勇者にとって冒険の書は呪いのアイテムです

ハイイロチョッキリ

⑫とうぎじょう(1)

「…ツリ、セツリ」

「セツリさん!」

聞き慣れた、しかし、妙に懐かしい声が聞こえる。

セツリはゆっくりと目を開けた。

視界にユージーンとミリが飛び込んでくる。

どうやらまだ海底洞窟の中のようだ。

ユージーンとミリは海魔ヒルテデスを倒した直後、卵から解放されたようだ。

すでにリエルの「バブリン」を受け、水深耐性を得ている。

またセツリが意識を失っている間にミリがリエルの「バブリン」を調整したようで、大きな泡に閉じ込められているというよりは身体の周りに薄っすらと膜が張っている感じになっている。

これにより強度が上がり、魔物からダメージを与えられたり、鋭利な物に触れない限りは動けるらしい。

「気がついたようで良かったわ」

リエルがこちらに向かって泳いでくる。

「ベックはもう目を覚ましているわ。セツリになにか食べさせてやるんだって魚や貝を取りに行ってるみたいだけど」

リエルはセツリの前に立ち、深々と礼をする。

「全ての人魚達に代わってお礼を言います。勇者様、本当にありがとう。君のおかげで多くの仲間達が救われたわ」

セツリはポリポリと頭をかいて照れる。

「おーい、目が覚めたか、ブラザー!食い物いっぱい持ってきたぞー!」

大量の海産物を抱えたベックが大きな声をあげながら戻ってくる。

セツリ達は腹ごしらえをした後、海底都市に戻った。

セツリ達の活躍は瞬く間に海底都市中に広まり、セツリ達を讃える宴が催された。

宴は数日間に渡って続き、セツリ達は戦いの傷を癒した。

そして出発の日が訪れた。

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