鮮血のレクイエム

あじたま

Genocide編 5話 死と絶望の世界

「うぅ……あぁ……。」
頭が……痛い。まるで内側から炎で焼かれているような感じだ。痛覚があるということは、多分まだ俺は死んでいないのだろう。
「ぐぅ…とりあえず、起き上がらないと…。」
痛みに耐えながら、何とか俺は体を起こし状況を確認する。
「なっ!……なんだ…これ……。」
目の前に広がっていた場所はかろうじて先ほどと同じ場所だと分かる。だが…明らかに俺の知っている世界ではない。全てが紫色に彩られた世界。空は黒い雲に覆われ、日が差しているのかも分からない。薄紫の霧が地上を覆っている。
「何処だよ…ここ。夢でも見ているのか?」
そう思って自分の頬をつねってみると、軽い痛みが走った。どうやら夢を見ているわけでもないらしい。
(落ち着くんだ俺。ここで焦ったって何も始まらない。まずは状況を整理しろ。…ってそうだ!アリスは、アリスは何処にいるんだ!)
そう言って辺りを見渡してみると、俺のすぐ近くで倒れてるアリスを確認する。俺はすぐにアリスのそばに駆け寄った。
「おいっ!しっかりしろ、アリス!目を覚ませ!」
「うぅ……アレ…ン…。」
良かった。どうやら意識は有るらしい。
「手を貸してやるから、ゆっくりと起き上がるんだ。」
「分かったわ。…って、え?何よこれ!どうなってるの!?」
「落ち着け!とりあえずあそこの壁まで移動するから来い。」
「え…えぇ…。」

ひとまずアリスは近くの壁まで連れていき、そこにもたれ掛からせた。
「…ごめんなさい、アレン。迷惑かけちゃって。」
「別にこれくらい迷惑でもなんでもねぇよ。」
「『まったく、なんで俺がこんな面倒くさいことを…。』っとか思ってそうじゃない。」
「…俺もたまには人の心配くらいするさ。」
まぁ、半分くらいはそう思ってるが、言ったらさらに面倒なことになりそうだ。
「それにしても、一体ここは何処なのかしら…。見たところ建物とかは同じだけど。」
「分からん。…なぁ、今思ったんだがここには俺たち以外にも人がいたよな?」
「記憶が確かならそうだけど…おかしいわね。私たち二人以外誰も見当たらないわ。」
どういうことだ?俺たちだけこの世界に飛ばされたってことか?いったいどうやって…。

「きゃーーーーーーーーーー!!!」

「っ!なんだ!?さっきの悲鳴は!」
「向こうの方から聞こえたわ!!」
確か俺の知っている世界と同じ地形であれば、あっちには広い公園があったはずだ。
「…少し様子を見て来る。お前はここで待ってろ!」
「ちょっと待ちなさい!私も一緒に行くわ!」
「お前苦しそうにしてたじゃないか。もう大丈夫なのか?」
「えぇ…。それよりも急ぐわよ!」
俺たちは悲鳴が聞こえた方向に向かって走り出した。

「っな!こ…これは…。」
そこに広がっていたのは、言う事も憚れるような光景だった。辺りには恐らく元は人であったであろう肉塊や頭が至る所に散らばっており、血の海を形成している。ただの一般人が見たらショック死ものだ(俺は職業柄慣れているが)。だが、俺が驚いているのはそこではない。
「ギャー―ギャーー!!ギャヒヒャヒャ!!」
「なんだ…あいつらは…。…バケモノ、なのか?」
そこにいるバケモノ共は人型ではあるが、明らかに人間とはかけ離れた姿をしていた。身長は2m程度で鋭いかぎ爪と鋭い牙、異様に発達した黒い腕を持っている。あんな奴らは物語の中でしか出てこないと思っていたが、いざそれを目の当たりにするとその不気味さと恐ろしさを改めて痛感させられる。
「はぁ…はぁ。ちょっとアレン、急に立ち止まってどうしたよ…って…。」
「……あっ、おい!」
(しまった!こんな光景をアリスなんかに見せたら…!!)

サイドチェンジ アリス

「えっ……なに…これ……。」
私の目の前は鮮血の紅と鉄の匂いで彩られていた。そして、そこで人の肉を引きちぎりながら雄たけびをあげるバケモノども。…いや…知っている。…あいつらは…アイツラハ!
「あ…あぁ……。」
「ギャギャ!?ギャヒヒヒヒヒ!!!ぎゃひゃぎゃひゃ!!!」
み…見られてる。…そんな…やめて!!…来ないで!!
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやーーーーーーーー!!!」

サイドチェンジ アレン

「ギャギャ!?ギャヒヒヒヒヒ!!!ぎゃひゃぎゃひゃ!!!」
「っち、気づかれた!!おいっアリス!ここから離れるぞ!」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやーーーーーーーー!!!」
「しっかりしろっアリス!アリス!!」
「いやーーー!!」
そういうとアリスは来た道の方へと逃げだすに走り出す。
「おいっ!待て!……くそっ!」
そうして俺もアリスの後を追うように走り始めた。
「ぎゃーー!!ぎゃぎゃぎゃーーー!!」
「なっ、あいつら足速すぎるだろ!!どうなってんだ!」
足にはかなり自信がある方だが、あのバケモノどもはそれをはるかに上回る速さでこちらに向かって突っ込んでくる。
(くっ…このままじゃいずれ追いつかれちまう!)
なら…路地裏を使ってまいてやる!!俺は闇雲に走るアリスの腕を掴み、強引にこちらへ引き寄せる。それと同時にカバンに入れてあったスモークグレネードを奴らに投げつけた。
「ぎゃぎゃ?ぎゃぎゃぎゃーーー!!!」
「ついてこい!!今はあのバケモノどもから逃げ切ることだけを考えろ!」
「あっ……。…う、うん…。」
俺たちはそのまま近くの路地裏まで走った。

「っはぁ…はぁはぁ…。」
あの後10分ほど逃げ続け、何とか屋内に避難することができた。途中アリスが疲れ切って走れなくなってしまった時があったが、そこからはおぶって走った。そのせいで余計に疲れてしまったが…。
「……ごめんなさい。私が取り乱したりなんかしたせいで。」
「いや、普通に考えればさっきのアリスの様な反応が当たり前だ。むしろ気絶しなかっただけ良い方だ。」
「でもアレンはあまり動揺してなかったわよね。」
「俺は…まぁ、慣れてるからだ。あぁいうのは。」
「……そう。それにしても、これからどうすればいいのかしら。」
「とりあえず電話でもかけてみるか。」
そう言って俺はポケットからスマホの電源を入れようとしたが。
「…あれ?電源が入らないぞ。」
「充電し忘れたんじゃないの?」
「いや、出かける前の充電は100%だったはずだ。」
じゃあ故障したってことか?そこまで雑に扱った覚えは無かったんだが…。
「…まぁ使えないものは仕方ない。諦めよう。」
取り敢えず今後のあらゆる状況に対応するため、武装を始める。職業柄こういう緊急事態に備えてある程度バッグの中に用意してあるのだ。
「ベレッタ一丁とファイティングナイフ2本…心もとないが、あるだけまだましってところか。」
家に戻ればもっとあるのだが、無い物ねだりをしていても仕方がない。それに、この世界が完全に前いた世界とリンクしているかも分からないのだ。
「ねぇアレン、ちょっと休んでもいいかしら…。さっきの逃走で結構疲れちゃってて。」
「ん?あぁ、いいぞ。ていうかむしろ休め。今後どんなことが起こるか分からないんだからな。寝てる間は俺が見張って置いてやるよ。」
「…ありがとう。」
そういうとアリスは本当に疲れていたのか、瞬く間に眠りについてしまった。
「すーーすーー…。」
「…さて、外の様子でも見てみるか。」

サイドチェンジ アリス

…夢を、見ている。とても暖かくて落ち着く夢。
『おーーい!アリスーーー!遊びに来てやったぜ!』
『邪魔するわよ、アリス。』
『…もうっ。折角魔法の研究をしてたのに。』
『確か完全自立型人形だったか。アリスは本当に地味なのが好きだよな。そんなのより一緒に私のスペルカードを考えてくれよ!まだマスタースパークしか思いついてないんだぜ。』
『…あんた火力のことしか考えてないじゃない。弾幕ごっこっていうのは美しさを競うものなのよ。』
『違うぜ霊夢。弾幕は…パワーなんだぜ☆』
『私のはあまり魔理沙の魔法みたいに派手じゃないから参考にならないと思うわよ?』
『そんなことないんだぜ!三人寄れば何とやらっていうだろ。』
『三人寄れば文殊の知恵ね』
『はぁ…分かったわよ、協力すればいいんでしょ。どうせ言っても帰ってくれそうにないしね。』
『しかし、内心は遊びに来てくれて嬉しいアリスなのであった。』
『ちょっと霊夢!どういうことよ!』
『あはははは!!!まぁまぁそういきり立つなって。どうせ一人で寂しかったんだろ?』
『そんなこと思ってないわよーーーーーーー!!!』

サイドチェンジ アレン

「………。」
あれから外の様子を調べてみたが、霧が濃すぎて遠くまで良く見えなかった。
「仕方ない、少し外に出てみるか…。」
危険ではあるが、どうせいつかは外にでなければならないのでそれが遅いか早いかだけの問題だ。俺は寝ているアリスを起こさないように部屋の鍵を開け、建物の一階へ移動した。

「誰もいない…よな?」
一応念のため警戒しながら進む。いつさっきのバケモノが表れるか分からないからだ。俺は慎重に玄関の扉を開こうとし…。
(ガシャーン!!)
「ぎゃぎゃーーーーーーーーー!!!」
「なっ…嘘だろ?」
どうやら俺のバケモノどもに対する考えは甘かったらしい。まさかコンクリートの壁を破壊できるほどの腕力を持っているとは思えなかった。バケモノは瞬時に俺視界にとらえ、まるで逃がした獲物を見つけたかのようにこちらを見つめてくる。
「くっ…やるしかないってわけか…。」
「ぎゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
考える時間もくれず、バケモノはこちらに向かって突進してくる。俺はそれを当たる寸前で避けた。
「イメージしろ…。イメージするんだ……。」
こういう時人間は自分がやられることを考えてしまうことを俺は知っている。だから普段何かを成し遂げるときは、常に成功するビジョンを頭に思い浮かべることを心掛けるようにしている。これだけでも成功率が飛躍的に上昇するのだ。
「ぎゃーーーー!!!」
バケモノが俺に向かって黒光りする太い腕を振り下ろしてきた!
「……やあっ!せいっ!」
俺はそれをファイティングナイフで自分の右側に受け流す。しかし、それだけで腕に大きな負荷がのしかかった!
「ぐあああーー!!っ!くっそがーー!」
相手が怯んでいる隙にすぐさま左手で持っていたベレッタでバケモノの頭を打ちぬく!
(バンッバンッ!!)
「ギャーーース!!」
黒い液体の様なものがバケモノの後頭部から流れているのが分かる。久々に拳銃を使ったので不安だったが、体が覚えていてくれていたみたいだ。
「今度はこっちから行くぞ!!」
バケモノの背後まで攻撃を避けながら全速力で駆け抜ける!
(一度でも攻撃を喰らったら終わり。…なら、喰らう前に殺すだけだ!!)
「ぎゃぎゃ!?」
そのままファイティングナイフを展開し、バケモノの首を切り裂く。
「ぎゃぎゃーーーーーース!!」
「まだまだっ!」
腕、腹、足首。体の感覚を頼りに連続で斬りつけていく!!
「これでっ……終わりだあああああーーーーーーー!!!!!」
思い切り力を込めてファイティングナイフを後頭部に突き刺す。そしてベレッタでバケモノの首を討ちぬいた!!
「ぎゃぎゃぎゃーーーーーー!!!」
バケモノは下から崩れるように地面に倒れ、そして動かなくなった。周りには黒い液体がバケモノを囲むように池を形成している。
「はぁ……はぁ…。」
バケモノが死んだことを確認し、俺は近くの壁にもたれかかる。
「……はは、笑えねぇな。」
バケモノ一体にここまで苦戦を強いられると、今後生き抜いていけるかどうか分かったものではない。こいつで最後とも思えないし、これ以上強い奴を相手にすることだって考えられるのだ。
「…とりあえず2階に戻、」

『きゃーーーーーー!!!』

「っ!?」
今のはアリスの声?しまった!二階には誰も来ないと油断していたせいで、アリスが完全に手薄になってしまった!俺は急いで階段を駆け上がる。
「くそが!間に合え!!」
俺はそのままアリスのいる部屋の扉を勢いよく開けた!

「あ…アレン……。」
良かった、どうやら無事だったようだ。
「全く、急にあんな大声出しやがって。心配したぞ。」
「アレン……後ろ!!」
「えっ…うしろって…っ!?」
後ろから何者かの気配を感じ、俺は瞬時に後ろへ下がる。
「なっ!…誰だ……お前…。」
そこには一人の小さな女の子が両手を広げながら浮遊していた。いや、それだけではない。周りは黒いものでおおわれており。体の半分が黒い異質なもので形成されていた。

『ねぇ…あなたは、食べられるニンゲン?』

続く

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