攻略対象たちが悪役令嬢の私を熱く見つめてきます!
に、逃げてませんけどっ?
「な、なんの話ですか?」
「とぼけても無駄だ。なにをそんなに怯えている」
いや、だってシュバルツがあなたに捕まると面倒だって言ったから…。
でもそんなこと言えない。
「怯えてなんていません」
「ならばこちらを向いて話をしろ。目を背けるのはやましい心の表れだ」
ぐっ、と理紗は唇を閉じた。まるで新人研修時代の上司の説教のようだ。
精一杯威厳をもって振り向きたかった。だが、空腹での全力疾走は理紗の足から力を奪った。
振り向きざまにカクンと膝が折れ、よろめいた。
すると大きな手が理紗の肘をつかみ、地面に倒れるのを防いでくれた。
「どうした」
少し固い皮膚の武骨な手だった。
理紗の肘をつかんでも余るくらいに長く太い指。
「大丈夫か」
のぞきこんでくる真剣な眼差しに、肘を掴む指同様力強さと頼もしさを感じた。
閉じていた唇がふるえた。つんと鼻の奥が痛み涙がじんわり盛り上ってくる。
理紗の顔を見て男は動揺したようだ。
ギョッとして手を離したため理紗はぺたんと地面に座り込んだ。
「す、すまん! 大丈夫か…?」
「お」
「お?」
「お腹へったぁ…」
鼻をぐずぐずすすりながら空腹を訴えると男はあきれ顔で見下ろしてきた。そして懐からハンカチを出すと理紗の頭にそれを乗せ、背中を向けてくる。見てないうちに済ませろ、と言うことだろうか。
ありがたく使わせてもらおう。
理紗は思いっきり鼻をかみ、それをワンピースのポケットに仕舞った。
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