転生者、兵器道を極める

山風狭霧

第2章 6話 肆腕の黒騎士

 「『ライトニング』ッ!!!!」

 戦端を白狼が残像を残しながら開く。

 電撃が近付いてくる。雷がこちらに届くのが知覚できるという事は、やはり身体能力は地球より断然に高いのだろう。

 …まぁ、そんな奴らゴロゴロ居るのだろうが。S級のやつらは俺にとっても化け物だ。

 地面を踏み直し、前傾姿勢をとり迎撃する。

 「ハァッ!!」




 ー数日前ー

 俺は1人で王城に来ていた。王からの命で。

 領土の一部を報酬として父さんから受け取るという建前で貰った数日前の話だ。

 「ふむ、当代随一と言われた《セイレーン》殺し、か」

眼前に居るのは居丈高な態度で玉座に座る王家当主…トワイライト。

 いかにもこちらを試すような雰囲気を醸し出している。そんなのに乗る程単純な人生も思考も持ち合わせていない。

 「私は自分の身を守っただけです。そこに非難される謂れはありません」

 こちらも少し試してみよう。彼の器を。

 勿論身に危険が及ぶのならすぐにUSを使って逃げる。

 「カッカッカッ!試されてるのを分かった上でこちらをも試すか!」

 …が、そんな心配は不要のようだ。

 「ここに呼んだのは他でもない、『アイギス』についてのことだ」

 前までの堅苦しく、厳格な雰囲気を崩し話し掛けてくる。

 「これからが本題なんだが…アイギス持ちをアイギス持ちが倒した場合…倒されたアイギスの力が手に入る。

 それを成し遂げた者とアイギスを『クロスオーバー』なんて言うがね。

 …まぁ、力の全てを手に入れるというだけで、本当は攻撃するだけで相手の力を吸収できるんだが。

 だが…その年で《ノッカー》の力を得た《セイレーン》を倒し、勿論十分に使うには相当な鍛錬が必要だが、2つのアイギスの力を手に入れた。

 それでいて名前が2節であり、神の力をも借りる…貴君は驚異的なのだ。

  王国でも、帝国でも、アイギス持ちでなければ貴君を倒せる者はそうそう居ないだろう。

 それこそ、転生者やS級では無い限り」

 アイギス持ちは須らく国に取り入れられる為、S級にアイギス持ちは居ない。転生者はライリーと同じだ。

 俺のイグニスのように強制的に呼び起こす術を持たない限り、アイギスを得られることはない。

 俺に、いやアイギスとアイギス使いに適う者はー


 ー武芸や魔法に秀でる者ー

 例えば、聖教会を護る砦となる王国聖教会部隊「クロス・エコー」

 例えば、人類に有害な魔物の一切合切を殺戮する王国陸軍対魔物部隊「フューリアス」

 ー人外の域に達する者ー

 例えば、努力と才能のみでのし上がるS級冒険者

 例えば、神から肉体を授かる転生者


 もしくは、同類アイギス使いか。





 《セイレーン》の操る力の『水』と『歌』の内、『水』だけをなんとか習得した俺は、試したかったことをする。

 「『水壁』」

 所詮雷であり、指向性を持った電気に過ぎない。

 電気である以上、純水ではなくわざと不純物を含ませた水が障害物となれば相殺できる。

 「《ノッカー》、我がイグニスに顕現せよ」

 そう唱えると─



 まるで蛹の中の蝶のようにイグニスの肩甲骨辺りの鎧が蠢き、鎧を破壊しながら飛び出してくる。

 よく見れば、《ノッカー》の腕は使い手と同じ白色のものであったが、イグニスに生えた腕は同じく黒色の鎧を着用している。

 黒騎士の腕が《ノッカー》の使い手の様に2対になり、右手に旗槍を、左手には槍斧を装備している。

 これでイグニスが装備している武器は長剣、大盾、旗槍、槍斧となり、更に堅牢な砦となった。…ちなみに言うと、イグニスには武器を他にも持たせることが可能だ。

 「今度はこっちから行くぞ!!『迅爆』!」

 まるで空爆の様にランダムで周囲で爆発が起きる、が─

 「こんなへなちょこな攻撃じゃ掠りもしないよ?っと!」

 爆煙の中を狼とそれに乗ったライリーが突撃してくる。そしてすれ違いざまに雷を纏わせた爪を振り下ろすが─

 「残念だったな!肉弾戦は俺の方が得意だっ!」

 イグニスに先程顕現させていた大盾に阻まれ、雷も霧散する。

 そしてその奥に待ち構える槍斧が振られるが─

 「機動力は負けないからっ!」

 まるで曲芸士の様な身の子なしで掠りもせず避けていく。

 「ならっ!『炎瓏』!!」

 火の玉が2つ─

 鈴のようにぶつかり、火が全方位に向けて波打つ。

 正に回避不能。これを避けるのならば─

 「『水壁』!!」

 ライリーも確かに《セイレーン》に攻撃していた。その力を吸収出来ていたとしてもなんら不思議ではない。

 だったら、もう一押しするまで。

 「『透槍』!!」

 「なっ!?」

 ライリーの腹部に『透槍』に直撃し、その場に蹲る。本当は肉体を貫通していたとしても不思議ではない。

 「両者そこまでっ!!これまでの健闘、賞賛に値するっ!!!!」

 障壁が解け、賞賛の拍手が会場を包み込む。

 「ふぅん…あれが例の《セイレーン殺し》…学園で戦える殺し合いのが楽しみ」

 しかし、不安の種はまたもや芽生えることになりそうであった。

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