚えのある場所までやってきていた。
「ここって…俺がいつも通ってるバーじゃないか。」
「まぁ、取り敢えず中に入りましょうか。」
そう言って咲夜は店のドアを開けた。
「…おっアレンじゃないか!生きてるって信じてたぜ!」
「な!ルイス!?」
「おう!お前の心の友、ルイスさんだぜ!」
そうか、ルイスも。…こりゃあ市民全員が巻き込まれていると考えてよさそうだな…。
「そういやお前いつ咲夜と知り合ってたんだ?初耳なんだが。」
「……いや、そういう俺も初耳なんだが…。」
「アレンさんとは公共墓地で知り合って、ルイスさんは…ちょっとした仕事仲間と言った所でしょうか。」
「説明どうも。流石咲夜は仕事が早いな!」
「いえいえ、以前では当たり前のことでしたので。」
「…なぁ咲夜。別にもう敬語でしゃべらなくていいぞ。知らない仲じゃないしな。俺はそういう堅苦しいのが嫌いなんだ。」
「そう。それじゃあため口で離させてもらうわ。」
「…それよりも早く話してくれないかしら。」
「そうだったわね。…何処から話そうかしら。」
そうして咲夜は少しの間考え、話始めた。

「…今からする話は非科学的なものに聞こえるかもしれないけれど、今は取り敢えず呑み込んで頂戴。」
まぁ、今の状況がすでに非科学的だから今更驚かないと思うが。
「…まず、貴方達は『幻想郷』って知ってるかしら。」
「…幻想郷?何だそれは。」
「幻想郷とは忘れられたものが行きつく『最後の楽園』と呼ばれているわ。」
「それは…どこかの地域だとかの名前なのか?」
「少し違うけど…まぁ、そう解釈してくれていいわ。そこは貴方達の良く知る世界とは隔離されていて、めったなことがない限りは互いに干渉することは無いの。だからあなたたちが幻想郷に行こうとしても偶然が重ならない限りはたどり着くことはできない。」
「…なんで隔離する必要があるんだ。」
「そうね…例えば貴方達は妖怪、幽霊、神、魔法使いって言われたら何を思い浮かべるかしら。」
「そりゃあ、神話やおとぎ話に出てくるような奴らの事だろ。」
「そう、つまり空想上の者たちと信じられている。でもはるか昔はこの世界にもそう言った種族が存在していたの。しかし人間は時の流れと共に科学を発展させ、やがて科学では説明できない様な存在は信じなくなっていった。つまり…『存在が』忘れられていったの。」
「………。」
「ある日、このままでは自分たちの存在が無くなってしまう事に気づいた一人の妖怪がとある一人の人間と協力し『博麗第結界』をある一つの場所に張り巡らせることでこの世界の常識と切り離すことに成功した。そして幻想郷というもう一つの世界が生まれたの。」
「…なるほどな。取り敢えずその幻想郷とやらに関しては概ね理解した。で、その幻想郷がこの現象と何か関係があるのか?」
「まず話の流れで分かると思うけど、私はその幻想郷の住人の一人だったの。そして…。」
そういうと咲夜はアリスの方に向き直った。
「アリス。貴方もその世界の住人だったのよ。…まぁ、今は記憶を失っているから分からないと思うけど。」
「…私が幻想郷の住人。」
「私たち幻想郷の住人はたまに異変なんかでいざこざがあったりはしたけど、みんな楽しく暮らしていたわ。だけど…。」
そう言った瞬間咲夜は突然暗い顔をしていった。
「今から約1年前のある日…たった一人の男によって幻想郷は崩壊の道を歩むことになったのよ。」
「……え。」
「男は謎の術式を幻想郷全域に張り巡らせ、見るに堪えないバケモノどもを幻想郷の住民にけしかけた。勿論私たちは全力で抵抗したわ。…でも、駄目だった。男の力は私たちが考えていたよりも遥かに強大で…残虐だったの。」
「一体その男にどんな力が…。」
「そうね簡単に言えば…『指定した対象の生命活動を停止させる程度の能力』っと言った所かしら。」
「なっ!?要は躊躇いもなく人を殺せるってことじゃないか!」
「えぇ。まぁでも流石に万能じゃないだろうから制限はあるでしょうけどね。でもその制限を考慮したとしても…『八雲紫』と『博麗霊夢』を始末するには十分な力だった。」
「れい…む…。」
「ん。どうしたアリス?」

サイドチェンジ アリス

博麗霊夢。その名前を聞いた瞬間激しい頭痛が私を襲った。知っている。この名前は…私の大切な!
「あ……あぁ…。」
「おい!どうした。しっかりしろ!アリス!」
どんどん頭痛は大きくなり、やがて意識は次第に闇の中へと消えていった…。

なんだろう…ここ。また夢でも見てるのかしら。あれ?あの二人って…。
『ようっ霊夢!まーた賽銭箱の真ん前で仁王立ちしやがって。そんなことしてたって何時までたっても参拝客なんざ来やしないのぜ。』
『うっさいわね。今日は何だか来る予感がするのよ。』
『はいはい、満足するまでやってれば良いんだぜ。』
『何というか…霊夢は相変わらずがめついわね。』
『あら、アリスも来てたのね。』
『ええ。以前の件でお礼がしたくて。…サンドウィッチを持ってきたの。』
『サンドウィッチですって!!』
『こいつ急に眼の色変えやがったのぜ。』
『流石はアリス!どこぞの白黒魔法使いとは大違いだわ!』
『なっ!私だってキノコとか…キノコとかキノコとか持ってきてるだろ!!』
『キノコしか持ってきてないじゃない。』
『まったく、いったい誰がこの幻想郷の異変を解決してると思ってるのよ。少しは真面なお供え物ぐらい置いていきなさい!』
『それはお供え物とは言わないんじゃ…。』
『それ代わりに毎回異変解決の手伝いをしてるじゃないか!は勝手にあんたが付いてきてるだけじゃない!』
『まぁまぁ二人とも落ち着いて…。魔理沙もサンドウィッチ食べていいから。』
『おっ、良いのか?サンキューアリス!』
『ちょっと!サンドウィッチは全部私の物よ!』
(ぐらぐらぐら…)
『…なんだ、地響きか?珍しいな。』
『………。』
『…霊夢?』
『…下がりなさい!早く!』
『えっ!!』
「ほう…もう気づいていたのですか。流石は博麗の巫女。」
『誰よ、あんた。』
『強いて言うのなら、博麗の巫女たる貴方を始末しに参上した者、と言った所でしょうか。』
『へぇ…随分となめられたものね。』
『まぁ、私の力があれば今すぐにでも貴方の息の根を止めることが可能ですけどね。』
『…魔理沙、アリス。ここは私に任せてあんた達は逃げなさい。』
『そ、そんなことできないんだぜ!』
『いいから!何だか嫌な予感がするの。早くしなさい!』
『わ、分かったんだぜ!行くぞアリス!』
『ええ!分かってる!』

『おっおい!どうなってるんだぜ!そこら中血だまりじゃないか!』
『魔理沙!あそこ!』
『ぎゃぎゃぎゃ!!ぎゃやひゃひゃひゃひゃ!!』
『なっ!なんだあいつ。新手の妖怪か?だが、私のミニ八卦炉で……っあれ?』
『ど、どうしたのよ魔理沙。』
『何故だか知らないが魔法が使えないんだぜ!』
『嘘でしょ!?そんなわけ…そ、そんな!これじゃあどうやって。』
『逃げるしか無いに決まってるだろ、走るぞ!』
『う、うん!』
『ぎゃぎゃーーー!!!ぎゃぎゃぎゃーーーーーーー!!!』

『くっそ!あいつら速すぎるだろ!』
『はぁ、はぁ…だめ!もう走れない!』
『そんなこと言ってる場合か!追いつかれたら殺されるんだぜ!』
『わ、私は良いから。魔理沙だけでも逃げて!』
『そんなことできるわけないだろ!それくらいなら私が担いでやる!』
『それじゃあ捕まっちゃうわよ!って、魔理沙!後ろ!』
『えっ……。』
『ぎゃぎゃーーーー!!』
(グシャッ)
『ま…魔理沙ーーーーーーー!!!』
『うぐっ…うう……。』
『ぎゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃーーーーーー!!!』
『お願い魔理沙!しっかりして!』
『馬鹿!はや…く、逃げろ!…お前まで殺されるぞ!』
『でも魔理沙が!』
『共倒れしたら意味がないだろ!はや…く……い…け……。』
『あっあぁ…魔理沙…。』
『ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』
『ひゃひゃはやひゃひゃひゃひゃひゃはやはやはyはやひゃはや!!!!!』

…そうだ。それから私は…何もできずに……。

サイドチェンジ アレン

「ん……あれ。ここは…。」
「おっ…ようやく目を覚ましたか。」
「あれ、わたし一体どうして…。
「んなもんこっちが聞きたいぐらいだ。説明の途中に突然気絶するもんだからびっくりしたんだぞ。」
「…そうだ、私…咲夜の話を聞いて…それで……。」
「どうした?夢でも見てたのか?」
「えぇ…幻想郷にいた時の。」
「……それって記憶が戻ったってことか?」
「…まだ完全とは言わないけど…おそらくは。…ごめん、少し一人にしてもらえないかしら。」
「分かった。何かあったら言えよ。」
そうして俺は部屋を後にした。

「ようアレン!戻ってきたってことはアリスは目を覚ましたんだな!」
「……あぁ。」
「もしかして記憶が戻ったのかしら?」
「…察しがいいな。で、ひとりにさせてくれと言われた。」
「……そう。」
「まぁ、あんなこと急に思い出したら一人になりたくもなるよな。」
「そうだな。…なぁ、咲夜にも今のアリスみたいな時があったのか?」
「ええ。…アレンには話したと思うけど私は昔とある屋敷の主に忠誠を誓っていたの。今でもお嬢様をこの手で守れなかったのは深く心を締め付けているわ。…だから私は誓ったのよ。必ずお嬢様の命を奪ったあの男に必ず復讐して見せると。」
「……そうか。」
「取り敢えずアリスにも時間が必要でしょうし。暫くはここで待機していましょう。」
「そうだな。…ルイス、銃弾を幾つか分けてくれないか。非常用しか持ってなかったからもう弾数がそんなに残ってないんだ。」
「おうっ!じゃんじゃん持って行ってくれ!」
「助かる。」
「へへ、親友の頼みとあらば断わる理由なんてないだろ?」

サイドチェンジ アリス

だめだな。本当に私はだめだ。親友の一人や二人も助けれずに自分だけ生き残ってるなんて…。
「……あれ、涙。…私泣いて。」
どうして忘れていたんだろう。なんで思い出せずにいたんだろう。…そんな自分が嫌で嫌で仕方ない。大切な友達のことを忘れて今までただ漠然と過ごしていた自分が恥ずかしい。
「……霊夢…!…魔理沙……!」
自分に力が無かったせいで、霊夢も…魔理沙も…。
「……うっ…ぐすっ。うぅ…。」

サイドチェンジ アレン

「…さてと。」
あれから30分程経過した。部屋にいたアリスも少し前に戻ってきた。表情はあまり優れないが、状況が状況なだけに移動しないと危険性が高まってしまう。
「なぁ…これからどうする。…ただ闇雲に移動しててもいつかはやられて終わりだぞ。何とかしてこの世界から抜け出せる方法は無いのか?」
「……一つ、方法があるわ。」
「おっ?何だ。教えてくれ。」
「…この世界を管理している首謀者を撃退することよ。」
「首謀者…だと?そんな奴がいるのか?」
「えぇ。実は私、これと似たことに一度巻き込まれたことがあるの。その時はある人物がその首謀者を撃退して脱出したから…きっと多分今回も…。」
(ドカーーーン!!!)
「なっ何だ急に!壁が爆発しやがったぞ!」
「…おい!誰かいるぞ!」
ルイスが指さす方向の煙の向こうから謎の影がこちらに近づいてくるのが確認できる。そして暫くして、その陰の正体がその姿を現した。

「あはははははははは!!!みーーーつけた♪」

「なっ、い妹様!?」
そこに現れたのは背中に色とりどりの宝石をぶら下げた翼を生やした女の子だった。

「さぁ、一緒にあ・そ・び・ま・しょ♪」

続く

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