受験生でしたが転生したので異世界で念願の教師やります -B級教師はS級生徒に囲まれて努力の成果を見せつける-

haruhi8128

報い

ヨルを連れて地上に出て、家主の帰りを待つ。
既に家にいた使用人たちには事情を説明し終えており、邪魔することがないように戻ってきたフィオナたちに見張ってもらっている。

「ヨル、無理して残らなくていいんだぞ?」
「無理なんてしてないですよ。どうせなら、あいつが処されるところも見たいので」

なんと強い心だろう。
自分が同じ立場に置かれたとして、こんなにも気丈に振る舞えるだろうか。

「こ、これはどういうことなんだな?」

家主のお帰りだ。

「どうも、イベリコ先生」
「ライヤ先生なんだな? なぜうちに……!?」

犯人は同じ学園の教師であるイベリコだった。
以前から学園の生徒と関係を持っているとまことしやかに噂されていたが、ついに決定的なことをやりやがった。

「地下の生徒たちはもう助けた。お前のやったことは許されることじゃない」
「な、なにを言っているんだな!? お前にそんな権限が……!」
「その点は心配しないで。私がいるから」
「あ、アン王女なんだな……?」

ライヤの後ろにいたアンが進み出る。

「私たちの国でよくもまぁ好き放題やっていたようね、イベリコ男爵」
「ご、誤解なんだな! ぼ、僕は決して無理に迫ったりなんてしたことは……!」
「今回までは無かったかもしれないな。そういう話だったから学園も手が出せなかったんだから。だからこそ聞きたい。なぜそこまで慎重に動いていたのにこんなに大胆に動いたんだ?」

王国には売春を禁じるような法はない。
そうでもしないと生きていけない人たちが一定数いて、それを解消できないのもまた事実だからだ。
だからこそ同意もあって、対価も払っているというイベリコには処罰が下らなかった。
だが、今回はまず誘拐、監禁。
そしてヨルへの強姦の罪がある。

「そ、それは……」
「まさかとは思うが、噂が広まって生徒が相手をしてくれなくなったからとかほざくなよ?」
「うっ……?」

図星かよ。

イベリコが学園から帰ってくるまでに2時間ほどあった。
その間にフィオナが集めてきた情報をもとに精査していたのだ。
この頃、イベリコ関連の話が少なくなっていたらしい。
何でも、景気が上向いて生徒が体を売らなければいけないほどの困窮が少なくなったからだとか。
すると、彼は欲求不満になる。
欲を抑えきれなかったのだろう。

「だが、国に捕まりたくはない。そこで考えたのが監禁して向こうからお願いさせることだ。監禁していたのも接待していたと言えば言い訳できるかもな? そして、普段より多くの金を握らせて一丁あがりってとこか?」

たかが2時間考えただけでいきつくような浅はかな考えを実行に移したのも馬鹿だ。

「そのおかげで生徒たちは助かったわけだが……。てめぇ、なんでヨルには手を出したんだよ!」

尚更納得がいかない。
ヨルこそ、年齢的には大人だし身寄りもない。
同意があるまで閉じ込めてけば良かったはずだ。
なぜそこをすっ飛ばしたのか。

「そんなこと答える義理はないんだな! そぉい!」

掛け声一発。
砂塵を巻き上げて身を隠すイベリコ。
腐っても学園教師。
魔法の水準は高い。

ガキィン!

「んなっ……!?」

だが、あくまで一般的な水準に照らせばの話。
砂塵舞う範囲全てをアンが凍らせ、逃げ場をなくす。

「ここにきて逃げなんて許されるわけないだろ?」
「く、くそぅっ!」

剣を抜き、体の前で構える。
でっぷりしたお腹の前では構えにくそうだ。

「ふぬっ!」

そのまま戦うのかと思いきや、その剣を地面につきたてる。

「ぼ、僕の固有魔法は結界なんだな! この剣がある限り、僕に傷を負わせることは出来ないんだな!」
「固有魔法持ちだったのか」

通常、アジャイブ魔術学校の教師は魔法と剣術や格闘術などの両方が高水準にある。
イベリコは明らかに後者を苦手としていたが、固有魔法があるから教師として籍を置けていたのか。

「馬鹿かお前」

バキンッ!

結界の要らしいイベリコの剣が真ん中から折れる。

「それを言わなければもっと時間稼ぎ出来ただろ」

ライヤが剣の下半分を凍らせ、アンがもう半分を加熱する。
強烈な温度差に耐えきれない剣は簡単に折れる。
それこそ、宝剣や魔剣と呼ばれる類のものでないと耐えられないだろう。
そしてそんなものをイベリコが持っているはずもない。

「えっ……?」
「死ね」

ガツンと大きな音が響き、イベリコの首から上がガクンと揺れる。
拳に岩を纏った渾身の一発だ。
威力は折り紙付き。

「死ね……」

続けてアンが足を振り下ろす。
イベリコは顔がひしゃげて声も出せない状態だが、慈悲はない。
振り下ろす先は、股間。
ライヤも思わず耳をふさぎ、視線を逸らす。


それでも。
顔面がひしゃげていたとしても。
悲鳴が聞こえるような気がした。

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