攻略対象たちが悪役令嬢の私を熱く見つめてきます!
胸の高鳴り
「──心はきまったかい?」
静かに問われた理紗が、乾いた唇をなめ言葉を発しようとしたときだった。
シュバルツがなにかに気づき眉をひそめた。ため息をつき、ネクタイを持つ手を下ろす。
「どうやら邪魔が入ったようだ」
ガタガタッと理紗の背後から物音がした。
突然のことに驚き振り向くと、そこには窓から室内をのぞきこむ大柄な男性の姿があった。
目に険を宿しシュバルツをにらみつけている。
理紗の視線に気づくと目を合わせ、なにかを訴えてきた。
だがはめ殺しの窓に遮られまったく聞こえない。
首をかしげてみせると苛立たしげ部屋のドアを指し示してきた。
「きみにここから逃げろ、と言っているのでしょう」
逃げろ?
「なぜ?」
「なぜ」
クスリとシュバルツが笑った。
「教師である私の寝室に生徒のきみがいて、私はネクタイを手にきみに近づいている。これはゆゆしき事態だ、と考えたんだろう」
「あぁ…なるほど」
理紗もクスと笑った。たしかにこれは言い訳できない。
状況だけを見ればシュバルツは不埒な教師で、理紗はふしだらな生徒だ。
「彼につかまるといろいろ面倒です。行ってください」
ドアへの道を開けるために身を引くと、理紗をじっと見つめて言った。
「この続きはまた近いうちに。──メアリローズ嬢」
「……失礼します」
小走りで部屋をあとにした。
背中にシュバルツの熱い視線を感じながら、あのネクタイを目にした瞬間の胸の高鳴りを理紗は思い返さずにいられなかった──
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