受験生でしたが転生したので異世界で念願の教師やります -B級教師はS級生徒に囲まれて努力の成果を見せつける-

haruhi8128

体育祭当日 14:52

「クンに話して良かったのか?」
「あれだけ脅しておけばいう事はないでしょう?」
「まぁ、そうだろうけどな……」

あれで言うならもうそれはクンを褒めるしかない。

「……教師って難儀ね」

アンもクンに対する処罰が軽かったと思っているのだろう。
少し後悔しているかのような口ぶりである。

「まぁ、子供に対してと考えたらいいんじゃないのか?」
「でも、本来なら一族郎党処刑じゃない?」
「そ、そうだな」

王家の、裁定者としてのアンをあまり見てこなかったライヤはその圧に少したじろぐ。

「残念だが、親たちは免れられないだろうな。だが、教師というのは抜きにしても子供には少し甘くてもいいんじゃないかと思うぞ」
「そうかしら……」
「……責任のない子供には無理に背負わせる必要はないだろ。そういうところで意味もなく裁定を下すようにはなってほしくないな」
「そうね、そうよね」

少し疲れたのか、アンはライヤに歩み寄って肩にもたれかかる。
変装を解いて元の美しい白色に戻った髪をライヤが漉く。

「少し落ち着いたら戻るんだぞ。俺もまた会場周りの警備に戻らないといけないから」
「そうね。でも、もう少しだけ……」

ワアァァァ……!

より大きくなった歓声が会場から聞こえる。
次の試合が始まったのだろう。
ライヤもアンも今までの試合結果を知らないため、どこのクラスが対戦しているのかはわからない。
2人の空間を作りながらも、ライヤはSクラスの生徒の勝利を祈るのであった。




「ここでSクラスに勝てば! 俺たちも優勝できる! 気合いを入れろ!」

同時刻、会場へと出てきたS・Fクラス連合とA・Eクラス連合は歓声を浴びていた。
特にもはや後がないA・Eクラス連合は気合が入っている。
わけもなく。

「それで、どうするの?」
「ふん! Aクラスの魔法で押しきるのだ!」
「はぁ……。向こうにはSクラスがいるのよ? 魔法戦で勝てるの?」
「人数をかければ問題ない!」

実力では劣っていると自ら言っているようなものだが、戦略としては正しい。
彼がその言葉の悲しさを自覚していないだけで。

「私たちは何をすればいいの?」
「Eクラスは後ろに下がって見張りでもしていろ! どうせ向こうの戦力はSクラスだけだ」
「そうだといいわね」

呆れたと言わんばかりに後方へと下がっていくEクラスの女生徒にAクラスのリーダーはいら立ちを隠せない。

「ろくな魔法も使えないくせに……!」

しかし、彼女は聡明であった。
確かに魔法戦はこの陣取りの大局を左右するものであり、重要視するのも頷ける。
だが、Aクラスはそのプライドから魔法戦だけを意識しすぎていると感じていた。
加えて、前の陣取りで見せたS・Fクラス連合の動き。
明らかにFクラスの身体能力を活かした作戦が組み込まれていた。
他の動きが上手くいって実行に移されなかっただけなのだが、試合をちゃんと見ていればわかることだった。
Sクラスが自分たちの試合を見なかったことに憤っていたくせに、相手の試合を見て勝とうという努力もしていない。
EクラスがAクラスを見限った瞬間であった。

「ごめんなさいね、皆」
「委員長のせいじゃないよ。俺たちだって気分が悪いさ」
「体育祭は来年もある。また頑張ればいいよ」
「そうね……」

委員長というものは存在しないが、役目からそう呼ばれていた。
そして彼らは思うのだ。
どうか相手がAクラスを叩き潰して改心させてくれますようにと。


「くそっ、ちょこまかと……!」
「リーダー! 人数が多すぎる! どう対処すればいいんだ!?」
「このままじゃ突破されるわ!」

S・Fクラス連合の作戦通り、Fクラスの足でかき乱すという作戦は見事に上手くいっていた。
そもそもがA・Eクラス連合はEクラスを後ろに下げていて人数不利である。
ライヤやアン、他の魔法を上手く使える者たちのように1人で複数の魔法を用いることが出来なければ対処できないだろう。
それに、彼らはまだ1年生だ。
的に当てる練習はしていても、実戦的に動いているものに当てる練習などしていない。
動きを先読みして撃っても相手に届くころには微調整が出来るような距離ではなく、外れてしまう。
運よくちょうど当たる軌道だったとしても避けられてしまう。

「うろたえるな! 何か絡繰りがあるはずだ……!」

リーダーはギリッと奥歯を噛みしめながら相手の様子を伺う。
彼らの動きには必ずSクラスが関わっているはずである。
だからその規則性を見つけようとしているのだ。

「進めぇー!」

だが、そんなものは存在しない。
ウィルが下した指示は1つ。
「好きにやってこい」
Eクラスが後ろに下がっているのを見て、単純に数で押したほうが有効だろうと判断したのだ。
加えて作戦という作戦がないため、生徒たちの動きに規則性がない。
いくら目を凝らそうと、どうすることもできなかった。

「くそっ、おいEクラス! 手伝え!」

前に目を向けたまま、後ろにいるはずのE急に声をかけるが、反応はない。
振り返ると、自陣の奥で何もしていない者たちが目に入った。

「お前ら! 負けてもいいのか!」
「あんたの指示には従えないわ。負けるのも当然の采配をしてるのはあなたでしょ」
「庶民共が……!」

この言葉によって体育祭後の彼へ処分が下されることが決定した。

「こうなれば俺たちも取るしかない! 進軍だっ!」

これだけの人数を攻めにかけているのだから、守りが薄くなるのは当然。

「これは……!」

相手がSクラスでなければの話だが。
ライヤによる授業によって魔力制御が少しは上達している生徒たち。
手加減はまだ出来ないが、火力を上げることは可能となっていた。
彼らが攻め入ろうとする前には高出力の火の壁、水の壁、氷の壁が立ちふさがっていた。

魔力量の桁が違う。
Aクラスの生徒がなぜ自分たちがSクラスではないのかを実感したのだ。

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