受験生でしたが転生したので異世界で念願の教師やります -B級教師はS級生徒に囲まれて努力の成果を見せつける-

haruhi8128

怒涛の後半戦

「……生きてた……?」

口もまともに動かず、瞼もちょっとしか開かないが生きてた。

「負けたわね」

狭い視界でぼやけてはいるが、誰かがこちらをのぞき込んでいるのがわかる。
察するに、今俺の頭はアンの膝の上にある。

「生きてただけ儲けもんかなぁ……」
「そんなことでいいのか?」

向こうから王様の声が聞こえる。

「あ、ライヤさん起きました? まだ修復中なので待ってくださいね~」

そしてその近くからヨルの声も。

「……俺の顔どうなってる?」
「ひしゃげてるわね」
「顔に使う表現じゃないな……」

ここに鏡が無くて良かった。

「ヨルがとりあえず元に戻るのが確約されているところまで治してくれてるから心配しなくてもいいわ」
「で、王様に移ったのか」
「怪我の具合はお父様の方がヤバいもの。でも、そこはヨルが譲らなかったの」

喜んでいいのか悪いのか。

「勝負は引き分けってことにしておいてやる」

全快したらしい王様がのしっとこちらに歩いてくるのを感じる。

「だから、アンはともかく。ウィルは『現状維持』だ。ライヤ、お前も10歳かそこらの子供に手を出すような鬼畜じゃないだろう?」
「まぁ、そこは」

ヨルが横に来て回復魔法をかける。
顔が少し暖かくなり、徐々に視界も開けてきてしゃべりやすくもなる。

「1対2だから俺の勝ちだと言うと思ってましたけど」
「決闘ならな。だが、アンが介入した時点で決闘ではない。それに、お前の嫁に命を助けられていながら無下にも出来んだろう」

ヨルってつくづく便利キャラだな。

「ヨルがそっちについてれば負けてた可能性も高いしな。これ以上俺が言うと、アンが本気で国外に亡命しそうだ」

背を向け、去っていく王様。

「ウィルが成長するまでには俺くらいには勝てるようになっておけ」




「俺くらいには勝てるようになっておけって言ってたけどさ」
「うん」
「あの人が王国最強だよな?」
「そうね」

無理があるだろ……。

「今回もだったけど、何もライヤだけでって話じゃないんじゃない? お父様は個人の強さとかよりも部隊単位での強さを重視してるから。だから、ライヤも認められてるのよ」

戦争で部隊単位の重要性をわかっているからなのだろうか。
個人では大したことのないライヤにとってはプラスではある。

「あ~、負けたか~」

ライヤも負けるつもりであの場に立ったわけではない。
勝算があるだろうと踏んだから挑んだのだ。
引き分けとは言っていたが、ライヤ個人としては一発で意識が吹っ飛ぶほどのやられ方をしたのだ。
あまりにも一瞬で痛みはほとんどなかったのが救いか。

「私がいれば勝ってましたよ!」

先ほどまでは落ち着いていたが、憤りを感じる口調でヨルが話す。

「いやー、それはどうだろうな? 確かに俺たちはやりやすかったかもしれないけど、最初にヨルが狙われてたかもだぞ?」
「あ、そうか、それもありますね……」
「もちろん、フィオナがいたら誰かをヨルの護衛に回すのもアリだけどな。それこそ、ウィルが成長した後ならウィルも戦力に数えられるだろうし。俺の考え方だけど、家族そろえば大抵の困難は乗り越えられるっていうのが理想だと思うんだ。精神論にしろ、な。だから家族の絆ってものは大事だと思う」

ライヤは一呼吸置く。

「だけど、精神論だけでいいような立場じゃないのも確かだ。俺だって爵位をもらうし、アンとウィルに至っては王族だ。政争とか、それこそまた戦争に関わることもあるだろう。そんな時に家族がそろえば戦力としてまとまるっていうのは理想だ」

それこそ王様に勝てれば大抵の相手には負けないだろう。

「だから、目標は王様撃破にしよう。目標があった方が張り合いがあるだろ?」




「それで、住む場所はどうするの?」
「あ、やっぱり今のままじゃダメか?」
「一応あそこは独身寮でしょ? それに私とウィルをあんなとこに住まわせてたらそれこそ文句が出るわよ」
「でもお金が……」

給料も平民価格だったので薄給だったのだ。
今度から貴族になって給料も上がるだろうが、家を買えるようになるまでには何年かかるか。

「わたしの別宅があるけど~。どうする~?」
「それ貰ってもいいやつなのか?」
「私の嫁入りにあたってストラス家から出せるのなんてそんなもんだからね~。むしろ貰ってもらえなかったら困っちゃうかも~」
「そんなもんか」

貴族の嫁入り事情はわからん。

「十分に広いし、いいと思うけどね~」
「見てみてから決めるか。他にやらなきゃいけないことってあるか?」
「国への申請はあるわね。私は王族だからいらないし、ウィルも同じね。フィオナとヨルは必要だと思うわ」

婚姻届みたいなものか。

「じゃあ、明日……」
「ライヤさん、明日は学校ですよ?」
「そうだった……」
「ふふ、少しこそばゆいですね……」

家ではウィルはライヤのことをライヤさんと呼ぶことに決めたようだ。
学校でボロが出ないことを祈るばかりである。

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