転生者、兵器道を極める

山風狭霧

第5章 第4話

 「現在の状況は?」

 この慌ただしい治療室の中で、唯一落ち着いた様子で黒い軍服姿の男が聞く。

 「重傷60、軽傷200!人が足りません!」

 「どこも人手は足りん。軽傷から手当しろ」

 「見捨てるんですか!?」

 「あぁそうだ。ここは戦場なんだ、もう首都の診療所なんかじゃない!」

 そう言葉を吐きながら、軍服姿の男は早足でこの場を離れて行く。

 「くそっ…」 




 「これより、ハカラ軍最終決議を行う」

 「決議もなにも、することは決まっているでしょうに」

 「…知っての通り既に防衛線は突破された。魔法を使える者どころか歩兵すら居ない」

 「もう、この軍は終わったとでも?」

 「あぁ、そうさ。我々ハカラ軍はガーランド領に対して無条件降伏を行う」

 「なっ…」

 「諸君らももう分かっているだろう?」

 「えぇ。既に首都防衛は治安隊がやっている。私達にはもう戦力足り得る物が一つとて無い」

 「この状況で打ち勝つのは不可能です。例え帝国軍の支援が到着したとしても、全領土の奪還は難しいかと」

 「敵の異常さは練度の高さと武器の強さだ。それに数もある」

 「公爵家の手引きがあったとしてもあのような軍を持つことは不可能では?」

 「分からん。王国の貴族は全てアイギス持ちなのだから、それに向いているアイギスもあるのかもしれん」

 「そうか…話を戻そう。全軍の無条件降伏に反対するものは?」




 「寒っ…」

 塹壕の中から敵の首都を監視しながら、小銃手のカイが口に出す。

 「もう日が落ちて4時間は経ってるし、そりゃ寒くもなってるだろ」

 機関銃手のアルがやや的外れに答える。

 「…そういうことじゃないと思うぞ、アル」

 マークスマンのライナーが指摘する。

 「お、頑張ってるな〜!俺、実はいいものがあるんだ〜!」

 昼に任務をしていたエドガーが楽しそうに話しかけてくる。大方、戦闘の興奮で眠れなかったのだろうと隊員達は察した。

 「おっなんだなんだ!」

 真っ先にライナーが食らいつく。

 「これこれ、ウィスキーだ!」

 じゃじゃーん、と効果音を口で言いながら懐から取り出す。

 「エドガーお前、酒なんてどっから持ってきたんだ!?」

 アルが違う意味で食らいつく。酒なぞ高級品なのだ。本国に戻ったら沢山飲めるのだが、ここは戦地なのだから。

 「シーッ!静かにしてくれ…」

 「あ、あぁ。すまん」

 「北部方面隊のやつらから交換してきたんだよ」

 「あぁ、北部じゃロシアのやつらが多いからか」

 「言語が通じるっていいもんだよな」

 「そうだなぁ…」

 「おい酒飲む前にほっこりしてるんじゃねぇぞ」

 「あれ、ツマミは?」

 「ねぇよんなもん」

 「唇の皮でも食ってろ」

 「君達当たり強くない?」

 「…っ!おい、晩酌は少し後回しになりそうだぞ」

 唯一職務を全うしていたカイが声を上げる。

 「どうした?何が起きた?」

 「なんだありゃ…旗を上げてるヤツらがいる」

 「壁の上でか?」

 「いいや、壁の外だ」

 「壁の外だって?」

 「なんでお前は酒じゃなくて上官を持ってこなかったんだよ…」

 「とりあえず報告だ。俺とアルは残れ。エドガー、酒を隠した後…いや、さっさと宿舎に戻れ。ライナー、お前は上官に報告だ」

 「なんで俺に一番めんどくさい仕事を任せるかねぇ…」

そうライナーがぼやきながら上官のいる宿舎へエドガーと一緒に向かって行く。

 「アル、もし何かあったらそれを撃ちまくれ」

 「あぁ、分かってるさ」

 「「交戦規定なんかクソ喰らえ」」

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