美人なお姉さんに騙されて魔法使いになりました

すかい@小説家になろう

04

「今日からはBランクの冒険者として、依頼を達成しながら魔王を倒すための力をつけていくことにするわね」


 それからしばらくは、日中は冒険者としての活動。日が暮れてからは冒険者たちと飲みながら話をしたり、アケミさんからこの世界のことを教わる。


「食べ物がおいしいのはよかった」
「そうねえ。下手をすれば元の世界より美味しいものもあるわね」


 そこまでの興味はないから調理法なんかは聞いていないが、冒険者ギルドで出される料理はどれもおいしい。


「何を食べさせられているか、わからないけれどね」


 これも調理法を深く詮索しない大きな理由だった。少なくとも俺が持ち帰っている素材は、食べたいとは思えない。きのこのような魔物でも、魔物の姿を見ていれば美味しいと言われていても抵抗があるわけだ。だからここは、ただただ美味しいということにだけ感謝することにする。






 そんな日々を過ごしていたら、Aランクになっていた。


「あれ?いつの間にAランクの試験受けてたんだ?」


 基本的には魔物や採集対象の知識のない俺は、マスターやアケミさんにお勧めされるままに依頼を受けていた。いつの間にか昇級試験を受ける資格を得て、本当にいつの間にか昇級試験に合格していたらしい。


「今回の魔物、いつもより強かっただろう?」


 ギルドに来て初めてアランさんに言われる。


「そんな後だしで言うことか!?」
「気付いていなかったのね。私が手伝っていなかったのだから、察しているかと思ったのだけど」


 そういえば久しぶりに一人で倒せと言われたんだった。最初の昇級試験の時以外、数を狩る依頼や一人では効率の悪い依頼が多く、自然とアケミさんと共同作業をすることが多くなっていた。時折修行なのかなんなのか一人で倒せと言われることがあったので、今回も気にせず倒していたが。


「しかしこの短期間でAランクか」
「最近は魔物も強くなってきてんのに、やるじゃねえか」


 口々にギルドの人に褒められ、同時に酒を勧められた。


「ところで、魔物が強くなってきてるって?」
「ああ、お前さんが来て以来このあたりの魔物はどんどん強くなっているように感じるな」
「近々魔王様にも会えるんじゃねえかって盛り上がってるところだ。おら飲めよ、未来の勇者!」
「もう飲めないって……」


 その後も永遠酒を飲まされ続け、いつもの宿に戻ってきたころには大分遅い時間になっていた。


「さて、おめでとう。冒険者もAランクなら、私なしでもやっていけるわね」
「その言い方だと、どこかに行くみたいだけど」
「またあなたのような勇者の卵を探してこないといけないからね。ヒナタもはやく元の世界と行き来できるようになってほしいのだけど……」


 多くの依頼を受け、魔法の扱いに慣れてようやくわかったが、アケミさんのこの転移魔法、異常なものだった。すぐにできるようなことはないだろう。まあ向こうに何か未練があるというわけでもないのだから問題はないのだが。
 そんなことより聞き捨てならないことをさらっと言われた気がする。


「俺、魔法使いの卵じゃなかったのか……いつの間に勇者の卵に昇格したんだ……?」
「最初から私が探しているのは勇者よ?」
「じゃあなんで……」
「剣の才能はなさそうだったし、実質魔法使いにしかならないんだもの」


 率直に才能のなさを告げられる。確かに運動らしい運動をしていなかった俺にとって剣は重い。その辺まで都合よく、良くある異世界補正でかっこよく使いこなせるなんてことはなかった。


「魔法しか使えないのに、勇者?」
「勇者に細かい決まりはないわ。魔王を倒したら、それが勇者よ」
「倒すまでは?」
「ただの冒険者だったり、魔法使いだったり、剣士だったり?」
「世知辛いな……」


 アケミさんも国王にまで実力を認めさせていながら勇者とは呼ばれていないのは、そういう意味があったらしい。
 そしてもう一つ、この世界の人間たちはパーティーを組むという発想がほとんどないことも原因だ。勇者と仲間たち、という形にこだわる必要がない。一人一人が皆、勇者の卵だった。


「勇者が生まれるとすれば、それは勇者のご一行ではなく、勇者一人だけで為し得るだろうと当たり前に思われているのが問題ね」
「勇者と戦士と魔法使いと僧侶、みたいな区別を持つ必要がないってことか」
「そういうことね。もしも一目で魔王を倒すだろうと断言できるほどの力がある人がいれば、それは勇者と呼ばれると思うわ」


最初にそんなことを言っていたか。もし勇者と呼べる人間がいれば、それは化け物かなにかだとか。


「味方を向こうで探しているのは、パーティーを組むためっていうのもあるのか」
「そうね。こちらで力ある冒険者を味方にしようと思っても、これまで一人でやってきたのだから、あえて協力しようとは思ってもらえないの」


 この世界の人が強いというより、そもそも強い魔物と戦ったり、脅威となるようなダンジョンなどがないことが問題だった。


「でも、魔王ってずっと君臨し続けてるんじゃないのか?」
「それも怪しい話でね。この森の先に魔王がいるとは言われているけれど、誰も確認していない。とにかくこの森に魔物が出るという状況に終止符が打てる存在を探して、勇者を求めている状況ね」


 何とも言えない話だった。
 森と面した国であるから、国防のためにもこの森はなんとかしないといけないのだろう。
 それを国費ではなく、冒険者ギルドと言う形にある程度の国防を任せ、冒険者を志す人々の大きな目標になるように“打倒魔王”を掲げているという状況だ。


「これ、魔王も何もいなかったらすごい間抜けな話だよな……」
「それでもまあ、この国を盛り上げるのには大いに役に立っているわ」


 それでも、このゆがんだ状況に終止符を打つことをアケミさんは望んでいた。


「別に元の世界で生きていくことも、できたはずなんだけどね」


 その通りだ。


「元の世界でも魔法って」
「使えるわ。そうでないと、戻ってこられないしね」


 それならもう戻ってこないで向こうで好き放題できるのではないだろうか。悪用とまで言わなくても、魔法を使えば食って行くのに困ることはなさそうだ。


「向こうで使った魔力は、回復しないけれどね」
「え?」
「もし私が、向こうで必要に駆られて魔法を使ったら、おそらく二度とこちらにやってくることができなくなるわね」
「じゃあ結局、俺は向こうに戻る必要もないなあ」
「一緒に勧誘を手伝ってほしいけれどね」


 無茶を言う。美人が声をかけるからひっかかるやつがいるわけだ。逆の立場なら通報ものだ。


「あなたは本当に元の世界に戻る気はないの?」
「向こうにいても特に何もなしに生きてるだけだったし、こっちのほうが楽しいな」
「そう。今なら私が戻すこともできるけれど、私がいなくなってから帰りたくなっても、自力でなんとかしないといけなくなるわよ?」
「大丈夫。帰りたくて仕方ないなんてことにはならないさ」
「無理やり連れて帰っても、あちらでは戦力にならないのよね……」


 これに関しては断言できるが、アケミさんが一人でやった方が絶対にいい。


「ないものねだりをしても仕方がないわね」
「いつ戻るんだ?」
「戻っても、しばらくは連れてきた子につきっきりよ?」
「ちなみにこれまで勧誘した人って?」
「あなたが初めて」


 他意はないことは分かっていても、ドキッとする台詞だ。わざとそう聞こえるように言っている節もあるが。


「そういうわけだから、後のこと、よろしく頼むわね?」
「あとのこと?」
「ちょうど私が行くのに合わせてAランクの冒険者が街をでるようだから、あなたにしかできない依頼が出てくるはずよ」
「それ、ちょっとタイミングずらしたりは……」
「あなたがいるのだから、もう大丈夫でしょう?」


 最期に無茶ぶりを残して、その日のうちにアケミさんはいなくなった。
 二人で使っていた宿がやけに広く感じる夜だった。



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