受験生でしたが転生したので異世界で念願の教師やります -B級教師はS級生徒に囲まれて努力の成果を見せつける-
鍛冶屋街
「それで、大将今日は何の御用で?」
「いや、ウィルを連れてきただけなんだが……」
そこで振り返ったライヤは見覚えのある鞘に収まった短剣を見つける。
「あ、それは」
「先生、失礼します」
既に抜刀を止められるような距離ではなかった。
スッとひっかかりなく抜けた。
「何の変哲もなさそうですが……」
まじまじと短剣を見るウィルは途中で気付く。
「あれ、この傷は……?」
根元のあたりに明らかに人為的につけられたと思われる傷が入っていたのである。
(確か、先生の話ではお姉さまと打ち合ったような話はなかったはずですが……。些細なことなので話さなかったとか? いえ、そういう感じではなかったですね)
「お、見る目があるな、嬢ちゃん」
ライヤよりもウィルに近かった職人が声をかける。
「そいつは大将が最初に頼んだ品でな。思いっきり打ち合ったらポッキリいく様に作ってくれってな」
「そうそう、こちとらどれだけ折れないように作ることを頑張ってるんだって話さな」
「それを折れるように作れって言われた時には流石に俺たちも怒ったんだがな。なぁ!」
「そうそう、『出来ないのか?』なんて言われたらやってやるしかないよなぁ!」
楽しそうに次々と話し出す職人たち。
「もういいだろ、その話は」
「先生、これを使う機会はなかったんですよね?」
「まぁな。使わなくていいだろうとは思ってたけど、アンの状況対応能力が俺の想定より高かった場合の保険だな」
「作戦をお聞きしても……」
ライヤはハァとため息をつく。
「ま、もういいか。魔法の波状攻撃を抜けるところまでは確実に入ると思ってた。俺の魔力制御は同世代の中ではずば抜けてたし、アンにとっても一番勝算が高いのが懐に飛び込ませないために魔法の弾幕で押すことだ。それくらいは用意してくると踏んでたし、実際そうなった」
いつもはうるさい職人たちもウィルの真剣さを感じてか黙っている。
いつもなら空気を読むなんて話にならん連中だが、相変わらず女の子には優しいんだな。
「で、魔法を抜けた先で、実戦では炎の壁が立ったところがあった。あのタイミングで剣を抜いて俺を待ち構えるという可能性もあった。十中八九魔法で来るだろうとは踏んでいたが、アンの剣術について情報が少なかったから想定以上の可能性も考慮した。で、そうなると俺より近接が強いだろうからどうしたら裏をかけるかを考えた。それが、その剣だ」
「どんなに修練を積んでいても、それは相手が何かしらの武器を持って戦うことが前提だろう。ここでは拳も武器とするが。その訓練の中に、相手の武器が一撃で折れた場合、何てのはないだろう」
「それでも対応してくる奴はいるんだろうが、そんなの一握りよりもさらに少ない、いわゆる達人のレベルだろう。仮にそのレベルに師事していてもそこに到達していることは年齢的にない。なら、そこで確実に予想外を生み出せる」
「あとは、結果と同じで背中から落としてやればいい。実際は余裕があったから優しく落としたが投げ落とすことも覚悟していた。せめて受け身くらいは取れるだろうと思ってたからな」
そんな余裕もなかったようだが、と苦々し気に話すライヤはこの作戦をあまり好きではない様子。
しかし、そんなことよりもウィルはライヤに感服していた。
そんなところまで「勝つ」ことを意識して決闘に臨んでいるなんて、思ってもみなかった。
ライヤが面倒くさがりなのは日々感じているが、だからこそ勝てればいいとそこまで準備しないと思っていたのだ。
「今考えてること言ってやろうか。面倒くさがりの俺が何とも用意周到なことでって思ってるだろ?」
「ニュアンス的には間違っていませんね」
「簡単な話だ。負けた後の面倒さを天秤にかけたら準備に時間をかけた方が良かったんだ。条件は前に話したよな?」
確か、ライヤが負けたらアンに従うようになるという話だったはずだ。
「一生あれに縛られるより、マシだろ?」
「……今も同じようなものでは?」
「同じようなものではあるかもしれないが、俺はアンには友達として協力している。臣下か友達かはだいぶ変わるだろ?」
ウィルはエウレアとティムのことを思い出す。
彼らが友達として接してくれたらと思ったのは一度や二度ではない。
しかし、そうもいかなかったのだ。
姉にはそういう存在がいたことに若干の嫉妬を覚える。
いつだったか、ライヤと知り合ってからアンはより明るくなったのをウィルはおぼろげに覚えている。
それまでも活発ではあったが、どこか1人であったのだ。
あれは、信頼できる者を見つけたからのものだったのだろう。
それも、友達として。
「ほぇー。大将。そんなこと考えてたんですかい」
「……お前らには2回くらい説明してたはずだけど」
「いやー、俺らにそんなもん覚えられませんよ。覚えてるのっていやぁ、『売られた喧嘩は買う。倍返しで後悔させてやる!』って意気込んでたくらいで……」
「え」
今まで聞いた話と違う?
そう思ってライヤを見上げると、珍しく顔を赤くしたライヤがそこにはいた。
「おい、それは言うなって言っただろ!」
「え! 覚えてませんって!」
「お前らの頭には綿が詰まってんのか!」
職人の口を滑らせた1人に飛び掛かって周りから止められもみくちゃにされるライヤを眺めながらウィルは親近感を覚える。
さっきまでの作戦立案を聞いていて、格が違うと思っていたのだ。
才能が違うと。
しかし、そこの根底にあるのは極まった「負けず嫌い」であるといういかにも人間という感じで安心したのだ。
ライヤがここまでになったのは、その「負けず嫌い」を貫いたからなのだろうと。
自分でも自覚している。
自分の限界を決めがちであると。
だが、もうちょっと自分を信じてもいいかもしれない。
もし、本当に自分が届かなかった時、支えてくれる人が目の前にいるのだから。
「やっぱり、お姉さまはずるいですね……」
遂に職人たちによって担がれて運ばれ始めたライヤを見ながら、笑うのであった。
「いや、ウィルを連れてきただけなんだが……」
そこで振り返ったライヤは見覚えのある鞘に収まった短剣を見つける。
「あ、それは」
「先生、失礼します」
既に抜刀を止められるような距離ではなかった。
スッとひっかかりなく抜けた。
「何の変哲もなさそうですが……」
まじまじと短剣を見るウィルは途中で気付く。
「あれ、この傷は……?」
根元のあたりに明らかに人為的につけられたと思われる傷が入っていたのである。
(確か、先生の話ではお姉さまと打ち合ったような話はなかったはずですが……。些細なことなので話さなかったとか? いえ、そういう感じではなかったですね)
「お、見る目があるな、嬢ちゃん」
ライヤよりもウィルに近かった職人が声をかける。
「そいつは大将が最初に頼んだ品でな。思いっきり打ち合ったらポッキリいく様に作ってくれってな」
「そうそう、こちとらどれだけ折れないように作ることを頑張ってるんだって話さな」
「それを折れるように作れって言われた時には流石に俺たちも怒ったんだがな。なぁ!」
「そうそう、『出来ないのか?』なんて言われたらやってやるしかないよなぁ!」
楽しそうに次々と話し出す職人たち。
「もういいだろ、その話は」
「先生、これを使う機会はなかったんですよね?」
「まぁな。使わなくていいだろうとは思ってたけど、アンの状況対応能力が俺の想定より高かった場合の保険だな」
「作戦をお聞きしても……」
ライヤはハァとため息をつく。
「ま、もういいか。魔法の波状攻撃を抜けるところまでは確実に入ると思ってた。俺の魔力制御は同世代の中ではずば抜けてたし、アンにとっても一番勝算が高いのが懐に飛び込ませないために魔法の弾幕で押すことだ。それくらいは用意してくると踏んでたし、実際そうなった」
いつもはうるさい職人たちもウィルの真剣さを感じてか黙っている。
いつもなら空気を読むなんて話にならん連中だが、相変わらず女の子には優しいんだな。
「で、魔法を抜けた先で、実戦では炎の壁が立ったところがあった。あのタイミングで剣を抜いて俺を待ち構えるという可能性もあった。十中八九魔法で来るだろうとは踏んでいたが、アンの剣術について情報が少なかったから想定以上の可能性も考慮した。で、そうなると俺より近接が強いだろうからどうしたら裏をかけるかを考えた。それが、その剣だ」
「どんなに修練を積んでいても、それは相手が何かしらの武器を持って戦うことが前提だろう。ここでは拳も武器とするが。その訓練の中に、相手の武器が一撃で折れた場合、何てのはないだろう」
「それでも対応してくる奴はいるんだろうが、そんなの一握りよりもさらに少ない、いわゆる達人のレベルだろう。仮にそのレベルに師事していてもそこに到達していることは年齢的にない。なら、そこで確実に予想外を生み出せる」
「あとは、結果と同じで背中から落としてやればいい。実際は余裕があったから優しく落としたが投げ落とすことも覚悟していた。せめて受け身くらいは取れるだろうと思ってたからな」
そんな余裕もなかったようだが、と苦々し気に話すライヤはこの作戦をあまり好きではない様子。
しかし、そんなことよりもウィルはライヤに感服していた。
そんなところまで「勝つ」ことを意識して決闘に臨んでいるなんて、思ってもみなかった。
ライヤが面倒くさがりなのは日々感じているが、だからこそ勝てればいいとそこまで準備しないと思っていたのだ。
「今考えてること言ってやろうか。面倒くさがりの俺が何とも用意周到なことでって思ってるだろ?」
「ニュアンス的には間違っていませんね」
「簡単な話だ。負けた後の面倒さを天秤にかけたら準備に時間をかけた方が良かったんだ。条件は前に話したよな?」
確か、ライヤが負けたらアンに従うようになるという話だったはずだ。
「一生あれに縛られるより、マシだろ?」
「……今も同じようなものでは?」
「同じようなものではあるかもしれないが、俺はアンには友達として協力している。臣下か友達かはだいぶ変わるだろ?」
ウィルはエウレアとティムのことを思い出す。
彼らが友達として接してくれたらと思ったのは一度や二度ではない。
しかし、そうもいかなかったのだ。
姉にはそういう存在がいたことに若干の嫉妬を覚える。
いつだったか、ライヤと知り合ってからアンはより明るくなったのをウィルはおぼろげに覚えている。
それまでも活発ではあったが、どこか1人であったのだ。
あれは、信頼できる者を見つけたからのものだったのだろう。
それも、友達として。
「ほぇー。大将。そんなこと考えてたんですかい」
「……お前らには2回くらい説明してたはずだけど」
「いやー、俺らにそんなもん覚えられませんよ。覚えてるのっていやぁ、『売られた喧嘩は買う。倍返しで後悔させてやる!』って意気込んでたくらいで……」
「え」
今まで聞いた話と違う?
そう思ってライヤを見上げると、珍しく顔を赤くしたライヤがそこにはいた。
「おい、それは言うなって言っただろ!」
「え! 覚えてませんって!」
「お前らの頭には綿が詰まってんのか!」
職人の口を滑らせた1人に飛び掛かって周りから止められもみくちゃにされるライヤを眺めながらウィルは親近感を覚える。
さっきまでの作戦立案を聞いていて、格が違うと思っていたのだ。
才能が違うと。
しかし、そこの根底にあるのは極まった「負けず嫌い」であるといういかにも人間という感じで安心したのだ。
ライヤがここまでになったのは、その「負けず嫌い」を貫いたからなのだろうと。
自分でも自覚している。
自分の限界を決めがちであると。
だが、もうちょっと自分を信じてもいいかもしれない。
もし、本当に自分が届かなかった時、支えてくれる人が目の前にいるのだから。
「やっぱり、お姉さまはずるいですね……」
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