勇者にとって冒険の書は呪いのアイテムです

ハイイロチョッキリ

④たびのはじまり(6)

酒場に入るとすでにひとつめの怪物を退治したセツリたちの噂は広まっていたようで、視線が集まる。

「いらっしゃい。なににします?」

酒場の主人がグラスを拭きながら問いかける。

「あー、ウィスキーの水割りを。水は半分で頼む。セツリは同じものでいいよな?」

『はい』

テーブルに着くとすぐさま綺麗な氷の入った酒のグラスが置かれ、ウィスキーが注がれる。

「これはお通しです」

といって主人に差し出された皿に入ったのはみどりの干物。

「お…おう、こんなところに需要があるんだな」

「隣の村の名産みどりの干物ですよ。なんの干物なのかはわからないですがひと口食べると病みつきになるんですよ」

「知ってるよ。うちの村の名産だ」

セツリとユージーンはみどりの干物をかじる。

まるであん肝のような濃厚な…それでいて青臭く、ほのかに甘みを感じる干物をかじりながらちびちびとウィスキーを飲む。

一息ついたところでユージーンが顔をあげる。

「なあ、マスター。俺たちの噂は聞いているか?」

「街道に現れたひとつめの怪物をたった2人で倒した勇者様だろう?」

勇者様という響きは悪くないのかセツリが照れ笑いをする。

「そうだ。俺たちはこれから魔王討伐の旅に出ようと思ってるんだけど、資金がないんだ」

「兵士を集めたいのかい?」

「いや、どうやら人数が多ければなんとかなるってわけでもないみたいなんでね。とりあえず金を稼ぎたい。手っ取り早く稼げそうな仕事はないかな?」

主人はあごに手を当ててしばらく考え込むと壁に貼ってある紙を何枚か取って持ってきた。

「依頼書だ。この中で引き受けたい仕事はありますかい?」

①「魔物に子どもがさらわれた。取り戻して欲しい。1500G」
②「いたずらラビットの毛皮を10匹分ほど集めて欲しい。800G」
③「イライラバチが大量発生している。巣の駆除1つにつき100G」

「この①ってのはいつ募集が出たんだ?」

「勇者様たちがここに来るちょっと前でさぁ。まだ依頼主は近くにいると思いますよ」

セツリとユージーンは顔を見合わせる。

「マスター、依頼主を紹介してくれるか?急いだ方がいいかもしれない」

酒場の主人は頷いた。

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